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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第218話 辛い時に、辛いねって気付いてもらえるだけでも人は救われます

 素材は極上品を渡した。後は料理人の腕次第かなと思いながら、家に到着する。空はまだ持ちこたえている。ただ、雲は薄くなっているのでこのまま明日は晴れそうな気もする。


 家に入り部屋を覗くと、リズはベッドに潜り込み、夢の中だった。疲れも出たのだろう。良い夢が見れれば良いが。頭を撫でるとニヤニヤと笑っているので良い夢を見ているのだろう。

 タロは流石にちょっと骨に飽きたのか、部屋の中を嗅ぎまわっている。どうも箱から部屋くらいまでは自分の世界が広がったようだ。呼んでみると、てててっと駆けてくる。

 それを掬い上げて、抱きかかえる。


「散歩に行こうか?」


『さんぽ!!いく!!』


 即答できゃんきゃん鳴いている。もう既にしっぽは興奮でぶんぶんしている。

 たーっと首輪まで駆け寄ると、咥えて私の足元まで持ってくる。ぽてっと置き、その前で座る。しっぽはぶんぶん振ったままだ。結構しっぽも大きくなってきた。


 首輪を付けると、はっはっと荒い息で興奮を表す。うーむ。ティーシアも散歩大変じゃなかったのかな。そう思いながら、部屋を開けて、玄関に進む。

 扉を開けると丁度ティーシアが扉の裏で作業をしていた。


「ティーシアさん、留守中、タロのお散歩お手数おかけ致しました」


「良いわよ、別に。お買い物のついでに連れて行っただけだしね。皆にも可愛いって人気よ」


 そう言いながら、屈託無く笑う。


「ありがとうございます。それでは散歩に連れて行ってきます」


「いってらっしゃい」


 手を振るティーシアを後に、道をてくてく進む。前ほどは嗅ぎまわる事は無くなったが、やはり未知の物が有ると接近し、取り敢えず嗅ぐ。まだ、その辺りの道の草を食べる程内臓が悪くなっていないのはありがたい。

 ちょっとスピードを出して駆け始めると、器用に足を動かして駆け始める。うん。きちんと狼っぽい。小さいけど狼だ。そんな感じで、町を速足程度のスピードで進んで行く。コンパスが違うので、タロは駆け足だ。

 兎に角、肉球への刺激と未知との遭遇が楽しいのか、しっぽが止まらない。ずっと『あれ何だろう、あっちはどこに行くのか』そんな事ばかりを考えている。私も小さな頃はこんな風に考えながら、未知の世界を歩いたんだろうなと思うと少しだけ微笑みが浮かんだ。


 村を巡り、町への道に出る頃に疲れたのか、足元に擦り寄ってくる。


『疲れたの?』


『あし、いたいの』


 足裏を見るが、怪我はしていない。あぁ、疲れたが痛いと一緒になっているのか。


『それは、疲れた、だよ』


『あし、つかれた?』


『そう』


 そんなやり取りをタロを抱えながら、家路の中で続けていた。

 夕暮れの中、腕の中で外の風景と匂いに興味を惹かれる子狼を抱えながら歩くなんて人生の中で全く想像していなかったな。


 家に到着して、足裏を拭ってあげる。玄関の中に離すと、部屋まで駆けて行く。閉じた扉の前で行儀良く座り、開くのを待っている。

 それを抱き抱え、扉を開けて箱に入れてあげる。いつもの匂いに安心したのか毛皮の中にずりずり潜り込もうとする。水飲み用の皿に水を生み、置いてあげると、にょきっと出てきて、ぺろぺろと飲み始める。


 ダイアウルフの子供達を思い出し、胸のどこかがちくっとするのを感じながら、タロの頭を優しく撫でる。その温かい感触に傷みが癒される。


 リズはまだ、微睡んでいる。その優しい顔を見ていると、心から愛おしさが込み上げてくる。あぁ、この子を守る為なら、幾らでも手を汚して良い。頑張れる。だから、頑張るね。

