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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第234話 地場の商人との交流と言うのも後からじわじわ効いてきます

 明るい内に設営を済ませようと、馬車に戻る。途中で町の建設責任者に話をしたら、設営ポイントと薪の購入に関して説明を貰えたので、従う事にする。

 飯場だけでは無く、資材を運び込む運搬職や商人の為の野営場所が幾つか作られていた。簡易な柵でも囲まれている。夜番は置くが、少しは安心出来る場所とは考える。


 薪を組み焚火の準備をしながら、周りにテントを設営していく。周辺の人間には先に挨拶はした。馬車を見て何者かと驚いていたようだが、名乗ると納得してもらえたので良かった。

 商人に関しても、個人商会でノーウェの町と村を行き来していた商人が販路拡大の為に寄り集まって規模を大きくしたものらしい。今後、このような形の商人の訪問が増えるのだろうなと感じた。

 兎に角この時期なので、薪や木材の運び込みで利益を出せるのがありがたいらしい。元々ノーウェの領地は木材の産出が盛んだ。その辺りの地場の強みが出ている。最終的な納税でもノーウェにうまみが出るので良い事だ。


 テントの設営が終わり、仲間を分けて、飯場に食事に向かってもらう。レイの代わりにカビアが馬の世話は有る程度出来るので、レイを先に食事に向かわせた。私、リズ、ロッサ、ドル、カビアが後で向かう。

 皆で手分けして、テント内の毛布と湯たんぽを配っていく。日が落ちて一気に気温が下がった。皆が戻って来る頃には震えて帰って来そうだ。温かい状況を作ってあげたい。


 焚火に火を点す。煮炊きの必要が無いので、最低限明日の朝までの薪しか買っていない。馬車に積んでいる分も有るので、問題は無いのだが、少しでも地元で買う方が経済にとっては良い。こちらも補充を考えないで済むのでありがたい。


 暫く焚火の面倒を見ていると、カビアが書類を持って、向かってくる。読むとロスティーとの特許に関わる技術の取り扱いに関する契約書だ。厳密には覚書に近い。あくまで紳士協定に基づくものだが軍事への転用は認めない旨だけは記載した。一部を応用すると、投石器などが作れてしまう。城塞都市としては嫌だし、ロスティーが攻めてくるとは思わないが技術流出の可能性は有ると踏んでいる。

 署名と封筒への紋章の押印を済ませて、後で建築現場の配送担当に渡せば終わりだ。『リザティア』とノーウェの町とは定期的に荷物や手紙のやり取りを行っている。進捗報告や設計の変更の依頼など、書類の行き来は結構有る。私達が戻る前には町に到着する筈なので、ここで渡してしまう事にする。


 そうしていると、1日構われなかったタロがちょっと不満げにまとわりついてくる。しかし、レイに聞くと馬と一緒に平地ではしゃぎまわっていたとの話なので、甘えているだけだろう。散歩も十分だろうし今日は必要無いかな。


 脇を抱えて、太ももに乗せると、安心したのか丸くなる。


『まま、まま』


 相変わらずの甘えん坊に苦笑しながら、頭を撫でる。横ではリズが微笑みながらこちらを眺めている。あぁ、穏やかな時だな。日本では中々味わえない時間の過ごし方だ。


 そう思いながら、今日の歓楽街の視察で気になった点をチェックして、修正案件としてまとめていく。やはり現場を見ないと設定図と注釈だけでは齟齬が生じる。作る方が理解していない機能はきちんと動かない。システム作りでも基本だが、物理でも同じなのだと痛感した。

 後は今後に当たっての話だが、隙の有る酒場を何軒か作った。地下に潜って密談が出来るような酒場だ。ここは有る程度各国にオープンに提供して、斥候の情報共有の場に使ってもらおうと考えている。酒場の主人に斥候団の引退者を付けて、情報を吸い上げても良い。王国に感づかれない程度に利用するなら有りだろう。


 焚火の明かりで書類を読むのが苦痛だなと思い始めた頃にロット達が帰ってくる。交代で、飯場に夕ご飯に向かう。タロはお疲れなのか(しき)りに抱き着いてくるので抱えての移動となった。


 今日の夕ご飯はパン、スープに、鳥の腿を焼いたものらしい。塩漬けキャベツは食べ放題と言うのが豪儀だ。まぁ、皆マナー良く取っているので良いのだが。野菜重要。

 タロ用に鳥肉のささみを貰い、皿に乗せる。待て良しを行い、食べさせる。


『まま、とり、うまうま』


 まぁ、今は何でも美味しいんだろうなと。筋が残っているかも知れないので、後で歯磨きの際に歯の間はキチンと見てあげよう。


 食卓では皆が町と歓楽街の様子に興奮して喋っている。特に歓楽街には興味が尽きないようだ。個人的にはあそこは総合テーマパークと考えているので、人気の無いアトラクションは変更していく。その為に余地も随分設けた。


