第246話 人魚さんにも個性は有ります
テントに差し込む眩しい光に目を覚ます。1月31日は晴れだ。南国っぽい陽気は冬の最中でも、暖かだ。テントを出て、肉の在庫から、タロに食事を与える。
リズを起こし、他の皆を起こして朝の支度をお願いする。人魚さんが集まっている岩礁の場所は聞いているので、先触れとして、挨拶だけ先に済ませる旨を伝える。
夜番のロッサにも告げて、少し休んでもらう。
そのまま海に出てホバーで若干沖の方に向かい、岩礁地帯を探す。東側と聞いていたけど……。と、海上をうろついていると、それらしい影が見えたので、接近する。
岩礁っぽい地帯に人影が確認出来るようになり、両手を上げて、ゆっくりと近付く。岩礁の上に数人が甲羅干し状に寝そべり、談笑しているようだ。
「おはようございます。すみません、ベルヘミアさんはいらっしゃいますか?」
「あ、浜の奥の方に村を建てている方ですか?ベルヘミアから話は聞いています。今あの子漁に出ていますので、戻ってくるのに少し時間がかかると思います」
通訳を切ると、フーア大陸共通語で話をしてくれている。気を使ってもらっているのかな?
「あぁ、なるほど。お忙しいところをすみませんでした」
「いえいえ。寒い海流に潜っていたので温まっているだけです。あ、あの子から聞いたんですが、火を通した食事が食べられるんですよね?」
若い可愛らしい少し小さめの人魚さんが食いつき気味に話しかけてくる。
「はい。火は使いますので、料理は作れます」
「うわぁ、私憧れていたんです。中々西の方だと交渉にも参加出来ないので。もしよろしければ材料をお持ちするので、皆で遊びに行っても良いですか?」
「大丈夫ですよ。何人くらいですか?」
「ベルヘミア含めて3人程でしょうか?材料はなるべく集めます。そちらは何人程いらっしゃいますか?」
「11人ですね。でも、そんなに悪いですよ」
「いつもの事ですので、お気になさらず。ベルヘミアとも相談しますので、お昼くらいにはお持ち出来るようにします」
そう言うと周囲の人魚達と楽しそうに計画を話合い始める。
「ん。大丈夫そうなので、お昼には伺います。あの大きな海藻もいるんですよね?一緒に採取しておきます」
そう告げると、皆が岩礁から海に飛び込んでいく。ほとんど水を上げない綺麗な飛び込みだった。まぁ、話し合いを考えるなら丁度良いか。今後の方針の話なので、ベルヘミアだけではちょっと申し訳無い。
人魚さん達が潜っていくのを見送った後、浜の方に戻る。
「あ、おかえり。人魚さん達には会えた?」
リズが鍋の面倒を見ながら、聞いてくる。
「うん。大丈夫。会えたよ。何かお昼に海の幸を持って、訪問してくれるって」
そう言うと、フィアが喜び始める。しかし、うどんとか準備をしていない。うーん、今から用意したらぎりぎり間に合うのかな?それともブイヤベース的な鍋にしてすいとんにしちゃうか……。
「何か難しい事をやろうとしていないかしら?火を通すだけでも、人魚にとってはご馳走なのでしょう?それで良いじゃない」
ティアナが苦笑しながら、そう言う。ふむ。今日のお昼はバーベキューと鍋で良いか。
そう思いながら、皆が作ってくれた朝食を頂く。
食後、食休みを挟みながら本日の計画を決めていく。カビア達は村の設計と実際の現場を照らし合わせるらしい。護衛でティアナとチャットが付く。リズとロッサは林の方で狩りをしてくる。他は薪の補充など、帰りに向けての準備をしてくれるようだ。
私はカビアに付き合い、各所の説明をする事にした。タロは散歩がてら連れていく事にする。
「じゃあ、昼前に集合と言う事で、皆頑張って。解散」
そう言うと、皆が散っていく。クンクンブルドーザーを先頭に村の設計図を元に、各所の説明をカビアにしていく。村の中には区分けの溝が掘られていたりして、開発が始まったら一気に進めるつもりなのだと感じさせた。
「村の規模は想像より大きいですね。農民はどうなさいますか?麦の育成には向かない場所ですが」
「林の方の平地を開拓して、砂糖や野菜の生産を中心に進めて行こうと考えている。南の方で砂糖を生産している貴族がいると思うけど、サトウキビの種子の入手の相談は可能かな?」
「はい。中立派ですが交流は有ります。元々南でしか栽培できない物ですので、種子そのものを分けてもらう事は可能でしょう。領地だけでは供給量が追いつかないのは昔から問題視されていましたから」
「独占した方が儲けが出そうだけど、そう言う訳でも無いんだ?」
「独占する事により、無用な反感を買うくらいなら、育成可能な場所で生産して欲しいと言うのが本音だそうです。各所で製造の試験は行いましたが、何処も全滅状態ですので」
あぁ、大量の水と温暖な気候が必要だから、そうそうは成功しないか……。
「で、あれば、こちらで生産しても特に角は立たないか」
「そうですね。甘味は一度味わうと、もっと欲しくなると言う性質も有りますので、困っているのが実情でしょう。町開きの挨拶の際に来られると思いますので、調整します」
これで造船とサトウキビか……。海側の主要な事業はその辺りか。
「後、温暖な気候で育つ塩害に強い野菜類を探して欲しいのだけど」
「林の方まで行けば、塩の害はそこまで気にしなくて大丈夫かと考えます。はい。野菜類に関しては子爵様と相談して調査を進めます」
そんな話をしながら、塩の生産場所の予定地に進む。
「はぁぁ。結構な規模ですね……。驚きました」
「乾かすのがほとんどだから、土地は必要になっちゃうんだ。まぁ、生産が始まれば十分に元は取れるよ」
各場所の説明をしながら、進んで行く。
「なるほど……。最後の炊く作業の際に、あのえぐみの元を除去するのですね。それならば確かに品質も上がります」
「塩そのものの味も有るからね。岩塩より塩としては美味しい。ただ、料理によって向き不向きは出るかも知れないから、全て置き換えるのはちょっと無理かもしれない」
「一般的な需要が満たせるのであれば十分でしょう。確かに海から無尽蔵に塩を生めるのであれば、勝算は有りますね……」
「まぁ、『リザティア』が先なので、ちょっと後回しになっちゃうけど」
「残念です。塩だけでも早めに稼働はさせたいですね……。『リザティア』で消費される塩も馬鹿にならない量になりますので」
ふむ。流石にカビアも思うか。
そんな感じで、説明をしていると、徐々に昼が近付いてきた。現場で残っていたドルがこちらに向かってくる。人魚さん達が来てくれたらしい。迎えに行かないと。