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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第209話 危険を危険と報告して、危険と認識してくれる上司はありがたいです

 1月14日は曇っていて小雪がぱらついている。散歩日和を期待したが、ちょっと残念だ。時刻を見るとまだ朝日が昇る前だろう。

 タロのご飯の事を考えると自然と早く起きるようになった。日本にいる時より健康的だなと苦笑が浮かぶ。


 キッチンに置いてある、イノシシ肉を潰していく。もうあそこまで牙が生え揃えば、噛み砕けるだろうが念の為潰して、塊を別で残す形にする。


 部屋に戻ると、匂いに気付いたタロが目を覚まし、しっぽを振っている。目もぱちっと開けるようになり、視界もはっきりしてきたのだろう。こちらの乳鉢に視線が釘付けだ。

 待てと良しを繰り返し、あげていく。


『はふ、うまー、いのしし、きもちいい!!』


 塊が歯に当たり、そのまま噛み砕く快感を感じられるのだろう。もうそろそろ離乳食を卒業しても良いだろう。子犬なら1週間から10日程度だ。もうそろそろ時期だ。

 明日からは切り分けただけの肉を与えてどうかを確認しよう。そう思いながら、食べるに任せて与えていく。カロリーは厳密では無いが計算している。

 特にこの時分のカロリー量は気にする必要が有る。欲望を抑えられないので、過剰に食べ過ぎる可能性が高い。実際に必要量程度と見ていてもまだ足り無さそうな行動を取る。


『まま、もう、おわり?』


 存分に掌を舐め終わった後に、少しうるうるした瞳で見上げてくる。これは罠だ。巧妙な罠だ。

 わしゃわしゃわしゃわしゃと全身撫でまわしてあげると、きゃっきゃっと喜び、食事の事を忘れる。結局快感の持続を求めているだけなので、他の快感を与えれば忘れる。


『はー、はー、まま、もっと!!』


 もう、興奮し過ぎて息が荒いが、まだ遊び足りないらしい。昨日の大腿骨は処分したので、新しい大腿骨をチラっと見せる。


『ほね!?』


 もう、視覚と匂いで分かっているのだろう。一気に興奮の度合いが上がる。待てをしても、しっぽが動きを止めない。もう自覚出来ないくらい興奮しているのだろう。

 あまり放っておいても可哀想だし、教育に良く無いので箱の近くに軽く放り投げる。その放物線を目で追ったと思った瞬間、猛ダッシュで駆け寄り、食らいつく。


 もう噛みついて、ごろごろと転げまわる。かと思えば、はぐはぐと噛みながらしゃぶる。床中を縦横無尽に使って楽しんでいる。結構重いんだが、元気だなと思う。筋力トレーニングかな。


