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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第199話 コソコソしている時に限って携帯が鳴って驚く瞬間とか有りませんか?

 1月8日は薄曇り。雨の心配は無さそうだ。ただ風は冷たい。太陽が出ないとがくっと気温が下がる。様子を見ていた窓を閉める。

 タロは早起きなのか、もう起きて立つ練習を始めている。結構立っている時間も伸びている。相変わらず転がると楽しいのかきゃっきゃ思っている。


 ティーシアに聞いていた鳥の胸肉を磨り潰し、乳を湯煎する。


『タロ、おなか、すいた?』


『まま、おなか、すいた、おいしいの、ある?』


 離乳食は新鮮で気に入ったようだ。口の周りに塗り付け、乳を与える。牙も少しずつ伸びているのか、力一杯吸われるとちょっとちくっと痛い。母狼もそろそろ授乳を嫌がる時期だろう。

 乳を飲み終え、ぺろぺろと離乳食を食べ始める。目じりが下がっているので、喜んでいるのだろう。追加でもう少し塗る。塗った途端舐めて行く。


『うまー、うまー』


 程々で済ませる。便の調子を見てみたが明らかに臭いは変わった。懸念していた下痢は無い。若干固くなった印象か。端切れを代えておく。洗濯はお湯と石鹸でさっさと終わらせる。物干しに結びつけていると、太陽もそこそこ昇って来た。

 

 ティーシアに怒られるのを見るのもあれなので、リズを起こす事にする。耳たぶを軽く噛んでみるが、起きない。耳の穴に温かい吐息を吹き込んでみる。

 ばっと上体を上げ、耳を庇う。


「え!?何!?ヒロ!!何かした!!何かした!!」


「起きないと、ティーシアさんの雷がまた落ちるよ」


「は!!起きる。ヒロ、んー」


 リズが唇を突き出してくる。そのまま首元を腕でロックして、口内を蹂躙する。少し抵抗したが、すぐに大人しくなる。離れる時、ちゅぽんって音がした。


「こ、こんなに激しいのじゃ無い、何かずるい!!」


「さぁ、朝ご飯の準備に行っておいで」


「むー、行ってくる」


 そう言って、キッチンに向かう。

 私は邪魔するのは悪いので、タロの立つ姿を見守る。


 立ち上がり、ぷるぷるする。歩こうと足を上げると、バランスが崩れ、転がる。うん。立つのはほとんど大丈夫そうだ。後は歩くまでの一歩だな。


『タロ、立てて、偉いね』


『えらい?えらい!!まま、うれしい』


 喜びながら尻尾を振る。撫でてやると伏せと言うか、四肢をだらんとした状態で尻尾だけぱたぱたしている。


 朝ご飯の準備もそろそろかなと立ち上がると、少し足りない感じの思いが伝わって来た。


『まま、いくの?』


 留守にすると言うのが理解出来て来たようだ。ふむ。頭が良いのも良し悪しだな。


『ごはん、とってくるよ』


『まま、ごはん、とってくる、えらい』


 何か褒められた。あぁ、可愛いなと再度頭を撫でて、キッチンに向かう。


 朝ご飯の準備が出来ていたので、皆で食べる。アストはそのまま出て行き、私はリズと一緒に準備をする。


 ギルド前では、皆が集合している。受付に日程報告を伝え、そのまま馬車に乗り込む。並行での狩りが上手くいかなかったとしても、今日は本日中に帰還すると言う方針だ。


 昼前までに一気に奥の川まで進み、地図で合流点の再確認を行う。ティアナが完全に地図に関しては覚えてくれたので問題は無いと考える。

 ロット班はリナの先導で、先に進み始めた。こちらは、ロッサが痕跡を調査中だ。


「有りました。これが大きいです。3mは超えていると見ますが、昨日の大きいの程では無いです」


 それに合わせて、ロッサの先導で進む。藪の切り分けは3人で行う。痕跡を注意深く探り先に進んで行く。見る部分が多岐にわたっているのはリナの薫陶だろう。

 1時間程進むとロッサの『警戒』に熊が引っかかったようだ。


「いました。釣ってきます」


 そう言うロッサを手で押さえる。熊の釣りも結構危険だ。遠くから音を出して興味を惹き、少しずつ引っ張り込んで行く。最接近したら姿を現し礫などで威嚇し、引っ張って走って逃げる。

 事故でも起きれば、死人が出る。ロットは慣れているのも有り任せていたが、ロッサに任せるのはちょっと怖い。


「一緒に行って、そこで倒してしまおう」


 そう言って、ロッサ先導で熊に向かう。藪を静かに掻き分けて、先に進む。こちらの『警戒』にも入った。じりじりと近づき、熊の姿が見えるポイントを探す。

 やや開けた部分で歩いていた熊を発見した。


「魔術で倒す。下がっていて」


 呟くようにそう言って、注意しながら先に進む。


 <告。『警戒』が1.00を超過しました。>


 ぶほ……。緊張しているところにこれか……。びっくりした……。

 『警戒』の範囲は後で探る。今は熊だ。『隠身』を駆使して、見つからないように、鼻先の方に進んで行く。最接近した藪をそっと開けて、熊の頭を視認する。

 シミュレーターで風魔術を頭蓋内部で爆散する形で組み上げて実行する。熊が大きく震え、痙攣をびくっびくっと繰り返した後、沈黙する。


 2人の元に戻り、倒した旨を伝える。

 そのまま、ロッサは『警戒』で周囲の確認を、私達は熊を引き摺って川に移動する。が、重い……。3m超えだ。リズは『剛力』が上がって、元々の腕力も有る為、結構軽々引っ張っている。

