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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第243話 お金の使い方は難しいです

 あまりの寒さに目が覚める。テントの周りは薄暗いが日は上がり始めているようだ。薄くテントを開くと、そこは銀世界が広がっている。現在もぼたっとした雪が降り続いている。

 1月28日は雪だ。それも、かなり積もりそうな気配を感じる雪だ。地面に触れてみたがまだ薄く積もった程度だが、外の気温と供給され続ける雪の所為で積もるのは間違いなさそうだ。


 夜番のロットは焚火の近くで、マントと毛布に包っている。


「ロット、大丈夫?体温は低下していない?」


「はい。大丈夫です。雪には慣れていますから。降り始めは明ける前辺りでした。朝食を急ぎ、この場を動かないと、足止めされる可能性も有ります」


「分かった。少しでも良いから休んで欲しい」


 少し温度の高い湯たんぽとカップに入れた白湯を渡す。ロットが一礼しながら、フィアのテントに戻る。


 焚火から外された鍋には鶏頭の煮たのが入っている。(くちばし)を指で潰すとほぼ抵抗無く潰れる。冷え切っている為焚火にかけて少し温める。


 起きたのに気付いたのか、リズがテントから這い出てくる。


「うわぁ、降ったね……。これ積もりそうだよ」


「うん。ロットからも聞いた。進むにせよ、戻るにせよ早く動かないと足止めされる。昨日の鳥を捌いてもらって良いかな?さっさと朝食にしよう」


「馬車に引っ掛けているから、凍ってはいないけど。冷えているかもだね」


 そう言いながら、リズが馬車に向かう。


 私は、薪をくべて焚火の勢いを大きくする。朝食は早めに出来る物で良いだろう。鳥はフライパンで焼いてしまおう。香辛料を磨り潰しながら、触れる雪を思う。これ、戻る時まで積もっていると厄介だな。


 動く気配を感じたのか、他のテントからも皆が出てきて、銀世界に驚いていた。馬車からもレイとカビアが出てくる。


「馬車は走れそうかな?」


 レイに聞いてみる。


「この程度であれば、問題は有りません。滑る程でも有りませんので、そのまま走れます。ただ、この勢いで降り続けた場合は深く積もります。帰りは若干足を緩める必要が有るかも知れません」


 行きは良いが帰りがちょっと心配か。うーむ……。人魚さんとの話はもう少し先でも良いんだが……。この機会に行っておかないと随分先になりそうな気もする。ここは進むか。


「分かった。では急いで動く準備をしよう。皆も撤収の準備を急いで」


 そう言うとロッサはリズの手伝いに、他の人間はテントの片付けに向かった。ロットはフィアが馬車に誘導し、そこで休ませている。朝ご飯が出来るまでは寝ていればいい。


 鶏頭の鍋が若干沸騰し始めていたのでおろす。湯に指を浸けたが、少し熱い。もう少し冷ましてからかな。そう思っていると、ロッサが捌いた分の鳥を持ってきてくれる。カチコチとは言わないが冷えて脂も含めて固まってはいる。

 香辛料と塩胡椒を塗し、強火で表面を焼き、火から遠ざけて、じっくりと火を通す。下手すると外は焦げて中は生みたいになりそうだ。

 タロ用の分も分けたが、このままだとちょっと冷たい。別に大小のボウルを作り湯煎して少し温める。


 鳥は焼きあがった順に、手の空いている人間から食べてもらう。取り敢えず、撤収作業は順調に進んでいる。馬車の馬も大きな木の下につないでいた為、影響は無い。『馴致』でも様子を確認したが体調が悪そうな馬はいなかった。


 皆が順に食べ終わった辺りで湯煎分の肉を確認するが、温まって柔らかくはなっていた。鶏頭と一緒に皿に乗せて、馬車のタロにあげる。


『とり!!シャクシャクも!!うまー』


 肉と合わせると、ちょっと量が多い気もするが、朝ご飯なので昼以降で調整しよう。


 荷物を馬車に積み込み、移動の準備が整った。


「忘れ物は無い?」


 そう聞くと、皆が頷く。それを見て、乗車の指示を出す。レイに少し熱めの湯たんぽを渡す。車内の湯たんぽも温度を高めにしている。冷え切った車内が人の体温と合わさり少しずつ温まっていく。


「では、出します。雪を抜けるまでは休憩を最低限にします。ご留意下さい」


 レイがそう言うと、馬車が緩やかに走り始める。馬の蹄が滑る程の積雪では無いのは助かる。皆も車内の温度が上がるに連れてほっとした顔になる。


「今年はちょっと遅めだったね。いつもならもう少し降るのが早いかと思ったけど」


 農家の娘のフィアが言う。前に聞いた話でも1月半ばから雪が降り、2月頭まで溶けたり積もったりが続くみたいな話を聞いた記憶が有る。


「ずれるのは有るの?」


「雪は、ずれるよ。大体の時期は決まっているけど。3月頃に突然降って驚くって言うのも子供の頃有ったよ」


 そう言うと、皆頷く。年齢が近いから、皆同じ体験をしているのか。異常気象で無いのなら良かった。何が影響するのかが分からない。私の存在が何かを引き起こすと考える程己惚れてはいないが神様関係の端緒になりそうで怖くも有る。

 馬車の中は幌越しの光も弱い為、薄暗い。火事の危険は有るがランタンを点ける。天井に骨組みが有るので、そこに吊るす。揺ら揺らと揺れながら、光を放つ。結構値段が張る4面ガラスのランタンをロットが町で買っておいてくれたのは英断だった。私なら買わなかったかも知れない。

 揺れる光の中書類を読むと酔いそうなので、それは諦める。ティアナとカビアが政治談議に花を咲かせるのを聞くでも無く聞きながら、タロの相手をリズとする。リズも結構タロの面倒を見ているのに、『馴致』が生えないのは何故だろう?


