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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第194話 雨の後の山登りで何度滑って転んだか、記憶に無いです

「かなり荒れています……。きっとテリトリーに軍が入り込んで、それぞれの熊が影響し合っているんだと思います」


 木に付けられた深い爪痕をロッサが指差す。


 そうか、森の生活の中では多数の人間が入り込む事なんてあまり無いイベントだし、それが何らかの影響を与えてもおかしくは無い。


 そうして、今まであまり進んだ事の無い経路を進みだす。北東方面はオークの集落が有る為、近づかないようにしている。

 しかし、痕跡を辿るとそちら方面だ。あまり奥に行くようなら、止めようと考える。


 しばらく前進しては痕跡を発見するの繰り返しで先に進む。


「こちらですね……」


 足跡を見つけたのか、ロッサが地面に這いながら、頭を上げる。

 そこからやや進むと、ロットが反応する。周辺で簡易陣地を探し、ロットは釣りに走る。


 また、藪を切り開き、攻防可能な範囲を作っていく。足元は若干ぬかるみ、踏ん張りが効きにくい。前衛はきつそうだ。

 そう思っていると、ロッサがロットの戻って来るのを感じ、ドルの微調整を始める。ティアナも続いて感知する。

 私が関知する頃には、真っ直ぐロットが走って来る。藪を腕で押し開き、ロットが現れる。


「後方15m、そこそこ大物です」


 叫びながら、後方に抜けていく。ドルが盾の杭を操作する。


 すぐ後に熊が藪から出現する。ドルがそれに対して盾を叩き込む。ただ、角度が甘かったのか、ドルの右方向に若干ズレて熊が前に出る。


「チャット牽制、押し戻せ」


 このままだと、チャットの方に抜ける。危険を感じて、即座に指示を出す。チャットも、もしもを考えて、魔術の準備はしていた。

 即座に熊の前脚の辺りの下方から爆風が吹き荒れて、上体が起こされる。それに合わせて、ドルが再度前面に回り込み、鼻っ面に盾を叩き込む。

 盾の後に腕が回り込む大物だ。ドルも漫然とその場に立っておらず、やや後方に下がりつつも盾を叩き込んで行く。しかし、ぬかるむのか、腰が入っていない腕での打撃が目立つ。

 熊も前方の圧力が弱いので、後に回り込んだリズとフィアに脅威を感じて、振り向きざまの攻撃を加える。あぁ、これはかなり厄介なパターンだな……。

 私も、槍で首元を狙うが足元が滑って、刺さる程の一撃を放てない。ただ、熊が首元への攻撃を嫌がったのか、前方に注意が戻ったのはありがたい。


「ドル、腰入れて。盾で圧力かけて」


 ドルが腰を低くして、盾の圧力を強める。先程のように腕では無く体ごと鼻っ面に叩き込んでいる。やっと熊が怯み始めた。苛立ちとも怒りとも付かない咆哮を上げる。

 後ろに回り込んでいる2人が圧力から解放されて攻撃を開始する。リズはガントレットの重さ分、より鋭い打撃を放つ。フィアは『敏捷』が上がった分、流麗な剣捌きで的確に関節部分を狙う。

 下手に尻に斬撃を加えない限りは最高級品だ。フィアも休みの間、訓練を欠かさなかったのだろう。ますますその剣捌きは冴えている。


 熊が後方の攻撃に苛立ち、振り向きざまの攻撃を放とうとした時に、ドルの牽制のメイスが、前脚の肩口に綺麗に叩き込まれた。痛みに悲鳴を上げ、再度前方に注意を向ける。

 下がっては出て盾を叩き込むドルに熊が翻弄される内に、フィアが後脚の腱を切り裂く。後ろ斜めに上体が傾ぐも何とか堪えて、ドルに前薙ぎを加えようとするが、盾ではじき返されて、傷口を広げる。

 リズとフィアは場所を入れ替え、フィアがまた傷を作り、リズが動かせなくなった後脚を完全に壊そうと打撃を加える。前方に集中させる為に私も兎に角、ドルが盾を引くのに合わせて、槍を鼻っ面に突き出す。

 こうなると、熊は前を処理しないと、後への対処が出来なくなる。圧力を上げるにしても、後脚の踏ん張りが効かない。もう、上体を上げて立つ事も出来ない。

 短い咆哮を繰り返しながら、コンパクトに前脚を薙いでくるが(ことごと)くをドルに弾かれて、バランスを崩される要因に使われている。そうしている内に逆の後脚の腱も切れたようだ。体勢が後方に傾ぐ。

 悲鳴交じりの咆哮を上げるが、もう、どうしようもない。ドルが少し距離を取り、頭のど真ん中にメイスをぶち込む。2発程で頭蓋が割れたのか、ばたりと倒れ込み、痙攣を起こす。