 そう思いながら端切れを手に取り、少し熱いかなと感じる程度のお湯を生み、端切れに含ませる。絞ってもしずくが出るか出ないかだ。パタパタと端切れを畳んでは広げ、温度を調整する。

 熱いおしぼりでそっと、顔を拭ってあげる。気持ち良いのか、ふにゃっとした笑顔が零れる。


「リズ、起きて。そろそろ夕ご飯の時間だよ」


 そう言うと、ふっと目を開ける。


「あ、ヒロ。おはよう……。私、寝てたんだ」


「うん。布団ですやすや寝てたよ。寒かったの?」


「いや。少し横になろうかなって思っただけだよ。布団はいつの間にか潜り込んだのかな……」


 そう言いながら首を傾げる。あぁ、可愛い。


「何か、温かい感じがしたけど、何かしたの?」


「これかな」


「あ、顔を拭ってくれたの?って涎でも出てた!?」


 ちょっと慌てた様子で聞いてくる。うん、偶に涎は垂らしているかな。


「いや。いつもすぐに起きないから。アプローチを変えてみた」


「そっかぁ。ありがとう。起きるね」


 そう言いながら、リズがベッドから起き上がり、うーんと背伸びをする。


「はぁ。ちょっと疲れていたのかな。すっきりしたよ」


「それは良かった。さぁティーシアさん、きっと待っているよ。行っておいで」


 そう言うとリズが頷き、部屋を出ていく。

 先程の端切れを洗濯物とまとめて、洗濯の為に外に出る。一泊でも冬物なので、結構嵩張る。石鹸で洗濯をしながら、あぁ羽毛の件も有ったなと思い出す。石鹸だとアルカリが強すぎる。でも一回は洗わないと臭いがする。

 その時、ふと洗い場のムクロジを見て思い出す。あぁ、サポニンって中性だ。これで洗えば良いんじゃん。あぁぁぁ、石鹸にこだわり過ぎた……。界面活性作用は有るけど、そこまで強い物じゃない。羽が溶けるレベルじゃない。いける。

 人間便利な物を使い始めると、思考が偏るなと反省する。もう少し集めたら一回洗おう。それまでは臭いを我慢するか……。あぁ、ダニとか付いているかもしれないのか。一回縫製して、干して殺さないと駄目か。


 色々考えながら、洗濯を終わらせ、明日雨が降らないと良いなと思いながら干していく。


 家に入ると、食事の準備が出来たと伝えられた。アストも帰ったらしい。納屋の方に回り込んでこないと言う事は、今日は罠の整備だったのかな?


 洗濯で冷えた体を温かいスープで温める。野菜にしても種類が増えた。収入に関しては石鹸の売値を上げたが、村の人間は特に文句は無いようだ。元々売値なんて有って無いような物だし。

 滞納分の完済はほぼ見えてきたらしい。アテン夫妻が帰ってくる頃には間違い無く完済だ。そういう意味では、やっと肩の荷が下りたのだろう。アストも最近はよく笑顔を見せるようになったし饒舌にもなった。

 忌み職と言っても滞納が無ければ、もう生き死にの部分だけだ。これに関しては、職業上どうしようもない。ただ、指揮個体戦の時に皆の前に立った姿を頼もしく思った村の人も多いだろう。


 和やかで温かな時間を終え、お風呂の準備をする。主寝室のアストに声をかけて、ついでに湯たんぽにお湯を入れる。


 部屋に戻ると、リズがベッドの上でタロと戯れていた。1日振りなので、双方楽しそうに遊んでいる。タロがベッドの端までとことこ歩き、リズが方向転換させる遊びらしいが、昔そんな時計の形をした玩具が有ったなと記憶の端から浮かび上がる。


