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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第230話 プロジェクトを回すには現場の士気を如何に保つかが勝負です

 1月23日からは曇り続きの中、馬車を走らせた。大きなイベントは起きず無事、『リザティア』までの最後の道が見えてきた。

 途中で、また大きな隊商に出会いよしみを結んだ程度か。普通の貴族は基本的に蹴散らして進むらしいが、そんなの怖くて出来ない。端によって待っていたら、隊商のリーダーが挨拶に現れた。


「お急ぎのところをお手間をおかけして申し訳ございません。貴族の方をお待たせするとは」


「いえいえ。お互い様です。寄ってもらうのも手数ですので。待ちますよ」


 にこやかに返す。髭が立派な年齢不詳な男性が深々と頭を下げる。話を聞くと、東の国からの隊商との事だった。珍しい物が無いかなと見ていたが、種子の所に見覚えの有るグレーや赤っぽい種が有った。あれ?これって……。


「これは、黄色い花が咲いて、若い時は塩茹でで食べますか?」


「よくご存じで。はい。新芽の部分を茹でて食べます」


 これ、アブラナだ。しかも植生を考えたらセイヨウアブラナの可能性が高い。ゴマよりセイヨウアブラナの方が育てやすい。うぉ、拾い物だ。


「これ、お幾らですか?」


「自生でも増えますので、そこまでは。どうでしょう、今回のお詫びも兼ねてご進呈致します」


 そう言って、大きな麻袋で5袋も渡される。これだけ有ればどれだけ増えるか……。アブラナなんて、植えているだけで育つ。これは美味しい。


「よろしいのですか?あぁ、失礼。私、この先の領主のアキヒロ・マエカワと申します」


 軽く目礼し、名刺を差し出す。最近家名が付いたのでそれと町の名前も付けるようにした。


「『リザティア』と仰いますと、現在作られているあの町の領主様ですか。ははぁ。いやぁ、立派な町が出来そうで驚きました。完成されましたら、是非寄らせて頂きます」


 よし、顧客をまたゲットだ。


「まだ、完成にはかかりますが、完成した(あかつき)には是非訪問下さい」


「それはもう。東の国からでしたら、ノーウェ子爵様の領地までかなりの距離が有りましたが、あそこに町が出来るのは非常に助かります。是非寄らせて頂きます」


 破顔した髭の人と固く握手を交わし、話を終える。よしよし、顧客も植物油のネタも増えた。


 そんな出会いを挟み、やっと『リザティア』が近付いてくる。平地の中に見覚えの有る地形が見えてきた。


「皆、見えてきた。もうすぐ着くよ」


 そう声をかけると、皆が次々と窓から顔を出す。


「ここまで来るのも久々な気がするわね」


 感慨深げに、ティアナが言う。


「初めてお風呂に入ったのも、この旅でした」


 ロッサも大切な思い出を思い出すように胸の前で手を合わせながら呟く。


「海行けるかな!?僕、またあの大きな蟹食べたい!!」


 フィアが食欲全開で叫ぶ。


 そんな中、曇天が割れて、徐々に日の光が見えてくる。近付く『リザティア』の方が輝いて見える。あぁ、私の、リズの、仲間達の町……。どんな感じになっているのか楽しみだ。


 そこから、ゆっくりと揺られていると、緩やかにカーブし始める。あれ?町まではまだ結構有る筈だけどと思いながら前の幌を開けるとローマ街道が出来上がっているのが見える。

 流石分業、早いな……。街道は後回しと聞いていたが、これなら思ったより早く開通するかも知れない。村までこれが通れば後1日は稼げる。新型馬車でノーウェの町から4日で通える温泉宿か。素晴らしい。


 仲間達もうきうきした顔で窓から眺めている。


 暫く走ると、大通りが見えてきた。ローマ街道の石畳が道幅いっぱいに広がっている。(ひずみ)も無く馬車も綺麗に乗り上げゆったりと進んで行く。おぉ、ここがメインストリートか。道が出来ると印象が変わる。

 ラウンドアバウト型の交差点も綺麗にカーブを描いている。中心には木々が植えられる予定なので、最終的にはここも風光明媚な感じになるのだろう。


 そのまま大通りを北上し、丘が見えてくる。丘の上には建築中の領主館が微かに頭だけが見える。外壁予定地で一旦駐車する。土台もまだで、基礎のラインだけが掘られている。

 皆で降車し、丘を歩いて登る。振り返ると大通りを走っている時にも見えたが、一部建物は結構建築が進んでいる。ギルド系の建物は要件は伝えているのでもう、独自に建て始めているのだろう。


