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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第18話 神様がみてる……かみみて?

 正直、グレイブの正式な振り方なんて分からない。

 中学生の時剣道部だったが、その時に薙刀部が有ってそれをちょろっと見た程度だ。

 遊びですね当てを借り練習試合をした事は有るが、コテンパンだった。

 長柄の武器を回転させ切り付けると考えると、普通に竹刀で切りかかった方が早いと思っていたのだが。

 間合いが全く違うのに戸惑っている間に、遠心力の乗った一撃で竹刀を吹っ飛ばされた。斬撃の速い事、速い事。


 高校以降は部活にも入らずゲーム三昧だった。あのまま何か運動を続けていればこんなお腹にならなかったのに……。


「確か、半身で構えるんだったか」


 取り敢えず、正中線をイメージし振り被り、切る。胸元辺りで切っ先を止めようとするが腰の下まで落ちる。

 正直デスクワークのみで生きてきた身としては、筋力が圧倒的に足りない。30cm程度の鉈がこんなに重いとは。


 まずは体力と筋力を上げないとどうしようもないなと思い、米の字をイメージしながら素振りを続ける。

 スキルの影響なのか、徐々に握り込み方や取り回し方が分かってくる。ただ非常にお腹が邪魔だが。


 30分程素振りをしていると、腕がガクガクしてくる。握力もほぼ無い。圧倒的に運動不足だ。

 学生の頃は3時間くらい練習しててもバテなかったのに。メタボが憎い。


 『認識』先生で確認してみると、『槍術』0.18になっていた。ある程度素振りが出来るようになったが故に上がったのかなと。


 汗だくになったので、お湯を借りタオルで体を清めてからベッドに入る。

 今日はもう寝る。明日も頑張るので勘弁して下さい。


 今朝も、夜明けと共に目が覚める。アラーム要らずで有り難い。

 腕は若干怠いが握力は戻っている。だが、これは罠だ。

 歳を取ると筋肉痛は日を置いてから出る。


 朝ご飯は昨日の晩のメニューと同じだった。

 今日の予定などを皆と話している時にふと爺ちゃんの事を思い出した。

 農家兼業の猟師だったからか、兎に角信心深かった。イノシシやシカを狩る度に榊とお神酒をお供えしてた。

 生活費を稼ぐ当ても取り敢えず立った。神様も実在するようだし、一度参拝しておこうかと。


 この世界の宗教観を聞いてみると、一神教ではなく大らかな多神教との事。

 過去に現れたとされる神々がその権能毎に存在した為との事。

 明文化された歴史上では、1000年以上前から度々姿を現しているらしい。

 基本的には温厚だが神々毎に禁忌が有り、そこに触れると天罰が下るとの事。貨幣偽造の件が分かりやすい。

 教会及びその類似する宗教施設は布教を目的とするものではなく、実在する神に対しての感謝及び奉仕を主とするとの事。

 また、初等教育の場所でも有り、最低限の読み書きと算数を教えてくれるとの事。

 取り敢えず生きていけている事に関しての感謝とこの世界に来た事の報告くらいはしたいかな。


 アストとリザティアを見送り、ティーシアからお昼ご飯を預かり、教会に向かう。


 村の中で唯一、石壁で囲まれた建物だ。

 門を潜ると前庭が有り、石造りの平屋が建っていた。小規模な体育館くらいの大きさだろうか。

 緊急時の避難場所も兼ねているのかなと思いながら、扉を開く。

 中には神像等は無く、講堂のような内装だ。

 