 <解。各スキルは努力し、その上を望む際に初めて発生する可能性が生まれます。>

 <『馴致』で有れば、意思疎通の出来ない相手に指示を教え込ませ、その上で相手の思考を深く知りたいと強く望む事で発生します。>


 おぉ、ありがとう『識者』先生。あぁ、苦労したその上で、高みを目指す事でスキルは生えるのか。確かに、フィアの『敏捷』の時もそんな感じだった。リズも子供の頃から必死に獲物を担いでいたから『剛力』が生えたんだろうし、それはドルもリナも同じだろう。ロッサも一人で生きると弓を持ち、必死に生きたが故に『眼力』を得た。そう考えると、私ってずるいな。苦笑が零れる。


 <告。卑下の必要は有りません。スキルは努力の果てに手に入れる物です。彰浩もいつかは手に入れていた可能性です。気にしても仕方が有りません。>


 珍しい、『識者』先生に慰められるなんて。まぁ、『認識』の能力が無ければ分からない話だ。誰にも相談も出来ない。そう言う意味では『識者』先生しか相談出来ないか。ありがとう、『識者』先生。

 そう思っても、言葉は返って来なかった。照れているのかな?まぁ、良いか。


「でも、領地の税収入と問題が発生する事を考えた場合、余剰金を厚く想定するのは間違った事では無いでしょう?」


「いえ。余剰はあくまでも余剰です。厚くし過ぎる事は、領地の運用の硬直化を招きます。想定される最悪への対応以上の余剰は必要有りません。また、国からの援助も想定出来ますので、その根回しに向けた方が総合的に見た場合有効です」


 ティアナとカビアの話がヒートアップし始めている。また、答えの無い話で盛り上がっているな。


「どうかしたの?」


「領地の余剰金に関して話をしていただけよ」


 ティアナが顔を背けて答える。カビアは若干苦笑いだ。


「んー。経済は回さないと大きくならないのは前提だね。ただ、問題発生に対して備えをするのも大切だとは考える。ただ、備えの部分に関して少し意見の相違が有るんじゃないかな?私なら各所に貸しを作っておいて、迅速に対応をしてもらう。それまで維持出来るだけの余剰が有れば良い訳だし。貸しを返さない相手は今後付き合いを止めれば良いしね。その試金石にもなるかな?」


「その問題で領民の命が危うい場合はどうするの?」


 ティアナが今度はこちらに噛みついてくる。何か過去に明確に嫌な事でも有ったのか?


「余剰金に関しても、想定される事象によって分けるよ。例えば飢饉の場合はそもそも食料が無いのはどこも一緒。だから備蓄の調整を日頃から考えておけば良い。少し前の指揮個体戦のように突発的な戦闘行為の場合は傭兵ギルドか冒険者ギルドを抱き込んでおいて兵力を出してもらって一旦堰き止めて、その間に援軍を呼ぶ形かな。勿論その為に余剰金は必要になるよ。そうやって有る程度細かく分けておかないと天井知らずに余剰だけ膨れ上がるよ?」


 そう言うと、考え込むように俯く。


「お父さんの方針で何か有ったの?」


「ふぅぅ……。そうね。あの人は商家の間は優秀だったわ。でも領地を回すと言う大きな視点では見る事が出来ない人だった。商売と同じと考えちゃうのね。だからいつもどこかで行き詰って余裕が無かったわ」


 溜息を吐きながら、ティアナが呟く。


「商会の経営と領地の経営は根本的に違うからね。お金の巡りと考えれば一緒だけど、例えば商会なら数年に渡って赤字を出すような事業にはそうそう手は出せない。でも領地経営だとそれを断行しなければならない事は往々にして有るから。今の『リザティア』も男爵領10年分以上の赤字で出来ているしね」


 そう言うと、少しティアナの顔も落ち着く。まぁ、『リザティア』に関してはさくっと赤字は返す。名目上の負債に関してもさっさと国に返して完全な独立状態を担保する。その為の仕込みも、し始めている。いつまでも国に嘴を挟まれるのは御免だ。


「ごめんなさい。噛みついてしまった形になるわね」


 ティアナが謝ってくる。それを私とカビアで慰める。そんな感じで、一か所目の休憩地を迎える。ここでは馬の世話だけをして、すぐに出発する。二カ所目も同じくだ。三カ所目の休憩地辺りで雪の状態はかなりましになった。積雪も無く、雨にも変わらず雲の切れ間から日も差している。


「この辺りまで来ると結構変わるね。真っ直ぐ南に移動しているからどうかなと思っていたけど、助かったよ」


 微笑みながらそう言うと、皆もにこやかになる。刺すような寒さから、やや温度も上がっている。レイもかなりの厚着だったのを減らすようだ。


「じゃあ、お昼の支度をしよう。朝がばたばたしたから少しはゆっくりしたいね」


 皆が軽く頷き、それぞれの役割を果たす為に散っていった。私は薪の状態を確認するが、表面は濡れているもののほぼ乾いた物ばかりだ。昨晩に雨を降らせながら北上した雲が雪を降らせている感じなのかな?まぁ、気象関係は全然分からない。専門外だ。気にしない事にする。


 なるべく乾いている薪を集めて、積んでいく。さて、お昼は何にしようかな?

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