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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第235話 農家の家族が農業を知っているとは限りません

 1月26日はテントから差し込む朝日を浴びて目を覚ます。少し寝すぎた。昨日のアルコールの影響だろうか。タロは起きて、骨の玩具を噛んで遊んでいる。


『まま!!おなか、すいた!!』


 申し訳無いなと、タロの頭を撫でて、箱から出す。汚れ物を入れ替えながら、リズを起こし、他の皆を起こしてもらう。テントを開けたら、もう周囲は撤収の準備が大分進んでいた。流石慣れている。タフだな、しかし。


「ドル、起きて!!」


 酔わないドルも、移動の疲れか寝入っている。今日の視察を終えたら、ゆっくりした方が良いかも知れない。飯場以外で宿泊設備が有れば良いが、無いのでテントか。今日は早めに寝よう。 


 昨日の晩とは逆の順番で飯場に向かう。残り組にはテントの片付けを頼んだ。道を歩くとタロも食事が取れる場所に向かっていると覚えているのか、嬉しそうにしっぽを振っている。

 飯場の食堂はもうガラガラだ。朝食のピークは過ぎたのだろう。ゆったり出来るが、作る方はまとめて作った方が楽なので申し訳無いなとは思う。硬貨を出して、プレートを貰う。

 黒パンにスープに鳥のソテーだ。早速タロに鳥を皿に乗せて「待て良し」で渡すと喜んで食べ始めた。体が小さい分、飢えには弱い。気を配るべき人間が寝てしまってと朝から若干ブルーが入る。まぁ、挽回していこう。


 食事中もリズとロッサは昨晩の話で盛り上がっていた。まぁ、中々この世界、楽しい事は起こらないので、昨日のような突然のお祭り騒ぎなんて珍事だ。それに参加出来たと言う事で良かったと言う話になっている。

 楽しそうな二人とドルとカビアも食べ終わる。プレートごと洗い場の方に置いて、食堂を出る。馬車に戻ると、もうテントの姿は無く、焚火だけが燃えていた。残りの組に食事へ向かってもらう。


 焚火の調整をしながらカビアに馬の状態を確認してもらうが、既にレイが餌もあげているようだ。樽にぬるめの水を生むとわらわらと寄ってくる。喉は乾いているらしい。樽に顔を突っ込んで飲み始める。

 水を飲んでいない馬は、足元をちょろちょろするタロが気になるのか、足を上げて避けている。踏まないようには注意してくれているようだ。その動きが楽しいのか、タロが擦り寄っていく。見ていて怖いので、抱き上げる。


『まま、うま!!』


 遊んでもらって楽しいのか、快の思考が流れ込んでくる。中々他の動物と遊ぶ機会も無いので良かった。タロをリズに預けて、相手をしてもらう。玩具を投げて取って来るのが今のブームっぽい。

 全頭が水を飲み終わる頃に、皆が帰ってくる。


「申し訳御座いません。男爵様。戻ってからと考えておりましたが、お手を煩わせてしまいました」


 レイが樽の状況を見て言ってくる。


「いや。私が勝手にやった事だから気にしないで欲しい。今日も面倒の方、よろしく頼む」


 そう言うと、目礼を返してくる。


 皆も食休みに焚火を囲みながら談笑をしている。


「正直なところ、昨日町と歓楽街をざっと回ってみたけど、どう思う?」


 少し大きな範疇の質問だが率直な意見が聞いてみたかった。


「はい。きっと大きな成功が期待できる町だと思いました」


 ロッサが真面目な顔で答える。


「あぁ……。私達が驚いて、何か考えていると思っているの?」


 ティアナが苦笑しながら聞いてくる。


「んー。ちょっと色々説明したから。咀嚼しきれていないかなって」


「咀嚼はきっと町が動き出さないと出来ないわ。実際に見てみないと分からない事だらけですもの。でもね、リーダー」


 ティアナがそこで、息を吐き、そして吸う。


「貴方は私達を家族と言った。これからの幸せを考えると言った。その言葉はきちんと私達に届いているわ。私達はリーダー、貴方を信じているの。だから気にせず前に進みなさい。私達がきちんと後は守るから」


 ティアナが言うと、皆も頷く。はぁぁ、良い仲間を持った。まぁ、どこかできちんと話はしていく必要は有る。総意はそうでも、個々の目的は違う筈なのだから。


「私も元々リーダーの未来に共感し、このパーティーに参加しました。今更、何かが変わる訳では有りません。ありのままを受け入れます。幸せな未来をと言った言葉を信じます」


