表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
208/810

第205話 相手が人型の場合、どんなに覚悟しても殺すのは辛い時が有ります

 1月12日の朝は快晴。雲一つ無い青空だ。距離的に今日の昼過ぎにはオークの集落にぶつかる。予定では夕方前には終わる。

 配給の食事を受け取り、皆で作戦を練って行く。基本は集団で盾持ちを前面に押し出して、私とチャット、ロッサで狙撃して潰して回る形になるだろう。

 ロットやティアナは兎に角、隠れた弓兵など不測の事態を潰すのに専念してもらう。その程度の柔らかめの作戦で話をまとめた。あまり固く決めると柔軟性に欠ける。人数の少なさを利用して臨機応変だ。


 こちらも自分の地図に経路を記載しながら、軍の後に付いていく。オークがいるのが分かっているので近づかなかった空白地帯だ。少しずつ地図が埋まる。


「ここいらは獲物が濃いで御座るな。ほれ、そこにも熊のテリトリーの爪痕が有るで御座るよ」


 リナがロッサを誘導し、指さす。ロッサも納得いったのかうんうん頷いている。まぁ、そのくらい余裕な方が良い。私?人類との殺し合いだ。心は深く沈んでいる。はぁぁ、きつい。こればかりはどうしようもない。

 昼前だろうか、全体が大休止に入る。軍の接近に気付いたのか、斥候が迎えに出てくれたらしい。森の空いたスペースの藪を刈り、臨時の作戦会議場所にする。天幕を張る時間も惜しい。


「集落から出て行く対象は斥候で始末しております。ただ、手練れと見られる者も多く、その辺りはご留意を」


 現地で張り付いていた斥候が報告を進めていく。少なくとも、集落外に出ているオークはいないと言う見解だ。ただ、年末より前に出て行った対象までは把握出来ないので最悪取りこぼしは出るかもしれない。

 ただ、その程度の数なら、再度増える事も無いので一旦問題からは除外する。ただ、始末したオークが戻らないのを不審に思い警戒するだけの知能が有ればちょっと厄介かもしれない。


 集落の内訳だが、見ている限りは戦士や兵士とみられる集団が予想以上に多い。それらが猟師を兼業でやっているようだ。100と見ていたが、120から130近くかも知れない。後は雌や子供と行ったところだ。

 村の長的立場の者がおり、一際豪華な天幕に住んでいるらしいが、姿は見た事が無いとの事だ。


 圧倒的にこちらの兵力が多い為、静かに取り囲み、徐々に接近して、合図に合わせて斉射。重装部隊を突入させて、周囲を包囲してやや螺旋状に内側に殲滅させていく流れだ。

 斉射後の突入までに反応が早い場合は取りこぼしが出る。これを私達や後詰の兵が討っていく。その辺りの詳細を詰めて、作戦会議は終了となった。


 大休止が終わり、兵達が緩やかに静かに進軍を始める。斥候が見張っていると言っても、もうオーク側のテリトリーだ。静かに周囲に小隊単位で散っていく。

 暫くして集落が見えてきたが、簡易的と言うにはしっかりとした(さく)で周囲が守られている。違和感が胸にちくっと刺激を与える。これ、魔物ってレベルじゃ無い。防衛の意思が有る……。


 進言するか如何(どう)かを迷っている間に、騎士団長の合図で鐘が鳴らされて、弓兵の矢が曲射で斉射される。竪穴式住居を皮で覆ったような建物に次々と貫通して行く。村の中から怒号が飛び交う。

 重装兵達は四方から、鈍器持ちが柵を破壊し接近しようとするが、予想以上にしっかりと出来ており、破壊に手間取っている。これ下手に破壊次第侵入すると各個撃破の的だ。大分考えを改める必要が有る。


 騎士団長も様子を見て判断したのか、弓兵を前に出して、曲射を続けさせる。兎に角、侵入部隊への援護として敵の足を止める狙いのようだ。重装兵も柵を破壊した段階で一旦足を止めて、他の小隊のフォローに回っている。


 その間に、オークの怒号は組織立ったものに変わり、集落の中心部に声が集まって行くのが分かる。

 現状集落を鶴翼の翼が取り囲んでいる状況だが、相手は魚鱗に固まり、一点突破包囲網をこじ開けて逃げる算段の可能性が高い。周囲は森だ。追撃は容易では無い。

 くそ、上位の等級の人間は毎回夜襲か何かで殲滅したんだろう。これきちんと知能の有る相手の戦術だ。状況によっては相手が突破を狙う場所にフォローに入る必要が有る。


 徐々に柵が破壊されて、防壁の傷は広がっている。十分になった所に兵が入り込み、集落内で隊列を組み始める。


 その隙を突いて、オーク側が集落全体で中央付近にまとまり、一気に門の方に駆け出している。中央の派手な装束のオークが女子供に囲まれ、それを守りながら指揮を出している様子が見える。

 弓兵の曲射も、皮を被せた木の盾を頭上に掲げ、ほとんど影響を及ぼさない状況になっている。これ、『警戒』持ちが兵の接近に気付いて、先に報告上げていたな……。そうじゃ無きゃこんなに素早い対応は不可能だ。


