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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第20話 サプライズパーティー

 達成料の変動が無いかの確認の為、冒険者ギルドの建物に向かう。

 依頼票を確認し、ヴァズ草の達成料に変化が無い事を確認する。

 今後、村である程度生活をするのであれば雑事をこなし、住民と面通しをする必要も出て来るだろうが、今は生活基盤の確保が先決だ。


 今日はまだ時間が早い為か、ちらほらと同業者の姿が見える。新参者の為かちらちらと視線を感じる。

 正直、メタボのおっさんが出来る事なんて高が知れているので、そう気にしなくても良いと思うのだが。

 依頼票を見ている限り効率の良い物は無い。取り敢えず、面倒事が起こる前に建物を出る。


 北の森へ向かう道を歩きながら、今後と言うか、リザティアとの事を考え始めた。

 一緒になったとして、家族を作る事が可能だと言うのは大きな一歩だった。


 実際、好みかと問われればド真ん中でストライクだ。

 家のPCの北欧美女フォルダが火を吹く。美少女ではない。ロリコン属性は無い。胸は有った方が良い。


 後は過去と帰還の話をどうするかだが。正直に話すしかないか。近しい人間に何時までも隠しておけるものでもない。


「はぁ……。腹、括るか……」


 道を引き返し、アスト宅に戻る。


「あら?おかえりなさい。何かお忘れ?」


 ティーシアに今晩の食事を私が作る旨を伝える。


「それは結構ですが……。何か有りましたか?」


「奥さんの手料理が美味しいのは幸せですが、旦那の料理が美味しいのも面白くないですか?」


「あら?あらあら。なるほど、そういう事。分かりました」


 チェシャ猫のように、にやにやとしている。


「ある程度材料は買ってきますが、使っても良い材料を教えて頂けますか?」


「えぇ。こちらは使って貰って結構よ」


 小麦粉やヤギのバター、塩、胡椒、酢、乾燥ローズマリーは有った。


「魚は食べられますか?」


「狩りの獲物が主体だからあまり機会は無いけど、皆好きよ」


 取り敢えず方針は決まった。流石に糖分は無かったので、それは買ってくるか。


「では、行ってきます」


「はいはい。晩ご飯、楽しみにしておくわね」


 にこやかに微笑みながら送り出してくれる。


 さて、気合を入れるか。


 昨日訪れた沼沢地に到着する。

 ゴブリンの残骸を確認すると、食い荒らされほぼ白骨化していた。


「隠蔽はこれでOKだな」


 早速『認識』先生を駆使しながら、ヴァズ草を採取していく。

 黙々と抜きながら、今夜の事を考える。正直離婚以降、結婚を意識した事は無い。

 離婚の原因自体が、自分のEDが原因だった為だ。

 心因性のもので、醜い自分が妻を汚して良いのかと考え始めると勃たなくなった。

 最終的には、妻の方から離婚の申し出が有り、承諾した。

 自分に自信が無い。また、同じ状況を繰り返すのでは無いかと考えると、結婚願望なんて感じなかった。

 でも、変わりたいと考える自分もいる。あんなに真っ直ぐに好意を向けられるのも初めてだ。


 取り留めの無い事を考えながら、作業を進めて行くと既に150本を採取していた。

 3時間通しで作業をしていたが、疲労はほとんど感じなかった。

 30束をズタ袋に納め、森を出る。

 周囲の気配を気にしながら、南に下る。そのまま森を抜け道まで何事も無く辿り着く。

 ティーシアから預かっていたお昼ご飯を食べ、休憩を取る。


「今日はゴブリンも出なかったな」


 魔物や動物の気配は全く感じなかった。こんな日も有るかと、村へ向かう。


 ギルドの建物に入り、鑑定カウンターに向かう。本日の担当も昨日の男性だった。


「ヴァズ草ですね。確認致します。少々お待ち下さい」


 15分程で確認が完了する。


「達成料は、ヴァズ草が30束で24,000ワールです。よろしいですか?」


「はい。お願いします」


「では、カードをお出し下さい」 


 読み取り機で処理を行う。


「登録が完了しました。今回、等級の変更はございません。達成数が51となりますので、折り返しとなります」


 100件達成で昇級なのか。


「昨日もそうですが、驚きました。今後とも是非、よろしくお願い致します」


 5,000ワール硬貨4枚と、1,000ワール硬貨4枚を受け取る。


 挨拶を背に、ギルドを出る。

 酒場に向かう。酒屋を兼業しているらしい。


「いらっしゃい。食事かい?」


 50代くらいのがっしりした男性が主人のようだ。


「いや、持ち帰りで瓶で買いたい。ましな白ワインは有るかな?」


「白は在庫が無いな。赤で良いか?」


「味見は出来るかな?」


 主人が素焼きのコップに軽く注いでくる。

 口に含むと、かなり薄い。ピケットか。ただ、味そのものはそれなりだった。


「瓶はこれで良い。後コップ1杯程度の濃い目を頼みたい」


「じゃぁ、これだ」


 注がれた赤ワインは澱も無く、どっしりとしたものだった。


「これで良い。小瓶に詰めて欲しい」


「合わせて3,000で良い」

 

