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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第207話 犬って引っ張り合いっこが好きですよね

 1月13日は快晴。抜けるような青空が少し荒んでいた心を癒してくれる。周囲は軍関係者が慌ただしく走り回っている。私達は、お客さん扱いなのだが、出来る事を見つけては手伝っている。

 恐縮されようが、従軍依頼だ。軍の手伝いをするのは契約上当たり前だ。仲間も上げ膳据え膳状態に辟易(へきえき)としている。主に調理や荷物の積載などでちょこちょこ動いている。

 私?頑張って、正体不明の芋の皮を剥いている。これなんだろう。里芋なのかタロイモなのか。まぁ、同じサトイモ科の植物か。渡された包丁もきちんと研がれて手入れされている。

 軍の規律の順守、意欲の高さはこういう細かい所に如実に出る。包丁一本じゃない、包丁一本ですらだ。どうも、大鍋で根菜と芋と塩漬け肉でスープを作るらしい。

 給食室とかで見るサイズの鍋が並行で幾つもかき混ぜられている。まぁ、200人以上の人間の朝ご飯だ。こうなるわな……。その分量に圧倒されながら、芋を剥く。芋を入れるのは最後の方だ、溶けちゃう。


 しかし、ノーウェと官僚団は優秀だ。冬の寒い朝から、温かいご飯が食べられる。当たり前のようだが、その当たり前を実行するのは中々難しい。きちんと兵站が出来ているからだ。

 精兵(せいびょう)になるにもきちんとした理由がある。命を預けても良いと思えるだけの理由が無ければ、そうはならない。それが出来るんだから偉いわ。


 と言う訳で、芋の皮剥きから解放されて、注ぐ側に移行する。こっちはこっちで不公平感が出ないよう厳格に何をどれだけ注ぐのか決まっている。バランスを聞きながら、注いでいく。

 何か、英雄の注ぐ朝ご飯と言う事で、何故か並ぶ人間が多い。こっち来んな。配膳時間が偏る。散れ。本当にもう……。この世界の人間は本当に娯楽と言うか、そう言うのに弱い。


 最後に配給を貰い、仲間の所に向かう。皆も同じようなタイミングで解放されたのか湯気がもうもうと上がるスープを手に座っている。


「折角だし、頂こうか」


 そう言いながら、匙を入れる。うん。素朴だけど野菜の甘さが出ていて美味い。皆もニコニコしながら熱いスープを楽しんでいる。パンも即席の窯で焼いている。晩と朝分、後は残余200人の為とは言え、良くやる。

 柔らかな白い酸っぱくない小麦の香りのするパンを口に、スープを楽しむ。この世界に来て小麦のパンを食べる事は極端に減った。まぁ、黒パンも慣れれば美味い。だが、小麦のパンは官能的だ。


 はふはふとパンを食べながらスープを楽しみ、今後の予定を調整する。

 取り敢えず、戦争従事なんて非日常を経験したので、明日は完全休養に充てる。で、折角森の奥に簡易宿泊設備が出来たので見物と実際の使用感を確かめる。で、戻って完全休養辺りまでは決まった。

 話を聞いていると、町から村までの護衛依頼も有るようなので、そう言う短い距離から始められればと考える。タロの世話も、ちょっとこの時期が大事だ。


 食事と後片付けを終えて、装備を整え、出発する。規模が半分になったからと言っても精鋭200と斥候その他だ。危険のきの字も無く、森の入り口まで到着した。

 馬車に戻り、レイの出迎えを受ける。


「そのお顔でしたら、無事万事完了ですか。素晴らしいです」


 顔を綻ばせながら、レイが荷物の積み込みを手伝ってくれる。湯たんぽは、やはりかなり役に立ったらしい。冬の馬車だ。幾ら幌が有っても寒いものは寒い。喜んでもらえて良かった。


 騎士団長を見つけて、村に先に戻る旨を報告し戦争従事依頼の完了証明書を貰い、馬車に乗り込む。


「でも何故、明日を完全休養にしたのかしら。まだ半日も有るわよ?ある程度は休めるから大丈夫よ」


 ティアナが不思議そうに聞いてくる。


「ん。まぁ、ちょっと個人的に用が入ると見ているのと、儲けが結構貯まって来たから、偶には羽を伸ばしても良いんじゃないかなって」


 若干納得には遠いものの、理解はしてくれたようだ。用事?予想が正しければ、絶対に割り込んで来る筈だ。賭けても良い。


 馬車はするりと発車し、暫しの時で村に到着する。冒険者ギルド前に着けてもらう。

 そのままギルドに入り、完了証明書を受付に提出する。各員に100万ワールと7等級の達成数を30貰う。皆、護衛経験は有るので揃って7等級に上がった。リナも6等級の経験が有るので、6等級に上がった。