 ロットが静かに告げる。宗教じゃ無いのであまり同じ方向に視野が偏っても微妙だなとは感じる。ただ、この世界の人間にとっては言葉と言うのは重い。言った事は守る必要が有る。


「そっか。うん、分かった。ありがとう。まぁ、またどこかのタイミングで飲みながらでもゆっくりと話をしよう。それぞれの幸せと言うのも有るんだから」


 そう言って、立ち上がる。少し長く話し込んでしまった。


「じゃあ、視察の続きといこう。農地に関しては開拓範囲と(あぜ)の状況確認かな」


「それを聞きたかったんですけど、畦ってなんなんですか?」


 チャットが聞いてくる。稲作が無い文化圏で畦は無い。秋蒔きの小麦も、畝も作らずばっさぁって感じで小麦を蒔くと聞いた。


「将来的に育てたい植物が有るので、その為の準備を先にした感じかな。後、畑の境界が分かりやすくなるしね」


 農地に向かって歩きながら答える。今日はタロも連れている。リードの先でクンクンブルドーザーが発進している。興味は尽きないだろう。

 そのペースに合わせてゆっくりと町の西側に進む。


 それなりの距離を歩いた所で空堀が見えてきた。


「これは、川から水路を引くで御座るか?」


「うん。一からの設計だから、水路も含めて調整したよ。水撒きの度に水源まで行って汲んでくるなんて効率悪いし、勾配が有るから水路を引くのも容易だしね。最終的には拡張の度に水路が新設されるよ」


 川の水量は圧倒的に豊富だ。西側のかなりの範囲を畑や田んぼに変えても全然尽きない。治めるのが容易と言っていたが、本当にイージーモードな土地だ。これで氾濫しないと言うのだから信じられない。

 

 約10アール、1反単位で畦で囲んでもらった。この世界の税収も10アール単位で予想収穫量を算出するので丁度良かった。見渡す限りに草が生えているがこれも刈り取って飼い葉にする。

 畦もしっかりと圧縮してくれているので、崩れる感じはしない。これも毎回やる作業になるだろうが、収穫量を考えたら、まぁ必要経費の範疇だろう。


「大麦に間に合う?ここ超広いじゃん。この広さを人の手で耕していたら、いつまで経っても終わらないよ?」


 農家の娘らしくフィアが聞いてくる。


「その為に新しい機材の開発をしようかと思っているよ。人じゃ無く馬や牛で耕す器具を今考えている」


 そう言うと、皆がじとっとした目で見てくる。


「え?何?」


「そないな事までどうやって考えているのかと思いまして」


 チャットが代表して答える。


「故郷がそんな感じでやっていたからね」


「リーダーの故郷って理想郷か何かなんですか?」


 チャットが溜息混じりに聞いてくる。


「あー、狭い土地だからフル活用しないと駄目だったし、人間が少ないから色々工夫してたんだよ」


 そう言うと、やっとじと目から逃げられた。


「じゃあ、ここも耕しきれそうなの?」


 フィアが聞いてくる。


「うん。想定が正しければ、そこまで時間はかからない。5月辺りだよね、種蒔き?」


「そう。詳細な日程は天気と気温を見て暦と調整するけど」


「なら間に合うし、間に合わない畑は別の作物を植えるよ。元々税はかからないからね。失敗しても誰も困らない。今年農家の皆を食べさせるだけの予算は十分以上に乗っているし」


 補正予算や余剰金なんて言わずに当初予算に農家支援は乗せている。それに大麦だけでは無く、大豆も蒔く。飼料もそうだが、味噌や出来れば醤油まで手を出したい。

 他にも葉野菜等、野菜関係も蒔かないといけない。温泉宿で消費する食材を地産地消にしないと、経費が馬鹿にならない。


「なら大丈夫かな?僕もそこまで詳しくは無いから、専門の人に任せるよ」


 フィアがそう言う。まぁ、農家の娘だから農業を知っていますと言う話でも無い。


 そんな話をしながら農地を見て回っていると、人が走ってくるのが見えた。


「男爵様ですね!!出ました、湧きました!!」


 はぁはぁと息を切らしながら、男性が叫ぶ。温泉が湧いたか!!


「怪我人は?」


 火傷を負った人がいなければ良いが。


「大丈夫です。湧出まで時間が有りましたので、管路の挿入も完了しました。湧出量も安定しています」


 息を整えながら、そう言ってくる。

 良かった。怪我人がいないなら一安心だ。タロを抱きかかえ、源泉まで急ぐ事にする。

 さて、これで各水路の流れのチェックも出来る。出来れば家族風呂を使いたいななんて言わない。樽に流し込んで浸かるのでも良い。兎に角久々の温泉だ。それを実感し、わくわくしてきた。

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