 体長で3mちょっと、大物だった。


「ふぅぅ……。終わった……かな?一瞬、後に抜かれかけた時はどうしようかと思ったよ」


「すまん。足元が悪くて保持が甘かった」


 ドルが恥じるように謝って来る。


「いや、責めていないよ。ただ、やっぱり天候って怖いね。注意していても、全然足りない。まだまだ皆が色々勉強しないといけないね」


 そう言うと、戻って来た斥候職含めて皆が頷く。うん、向上心が有って素晴らしい。良いチームに出来る。

 血抜きを急ぎ、川まで元の道を戻る。まだ日は有るが、今日の狩りはここまでだろう。これから探して狩っていると、夕方を超える。冬は日が短くて、そう言う部分もきつい。

 血抜きを終えた熊を川に沈め、野営の準備を始める。薪も今日一日で若干は乾燥している。十分に炎を上げた後は、煙地獄からは解放されそうだ。


 採取組が野草を、狩猟組が鳥を持って帰る。時間がそこまで早くないので、鳥ガラは出せるところまでスープを出すのに使う。葉野菜と鳥団子のスープ辺りかな。

 手早く鳥を捌いてくれたので、荷車に積んでいるすり鉢を取り出し、細かい軟骨ごと、香草と一緒に磨り潰して行く。このゴロゴロした軟骨もアクセントだ。

 一部の根菜も刻んで混ぜ込む。最後に小麦粉を混ぜて、つなぎにする。


 テントの準備も終え、皆焚火で体を温めながら、休みの話で盛り上がっている。やはりロッサの着せ替え人形話が一番盛り上がる。本人は恥ずかしいのか終止紅潮したまま俯いていたが。

 町では幾つか、パーティー活動用の道具も買って来てくれた。ランタンも後4つ程追加で購入してくれている。これで、夜の移動でもそこそこ戦える。目標がきちんと見えるなら魔術で対処を考えられる。手数を増やせる事がありがたい。

 皆、失敗を重ねて少しずつ成長しているなぁと純粋に感心した。


 日暮れ辺りでガラからも良い香りが上がり始めたので、匙で大きめに丸めた肉団子を投入していく。ぽちょんぽちょんと飛び込む度に、ガラ出汁の香りが辺りに広まる。


 くぅっと可愛い音がする。フィアが恥ずかし気に頭を掻いている。皆でははっと笑ってしまった。食いしん坊は相変わらずだ。『敏捷』分、他の人間より運動量が多いのも原因だろうけど。


 肉団子も煮えて浮いてくる。最後に刻んだ香草を入れ、一煮たち。スープの味を確認し、塩で調整して、小麦粉を溶いて、とろみをつける。


 カップに分けて行き、皆で車座になる。


「久々の戦いと言う事で、ちょっと危ない部分も有りましたが、無事今日の狩りも終了しました。皆のお蔭です。では、食べましょう」


 そう言うと、スープを口に含む。鳥の出汁のうまみと口を火傷しそうなとろみが舌の上を踊る。肉団子を噛むと、鳥の脂と肉汁がぶしゅっと飛沫を上げる。まだまだ鳥の脂が乗っている。

 脂の甘みと、香草の香りが合わさって、美味しい。優しく温かい。冬の寒さの中では一番ありがたい味だ。


 周囲もニコニコと食べ進める。リズと二人も幸せだが、仲間とこうやって囲んで食事が出来るのも幸せだ。ただ、フィアが食べ過ぎて、動けなくなるのはどうかと思う。


「見た感じ、そうでも無かったのに、食べると結構大きくて、調子に乗ったー。超苦しい。かー、リーダーの夕食久々だから油断したー」


 鳥団子を大きめに作っているのに、がっつくからそうなる。私のようにぽっこりお腹になっても知らんぞ。ロットがいるから良いのか?

 他の面子も苦笑している。まぁ、今日は夜の番じゃないので、多めに見て大丈夫だろう。ゆっくり消化して欲しい。


 今日は余裕をもって野営に入ったので、後片付けの後も談笑が続いている。ロッサも大分雰囲気に馴染んできた。一緒に町に行ったのが良い方向に出ている。

 成人したと言う、自覚も有るのだろう。このまま行けば、私の保護者役もお役御免だ。


 微笑ましい気分で皆を眺めていると、珍しく、リズが肩に頭を乗せて甘えてきた。パーティー活動中はあまり表に出さないのにと振り向こうとすると、リズが口を開く。


「良いパーティーだね。ヒロっぽいよ」


 コミュ障の人間に言う台詞じゃ無いなとは思いながら苦笑が浮かぶ。私が何かしたと言うより、皆がそれぞれ居心地の良い場所を作ろうとした結果だ。私は何もしていない。


「私じゃないよ。皆が凄いんだよ」


 そう答えて、空いている手で頭を撫でる。


 1月5日は寒い中でもそんな温かな雰囲気をまといながらゆっくりと過ぎて行った。

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