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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第191話 出来る上司に報告をすると、打てば響きます

「タロ楽しそう?」


 戻って来たリズが問う。


「うん。何か、喜んでいる。歩く感覚が気持ち良いのかも」


「ふーん。私もやってみる」


 そう言うので、リズにそっと手渡す。タロもごはんをくれる相手なので、特に嫌がりもしない。


「うわー、ちょこちょこしている。可愛いね」


 とことこと歩かせながら、ぱあっと明るい満面の笑みを浮かべる。

 少し遊んでいると、満足したのか四肢をだらんとさせて、腹這いを求める。


『まま、おなか、すいた』


「リズ、お腹空いたって」


「ん。湯煎お願い出来るかな?」


「分かったよ」


 乳の用意をして、リズにあげさせる。私ばかりじゃ無くてリズも保護者と印象付ける必要が有る。

 余程お腹が空いたのか、必死で吸い付いている。


「かなり吸い付く力も強くなっている。大きくなっているんだね」


 リズが感心したように呟く。そのまま吸い終わり、転がると、運動の疲れなのか、うとりうとりとし始める。


「寝るみたい。箱に戻してあげて」


 そう言うと、リズが毛皮を掻き分けて、空間を作る。そこにぽすっとタロを入れて、毛皮を被せる。


「何時になったら、目を見せてくれるんだろうね」


「大体2週間くらいかな。まだもうちょっと先だよ」


 そう言うと、リズがベッドに横になる。


「ヒロが激しくするから、何か眠い」


「気持ち良さそうにしているから、ずっと続けたのに、ちょっと酷いよ、それ」


「嘘。すっごく気持ち良かった。でも、へとへとになったのは本当。あんな状況が2時間も3時間も続くなんて思わなかった。フィア凄いね。私、途中で意識失いそうだった」


「まぁ、そこは個々人の違いだと思うよ。少し寝る?昨日も遅かったし」


 もう今にも寝そうに、うつらうつらしている。


「うん。ちょっと、もう、無理。寝るね。おやすみ……」


 そう言いながら、瞼が落ちていく。そっと口付けて、外に出る準備をする。昨日のノーウェの件を片づけないといけない。


 家を出て、ノーウェの屋敷に向かう。


 屋敷の前の門衛に用向きを伝えると、駆け足で、玄関を叩き、何時もの執事が顔を出す。そのまま誘導されて、応接間に通される。まぁ、先触れも無く非礼なんだけど、許されるのが怖い。


 暫し待つと、ドアがノックされる。ノーウェが前よりはましな顔色で満面の笑みで現れる。


「お忙しいところ、失礼致します。お体のご様子も良いようで安心致しました。本日はお時間頂き、ありがとうございます」


「あぁ、大分楽になったよ。主犯が押さえられたのが大きい。それに借りているトランプとチェスだっけ?あれは良いね。心が落ち着くよ」


 そう言うと、ソファーに座る。後を追い、自席に座る。と同時にお茶を出された。丁度一休みのタイミングだったか。


「それで、今日はどうしたの?また新しい遊戯を考えたの?もう、楽しみで眠れないよ」


「それは、テスト中です。今日は仕事の件でご相談が1件有ります」


「冗談で聞いたけど、本当にもう作っているのかい?君、本当にどんな頭をしているんだろうね……。まぁ良いや。それは楽しみに取っておく。仕事って?」


「先日、北の森の深部に入った時なのですが……」


 まぁ、まずは先日の失敗談の顛末を説明して行く。

 その上で、今後ダイアウルフ等を狩るに当たって、深部での中央拠点の必要性を提示した。地図と合わせて、ざっくりとした企画書も書いてある。

 企画書を渡した上で、プレゼンを進めていく。要は、前回オークを倒した辺りに広めの空き地が有るので、そこに小屋と柵を作ろうと言うのが趣旨だ。

 その小屋を拠点に、奥側に入り込んで行けば、消耗も少なく、小屋で休む事により野営より効率も上がると言う事だ。


「ふーむ。今後のダイアウルフの狩りを見越しての提案だね。冒険者の視点と言うのが無かったから、新鮮だ。一考の価値は有るね」


「はい。私も深部への侵入は初めてでしたが、やはり痛い目に遭いました。中継地点が有ればより深部攻略が活発化する物と愚考致します」


「んー。やっぱり、こっちの考えが、ばれているのかな?」


「オークションの結果を見る限り、国内の貴族、豪商、軍関係者にダイアウルフが行き渡らない限り値崩れは起きません。その上、他国も熱望しています。狩り尽さない程度に狩らなければノーウェ様に有らぬ嫌疑をかける輩が出ないとも限りません」


