第256話 やはり衛生的な状態での毛抜きサービスは重要かと
ある程度汗が引き始めたところで、デッキチェアから立つ。風魔術でも良いけど、普通に団扇とかが欲しい。骨の部分がちょっと面倒だけど、大工側で調整してくれるかな……。布張りで作ってみようかな。よし、村に戻ったら、開発をお願いしよう。
「部屋に戻るつもりだけど、皆はどうする?」
そう聞くと、レイ以外は部屋に戻るとの事だった。レイはどうもマッサージの施術試験に誘われているようなので、そちらに向かうとの事だ。
レイと別れて、受付でロッカーの鍵を部屋の鍵に交換してもらう。女性陣はまだ、お風呂かな?そう思いながら、部屋に戻る。中に入ると、タロが1匹で箱の中、骨のおもちゃと格闘していた。糞、尿は歓楽街に入る前に済ませているので、箱の中は綺麗なままだった。うとうとしていたのでそのまま寝かしつけたが起きちゃったか。
でも、もう箱も大分小さくなってきた。新しい大きな箱に変えるか。箱から抱きかかえて、外に出す。新しい空間が気になるのか、クンクンと周囲を嗅ぎ始める。
それを横目に眺めながら、書類を読み進める。また、今回の試験で入ったお風呂の改善点等を書類にまとめていく。浴衣の模様の改善や内風呂のお湯の温度の調整等、細かく挙げて改善策を記載する。
『まま!!きのにおい、たくさん!!』
新しい建物の所為か、木の匂いが強いらしい。
『臭い?』
『ん?んー、ねむい?』
タロ的には安心出来る感じなのかな?膝に抱え上げて、書類に没頭する。タロはぬくぬくするのか丸まってうとうとする。でも、流石にちょっと大きくなってきた。そろそろお座敷犬と言うには大きい。マルチーズの成犬はとうに追い越した。柴犬の小さいのくらいだろうか?ちょっと書き物をするには邪魔だ。
苦笑を浮かべながら、タロの邪魔にならないように書類を確認していき、出す相手を調整していく。ロスティーに関する書類はカビアに任せよう。ノーウェには直接渡すのも手か。
そんな対応をしていると、扉がノックされた。返事をすると、リズが入ってくる。ほのかに上気した顔はなんとも健康的で艶めかしい雰囲気を漂わせている。
「凄かった!!なんか、凄かった!!」
フィアが混じっている。苦笑しながら、頭を撫でる。若干しっとりしている。あれ?赤湯は髪に悪いからそのままでは洗わない話だったと思ったが。
「頭も洗ったの?」
「うん、態々温泉とは別にお湯を沸かして、洗ってくれたよ。何というか、誰かに洗ってもらえるって気持ち良いね」
にこにこと伝えてくる。あー。貯水設備に隣接させて、川の水を貯水する設備も作った。湯の温度を下げるのが目的だったが、移った熱を利用してそのまま沸かせば薪の節約にもなるか……。
「石鹸無しでも大丈夫だった?」
「うん、優しく隅々まで洗ってもらった。そんな所までって思ったけど、何か安心出来る人だったから大丈夫だった。ロッサはひゃーひゃー言ってたよ」
あぁ、分かる気がする。
「ティアナは堂々としていたね。チャットは笑い転げてた。リナは普通だったよ」
それぞれの個性が良く出ている。
「建物の中のお風呂も広いの。説明係さんに教えてもらって入ったけど、熱かったよ。溶けるかと思った」
また大袈裟な。もうオーバーアクションで説明してくる。
「外の露天風呂だっけ? 入ったけど、もう、すっごい解放感!! チャットが興奮してたよ!!」
「露天風呂の温度は大丈夫だった?」
「あ、そう言えば丁度良かった。浸かっては、チェアで寝そべって、また浸かってってしてたよ!!」
十分に満喫出来たようかな?
