第227話 一気にガレオンまで行きたいですが、キャラック辺りからです
ふと、タロがふるふるしている。
『まま、うんち』
あー。箱に戻すか……。いや洗濯は難しい……。トイレの教育が……。外は良いとするか。
『外なら、そのままで良いよ』
『いいの?』
『良いよ』
そう伝えると、ふるふるといきみ始める。ぽろっぽろっと落ちた瞬間立ち上がる。まだ後脚で砂をかける仕草はしない。足の裏の汗腺が発達していないから、テリトリーを主張しなくて良いと言う感じかな?
小さな端切れを濡らし、拭ってあげる。そのままお湯で洗い、送風で乾かしておく。この程度のサイズならすぐ乾く。便は地面に穴を掘って、埋めておく。
そのまま何事も無かったかのように、ブルドーザーがまた始まる。
『タロ、走る?馬みたいに』
『はしる!!』
早歩きになると、てとてととした足取りから、たったっと言う足取りに変わる。ふむ。きちんと走れるか。もう少し速度を上げる。大喜びでついてくる。
『はやいの!!』
ある程度気が済むまで走らせて、ストレスを解消させて抱き上げる。はっはっと荒い息だが、嬉しそうだ。
そろそろ休憩も終わるので、馬車に戻る。タロを箱に入れて皿に水を補充する。
『うま、はやいの、はやくなる?』
馬並みの速度になるかかな?確か狼の走行速度は60kmくらいの筈だ。どこかで馬の速度は間違い無く抜く。
『頑張ればね』
『がんばる!!』
そう言うと、ちょっと疲れたのか、毛皮に潜り込み丸くなる。
続々と外で休んでいた皆も戻ってくる。馬車の中の暖かさにほっとした顔になる。フィアは即座に湯たんぽに抱き着いていたが。
「出る時はそうでも無いと思っておったが、やはりかなり違うで御座るな」
リナも、馬車の暖かさに驚き気味だ。いそいそと湯たんぽの方に向かう。
皆が集まり、レイが馬をつなげる。
「では、出発します」
その声と共に、馬車が動き出す。前回のように盗賊の襲撃など無ければ良いが。まぁ、貴族が通る事は知られていないので、あまり気にする事は無いのか……。
「レイ周囲の『警戒』の状況は?」
動き出し、暫くしてレイに確認してみる。
「はい。資材の運搬や、その帰還と思われる動きは有りますが、その他の目立った動きは無いです。前回の盗賊に近い動きは全く有りません」
ふむ。考え過ぎかな。
「負担にならない程度で、確認を継続してもらうのは可能かな?」
「はい。ある程度のタイミングで確認はしておりますので、ご安心を。少なくとも何の準備も無く先制を受ける状況は作りません」
元軍人さんが言うんだから問題無いか。
「ありがとう。手数をかけるけど、よろしく頼む」
「いえ。光栄です。誠心誠意務めます」
そう言って、鞭を鳴らし馬の速度を上げる。
幌の中に戻ると、ティアナがカビアと領地に関して話をしているようだ。仲間に対して詳細を説明したことは無いので、新鮮なのか珍しく食いついている。
ふと、リズを見るとリズもこちらを見ていた。何か用事かな?毛布お化けに近付き、しゃがみ込む。
「どうしたの?」
毛布から手だけを出してサイコロを転がす練習をしていたリズがぼそっと呟く。
「んー。ティアナの様子が変かも」
「変?」
リズもまだ納得いかないのか微妙な顔で首を傾げる。
「いつものティアナじゃない。でも、何が違うかと聞かれると、困るよ。その程度の差異かな?」
「ふーん。うん。分かった。気にしておく」
そう答えると、リズはロッサとバックギャモンをする為に移動していった。
リズには前の件も有って、ティアナに何か変化が有ったら教えて欲しい旨は伝えていた。そのトリガーが引かれたっぽいが、明確な理由は不明との事だ。
まぁ、女性のリズが分からない程度の違和感の話だ。私では気付かないのは当たり前だろう。何か有るかもしれないと言う事で取り敢えずは納得しておく。
フィアとロット、チャット、ドル、リナは大富豪で大盛況だ。やはり人数が多い方があのゲームは楽しい。カードの偏りが無くなるので戦術の幅が広がる。
リナも徐々にルールはマスターしているようで、楽しそうに遊んでいる。元諜報員とは言え、一皮剥けば女の子だ。それにもう、元の話だ。ああやって、楽しそうな笑顔が見れるなら良かった。
そう思いながら、提出された事業計画書の続きを読み始める。しょうもないのは切り捨てた後なので、ある程度真剣に読むべきものばかりだ。
特に先程は西側の海に面した領地の領主から造船に関する業務提携の話が来ていて驚いた。向こう側は海沿いに村を作ると言う事で挨拶代わりなのかも知れないが、こちらは海路での物資輸送を計画している。
向こうの漁船に関しては、キャラベル船に近いシルエット、構造の帆船や、軽キャラック船に近い漁を支援する為の母船としての帆船が記されていた。今後遠洋に出るならまだしも、岸伝いに物資を輸送するならキャラック船は望ましい。
港の状況は見てみないと分からないが想定される満載喫水線での入港が可能で有れば、それなりに規模と深さの有る港が存在する筈だ。
しかし、帆布が有るから帆船は有るだろうと思っていたが、海側に進出していないので船の歴史は遅れていると思っていたが、逆だった。漁資源の確保を最大限にする為に海に面する領地の領主は共同で開発を進めてここまで漕ぎ着けたようだ。
正直恐れ入る。まだ、メリットが無い故に進んでいないが、何かの拍子には大航海時代が始まってもおかしくない。船の専門家ではないので何とも言えないが、改修次第では遠洋航海も可能かもしれない。
後で概要図を写真に撮って、地球の造船会社に確認してもらってスペックの把握をしようと決めた。キャラック船が運用出来るのであれば、輸送はかなり容易になる。
まぁ、こちらの港の整備次第か。クレーンか。ガントリークレーンの仕様は分かっているが、鋼材を集めて移動させるのが難しい。木製で代用してみるのも有りかな。
そんな事を資料を見ながら夢想していると、そろそろ昼ご飯の時間が近付いていた。全く気付かなかった。海に思いを馳せ過ぎた。緩やかに馬車のスピードが落ちていく。さて、お昼をどうしようか。