「そうなんだよね。別にうちで独占している訳でも無いのに、小雀がピーチクパーチクうるさいんだよね。4人小屋3つに周囲の柵か……。5等級辺りまで見越しているのかな?」


「そうですね。私達も8等級としては異例に多い構成です。森に入るパーティーはギルドで把握出来ますので、深部に行く場合は拠点が使える旨を知らしてやれば、それを作ったノーウェ様の威光も高まるでしょう」


「うちの庭だからね。うーん。君の領地の件が話に出た時点で(きこり)の数は増やして、建材、薪炭材は増産させている。建材の問題は無い。今回のオーク討伐で工兵も参加する。先に森に慣らせる意味で工兵と護衛で作らせるのも面白いか……」


「冒険者が雨露を凌ぎ、夜の番をするのもかなりの労力です。今後を考えれば、ここで手を打つのも一興かと愚考致します」


「現役の冒険者の言葉だから重みが違うね。軍でもそこは常に問題だから。正直、領地が潤うのは良いけど有望な投資先って無いんだよね。どうせ自分の領地だし、ここで使っちゃうのも良いかな」


「では?」


「最新のオーク討伐の軍計画草案が出てきた。日付は1月11日村出立で確定。それまでに、拠点は作っちゃおう。その規模なら工兵隊で3日有れば完成させられるしね。こっちも森中行軍のノウハウが入るから助かる。うん。良い話を持って来てくれた。これ、進めるよ」


「ありがとうございます」


「いやいや、ありがたいのはこっちだよ。冒険者ギルドなんて提案すら出さなかったしね。今日中に編成して3日に出立、4日から作業で6日に完成、7日に村に戻る計算かな。予備を2日取っても9日か。11日出立なら最低完全休養が2日有るから士気は保てるね」


 ノーウェが私の描いた地図を指差しながら日程を洗っていく。戦闘団と工兵団は被っている。要は今回の兵力の多くをこの拠点作りに従事させるつもりだ。

 輸送も小型の荷車の設計書はカビア経由でノーウェに渡っている。特許も申請済みだ。


 これだけの人数で対処すれば、日程の狂いも無いだろう。戦闘団も、もう村の近くまで進軍して来ているそうだ。今日の夕方には全軍が集結する。

 このまま行けば、私達が村を出た後でも、この拠点を利用して北の森深部の狩りが活発化する。村への恩返しも兼ねている。


「よし、決裁だ。企画書はこっちの官僚団で書き直させるよ。基本はこの方針で進める。不測の場合は改めて相談だね」


「助かります」


「いやいや。こっちの都合だよ?教えてもらったのをそのまま実行しているだけだからね。また借りの話だよ。本当に参るね」


 ノーウェが苦笑いを浮かべる。


「しかし、これも君達が出ていった後を見越しての提案だよね。ちょっと考えすぎだよ。ありがたいけど、申し訳無いね」


「いえ。ノーウェ様のお庭です。問題を残したまま去るなど子としての沽券に関わります」


「あは。相変わらず固いねぇ。うん。じゃあ、その方針で。ちなみに、これからの予定は?」


「特には有りません」


「じゃあ、何局かお相手願おうか」


 ノーウェがそう言うと、執事がチェスを一式テーブルにそっと置く。


「分かりました」


 その後は談笑しながら、ノーウェのチェスの相手をしていく。ただ、執事が横で棋譜らしきものをメモしているのが異常に気になる。

 そのレベルで研究されると、私なんかすぐに追い越していくだろう。


「棋譜まで書かれて研究ですか?」


「あぁ、あれ?うん。色々戦術は見えてきた。リバーシじゃまだまだ勝てないけど、軍の戦術も応用出来るからこっちは得意かな」


 そう言いながら、鋭い一手を打ち込んでくる。うわぁ、政務放り出して研究していないか、これ?