 大通りの中央付近には大きい教会を建てる。それももう、基礎が完成している。あれが出来て町の運営が始まればリズとの結婚式だ。


 領主館の入り口にはまだ扉が付けられていない。そのまま中に踏み込むが、基礎はもう工事済みだ。現在建物部の工事の最中だ。現場責任者が寄って来たので名刺を渡す。


「これはこれは、男爵様。態々(わざわざ)このような所までご足労頂き、ありがとうございます」


「いや。工事の方が順調かなと思いまして、下見です」


「そうですね。工期上は問題無いです。予算も潤沢ですし、資材も最高の物を揃えました。素晴らしいものが出来上がると考えています」


 うーん。不動産会社の営業トークみたいだ。まぁ、見て行くか。

 取り敢えず、一番気になっていた浴場の下水管路を見たが、建物自体1m程を浮かすので、保守性は悪く無いようだ。隠れてスマホで下水の勾配も調べたが、問題無い。うん、精度は良いな。

 各間取りも確認していく。仲間達も家を買うまでは領主館住まいなので、感心しながら見て回っている。

 キッチンも収納用の部屋と床下収納が有るので、食材の備蓄には困らないだろう。特に収納用の部屋は石造りできちっと日が差さないようにしているので、ジャガイモの貯蔵も可能だ。チップスは神様のお達しなので頑張らないと。

 玄関からそのまま大きな階段で2Fに上がる。元々平屋でも良かったが、高台の上なので、監視用も目的に2F建てにした。2Fはまだ柱と壁を張っただけの簡素な形だ。未完成のテラスから町を一望するが眺望は良い。怒られないなら、ここでバーベキューも良いだろう。無駄に広いし。

 しかし天井高が結構有るので、2F建てでも、かなりの高さだ。設計図では分からなかったが、見たら結構分かる事が増えるな。

 取り敢えず今日はざくっと眺めて、明日本格的に見て回ろう。そう考えるとお腹が空いてきた。


「お食事はどうなさいますか?」


 先程の現場責任者が聞いてくる。


「どこかで食べられますか?」


「何軒かが簡易食堂を出しています。そちらで食べるか、飯場に食堂が有ります。そちらでも食べられます」


 どうせなら職人が食べている物を食べた方が良いか。


「じゃあ、飯場に案内してもらえますか?」


 そう言うと、現場責任者が、人を呼んでざくっと引継ぎを告げて行く。それが終わったら、誘導が始まった。

 丘を降りて少し歩くと、平屋の大規模な木造の建物が建っている。ここで寝泊まりしているのか。

 中に入ると、結構綺麗に使っている。まぁ、貴族の建物を建てているんだ。自負も有るか。


 中にはテーブルで50人程度は座れる食堂が有った。広いな……。どうも、他の建築系の商会もここで食事を取ったりするそうだ。時間を外したので、誰もいない。

 日替わりしかないので人数分頼んでみる。


 トレイに、黒パンと具材が結構入っているスープ、それにイノシシか豚のソテーがでんと乗っている。これで600ワールか。安いな。皆も値段に驚いている。


 テーブルに着いて、食事を始める。美味い。普通に美味しい。あれ?こう言う所の飯って安くて量が多くて微妙なイメージだったが美味いな……。

 皆も、コストパフォーマンスに驚いている。


 タロに食事をあげながら、舌鼓を打つ。スープも野菜たっぷりだ。冬の最中とは思えない豪華さだ。


「いやぁ、子爵様より厳命で飯がまずい場合は厳罰に処すとお達しが出ていますので。その分現場の士気は高いです」


 あぁ、ノーウェの差し金か。まぁ、確かに理にかなっている。どうせ、建築労働者の楽しみなんて食事しかない。そこが美味いんだから、そりゃ士気も上がる。


「夜も量は決まっていますが酒も出ます。こんな良い現場は無いと言うのが皆の口癖ですね」


 現場責任者が言う。はは。こんな所で(まで)、人心掌握するか。流石うちの上司様だ。さて、後の下見も楽しみになってきた。

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