 私は『剛力』が有っても元々の腕力が低い為、重い物は重い。渾身の力で引き摺って行く。あぁ、腕が抜けそうだ、そんな弱音を吐こうとした瞬間だった。


 <告。『剛力』が1.00を超過しました。>


 そう言われた瞬間、今までの重さが嘘のように軽くなった。なんじゃこりゃ。1.00の壁を超えた瞬間変わり過ぎだ。普通にリズと二人でずりずりと川まで運んだが、全然平気だった。

 これ、後でネスの所でインゴットの塊か何かで調査しよう。

 リナに教わった通り、さっさと内臓を捌き、川に沈める。


 手持無沙汰なのもあれなので、2人には狩りに出てもらう。私は薪拾いだ。しばらくすると、がやがやと声が聞こえてきた。薪を持って戻ると、皆が大物を引き摺って来る。成功だ。


「いやぁ、チャットの魔術で体勢が崩れたら、後はもう殴り放題。僕が手を出す暇もなかった」


 苦笑しながらフィアが言う。

 リナは手早く熊を捌いていく。ティアナも覚えたのか少しずつその手伝いをする。内臓周りを綺麗に取り出し、ズタ袋に詰める。後は同じく川に沈める。


「思ったより上手くいったわね」


 感心したようにティアナが呟く。


「こっちは魔術が有るから早いしね。見つければすぐだし」


 そう答えると、リナが興味を持ったようだ。


「某が見た所、捌いた跡以外には傷も御座らん。どのような魔術ならこのような倒し方が出来るので御座ろうか?」


 そう聞かれたので、その辺りの木に指先程度の穴で侵入し、内部を爆散させるイメージで風魔術を放つ。

 ボっと言う木を抜ける瞬間の音とバジリっと言う内部が圧縮され割れた隙間から空気が漏れ出る音が同時に聞こえる。


「指を入れて触ってみて」


 そう言うと、リナが木の穴に指を突っ込み驚愕の表情を浮かべる。


「中の方が大きな穴になって御座る……。これは、頭蓋を砕かれたか?」


「そう。一番手っ取り早いから」


「なるほど……。これならば3人と言うのも頷けるで御座るよ」


 納得いったのか、リナがうんうんと頷く。


「さぁ、冷やしている間に、昼ご飯食べちゃおう。採取組と薪拾い頑張ろう」


 そう言うと、皆動き出す。私も今まで集めた薪に足りない分を探し始める。

 薪を集め終わり、焚火を作ると、狩り組がウズラっぽいのを結構な数撃って来た。やっぱりこいつら群れているのか?


「足が遅いから、見つけると撃ちやすいのよ」


 リズが言うとロッサが頷く。ふむ。また鳥団子にでもするか。捌いている姿を見てそう思った。

 採取組も続々と帰って来る。一番遅かったリナが立派な山芋を掘り出して来たのに驚いた。


「蔓が枯れているのを見てもしやと思ったで御座るが、案の定」


 他にも葉野菜なども有る。ちょっと時間はかかるが鳥スープで良いか。大鍋でガラを煮込み始める。

 多人数用と思って買ったけど、もう2人も増えたらもっと大きいのに変えないといけないか……。


 山芋は皮を剥き、半分はすり、半分は小さめの賽の目に切って行く。葉野菜は、ざく切りだ。

 捌かれたうずらもどきから、順にすり鉢で潰して行く。最後に山芋と合わせて、小麦粉を混ぜる。そこに残りの山芋を投入しざっくり混ぜる。


 スープはまだ、澄んだ感じだが、香りは出始めているので、骨を取り除き、肉団子を匙で丸く投入していく。半ばまで浮いたところで野菜を入れる。


 団子達がぷかぷか全て浮いたところで香草を入れて味見をする。おふ、唐辛子系のスパイシーなのが混じっていた。気付かなかったが、まぁ、この程度ならアクセントか。ドルとは違うのだよ、ドルとは。

 塩で味を調え、最後に小麦粉でとろみを付ける。もう、野外のスープにとろみは欠かせない。


 全員にカップを出してもらい、注いでいく。


「さて、初めての試みの二班同時熊討伐も無事成功しました」


 そう言うと、皆が歓声を上げる。


「これも新しい仲間リナの参入による所が大きいです。これからも大事な仲間として一緒に歩めればと思います」


 そう言うとリナが照れたように頭を掻く。


「温かい内に。では、食べましょう」


 とろっとしたスープを口に含む。ガラのエキスが出切った訳では無いが肉団子から十分うまみは出ている。噛んだ瞬間の肉汁と山芋のふんわり、そしてほこほこが美味い。

 野菜もしゃきしゃきしており、ふんわりとの対比で口が気持ち良い。


「しかし、昨日も思ったで御座るが、ここの食事は本当に贅沢で御座るな。いや、文句では御座らんぞ?ただただ、美味い。幸せで御座る!!」


 太陽のようににっこり笑い、リナが叫ぶ。

 それを聞き、皆頷きながら、笑い合う。


 年始も過ぎ、日に日に寒くなって行く冬の空の下、温かな湯気に囲まれ、不思議な縁で結ばれた仲間が同じ料理を口にして美味しいと感じる。その事自体が奇跡だなと、思った。

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