 四苦八苦しながら打っていく。正直、チェスはそこまで詳しくない。定石を幾つか覚えただけだ。


「ポーンを前に。チェックです」


「あー。このクィーンか……。布石がきついね。何手先くらい読んでいるの?」


「お教え出来ません。それをお教えすると、それ以上を読むおつもりでしょう?」


「あは。それもそうか。うん。楽しかったよ。有意義な時間だった」


 そんな感じで辞去し、昼過ぎに屋敷を出た。

 さて、家に戻ってお昼ご飯が有るか……。まだだったら、家で食べよう。無ければ外で食べれば良いや。

 そう思い、家に向かう。


 家に入ると、ティーシアがキッチンで家事をしていた。挨拶をすると溜息が返って来た。


「あの子、あのまま寝続けているの。昼はまだだけど、もし良かったら、外で食べてくる?」


 ティーシア一人なら、有り物で済ませるようだ。


 部屋に戻ると、出た時と同じ状態で、寝ている娘さんがいた。

 頬をつんつんと突いてみる。手で払われる。耳に息を吹きかけてみる。


「ひゃぅ!?何!!あ、ヒロ!!何かした!!びっくりした!!」


「騒ぐと、タロ起きるよ?」


 タロはぐっすりおねむだ。


「えーと、今は?」


「もう、昼過ぎ。ティーシアさんが外で食べておいでって」


「うわー。寝過ぎた。でも、ちょっと楽になった」


 リズが肩を回しながら、感想を述べる。


「結構寝たね。夜大丈夫?」


「うん。夜は夜で寝られるよ」


 若いって良いな。おじさん、昼寝しすぎると、夜寝れないよ?


「じゃあ、食べに行こうか」


 そう言いながら、食堂に2人で向かう。

 今日は鳥のソテーだったので、それを2つ注文する。

 昨夜の出来事を話しながら、舌鼓を打つ。


「でも、途中で意識無くなりそうだった。ずるい。ヒロだけ余裕有るし」


 ちょっと上目遣いで睨んでくる。


「まぁ、そんなものだよ」


「体が、自分じゃ無いみたいに動くし……。ちょっと怖かったよ?」


 ぷーっと口を膨らませて、文句を言う。ちょっとリスみたいで可愛い。


「慣れるよ、大丈夫」


 笑いながら、答える。あぁ、こんな会話が出来る間柄になったんだな。

 ちょっと面映ゆい気分と誇らしい気分を綯交(ないま)ぜになって感じる。


 そんな事を小声でひそひそと話しながら、食事を進めていく。

 食べ終わり、また家に戻る。タロが起きて食事をせがむので、湯煎の用意だけしてリズに任せる。

 そろそろタロもリズに完全に慣れてきた。


 私は庭で槍の訓練だ。護衛の旅から帰って、最近忙しく体が動かせていない。


 雪の残った庭の上で、滑る事も計算に入れながら、槍を振るい続ける。

 鮮烈な空気の中で、白い息を吐きながら、無心で槍を振るう。

 

