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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
222/810

第219話 その世界由来の言葉を聞くと、あぁ異世界なんだなと思います

 1月17日は晴れた。雲一つ無い空を窓から見上げて、洗濯物が乾きそうな事に喜びを覚える。太陽はまだ頭を出したばかりだ。

 キッチンに向かい手早くイノシシを刻む。もう、噛みちぎる行為が可能になった筈なので、かなり大きな塊だ。もう少し成長したら、丸のままで良いだろう。


 皿に盛り、部屋に戻る。扉の開閉音で目を覚ましたのか、タロはお待ちかねだ。しっぽが何よりも雄弁に語っている。待てと良しで皿に向かって突進する。大きさに驚いたのか、一度咥え込んだ物を吐き出し、前脚で押さえて器用に噛みちぎる。


『ふぅぉぉ、うまー、イノシシ、うまー』


 獲物を食いちぎるところに野生を感じたのか、タロの喜びを感じる。まぁ、人間でも食いちぎる感触は快感だ。それが狼ならより強いのだろう。

 激しくしっぽを振りながら、食事を終えると、キラキラした目で目の前に座る。あまり待たせるのも悪いので、ポンっと骨を投げる。喜び勇んで追いかけて格闘を始める。


 リズの様子を見ると、口を開けて寝ている。少しだけ涎が垂れているのはご愛敬だ。額に口付け、耳元で囁く。


「おはよう、リズ。そろそろ起きて。ティーシアさんに怒られるよ。寝坊助(ねぼすけ)さん」


 んぁっみたいな声を上げて、瞼が薄く開かれる。


「おはよう……あぁ、私、寝ちゃったんだ」


 ぼーっとした顔で呟く。


「湯たんぽにしがみついて寝ていたよ。子供みたいで可愛かった」


 そう言うと、頬が紅潮する。


「もう!!恥ずかしいよ。むぅ。温かいなって思っていたら寝てたのかぁ。昼も寝てたのに、疲れたのかな?」


「まぁ、中々休みの無い仕事だからね。お疲れ様。さぁ、起きて。私のお姫様」


 そう言いながら、脇に腕を差し込む。そっとベッドから引き抜いて、立たせる。


「お姫様って……。恥ずかしい……」


 少し俯き加減で照れながらもじもじする。


「ほら、ティーシアさんにまた怒られるよ。行っておいで」


 そう言って背中を軽く叩く。少したたらを踏みそのまま部屋を出ていく。

 それを見送り、外に出る用意を始める。今日の予定は仲間との会議と木工屋との話かな。持って行くのはグレイブだけで良いか。もう少し馴染ませたい。


 そう思いながら着替えを終えて、キッチンに向かう。準備は進んでいるので、残っている範囲で手伝っていく。


「やっとこの()もきちんと起きるようになったわ」


 ティーシアがしみじみと言いながら、リズが照れている。真相は知っているが、言わぬが花だ。

 アストは出る用意を済ませてテーブルに着席している。そのまま朝ご飯を食べ、アストが出るのを見送る。


 今日は会議の予定だが、訓練をするつもりなのか、リズが装備を着用している。

 リズの準備が完了し、ギルド前に向かう。ギルド前ではいつもの面々が談笑しながら待っている。朝の挨拶を交わし、ギルドの会議室を借りて、皆にはそのまま向かってもらう。


 昨日ノーウェの執事から預かった、ダイアウルフ5匹分の討伐完了証明書を提出し、達成数と達成料を貰う。子供8匹分は討伐対象に含めない。秘匿してそのまま研究所送りと言う話になった。

 達成数は私とチャット、ティアナ、ドル、ロッサに割り振る。達成料は微々たるものなので、そのままパーティー資金行きで良いだろう。手続きを済ませて、会議室に向かう。


「おはよう、皆。まずはお待ちかね。子爵様からの賜り物だよ」


 挨拶もそこそこに、昨日の巾着をじゃらりと重い音を立てて、テーブルに置く。

 皆が息を飲むのが分かった。


「え?何、その音?」


 フィアが怖い物を見るかのように、呟く。


「換金出来ないって言っていたわよね……。その音だと、また無茶したんでしょ?」


 ティアナが少し呆れ顔で、こめかみを揉むようにしながら言う。


「そこはきちんと交渉したよ。頑張った、頑張った」


 そう答えて、巾着を引っ繰り返す。テーブルにじゃららと100万ワール金貨が滑り落ちる。


「ダイアウルフ13匹だけど、12匹は前回と同じ金額で。あの大きなのは1千万で引き取ってもらったよ。と言う訳で、7千万ワール山分けだね」


 テーブルに広がる金貨の海に、皆が言葉を失う。


「8匹は子供でしたよね?そんなんで大人と同じ金額をもろて良いんですか?」


 チャットが恐る恐る聞いてくる。まぁ、狩る側から考えたら楽な獲物だから、そう考えるか。チャットも研究者とは言え、魔道具の専門だ。獲物の生態にはあまり興味が無いのかも知れない。