「劇場では何を初演にする予定なの?」


 リズが聞いてくる。正直、こちらの演目は知らない。


「何が良いかな?リズは何が見たい?」


 そう聞くと、首を傾げる。ロッサと話し合い、何かが決まったようだ。


「ちょっと悲しめの恋物語とか。ちょっと格調高くて良いのかも」


 ふむ。恋物語か。悲恋、悲恋と。やはりここはロミオとジュリエットが社会風俗的にも良いかな。最後のシーンは神術で治すのが間に合って、両家和解の上大団円とかにすれば良いかな?まぁ、シェイクスピアに草葉の陰から恨み言を言われそうだが、悲恋より成就した方がやはり楽しい。


「分かった。ざくっと脚本は書くよ」


「え?まだそんなに色々物語知っているの!?」


 リズが食いつく。


「内緒。先が分かったら面白く無いでしょ?小出し小出しくらいが楽しいよ」


「ずるい、ずるい。面白いのに。前の英雄の話も面白かった。他にあの英雄の逸話って無いの?」


 ロッサもリズとフィアから話は聞いたらしく、激しく頷く。


「んー。お仲間の話とか色々と有るけど。それもきちんと劇で見た方が楽しく無い?」


 そう言うと、2人共悩み始めた。はは。物語には物語の。劇には劇の楽しみが有るから。


 食事を終え、馬車に戻る道を歩くが、飯場の宿泊施設に向かう作業員の皆が兎に角明るい。結構急ピッチで建築されているし、作業も重労働だ。その中でも明るさを、士気を失わせず辛い作業を続けさせるんだから、本当にノーウェの気配りは行き届いている。


 野営場所に戻ると、ロット達が商人相手に賭けリバーシで遊んでいる。まぁ、賭けているのも小銭だし、スパイス程度には良いだろう。


「いやぁ、町で流行っていると聞き、買いたいなとは思っておりましたが、中々在庫に当たらないもので。こんな所で遊べるとは思いませんでした」


 商人の一人が言うと、皆が頷く。ロスティーが在庫を吐いているが、ノーウェもある程度先のシリアルを貰って代行生産をしている。木材産出の領地の強みだろう。作りも良く、ロスティー本家物とノーウェ物で人気を二分しているらしい。実物はまだロスティー物しか見た事が無い。

 盤面を見ると、若干ロットの優勢だが、隅の攻防に甘い部分が見られる。十分に巻き返しが可能だろう。気付くと野営地の皆が集まって一戦を観戦している。そりゃ最先端のゲームが目の前で遊ばれているのだ。興味は惹くか。

 それぞれの観衆が自分ならここを打つ。ここに打ったら、ここで逆転されると言うのを話し合っており、子供の頃祖父と遊びに行った碁会所のおっちゃん達と変わらないなと笑みが浮かんだ。まぁ、皆生きている人間だ。本質がそう変わる物では無い。そこに気付いて少しほっとした。民衆は異星人では無い。喜び、怒り、悲しみ、楽しむ、普通の人だ。この人達を幸せにしなければならない。でも幸せの定義もきっと近い筈だと言うのが安心の理由だろう。


 最終的にはロットがそのまま優勢を維持し、僅差で勝利した。さぁ、ここで盛り上げるのもあれか。


「おい、皆。これから私が相手になる。5人と勝負して1回でも負ければ、馬車の酒を皆に奢りだ。半樽は有るぞ。我こそはと思う物は名乗りを上げろ」


 そう叫ぶと、場の雰囲気は一気にボルテージが上がる。取っ組み合いみたいな状況をコイントスで収めて、5人が選出される。


「そうそう勝てると思うな?覚えて帰れれば御の字程度で考えておけ」


 鼻息の荒い相手に敢えて挑発する。冷静さを失えば、勝負事には勝てない。そのまま5人をストレートに下す。

 最後は皆苦笑になっていた。ワンサイドゲームで叩き潰したからだ。意気消沈させるのもあれなので、カップを適当に作って、ワインを薄めて配っていく。補充は飯場で出来るので気にしない。


「これがリバーシだ!!面白かろう!!この町は、これから娯楽に満ち溢れる。その現場に居合わせた者達は幸いだ。これからの楽しみ、幸せを肌で感じ、持ち帰るのだから。大いに楽しみ、仕事に励め!!乾杯!!」


「乾杯!!」


 野営地に乾杯の唱和が響き渡る。商人が商材の酒を開けて振る舞い始める。保存食の商人も塩漬け肉等を切り出す。今回便宜を図ってくれて場を盛り上げた功労者には名刺を配っている。何かあったら相談に来るように伝えている。こう言う場で盛り上げられる人材は貴重だ。


 そんな感じで臨時の宴会は盛り上がり、程々に酔ったところでお開きとなった。流石に明日も早い。


 リズと一緒にテントに潜り込んだが、宴会の熱に当てられているのか若干興奮気味だ。頭を撫でて落ち着かせ、寝入らせる。タロも人間の多さに戸惑い気味だったがテントに入ると大人しくなった。汚れ物の交換は済ませているので、そのまま寝るだけだ。


 そんな感じで、『リザティア』視察初日の1月25日はゆったりと更けて行った。

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