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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第212話 恋バナって胸キュン?

 ふと尿意を(もよお)すが、建物にトイレは無かった。あぁ、管理するの無理だし、そりゃそうか。


 しかしこの規模を構築するのにどれだけの兵が動いたのか……。そう考えた瞬間、ふと閃いた。あぁ、これ、一石二鳥狙っている。やられた、金持ちの理論だ、これ。

 これだけの規模の村を一から作るんだ。設計思想の見直し、今後の演習設備の仕様策定、工兵の技術向上、担当指揮官の指揮能力向上、輜重隊の兵站見直し、まだまだ考えられる。

 これ、立派な軍事演習だ。流石金持ち。金を動かす時に、払う以上のリターンをそもそも想定するか……。


 それにこれ、管理運営を冒険者ギルドに引き継ぐと言っていたけど、立派な雇用政策だ。ここまで定期的に職員が来て見回る必要が有る。その上、修繕は定期的に発生する。

 その場合の資材運搬、職人の護衛には人手がいる。そこで7等級かこの辺りだとダイアウルフが出る可能性が有るから6等級かを複数雇う必要が有る。その分の税収がノーウェに入ると。

 一石三鳥か。あー、こっちが見えていないリターンがまだまだ潜んでいそうだ。


 あれだけ気軽に言ったのは訳が有るのか。はは、流石上司様だ。金儲けが上手い上司に恵まれて本当に助かった。センス有るわ。参考にする所が多い上司は良い上司だ。きちんと教師役をやってくれる。


 そんな事を考えながら、薪を集めていく。周辺の環境は荒らされていない。薪も普通に落ちている。軍の統制が凄いな。輜重(しちょう)隊の兵站がきちんとしているから現地調達の必要すら無い。

 かなりの人数がいた筈なのに、糞尿の痕跡も残っていない。きちんと設備を作って、そこを埋めたんだろう。やばい、ノーウェと官僚機構が優秀過ぎる。この辺、要件定義とプロジェクトマネジメントの経緯を貰えないかな。参考になり過ぎる。


 昼から明日の朝にかけての分を目標に集めていく。重さ的には問題無いが嵩張るので、一旦広場に置きに戻る。再度拾いに行こうとしたところでドルに出会う。袋を担いでいるので、採取分が揃ったのかな?


「すまん、少し時間を貰えるか?」


 真剣な顔でドルが言ってくる。


「薪拾いがまだ残っているけど、先に聞いた方が良い?」


「なるべくなら、誰にも聞かれたくは無い。良い機会だから、今が望ましい」


 ふむ。珍しい。あまり主張してこないドルがこんな事を言うなんて。

 手前の2軒を本日の宿と決めているので、奥側の家屋に入って窓を薄く開ける。


「『警戒』で周囲は確認している。人が近付いたら分かるよ。どうかしたの?」


 キッチンに備え付けのテーブルを挟み、椅子に座る。これも現地で作ったのか?工兵の技術って大工作業も出来るのか……。ちょっと評価改めておこう。

 ドルが何か思い詰めたような、決心したかのような素振りで顔を上げる。


「前に、パーティーの、個人の今後に関して、何か有れば話をしろと言ったな?」


「うん。言ったよ。何か有った?偶に思い悩んでいるような素振りが有ったから気になっていたけど」


 ドルが真剣な目をしながら、言葉を紡ぐ。


「恋をした……」


 意表を突かれた。ドルから恋バナが出るとは思っていなかった。過去を背負っての求道者(ぐどうしゃ)的なイメージを勝手に作っていた。


「ほぉ……。びっくりした。うん。分かった。それはそれで良いと考える。ちなみにお相手を聞いても良い?」


「ロッサだ……」


「へ?」


「ロッサだ」


 あれ?ロッサ、成人したばかりだよ?流石に親御さんの許可がいらなくなったとは言え、小学生みたいな子だよ?とまで考え、こちらの常識を考え直す。あぁ、価値観的に全く問題無いのか。