 5,000ワール硬貨を差し出し、1,000ワール硬貨を2枚受け取る。


「毎度。またのお越しを」


 酒場から、魚屋へ移動する。

 ニジマスは……有った。


「そこのニジマスを3尾貰えるかな?」


「600ワールになります」


「三枚におろして貰いたいのだが、可能かな?」


「分かりました。少々お待ちください」


 鱗取りから、腹骨の削ぎ落としまでやってくれた。


「じゃぁこれで」


 1,000ワール硬貨を1枚渡し、100ワール硬貨を4枚受け取る。


「ありがとうございます」


 魚屋から八百屋に移動する。

 人参と、カリフラワーは有るな。


「人参1本とカリフラワー1個を頼めるかな?」


「400ワールになります」


 100ワール硬貨を4枚渡す。


「毎度どうも」


 最後に雑貨屋に向かう。何故か砂糖は雑貨屋が取り扱っていた。


「砂糖が欲しいのだが」


「どれほどですか?」


「最少でどの程度なのかな?」


「こちらですね」


 差し出されたのは喫茶店でよく見る砂糖壺の半分くらいの大きさだった。


「幾らかな?」


「5,000ワールとなります」


 やっぱり砂糖は高いな。

 5,000ワール硬貨を差し出す。


「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」


 買い物も終わりアスト宅に戻る。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい。お疲れ様でした」


「キッチン借りますね」


 かまどに火を入れる。

 鍋にたっぷり目に水を入れ、沸かす。

 その間に人参とカリフラワーの処理をする。

 湯が沸いたタイミングで人参を投入する。

 人参に串を刺し、抵抗が残るタイミングでカリフラワーを投入する。


 並行して、ニジマスに塩コショウとローズマリーを振り、小麦粉を塗す。

 フライパンにバターを落とし、ニジマスの皮側から焼き始める。

 強火で皮目を焦がし、火を弱めひっくり返し、身側に溶けたバターを木匙で流していく。


 カリフラワーの色が鮮やかになった段階で、湯を捨て塩と砂糖、バターを投入し焦げない程度に弱火で混ぜる。


 ニジマスが焼き上がった頃に、2人が帰って来た。

 罠にイノシシがかかったらしく、荷物を見る限りは先日のイノシシより一回りは大きそうだった。


「今回は久々の大物だった」


 アストがにこやかに呟く。


「ん。凄い良い匂い。お母さん、もう晩ご飯作っているの?」


 リザティアが鼻を鳴らしている。


「ふふふ。今日はアキヒロさんが作ってくれているのよ」


 ティーシアはやっぱりにやにやしている。


「え?アキヒロさん、厨房に立たれるんですか!?」


 思いっきり驚かれている。

 あぁ、男性がキッチンに立つ文化じゃないのかな?

 皿にニジマスを盛り付ける。


 空いたフライパンに赤ワインを投入し、一気に強火でアルコールを飛ばし塩と酢を振り、煮立たせる。

 水分が3分の1程になった状態で、ニジマスに注ぐ。

 付け合わせのキャロットとカリフラワーのグラッセを添える。


 パンはロッゲンブロートが残っていたので、それを並べる。

 ピケットをコップに注ぎ、食卓の準備が整う。


 皆が席に着いたのを確認し、口を開く。


「食事の前に話が有ります」


 一息入れ、真剣な顔を作りアストを見つめる。


「先日来の問題も解決の糸口が見えて参りました。収入に関しても問題無いと考えます。お嬢さんと結婚を前提にお付き合いしたいと考えます。お許し頂けますか?」


 アストが若干呆けた顔をすると、にこやかに微笑む。


「こちらとしては否は無い。これから、よろしく頼む」


 リザティアを見ると、真っ赤な顔で俯いている。


「さぁ、お祝いをしましょう。折角のアキヒロさんの料理よ?冷める前に、早く早く」


 ティーシアの音頭で食事が始まる。


「なにこれ、人参もカリフラワーも甘い……。それに噛んだ瞬間じゅわって旨味が出てきて……。何これ」


 リザティアが満面の笑みを浮かべながら頬張っている。


「それよりもこれは……ニジマスか。皮のパリパリとした感触が気持ちが良いな。なによりこのソースだ。バターの香りに仄かな酸味……」


 アストが驚いた顔のまま食べ進めていく。


「びっくりよね。私もこんな料理食べた事無いわ。リズったらこれからこんな料理が食べられるなんて、羨まし過ぎるわよ」


 ティーシアがニヤニヤしながらリザティアを突く。


 サプライズの食卓は成功だったらしい。

 温かい食卓を囲んでいると、今後この人達が家族になるのだなと思うと心がほっと温かくなった。

 きっと幸せな家庭を築いていく。心にそう決めた。覚悟を決めた。

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