 門側には厚めに布陣しているが、同数程度か少し多いくらいだ。ぶつかり合ったら、取りこぼす。


「門側のフォローに入らないと、逃がす羽目になる。ごめん、手伝って」


 仲間達に向かい指示を出しながら、前進する。騎士団長は、各部隊を門側に移動させている。柵の中に入った部隊は薄い包囲網を作り、『警戒』持ちの斥候を索敵に用いる。各建物を制圧しながら範囲を狭めている。


 オークが門に到達し、大きく開いた瞬間、爆炎が騎士団の方向へ飛んで来る。必死で盾を構えるが何人かは爆風に吹き飛ばされ熱にやられている。魔術士までいるのか……。人類だし、当たり前か。


 包囲網の綻びにまとまったオークの集団が攻め入って来る。腰にぶら下げた桶に手を突っ込むと、周囲の騎士の面当てに投げつける。投げつけられた騎士は、おろおろと後退していく。

 近付くと臭いで分かったが、あれ、泥と糞を混ぜた物だ。面当てにぶつけられると視界が遮られる。面当てを上げた騎士には鉄の穂先の槍で顔を狙い鋭い突きを放ち、牽制を繰り返す。

 そうやって綻びを拡大させて、どんどんとオークの集団を集落外に誘導させている。


 くそ、私も嘗めていた。ゲームの知識でそこまで頭が良くない敵なんて、どこかで思い込んでいたかも知れない。こいつら普通に人間より厄介だ。

 オーク側からも弓の射撃が飛ぶようになってきた。決死隊の狩人が村落の中から撃ってきているのだろう。ここまで覚悟を決めて対応してくるのか!?


「リーダー矢は守るから大丈夫。3人で数削って」


 フィアが盾隊を代表して叫ぶ。


 ロッサが、弓に矢をつがえ、外側のオーク目がけて撃つ。狙い(あやま)たずオークの首元に刺さり、崩れ落ちる。チャットも露出している顔を狙い盾の隙間から様子を見ながら石弾を飛ばしている。

 私も、外側に展開しているオークの喉に最低限の風魔術を飛ばし、爆散させて行く。ただ、数が多い。逃げようと動き出すのを優先しているが、ぼろぼろと包囲網が溢している。

 それをオークの弓兵が援護するので始末に負えない。


 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『殺人』0.24『片手剣術』0.38。該当スキルを譲渡されました。>


 うわぁ、何か嫌なスキルが手に入った。歴戦の猛者っぽい傷だらけのを倒した瞬間だった。くそ、人間沢山殺してたんだろうな……。


 騎士団側も流石に馬鹿では無いので、騎士団長が騎士長、騎士に伝令を出し、一気に大回りに門側に人を集結させて大きな包囲を作り直した。後ろからは柵から入り込んだ部隊が厚く取り囲む。

 後ろからの部隊がオークの弓兵を見つけ出しては、潰して行く。


 門を挟んで包囲網が徐々に形成される。追い込まれたオーク側は固まり、盾を押し出しながらじりじりと前進して来る。その隙間から槍を突き出して牽制して来る。

 ただ、戦況がここまで固まると覆せない。チャットが目的を叫んだ後に、強風をオークの足元にぶち当てて、盾を浮かせる。その隙に騎士団の重装槍兵が突進し突いて戻る。それに呼応して魔術士達が火魔術や風魔術でオークの防御を崩し、少しずつ出血を強いる。


 ロッサも(ほころ)んだ盾の隙を狙い矢を放つ。私も、目に見える足元などを爆散させて、盾隊を潰して行く。向こうも慣れたのか、落ちた盾を拾い、盾に完全に隠れるようにしながら、長柄を振り回す。


 そんな攻防が続き、30分も経っただろうか、完全に戦況が傾いたと思った瞬間、派手な装束を纏ったオークが猛々しい咆哮を上げて包囲網の真ん中から飛び出し、騎士団長の方へ向かってくる。

 ここで、特攻かよ!?

 良く見ると、鉄製の鎧に派手な色を塗っている。ほぼフルプレートだ。顔にも厳つい面当てを着けている。見た感じ、悪鬼と言うイメージぴったりだ。鉄製のグレイブを構え真っ直ぐに突進して来る。

 首元にはチェーン等の防御が無く、露出している。虚しさを感じながら、その隙間を狙って風魔術を行使する。次の瞬間、オークの首魁の首元が爆散し、面当てが空に舞い上がる。その顔は精悍で、猛々しくも沈痛な面持ちで倒れて行く。その後に、カランと小さな音を立てて面当てが地面に転がる。


 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『薙刀術』1.16『カリスマ』0.88。該当スキルを譲渡されました。>

 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『剛力』0.39『勇猛』0.56『軽業』0.72。該当スキルを統合しました。>


 <告。『薙刀術』『軽業』が1.00を超過しました。>


 『獲得』先生の言葉が虚しく耳を抜ける。きっと、グレイブの名手で力強く、精緻で勇敢な戦士だったのだろう。また、皆に慕われていたのだろうな……。


 首魁を倒されたオークの集団は一気に瓦解して戦士達が削り取られて行く。後は戦えない女子供の集団だ。その断末魔の悲痛な叫び声を聞きながら、心は重く沈んで行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価を頂きまして、ありがとうございます。孤独な作品作成の中で皆様の思いが指針となり、モチベーション維持となっております。これからも末永いお付き合いのほど宜しくお願い申し上げます。 twitterでつぶやいて下さる方もいらっしゃるのでアカウント(@n0885dc)を作りました。もしよろしければそちらでもコンタクトして下さい。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