「そっかぁ。ロッサにはもう伝えたの?正直、保護者的な立場になっているから、ロッサ側のフォローはしたいかな。あの子はまだ、世間を知らなすぎるよ」


()だだ」


 ドルが少し、視線を落とし気味に答える。


「初めて会った時に、何かを感じた。それから共に過ごしていく間に、これが恋と気付いた。確かに死んでいった奴を考えれば後ろめたい気持ちは感じる。それでも叶えたい」


 あぁ、真剣な筈だ。客の、大切な人の死だけを見て、後ろだけを見て、前に進むと言う事にやっと気づけたドルだ。前に進むなら、未来が考えられる。あぁ、これは祝福すべき変化だ。


「分かった。ドルの気持ちは分かった。どうする?気持ちは伝えないと伝わらない。伝える事は出来る?」


「あぁ。腹は括った。過去を呑み込んでも、添い遂げる。俺が幸せにする。だから伝える」


 目が痛い程に貫いてくる。あぁ、人生の覚悟を決めた人間の目だ。私もリズの時、アストにきちんと見せられたかな?


「うん。伝えたら良い。でも一つだけお願いが有る。あの子はまだ、明確な自分が無い。何かに頼りたい子なんだ。だから早急な結果は求めないで欲しい。ゆっくりと相手をしてあげて欲しい。それがロッサの保護者を自任している私のドルへの願いかな」


「良いのか?」


「恋なんて落ちちゃえば、どうしようもないよ。もう先に進むか、諦めるか、二択だからね。どちらも大事な家族だから双方が幸せになれるなら良い。ただ、焦らないで。大切に育てて欲しい。それが今一番重要な事だと考える」


 自然と苦笑が浮かぶのが分かる。リズの気持ちに気付いた時なんて最悪だった。PTSDのど真ん中で気付くとか本気で有り得ない。それでも、ここまで来たんだ。ドルにも過去じゃ無く未来を見て欲しい。


「分かった。まずはこの気持ちを伝える。それがどんな結果になっても悔いは無い」


「うん。それで良いって話になったら、二人の将来を考えて。きちんとお互いの道筋を考えて。それが破綻していないなら、進めば良い。あの子はまだそこに不安が有る。ドルがきちんとそこを支えてあげてくれるなら歓迎だよ」


「ふぅ……。リーダーと言うのもきついな。こんな話の調整までしないといけないか」


 ドルも苦笑を浮かべる。


「家族っつったからね。皆、大事な家族だよ。まぁ、私がロッサを永久に支えてあげる事は出来ないからね。ドルが覚悟を決めたなら、応援する。だから、くれぐれもロッサを頼む。この通り」


 深く頭を下げる。出会いはとんでもなかったが、今となっては娘も一緒だ。それを託す相手になるかもしれない。礼は尽くす。


「頭を上げてくれ。俺が望んだ話だ。頭を下げられる話じゃない。こっちが下げる話だ。すまねぇ」


 ドルがそう言うと、両肩に熱い手の感触を感じた。


「まずは話だ。それからはきちんと考える。駄目なら駄目で。良ければ良いでだ。少なくともこの思いをこのままにしておくのは無理だ。だから、許してくれて、助かった。ありがとう」


 そう言って、肩を上げられる。目を見ると、穏やかな、その中に決まった固い心が見える。


「うん。そうして欲しい。ごめんね。この程度しか出来なくて」


「馬鹿言うな。こんなありがたい話が有るか。仲間内はご法度のパーティーなんてゴロゴロ有る」


 まぁ、普通は恋愛問題なんて抱えたいリーダーはいないわな。


「話は以上?」


「おう」


「んじゃ、戻って仕事の続きをしようか。頑張れドル。上手くいけば、人一人支えるんだ。根性入れないと、生きれんよ?」


「はっ。先達が言うなぁ。まぁ、心に留めておく。根性入れるさ。叶っても、砕けてもな」


 そう言いながら、窓を閉めて、家屋から出る。そうかドルがかぁ。ティアナが言っていたのがこれか。そういう意味では少しは心構えが出来てて助かった。ロットの時は捕食されただけだから楽だった。


 冬の空気は冷たいが、熱い心を感じて、心は温かくなった。はぁ、恋か。切ない思いだね。叶うと良いな。それでロッサが強くなれるなら、心に誰か大切な人を置けるのなら、あの話を進めよう。その大事な人を守る為の破魔の刃を授けないと。

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