 どれ程の時間が経っただろう、腕がパンパンで槍を保持する事も出来なくなった。

 時計で見ると、1時間ちょっとと、伸びたけど微々たるもので凹む。


 しょうがないので、大風を上空に発生させたり、石の奇妙なオブジェを作ったりして、魔術の練習を始めた。

 いや、ミロのヴィーナスのつもりだったけど、良く分からない何かになった……。


 尚も凹みながらも、延々過剰帰還が来るか来ないか辺りに調整しながら、練習を繰り返す。


 そんな感じで訓練を続けていると、徐々に空が赤く染まり始める。

 アストが帰って来たのを見つけ、一緒に家に入る。寒さに慣れたのか、家に入った瞬間むっと熱気を感じた。


 ティーシアも食事の準備を済ませており、リズを呼んで夕ご飯となった。寒さに慣れた体にとろみのついたシチューが染みる。


 お風呂の準備を済ませ、部屋に戻ると飽きずにリズがタロを見ていた。


「何か変化が有った?」


「うん。昼から見ていたけど。ちょっと、頑張ってる」


 見てみると、四肢を踏ん張ってぷるぷると立ち上がっている。ほんの刹那だが立ち上がって、ころりんと転がる。首を傾げて不思議そうな表情をした後、ひゃんひゃん鳴く。


『たつ?』


 どうも、立ちたいようだ。まだ、ちょっと早いかな。四肢の筋肉が足りていない。ただ、この訓練を繰り返し、筋肉を付けていくのだろう。

 日中構っていなかった分、抱き上げてベッドの上でわしゃわしゃにしてあげる。もう、何に喜んでいるのか自身でも分からないくらいに喜んでいた。


 わしゃわしゃしているのにも理由が有る。毛を掻き分けて、皮膚炎が出来ていないか確認しているのだ。普通生まれたての犬の子をお風呂に浸ける事は無い。

 油分が落ち過ぎて炎症が起きていないかチェックしている。取り敢えずは大丈夫そうだ。


 ティーシア、リズとお風呂に入って行く。どうも石鹸の香料の匂いでお風呂に入っている匂いが分かるらしく次は自分の番なのかと尻尾をふりふり確認して来る。


『タロは次だよ』


『つぎ?つぎ!!つぎ!!』


 意味は分かっていないだろうが、繰り返す。子供が発音するのではなく、思考するだけなのでスポンジのように単語を吸い込んで行く。『馴致』の面白い点はここなのだろう。


 リズが湯上りの何とも言えない妖艶な上気した顔で、部屋に入って来る。


「上がったよ」


「タロ、今日も浸けてみる?」


「うん、そうする!!」


 どうも、リズも気に入ったようだ。


『つぎ!!』


 タロも興奮しながらひゃんひゃん鳴く。


 タライにお湯を生み、中に浸けてあげるが、ちょっと浅くなっている。石板を薄めに作り直して、嵌め代える。あぁ、大きくなっている。


『はふー、つぎー、ぬくいー』


 へにゃとした顔で縁に顎を乗せて、リズに洗われるままになっている。もう、リラックスして漏らす事も無い。その辺りも成長なのだろう。


「この時、何とも言えない顔してる。可愛いね」


「リズも同じような顔して浸かっているよ?」


「え?」


 そう言うと、リズが複雑そうな顔でこちらを向く。いや、垂れたあいつみたいな顔で樽に浸かっているけど……。


 体を洗いきる頃には、気持ち良さで寝てしまっている。

 相変わらずだらんと弛緩した体を布で拭う。


「リズ、後は頼める?」


「うん、大丈夫」


 そう言って、部屋に戻る。


 樽にお湯を生み、洗ってから、浸かる。はぁぁ……。遂にしちゃったか……。離婚してから久々で色々頑張ってしまった。失神間際まではやり過ぎたか?

 それにノーウェとの話し合いも無事進んで良かった。あの森を守ると明確な意思が無ければ、そんな所に予算を充てる判断は出来ない。やはり、先を見ている。有能な上司と仕事をするのは楽しい。

 後は、それに恥じないだけの実績を生まなければ、信用への裏切りだ。そこは頑張ろう。


 そんな感じで今日を振り返り、樽から出て、後片づけをする。


 部屋に戻ると、寝ているタロを眺めながら、リズが床で寝そべっている。あぁ、敷物が欲しいな。リズがその内風邪を引きそうだ。ティーシアが毎日、(ほうき)()いているので清潔は清潔だが。 


「何を見ているの?」


「ちょっとずつ顔が変わるんだなって思って。狼になっていってる」


 そう、徐々にだが、マズルが伸びている。顎の成長と並行して牙も伸びている。もう、歯肉を突き破りそうになっている歯も有る。


「狼だからね。やはり狼になるよ」


「んー。小さい方が可愛いなぁ……」


 リズが少し寂しそうに言う。


「うん。でも大きくなってもタロはタロだよ。大事に育てていこう」


「分かった。うん、それはそう。大事に育てる」


 こちらを振り向き、笑いながらも、真剣な目で見てくる。うん、大丈夫かな?


 少し冷えた体を抱き上げて、ベッドに放り出す。きゃっと言う声を上げるが聞かない。


「ほら、冷えちゃってる。おいで」


 布団に潜り込み、リズを抱きしめる。風呂上がりの体に、冷えた肌が心地良い。


「温かい……。んー。何だか、抱きしめられると、照れる……」


 何時に無く赤い顔をしたリズが答える。額を触ってみるが熱くは無い。


「照れ屋さんになったの?」


「ヒロの所為だね」


 そう言いながら、強く抱き合う。甘く爽やかな匂いを胸いっぱいに感じながら、眠りに落ちていった。


 1月2日は残った雪を溶かしながらも、吹き付ける強い風が窓を強く叩きながらも平和に終わっていった。

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