「研究所が買ってくれそうだからって大人と同じ金額で交渉出来たよ。未知の生物だから、小さい頃から大きくなるまでにどう変わっていくか、研究したいでしょ」


 そう言うとチャットが本職を思い出したのか、納得した顔になってうんうん頷く。


「えと、私も良いんですか?山分けって、700万ですよね?」


 ロッサがちょっと青い顔で聞いてくる。そう考えると、パーティー資金がとんでもない額になったな。ロッサは今回の取り分で所持金が倍になる。そりゃ驚くか。


「うん。皆で狩ったから皆で山分け」


 ロッサが若干安心したのかほっと息を吐く。それでも信じられないのか、目をぱちぱちさせている。


「大物は扱いが難しいと聞きましたが、1千万ですか……。信じられませんが、目の前を見ると信じるしか無いですね」


 ロットが珍しく報酬の話に紛れてくる。


「皆には申し訳無いけど、ちょっと領地の利権とも調整したよ。これは将来的に皆の利益になるから了承して欲しい」


 そう言うと、ロットを始め皆が頷く。


「はぁぁ、これで(それがし)家持(いえもち)で御座るか。はぁぁ、魂消(たまげ)申した」


 どうも、この世界の言葉で1千万の所持金を持つと家持と呼ぶらしい。大体、どんな町や村でも1千万有れば土地と家が買えるのと切りが良いからだろう。


「じゃあ、分けていくね」


 7枚ずつの山を作り、皆に分けていく。同じ報酬だが、やはりこうやって手渡される方が実感が湧く。皆も金貨を手にしてにこにことし始めた。やっと実感し始めたのだろう。


「まぁ、そのままギルド預けだからあまり意味は無いけどね。様式美と言う事で。さて、話は変わるけど、皆も一旦余裕が出来たので、今後の話がしたい」


 この世界でも宿では長期滞在の前払いで割引が効く。青空亭なら年払いで、シングル朝夕付きで3千ちょっとだ。これに昼ご飯を足して、1日4千で生活が出来る。

 150万有れば家が無くても1年は何もせずに暮らせる。今回の収入だけで4年半は遊んで暮らせる計算だ。余裕と言うのも(はばか)られる。結構な金額だ。


「現在私は、男爵と地位は付いたけど、全く男爵業をやっていない駄目領主と言う訳だ」


 そう言うと皆から笑いが漏れる。余裕が有ると言うのはこう言う事だ。笑えるなら、大丈夫だ。


「なので、領地の視察に出たい。前回の視察から半月超だしこれからの移動を考えれば約ひと月が経過する。そういう意味では一度現場を見たい。なので、また遠征を組む事になる」


 皆が浮き上がった雰囲気から、お仕事モードに変わる。


「用意は前回の通り。海まで行けるかは状況次第だけど、まずは『リザティア』の建築状況は押さえたい。カビアが戻ってくるのを待っての話になる。それまでは用意に充てる。期間はまたひと月くらいかな?長期間縛るけどその辺りは大丈夫?」


 そう聞くとドルが手を上げる。


「装備の補給が難しいので、今の製造分を待って欲しい。リズの足回りまでは完成させたい」


「どのくらいかかりそう?」


「仕事が無ければ、後4日でいけると踏んでいる。ネスも手伝ってくれる」


「分かった。カビアも近々と言う話だから、一旦4日を見ておこう。それまでに帰ってこなければ延長で。装備の完成を目途で出発しよう」


 後はカビアの身の回り品をどこまで揃えるか等の細かい話になった。まとまったところでお開きだ。もう昼の時間も近い。ドル以外は町に買い出しに出るそうなので、馬車の使用許可を出した。

 今から出れば夕方遅くには着けるだろう。レイも待機中だ。食料も余裕を見て買っているので補充はいらないだろう。


 あぁ、タロは連れていく事になった。皆も飼っているのは知っているし、将来の戦力として期待もしている。なので余裕が有る今回は皆でフォローしてくれるらしい。


「じゃあそう言う事で。お金を預けたら動こう」


 そう言いながら立ち上がり、金貨の山2つを引き抜く。皆もそれぞれが立ち上がり、山を抜いていく。


 会議室を出る頃には、町での買い物の話が始まっているんだから、仲の良い事で。ちょっと嬉しくなり、微笑みが浮かんだのは内緒だ。

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