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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第214話 割り切らないといけない瞬間も有ります

 ドル達がほっとした表情で帰ってきたので、先程の予定を話す。ロッサはどこか考え事をしている感じだった。うーむ、良く分からん。成否の判断がつかない。まぁ、良いか。

 夜用のスープ作り担当はティアナに決定した。延々鴨の骨から出汁を取り、灰汁を取り、水分を補充する係だ。流石に火元をそのままで出ていくのは怖い。

 本人は若干不本意そうだが、人数的に余るのが斥候なので、まともに料理が作れるティアナに白羽の矢が立った。


「はぁぁ。鍋の番とはね。分かったわ」


 溜息を吐きながらも、根気良く灰汁取りをしてくれる。ほんま()え子や……。

 (かめ)に水を生み、足す用の水は用意した。火事の時用に甕もどきを大量に生成して、水を満水にしておく。甕もどきはこのまま置いて帰ったら、使ってもらえるかな?


 と言う訳で、ティアナを留守番にロットとロッサを先頭に地図を見ながら調査を開始する。戻る時間も考えて、そう長くは時間が残っていない。精々1時間程度進むのが限界だろう。

 熊の冬眠状況等も確認しながら進むかと思う。正直、熊の冬眠を生で見た事など無い。浅い眠りなので、刺激が有れば起きるらしいし、結構な穴を掘ってそこに入り込んでいると聞いた。ちょっと興味が有るが、機嫌の悪い熊は勘弁か……。


「狼系のテリトリーです……。確実に生息範囲が広がっています……」


 ロッサが地面や木々の臭いを嗅いで、確認していく。この辺りもダイアウルフのテリトリーになって来たのか……。かなり森全体に広がっている。狼の出産時期と重なるなら、増えているんだろうな……。


 少しずつ真北に向かって進んでいく。暫く進むと、ロッサが首を振る。


「駄目です。色々な匂いが入り混じって判別がつきません。狼系の臭いは感じますが、複数種が入り混じっています」


 んー。ボスがテリトリーを主張する形じゃなくて、群れとしてテリトリーを維持して勢力争いをしているのかな?

 まだ、時間が早い為、もう少し北に進む。前に深入りした時よりは大分手前だ。ロットが手を横に上げて動きを止める。


「ダイアウルフらしき気配を感じました。複数です」


 ロットの範囲に入ったと言う事は500m前後か……。向きを聞くと風上なので、匂い物質はそこまで拡散しない。先手は打てる。


「ただ……」


「ただ?」


 珍しい、ロットが口籠るなんて。


「気配の弱い物が複数存在します。雌と子供の集団かと」


 そう言われた瞬間タロの事を思い出す。と共にリズの言葉も思い出す。生業、リーダーとは、タロの肉親を追い込んだ対象……。はぁぁ。


「はっきりするまでどれだけ近付く必要が有る?」


「後100から150程近付けば詳細は分かります」


「分かった。近付こう。群れの規模が大きければ諦める」


 そう言った瞬間、皆の気配が変わる。あぁ、きちんと冒険者だ、安心したよ。獰猛な獣を背後に従えている意識で藪を分け開き、前に進む。音は極力出さず、じりじりと焦らず進む。

 100m程進んだ所でロットが再度、皆を止める。


「大きな気配が5頭、小さな気配が7から8です」


 小さいのも、タロと同じくらいのサイズか、ダイアウルフなら中型犬並みのサイズになってそうだな……。研究所は死ぬ程欲しがるだろう。無傷で処理するなら、ドルか……。


「ドル、小さいのを(くび)り殺してほしい。傷は付けないで。可能かな?」


「向かってくるなら構わん。逃げる物は追えん」


 まぁ、当然だな。子供もまだ、母親離れはしていない筈だ。母親が倒れれば、周囲で戸惑う可能性が高い。


「遠吠え担当は私が対応する。ドルは子供を頼む。フィアは剣の腹で殴り飛ばして牽制。その他はでかいのを先に排除。子供は後回しで。100まで出来る限り近付き、以降は視界に入る距離まで移動。藪が深ければ指示と同時にそのまま突っ込む。意見は?」


 皆が首を振る。


「良し。進もう」


 そう言い、体を這わせ、じりじりと先に進む。草の臭い、藪を分ける微かな騒めき。全てに神経を集中しながら、先に進む。あぁ、こちらの『警戒』範囲にも入った。と言う事は200m以内なのか?

 角度と風の向きに調整しながら進んで行くと、残り100m強の所で藪が途切れて広い空間が出来ている。ダイアウルフが集まって何かを咀嚼している姿が見える。子供は結構大きい。中型犬並みは有る。ふぅと息を吐き。右手を上げる。そのまま振り下ろす。


 疾風のように飛び出したフィアが低い姿勢で真っ直ぐダイアウルフに向かう。ロットとロッサが後を追い、周囲の警戒に走る。リナ、リズ、チャットが団子で後を追う。ドルは若干離されている。

 私は、フィアを大回りに追い越し、一気にホバーで駆け抜ける。皆の逆サイドまで移動し、様子を観察する。この時点で風上に立った匂いに気付き、ダイアウルフ達が騒然とし始める。

 その頃には、フィアが大振りで剣を振り抜き、横っ面を殴る。そのまま突っ走って、一旦ダイアウルフの範疇から離れてこちらに向かってくる。

 ダイアウルフ側も子供を守るように密集し、威嚇の鳴き声を上げる。その中で一匹、子供達に囲まれているのがいた。アルファ雌、あれがこいつらのリーダーだ。

 遠吠えで呼ばれると直感し、シミュレーターで脳の一部を粉砕する程度の風魔術を構築、即座に実行する。対象は、前傾姿勢で胸を大きく膨らませた状態で、眉間に穴が開く。そのままゆっくりと横に倒れていく。