「遂に、一人前になっちゃったよ。と言うか、超早い。びっくりした」


 フィアが呆然と呟く。


「私も1,000万ワールを超えました、家を即金で買えるとは……。指揮個体戦の時は考えてもいなかったです」


 ロットが苦笑しながら言う。


「あの、私、こんなに良いんでしょうか……。7等級まであっと言う間でしたし、お金も……」


 ロッサがおろおろしている。


「某も遂に6等級で御座るか。ふふふ。上位冒険者の仲間入りで御座るな」


 リナは気持ちの良い笑顔で喜んでいる。

 まぁ、当初目標の男爵領移動までの7等級達成は果たせた。これで一人前の顔をして、冒険者を自領に誘致出来る。


 若干浮かれた気分を纏いながらの皆とギルド前で別れた。あぁ、アルコールは解禁しておいた。偶には憂さ晴らしも良いだろう。


 リズと一緒に昼ご飯を食べてから、家に戻る。ティーシアが嬉しそうに出迎えてくれた。


「湯たんぽ、良いわね。手放せないわ」


 タロの事とか聞きたい事は沢山有ったが、まずそこか……。どうも、二人してぬくぬくしていちゃいちゃしているらしい。若いな……。

 食事は済ませたと伝え、装備を外そうと思い、部屋に向かう。


 ドアを開けると、匂いに気付いていたのか、タロがひゃんひゃんとしっぽを千切れんばかりに振りながら、鳴いている。あ、嬉ションした……。

 取り急ぎ、装備類を仕舞っていく。リズはグリーブ等がちょっと面倒臭い。装備保管用のマネキンと言うか木組みを買ってくるべきか……。 


「じゃあ、お母さん手伝ってくるね」


 リズがそう良い、タロをわしゃわしゃしてから、部屋を出ていく。もうタロが陶酔状態だ。


『まま、まま、まま、まま!!』


 箱から出されたタロが結構な勢いで飛びついてくる。走る感覚も覚えたようだ。この時期の子狼は本当に成長が早い。少し目を離すとすぐに変わっている。

 マズルもかなり伸び、狼っぽさが出てきた。それでも差し出した掌をぺろぺろ舐めてくる様は子犬のようで愛くるしい。

 足元をくるくる走り回り、喜びを表現する。しゃがみ込み撫でようとすると、ころりと転がり、腹を出してくる。お腹をわしゃわしゃしてあげて、肉球をふにふにしてあげる。

 はっはっと荒い息でヘブン状態だ。


『まま、きもちいい、まま、まま』


 程々に肉球を揉み、抱き上げて、パタンと転がりお腹に乗せる。顔が近いのが嬉しいのかもう、ぺろぺろと舐めてくる。お返しに全身をわしゃわしゃしてあげる。

 口を開けると、牙がきちんと揃ってきている。これならもう少しで離乳食も卒業かな。指を差し入れていると甘噛みにはちょっと強く噛んできたので喉奥に少し指を差し入れる。


『人を強く噛んじゃ駄目』


 『馴致』で伝えると、喉奥に指を差し込まれるのを嫌がったのか、素直に力を加減して噛んでくる。甘噛みは習性なのでしょうがないが力加減は分からせないといけない。昔の躾でもこうやっていたなと懐かしくなった。

 もう、噛む訓練を始めても良いかな。


『お腹空いた?』


『おなか、すいた!!まま、いのしし?』


 イノシシ気に入ったな……。脂の甘さか。きちんと歯の手入れをしてあげないと虫歯は怖い。はしゃいでいるタロを箱に戻し、キッチンに向かうとティーシアが作業をしていた。


「今、お時間大丈夫ですか?」


 了承を貰い、いなかった間のタロの様子を確認した。食事に関しては結構離乳食にもごろごろと肉を混ぜ始めているっぽい。下痢は無く、便もしっかり出せるようになった。後、走るようになったらしい。

 生のイノシシの肉、それも脂肪が普通に入った肉を乳鉢で適度に磨り潰す。若干塊が残っている程度だ。後、新鮮なイノシシの大腿骨をもらう。ちょっと太いけどしっかりしているし、砕けて喉に刺さる事も無いだろう。


 部屋に戻り、タロの前にしゃがみ込む。匂いで分かっているのか涎を垂らしながらも、きちんと座って待っている。

 掌に匙で掬ったのを乗せて与えると、もう夢中で咥えて、はぐはぐ咀嚼する。


『まま、いのしし、うまい!!きもちいい!!』

 

 塊の感触が歯に当たって、快感になっているのだろう。もう少しごろごろさせても大丈夫かな、これなら。そう思いながら、残りの離乳食をあげていく。無くなっても掌をぺろぺろ舐めるのは相変わらずだ。

 食事が終わりまったりしている。床にぺたっと寝そべり、満足を表現している。まぁ、この状況ならそこまで興奮しないかな。


『タロが賢くお留守番していたから、ご褒美だよ』


 『馴致』で伝える。


『かしこく?おるすばん?ごほうび?』


 それぞれの意味を『馴致』で伝えながら、骨を差し出す。

 ふんふんと嗅いでいたが、イノシシの匂いと分かると、噛み始める。噛む快感とイノシシの香りと若干残った肉の味に、もうメロメロだ。


『おるすばん、する、いのしし、ごほうび!!うれしい!!』


 そんな快の思考を思いながら、夢中で骨にむしゃぶりつく。歯が折れないように無意識に調整しているのだろう。がじがじと噛んでいる。

 骨の端を摘み、そっと引っ張ってあげると、咥えたまま離さず、頭を左右に振る。歯が折れないように加減をしながら、引っ張ったり、離したりを繰り返す。

 犬って、引っ張り合いっこが大好きだよなと笑みが浮かぶ。可愛らしく唸りながら、頑張って引っ張ってくる。これも序列のパワーゲームにつながるので負けないように引っ張り返す。


『まま、たのしい、もっと!!』


 美味しくて、気持ち良くて、楽しいのだ。夢中にもなるだろう。そうやって、歯の刺激と遊びを交えてゆったりとした午後は過ぎていく。

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