 昨日、少し無理をさせたリズを起こすかどうするか迷う。ちょっと調子に乗り過ぎた。朦朧としていたが、何とか眠ったところまでは確認した。


「リズ、起きられる?」


 耳元で(ささや)くと、軽く反応が有る。まぁ、花嫁修業だ。頑張ってもらおう。そのまま軽く揺する。焦点の合わない瞳が開く。


「んー。うにゃ?あー、ヒロ……。おはよう」


「おはよう、リズ。起きられる?」


「ん?うん……。あ!!そうだ、ヒロ!!昨日、あれだけ途中でもう無理って言ったのに、止めなかったよね!!」


 うん。覚醒したようだ。


「まぁ、まだまだ大丈夫そうだったから。気持ち良さそうだったし」


「いや、もう、無理って言ったら、無理。息出来ないし、途中でどうなるか、本気で怖かったんだよ!!」


「分かった、分かった。善処するよ。さぁ、朝の手伝いに行っておいで。出来れば早めに仕上げて欲しいな。子爵様に会いに行かないといけないから」


「もう!!それ、直す気の無い時の答えだ。はぁぁ、今度は無理矢理にでも止めるよ?」


 リズが立ち上がりながら、捨て台詞を残してキッチンに向かう。まぁ、素直に反省しておく。ちょっとやりすぎた。

 ふと足元を見ると、けしっけしっと言う感じで、端に噛みついて、逆サイドを後脚で蹴っているタロと目が合った。が、興味が無いように、すぐに骨を噛むのに夢中になる。


 まぁ、薄情と思うか独立心が育ってきたのを喜ぶか。何にせよ、タライにお湯を生み、昨夜の残滓を拭う。ある程度清めてから、新しい服に着替える。

 何というか、黒の上下に生成りのサーコート、生成りのマントか……。中二病罹患者の服装の色合いだな……。まぁ、傷みが少ないのがこの組み合わせなので、仕方が無いか。


 用意を終えて、キッチンに向かうと戦争状態だった。ティーシアが怒り、リズが言い訳を叫ぶ。あぁ、どこの世界も親子って変わらないのか。妹も結婚前はこんな感じだった。

 そう思いながら、次の開発対象を考える。ただ、この村で実行するかはちょっと疑問だ。後3か月もしない内に、出ていくと考えると効果が実感出来ない可能性が高い。

 んー。暖房器具の安いのを考えれば良いのか……。正直開発より、概念の伝達の方が効果が高そうだ……。カイロかぁ……。普通に煮炊きするなら、火は使う。その時に……。


 そんな事を考えていると、食事が出来たのかテーブルに並べられ始める。アストはもう出る支度は終えている。今日はリズが一緒じゃ無い事も確認済みだ。

 食事を終え、アストが出て行く。私も部屋に戻り槍を持ち、ノーウェの屋敷に向かう。タロ?骨と格闘中だった。若干骨がマウント気味で優勢だったが、タロの作戦か?良い蹴りは入っていた。


 屋敷に着き、何時もの流れで応接間に通される。立ちながら暫しの時を待つ。まぁ、上司相手なので待つくらいが丁度良い。そう思いながら、先程のカイロに関して考えていく。

 そう時が過ぎる事も無く、ドアがノックされる。


「おはようございます。ノーウェ様。御加減は大分よろしいようで。幸いに思います」


「おはよう。うん、大分楽になったよ。まぁ、心配の種は尽きないけどね」


 そう言って、席を勧められたので着席する。すぐさま、お茶が用意される。本当に、この用意含めての待ちなんだよなぁ。侍従ギルドの人に慣習をきちんと確認しよう。


「まずは今回のオークの件、本当に助かったよ。改めて礼を言う」


 そう言いながら、目礼される。上司に頭下げられるとか、怖い。


「いえ、非力ながらお役に立てたのであれば恐悦至極に御座います」


「君のそれは謙遜なのか嫌味なのか、時々疑問に思うよ。はは。でも、うちの騎士団長が命を助けられたのは事実だ。本人の証言だしね。あんな所で怪我でも、(あまつさ)え死なれでもしたら、大損害だった。それだけでも大殊勲だよ」


 ノーウェが大げさに肩を(すく)めて苦笑しながら話す。


「正直、向こうに少々作戦が有ろうが、400有れば十分と考えていたよ。実際、最後の局面は200超で囲んでいたんだ。それを突破して、最高指揮官を直接狙ってくる。どう思う?」


「間違い無く、オークの中に戦術が存在します。柵の構築もそうです。また兵の上下関係が見極められるだけの経験あるいは軍と言う概念が存在するのでしょう」


「やっぱりそう見るよね?こっちも同感だよ。糞投げてきたって?あれも戦術の内なの?」


「はい。明らかに重装を相手にする事を前提に装備していました。あれを面当てに投げられれば視界が塞がれます。そうなれば面当てを上げるか、一時撤退です。一旦の無力化としてはコストが安い良い作戦かと思います。また糞には体に悪い物が含まれています。それが傷から体内に入ると重篤(じゅうとく)な病気を引き起こします」