 子供達は状況の変化に着いていけず、倒れ込んだ母親の周囲でオロオロするばかりだ。残りの4匹もそれぞれが、対応している。

 2匹はリズとリナが盾で突っ込み、ふっ飛ばしている。1匹はチャットが風で抑え込んでいる。フィアは引き続き、1匹相手に剣の腹で牽制を繰り返している。

 初めに決着したのはリナだった。大盾で吹っ飛ばしたところをそのままメイスで頭を砕き、チャットの方に向かう。リズは盾とガントレットで顔を牽制している。チャットは抑え込んだ風が収まる直前にリナたちの方に向かって逃げている。

 フィアの牽制対象を倒して、リズに合流してもらうのが先か。


「フィア、そいつは倒す。リズのフォロー」


 そう叫ぶと、フィアがこくんと首を振り、後ろも見ず、リズの方に走り出す。それを追おうとするダイアウルフに狙いを定めて、風魔術を放ち、脳を爆散させる。チャットは再度風を放ち、距離を取る。その風に乗って、リナが突っ込み、盾でぶん殴る。

 このタイミングでドルが戦場に到着するが、こちらの状況を見て大丈夫と判断すると、うろついている子供の方に向かってくれる。

 フィアがリズに合流し、牽制を始めると、リズがハンマーを振るう余裕が生まれ、追い込んでいく。チャットは引き続きリナの背後で牽制の機会を(うかが)う。

 ドルが一匹を縊り殺すと、その悲痛な鳴き声に状況を理解したのか、子供が散ろうとする。私はホバーで逃げる先に回り込み、グレイブの腹で牽制し、逃がさない。子供から見たら、ドルが悪魔のように見えるだろうな……。

 リナが再度盾で牽制した後に、メイスで頭を潰す。ほぼ同時にリズのハンマーが腹に綺麗に入り、吹っ飛んでいく。立ち上がろうとするが、内臓が傷ついたのか、がくがくして、立ち上がれない。そのままリズが近付き、頭を潰す。

 ドルは2匹目を処理し、3匹目に取り掛かっている。他の皆が牽制してまとめている子供を捕まえていく。後は、ドルとリズ、リナが作業のように縊る。子供は8匹だった。心の中に嫌なものが残るが、逃がしても子供のままでは生き残れないだろう。


 咀嚼していたものを確認したが、立派な鹿だった。もうかなり食い荒らされているので、このまま埋めていく事にする。


 後味は悪いが、子供のサンプルが手に入ったのは大きい。氷漬けにして村まで戻ろう。軍もまだ残っている筈なので、ノーウェも明日ならまだ村にいるだろう。さて幾らにするか、交渉材料にするか。計画は立てないと。


 仲間達は想像以上の臨時収入に湧き上がっていた。と言うか、初めに倒した狼が体長で170cmを超えていて驚いた。毛並みも美しい。この個体が特殊なのか、まだ成長するのかは分からない。ただ、このサイズになると男性のロングコートでも普通に作れる……。とんでもない額になりそうだ……。


 子供はロープでまとめ、他は背負って、さっさとその場を後にする。何かの拍子で集まってきて連戦なんてごめんだ。欲はかかない。ロットにも範疇に入った瞬間撤退の合図を出すようにお願いする。

 踏んだ跡を辿り、音も気にせず、急いで簡易宿泊所に向かう。柵が見えた瞬間は安心で溜息が出た。


「ティアナ驚くかな?」


 フィアが悪戯っぽい顔で呟く。


「鍋を見ているだけで数百万以上の仕事だからね。喜ぶんじゃないかな?」


 そんな軽口を叩きながら、門を潜り閂で閉じる。ロットが先触れ兼交代要員として、家屋に向かう。広場ではリズ、ロッサ、リナが流麗なナイフ捌きでさくさくと皮を剥いでいる。

 その様子を水を生みながら見ていると、ティアナが唖然とした顔で立っているのに気付く。


「鍋ありがとう。きちんと出汁出ていそうかな?」


「出ていると思うわ。水は指定された分は足しているし。と言うか、何よ、これ……。狩ったの?」


 ティアナが肩を下し、呆れたように呟く。


「偶々出会って狩ったよ。子供もね」


 少しだけ胸にちくっと感じながら、伝える。


「そうなの……。いや、良いわ。ありがたい話だけど、また交渉よね?どうするのかしら」


「んー。悪いけど金額として貰うのは最低限になると思う。子爵様も実際には利権と取り替える物だから。だから、将来的な利権と取り替えかな?」


「はぁぁ。利権なんて、そう簡単に得られないから、利権なのよ?貴方、本当に……。いや、良いわ……。愚痴ね。ふぅ、将来の男爵様の活躍を期待するわ」


 若干悲しそうな顔の後に、苦笑を浮かべティアナが言う。あぁ、父親の苦労を見ていたから、しょうがないか。


「ん。家族と言ったからにはきちんと面倒見るよ。なので、今回は最低限で許して欲しいかな?子爵様的にもちょっときついと思う、今回は」


「あぁ、この大きいのね。はぁぁ、無理でしょうね。そう簡単に現金化出来ると思わないわ。陛下に献上するしか無いわね……」


「そう思うよ。だから、現金化は無理かな」


 こちらも苦笑で返す。流石は貴族の娘。パワーバランスが分かっているから、話が早い。


 予想外の獲物を慎重に、傷を付けずに剥いでもらいながら、今後の事を考える。あぁ、ノーウェも困るだろうな。苦笑が自然と浮かんでしまう。

 そんな中、太陽は徐々に傾いて、空は徐々に赤みを増していた。

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