 僧衣を着た初老の女性が声をかけてくる。


「初めまして。ようこそ教会へ。本日のご用件は何でしょうか?」


 穏やかな表情と口調で訊ねて来る。


「神様へ感謝の祈りを捧げに参りました。初めての為、作法をお教え頂けますか?」


 答えると、参拝の作法を教えてくれる。

 壇上に上がり、武器を手前に置く。両手を掲げ膝をつき目を閉じ祈るとの事。

 ここから最敬礼が来ているのかなと思いながら、壇上に向かう。

 グレイブもどきと鉈を手前に置き、両手を上げ、膝をつく。

 目を閉じ、感謝を告げようとした瞬間、


 <告。深刻なエラーが発生しました。不明なシステムが接続されました。カウンタ>


 『識者』先生が何時もと違いかなり慌てた口調で告げたと思った瞬間、ブツッと言う音と共に沈黙する。


「あははははははは。面白い、面白い、面白い、面白いよ」


 燕尾服にシルクハットを被った白髪の少年が、眼前の空中に座っていた。


「初めまして、初めましてだ、訪問者君。ようこそこの世界へ。私の名前はシェルエ。享楽を司る者だ」


 心底楽しそうに話しかけて来る少年。


「司る者?神様ですか?」


 驚きのあまり、何を言って良いのか分からない。


「そうとも。そうとも。そうとも。この世界の全てが、そう、全てが、我らを神と呼ぶ」


「訪問者と言うのは?」


「ふむ。ふむふむ。それを答えるのは吝かではないが、名乗りを上げたのだ。私が。神が。君の名は?」


 大分失礼な対応をしてしまった。


「失礼致しました。前川彰浩と申します」


「マエカワ、アキヒロ。アキヒロか。水紋の飾りを表すか。美しい。よろしい、以後告げるに相応しい。アキヒロ君」


 享楽を司るだけあってかなりエキサイトな神様だ。


「訪問者だったな。ふむ。君はこの世界が出来て初めて、そう初めてこの世界以外から訪れたお客様だ」


「初めて?お客様?」


「そう、そうとも。世界なぞ、数多有る。それぞれの世界を司る神がおり、それぞれの世界は独立しておる」


 うんうんと頷きながら、首を傾げる。


「あー……。概念の共有が面倒だな。少し知識を借りるぞ」


 シェルエが掌を私の頭に翳した瞬間、静電気のようなものを感じた。


「ふむ。ふむふむ。君達の考える世界、宇宙か。それは独立したネットワークにつながれたサーバだ。我々神は、サーバアプリケーション毎の管理権限の保有者となる。君達はサーバに接続された個々の端末と言う事だな。君はその閉じたネットワークを渡り、我々が管理するこのネットワークに接続して来た端末だ。面白かろう?」


 閉じたネットワークを渡るのであれば、物理的に接続するくらいしか方法は無いか?


「その際のログは残っていないのでしょうか?」


「あははははは。よろしい。通じるな。ログに関してだが、面白い事に改竄されている」


「誰が?何の為に?そもそもそんな権限を持つ者が存在するのですか?」


「サーバの構築には大変手間がかかる。大元の環境が構築された段階でイメージ化されている。各サーバには該当の環境が流し込まれている」


 あ、嫌な予感がして来た。


「個々のサーバは多様性を持たせる為、アプリケーションの構成が違う。ではその構成を行う者は?」


「administrator?」


「素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。そう、我ら神の上位概念である管理者だ」


「何故、その管理者が私をこの環境に接続したのでしょうか?」


「ふむ。ふむふむ。面白い事に、そこが分からん。改竄が確認された段階で連絡は取っているが、応答が無い」


 サービスの悪いサポートダイヤルか?