「楽しい?」


「タロが楽しそうなのを見るのが楽しいかな?」


 リズが笑顔で答える。ベッドの端に座り、タロを抱き上げる。この期間はイヌ科の子供は本当に日に日に変わっていく。マズルもかなり伸び、犬っぽい。でもまだ、丸いかな。

 わしゃわしゃとくすぐると、体を捩って逃げようとする。きゃんきゃんと楽しそうに鳴く。くすぐるのを止めると、腹を向けて、寝そべる。


「リズ、撫でであげて。タロが撫でて欲しそう」


 そう言うと、リズが優しく腹を撫でる。タロも大人しくされるがままになっている。


「柔らかい、それに温かい。生きてるって感じがする」


 リズが優しい顔をする。背後から覆い被さるように抱きしめる。


「柔らかい、それに温かい」


 そう言うとリズが首を捩り、こちらを向く。


「太っては無いよ?」


「富貴の象徴じゃ無かったっけ?」


「男性だけだよ」


 笑いながら、タロから手を放し、こちらを向いて抱きしめてくる。


「辛かったね。頑張ったね。よしよし」


 ダイアウルフの子供の事を言っているのだろう。はぁぁ。敵わない。


「ありがとう。癒される」


 そうやっていちゃいちゃしていると、ティーシアがお湯の追加の声をかけてきた。それに応じるとリズもついてきた。リズが用意していた肉を刻むと、部屋に戻りタロに食事をあげ始めた。あぁ、まだあげていなかったのか。


「結構食べるようになったね」


「んー。満足するまであげると、やり過ぎかな。少し抑えめにしないと太るよ」


 まぁ、ティーシアと相談しながら量は決めているので大丈夫だろう。


 満足そうなリズの顔を眩しいもののように感じる。食べ終えた皿を片付けて、タロを撫でているとくわっと欠伸をする。疲れる程散歩をしたから寝るのかな。毛皮を被せてあげると、そのまま丸まり、うとうとし始める。


「領地にはどうしようか。連れて行きたいけど、獲物の確保が出来るかが問題かな」


「塩漬け肉じゃ駄目なの?」


「塩分が多すぎる。塩を抜いても、狼には過剰だよ」


 流石にあの塩の塊は無理だ。


「んー。林も草原もそれなりに獲物はいるから、タロ優先で良いんじゃないかな。人は保存食を食べられるから」


「それで皆が納得するか、かな」


「大丈夫だよ。皆、狼飼っているのは知っているし。将来の仲間だしね」


 リズが朗らかに太鼓判を押す。


「まぁ、明日相談してみようか」


 そう言いながら、再度イチャイチャを始めると、ティーシアが上がった旨を伝えに来る。


 お湯の入れ替えをしていると、リズが寝たままのタロを抱えてくる。タライにお湯を生むと、ぽちゃんと浸ける。呑気に寝たままぷかぷか浮いている。


「やっぱり可愛いね」


「ちょっと野生が足りない気もする」


「大人しいからそっちが良いよ」


 そう言いながら、マッサージのように体を洗っていく。中敷きの石板もほぼ必要無くなっている。寝言なのか、ひゃんひゃんと小さく鳴いている。気持ち良い夢でも見ているのかな。

 リズが洗い終えて、そのまま端切れで拭う。私は受け取り、部屋に戻る。箱にタロを入れ、毛皮を被せる。


 んー。また領地までの遠征かぁ。今度は真冬だ。お風呂どうしようかな。タロの玩具と一緒に衝立を作ってもらうか。そう考えて、簡易のお風呂用の衝立を設計し始める。屋根は乗せるだけで良いか。


 ざっとした設計を仕上げたところで、リズが上がってきた。私もお風呂に入り、部屋に戻る。


 昼寝したにもかかわらず、リズはもう布団で湯たんぽにしがみついて眠っていた。温かさに負けたのかな。湯たんぽを布団の端に置いて、私も潜り込む。

 体温とお湯の温度で適度に温もった布団に眠気を誘われる。蝋燭を魔術で吹き消し、そのまま目を閉じる。あぁ、今回も色々有ったな。ドルとロッサの顔が浮かんで消える頃には意識を失っていた。

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