「サウナにも入ったけど、ティアナ以外はすぐに全滅だったよ。リナ、熱いのは苦手だって。毛が多いからかな? 熱が篭っちゃうんだって」
ふむふむ。獣人はそう言う部分も有るのか。
「後ね、毛抜きサービスとか、オイルを塗ってもらったりとか。どう輝いている?」
ふむ。そう言われると、艶々としている。艶めかしいと思ったのはそれが理由か。リズの首に腕を回し、顔を引き寄せる。
「え? ヒロ……ちょ……何……え!?」
顔の産毛も抜いたのか……。凄くすべすべになっている。
「本当に綺麗だ。食べちゃいたいくらいだけど。食べちゃったら、勿体無いくらいだね」
そう言って頬に口付ける。
「もう、すぐにそうやってからかう!!」
リズがちょっと困惑、ちょっと羞恥で怒る。その姿も何とも可愛い。
「からかっていないよ。リズがあまりにも魅力的なのが悪い。艶めかしい、私のお姫様。その美貌で魅了される私を許して下さいますか?」
「え……え……もう、ずるい……。ヒロ、そう言うの言い始めたら、絶対に勝てないのに……。嬉しい……。ありがとう……」
そう言って椅子の背後から抱きしめてくる。その拍子にうとうとしていたタロがぱっちり目覚める。
『まま!!遊ぶの!!』
キャンキャン言いながら、箱から骨のおもちゃを取り出す。結構歯型も入り始めている。リズの前に持って行って、ぽとりと落とす。お座りしてはっはっとしっぽを振る。
「もう、タロったら。良いよ」
リズが骨を持つとタロの顔の前で揺らす。噛まれる瞬間を狙って移動させる。タロの表情がぱっと明るくなる。何度か繰り返し、噛みついた瞬間を狙い、引き始める。タロも踏み止まって、くいくいと引っ張る。ぐるぐると言っているが楽しそうだ。
「程々にね。もうそろそろ食事だよ。私、先にタロの分を貰ってくるよ」
「分かった。タロの相手はしておくね」
「よろしく」
そう言って、部屋を出て、厨房に向かう。途中で見かけたスタッフにお願いすると、誘導してくれる。厨房でイノシシ肉と捌いた鳥のモツを生で出してくれる。どうも血抜きする前の生きた鳥を態々捌いてくれたようだ。
「あれ?この鳥、処理もしていないですよね?申し訳無いです」
「いえ。犬等をお連れになったお客様用の試験も兼ねております。お気になさらず。肉と血はソースにも使えますので」
職員と一緒に出てきた厨房の若手の男性が柔和な雰囲気で答えてくれる。
「あと、これもですね」
そう言うと、イノシシの立派な大腿骨を出してくる。
「あれ? スープの出汁に使うレシピも残していた筈ですが」
豚骨もレシピには組み込んでいる。
「はい。ただ、量は有りますのでお気になさらず。どうぞお持ち下さい」
「ありがとうございます」
そう答えて、なんだか豪華な皿を持って、部屋に戻る。部屋の中ではまだ格闘戦が繰り広げられていたが、匂いを感じたタロがしゃんと座って待て状態になる。
「あ、おかえり、ヒロ。うわ、豪勢だね」
「うん。ちょっとあげすぎかも。まぁ、明日は走らせよう」
そう言いながら、皿を差し出し、良しと伝えると、タロが飛びかかる。
『ふぉ!?イノシシ、ち、うまー!?まま、いっぱい、うまー!!』
ハツやレバー、砂肝等をバリバリ食べながら、イノシシの脂を楽しむ。贅沢だな。皿に残った血も舐め取り、口の周りも舐めて綺麗にする。そんなタロに背中からちらっと白い物を見せる。
『まま!!ほね!?』
しっぽが振り回される。本当に骨好きだなと苦笑しながら箱に向かって骨を投げる。それに向かって、タロが箱に飛び越み、そのまま骨と一緒に箱の中でぐるんぐるんする。噛んで啜ってしゃぶってもう、大忙しだ。
「久々のイノシシの大腿骨か。やっぱり好きだね」
「でも、骨と比べるとやっぱり大きくなったね」
2人で肩を寄せ合って、タロの成長を優しく見守る。
「ねぇ?」
「ん?」
「子供が出来たら、こんな感じなのかな?」
「あは。もっと忙しいよ。でもきっと幸せだよ」
そう言って横を向き、口付けを交わした。ほのかにいつもと違う香油の香りを鼻に感じて、腰の奥に疼くものを感じたのは内緒。