「環境を変えるなら新しいアプリケーションを立ち上げれば良いし、個人に何かをさせたければ端末を弄った方が早い。故に、故にだ。既に10万年を経て推移してきた、この環境に、君と言う訪問者が現れた。面白かろう」


 目的も分からないのに、拉致された人の気分がしてきた。


「後は、君の持つスキルだ。この環境のスキルアプリケーション上に存在しないスキルだ」


「『識者』、『認識』、『獲得』ですか?」


「うむ。うむうむ。その通り。今後の事を考えざっと説明してしまおう」


 指を一本立てる。


「『識者』は管理者権限で運用されているサポートシステムへの音声チャットだ」


 想像がつかない。今まで誰と話していたんだろう。


「ただ、条件付けの際に大分制限をかけているようだ。実際は君たちの言う森羅万象の遍く事象の認識及び提示が主目的の筈だ」


 指を二本立てる。


「『認識』に関しては、『識者』の持つ権限で提示可能な情報を可視化するブラウザと読み上げソフトだ」


 指を三本立てる。


「『獲得』はこの環境のスキルアプリケーションの中で取得に特化した管理権限だ」


 あの10分程度のやり取りでとんでもない物を押し付けられている。


「以上が君の持つスキルの説明となる。質問は有るかな?」


「聞いている限り、管理側が認識していない違法ソフトを使っている人間になるのでしょうか?そんな端末がネットワークに存在する事に問題は無いのでしょうか?」


「構わん。構わん。スキル自体はあくまで端末側のソフトで有り、サーバ側に深刻な影響を与える物ではない。既に管理側の我々が認識しているしな。我等神は、この環境をこの素晴らしき箱庭を愛しておる。環境の管理など舞台装置と変わらん。それを永きに渡り続けられるのは無償の愛なのだよ。その愛すべき、そう愛してやまない箱庭への初めての訪問者が君だ。我等神は、君の訪問を歓迎する」


 どうも歓迎されているらしい。そこだけは心底助かった。


「管理者の思惑は現状不明だが、我等神は君がこの環境で生きて行く事を望む。勿論帰還を望むのであれば、管理者側と調整しよう」

 

 帰還の手段が見えてきたのは朗報だ。だけど、


「帰還の際に、他の端末を連れて移動する事は可能でしょうか?」


 短い間とは言え、好意的に接してくれた相手だ。誤解とは言え、求婚までしている。責任は取るべきだろう。


「ふむ。うーむ……。それに関しては管理者次第としか言いようが無い。また我等の立場としては、愛すべきこの箱庭の住人は遍く愛してやまない対象なのだよ」


 神様としては、NOと言う事か。


「今後我等神は君を新たな住人として見守っておる。遍く神々がだ。基礎無き状況での生業は辛かろう。幾つかプレゼントを預かっておる」

 

 シェルエが改めて掌を私の頭に翳す。今度は仄かに暖かな何かを頭に感じる。


「現在『識者』のプロテクトを回避する為、君を一旦ネットワークから切り離し直接サーバに接続している状態だ。私が去れば、自ずと分かる」


 周りを見渡すとあらゆる物が微動だにしていなかった。


「私の権能が享楽でな。降臨したとなれば影響が大きい。享楽とはその輝かしい刹那を楽しむもの。永き享楽など無粋なものよ」


 取り敢えず、元の祈りのポーズに戻る。


「幸有れ。幸有れ。幸有れ。新たな住人よ。またの出会いを楽しみにしておる。さらばだ」


 シェルエが消えた。瞬間ブツッと言う音が改めて頭の中で鳴る。


 <告。再接続を確認しました。深刻なエラーは復旧しました。不明なシステムの接続ログの確認を行います。…………確認完了。不明なシステムは接続されていません。正常な動作が確認されました。>


 『識者』先生が帰ってきた。


 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。『祈祷』1.00、『術式制御』1.00、『属性制御(風)』1.00。該当スキルを統合しました。>


 『獲得』先生の文言がちょっと違う。これがプレゼントか。


 取り敢えず、立ち上がり武器を背負い直す。

 得た情報が多すぎて、お腹がいっぱいだ。少し休みながら、咀嚼しよう。

 僧衣の女性に声をかけ教会を出る。


「彼女か、帰還か、か……。帰還に関してもまだ確定じゃないしな」


 取り敢えず、TODOリストに追加。


 [ ]『祈祷』、『術式制御』、『属性制御(風)』の確認


 さて、一休みするか。

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