「そうかぁ……。今まで冒険者なんて、相手の大将を闇討ちして後は狩れるだけ狩って散らすだけ。その場は良いけど、その後が問題になるのが分かっていない。はぁぁ、そうやって対策を考えられているね。今までギルドが間に入るから、報告書と言う形でしか情報を得られなかったけど。今回こっちの軍と君と言う生の情報が入って分かったよ。オークは脅威だね」


 真剣な瞳、為政者の顔で呟く。


「はい。戦術と言う概念もそうですが、相手の首魁の能力は異常でした。あれだけの囲いを突破出来るだけの技術と度胸、そして力量。正直、私なんて直接当たれば鎧袖一触で打ち倒されます」


「君、魔術士でしょ?まぁ、報告でもそれは多くの兵が認識していたね。あの時君がいなければ間違い無く、失敗は無いけど手痛い損害は受けていたよ。未然に防げたのはほっとしたけど、結果論だからね。これもまた借りだよ……。まぁ今現金を渡されてもあれだろうから、領地に便宜を図る形で返すよ」


「いえ、有り難きお言葉です。また、戦術自体は長い経験の積み重ねです。それを取得するのはあの集団だけでは無理です。横で連携しているあるいは何かが仲介している可能性も考えられます」


 これが一番痛い。正直、連携していない組織なんて規模で潰せる。これが連携して有機的に動き出すと途端に厄介になる。10人と10人で100人分の結果を出したりし始める。


「だよねぇ。単純な兵力の差は400対130が最終の判断だよ。ただ、武器と防具を装備している相手でそれだけだったと言う話だから。もう少し実際の兵力差は有った筈だよ。それでここまで防衛されるとなると、魔物如きなんて考え方は出来ないね。こっちもギルドの報告を鵜呑みにしていた部分が有る。それは反省点だね」


 きちっと現実を見て切り替えてくれるか。本当に助かる。今回の成功で慢心でもされればきつい話だが、そんな事は無い。良かった、この人が上司で。


「はい。私の領地にも隣接して存在が確認されている以上、他人事では無いです。今後は脅威を前提として対策を取られるのが賢明かと考えます」


「都度根絶しないと、対策を練られるね。下手に手を出して散られるくらいなら、軍が出動するしか無いか……。それか冒険者側にそれだけの処理を求めるかだけど……」


「少なくとも、7等級程度の規模では無理です。集落を相手にするなら囲むだけの規模が必須になります。ギルドが主体になり集団を纏めて動くようにしなければ、逆効果です」


「うん。一時しのぎはそれで良いけど、どこかで逆転されちゃうね。その辺含めてあの組織を弄りたいけど、大義名分が無くなって手が出せないんだよね……。父上とも相談して奏上してもらうよ。出来れば利権だけある程度確保して実質の作業を投げ下してくれた方が助かるんだけどね。このままだと、変な形になりそうで危ないんだ」


 流石に国王相手では苦笑いしか浮かばないか。小物が邪魔をする。面倒臭い。


「分かりました。こちらも注意は怠らないよう致します。ご助言頂きありがとうございます」


「いや。こっちが助けてもらった方だ。この程度で悪いけど、ちょっと真剣に調整はするよ。町に戻ってしまえば父上ともある程度は連絡が取りやすい。ただ、今は王都なので面倒なんだけどね」


 そう言うと、軽く溜息を吐く。


「まぁ、これで面倒事は一旦片付いた。作業中の軍の撤収に合わせてこっちも町に戻るよ。また何か有ったら気軽に寄って欲しい。頼むね」


 その後は若干の談笑をしてお開きとなった。町に残してきた政務も有る。かなり面倒を抱える羽目になりそうなので、さっさと帰りたいのが本音らしい。まぁ、ここまで引き延ばしたのが私にも理由の一端が有るので何も言えない。


 にこやかに辞去し、屋敷の外に出ると、雪は止んでいた。厚かった雲はやや薄れ、かなり明るくはなってきている。良かった。散歩の日をずらそうかと思っていた。

 中々ゆっくりとリズと一緒に仕事以外で村を巡る事など無い。そう考えると楽しみになってきた。軽やかな気持ちで、家に戻る道を歩く。

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