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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第187話 新年の挨拶も大切ですが、初詣にも行きます

 1月1日は小雪が舞う朝だった。積もる感じでは無い。空気はシンと冷えて、背筋が伸びる思いだ。

 ティーシアが朝の準備をしようとしていたが、少し待ってもらった。


 昨日の残りの鴨肉を薄く切って行く。煮込み用の葉野菜をざく切りにしていく。太いネギも有ったのでそれも使う。根野菜も彩に入れる。


「あら?朝から豪勢ね」


「アストさんも折角の休みですから、朝から温かい汁物も良いかと思いまして」


 広い鍋に水を張り、昆布を入れる。

 薪に火を点けて、沸騰させていく。


「その黒っぽい板は何なのかしら」


「海の植物です。乾燥させて、スープの美味しさの元にします」


「あぁ、海まで行くって言ってたわね。へぇぇ。そんなので、美味しくなるのね」


「優しい味が出ますよ」


 徐々に昆布の鍋も沸騰して来る。大きく沸騰する前に、昆布を引き抜く。あぁ、醤油が有れば佃煮に出来るのに、勿体無い。

 昆布出汁に、鴨の肉を投入する。結構な量だ。鴨から出て来る油と灰汁を掬い捨てていく。

 周りの色が変わってきた辺りで、野菜を順に投入する。


 周囲に昆布出汁の優しい香りが漂い、お腹を刺激する。ぐつぐつと野菜に有る程度火が通った所でスープの味見をする。うん。昆布のうまみに鴨のうまみ、野菜の甘みが溶け出している。


 匂いに惹かれたのか、テーブルにはリズとアストがもう着いている。


「ヒロ、凄く良い匂い。朝もヒロなの?」


「昨日の鴨が結構残っていたから、一気に使おうかなって」


 テーブルの鍋敷きに鍋を置く。大きなお玉みたいな匙を突っ込み、皆には深めの小皿を渡す。


「味は各自で好みの塩の量を調整して下さい」


 そう言うと、アストが朝ご飯の挨拶を始める。各自が小皿によそう。

 アストが何もかけず、スープを一口すする。


「これは……。塩味も無いのに、複雑な味だな。鴨の脂の甘みだけでは無い……。……口が心地良いな」


 軽く、塩を塗し、口にするとまた違った味に驚いたのか、パクパクと食べ始める。


「あら、あれだけの食材なのに、贅沢なお味ね。昨日のお蕎麦?も美味しかったけど、こっちは優しくて、本当に幾らでも食べられるわね」


 ティーシアもにこにこしながら、食べていく。


「あ、これ昨日より海の香りが強い。でも、嫌な臭いはしないね。海の時は偶にちょっと生臭い感じが有ったけど、これは美味しい。野菜が沢山食べられるのも良いね」


 リズも肉を摘まみながらそう言う。野菜はどこに行った。


 様子を眺めながら、私もよそい、味見をする。鴨も火が通り過ぎず、適度な弾力と肉汁、脂をじゅわっと溢れさせる。日本でこれだけの鴨を入れるなんて贅沢で出来ないな。

 野菜も昆布のうまみと鴨の脂を程良く吸い、何とも甘く美味い。塩だけでも十分だな。


 朝から、皆お腹いっぱいになるまで食べてしまった。最後にスイトンを投入すると、スープまで飲み干したのだから、そりゃお腹いっぱいにもなる。


「これは、動けんな」


 アストがのろのろと床にへたりこむ。


「家事は少し休んでからね」


 ティーシアも結構食べていた。スイトンは後で来る。もう少しの間は動けないだろう。

 リズ?もう、諦めて、ベッドに転がりに行った。二度寝しないと良いけど。


 部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ、ぽっこりお腹の娘さんがいた。


「食べ過ぎた?」


「何か、幾らでも食べられるから、食べていたら、こうなった。不覚……」


 まぁ、鍋なんてあっさりしているから幾らでも食べられる。罠だけどね。


「お昼まで休む?」


 起きていたタロを抱き上げ、首元をくすぐりながら聞く?


「うーん……。ちょっと休まないと動けない……」


 じゃあ、私は動こうかな。年始だから神様にも挨拶をしたいし、ネスにも挨拶かな?


「私は少し出て来るね。タロはお願い出来る?」


「ヒロ、何でそんなに普通に動けるの?タロは面倒見るよ」


「鍋料理は慣れているから。皆、美味しいからって食べ過ぎだよ」


 苦笑で答える。タロをくすぐり倒してぴくぴくさせる。ひゃんひゃん嬉しそうに鳴いているが、ちょっと過呼吸気味だ。この子は本当に大物だ。

 箱に戻すと、もぞもぞと毛皮に潜り込み、方向転換して頭を出す。こちらにひゃんと鳴く。


『まま、いく?』


 少し寂しそうな思いが伝わって来る。


『お仕事で少し出るよ。ご飯はリズとティーシアから貰ってね』


『りず?てーしあ?うー、まま』


 流石に細かい名前まではまだ覚えられないか。


『そこにいるままにご飯は貰ってね』


『まま、ままにもらう』


 喜びの感情が伝わる。ふむ。乳を貰える相手は識別しているな。大丈夫だろう。


「じゃあ、行ってくるね、リズも程々に休みなよ」


「いってらっしゃい」


 リズがふりふりと寝転がりながら、手を振る。


 家を出て、教会に向かう。まぁ、新年と言えば初詣だろう。


 教会に入り、壇上に上がる。新年と言っても通常運転だ。月月火水木金金の世界だ。

 武器を眼前に置き、最敬礼を取る。


 昨年は本当にお世話になりました。死ぬ事も無く、こうやってご挨拶できるのは皆様の温かい思いのお蔭です。どうもありがとうございました。今年もよろしくお願い致します。


『ははははは。これが年始の挨拶か!!悪くない、悪くないな。今年も是非楽しましてくれたまえ。本年もよろしく』


 あぁ、これはシェルエかな?


『あけましておめでとー。ちゃんと子供も作ってよー?楽しみにしてるんだから』


 このキンキン声はヴァーダか。


『態々、挨拶か。ふむ。新鮮ではあるな。今年もよろしく頼む』


 これは、アレクトアだな。


『ふふ。律儀ね……。でも、嬉しいわ。今年もよろしくね』


 ディシアか。相変わらず、疲労が滲んでいる。


『今年は忙しくなるぞ。心して頑張るが良いのじゃ。まぁ、程々にな。今年もよろしく頼むのじゃ』


 ディアニーヌか。今年はお世話になるだろう。


『なんや、新年の挨拶かいな。律儀やなぁ。まあ、あんじょうがんばりや。体には気ぃつけるんやで』


 レタニアステか。心配してもらって申し訳無いな。


『あ……あけまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします……』


 これはパニアシモかな?やっぱり、ちょっとおどおどしている。


『あけましておめでとうございます。これから色々とお仕事で絡む事も有ります。よろしくお願いします』


 テルフェメテシアかな?相変わらず固いなぁ。


 後は何だか祈祷の先が、がやがやしている。


『あけましておめでとう。本年もよろしく』


 大合唱が聞こえる。どんだけ神様いるんだろう。苦笑が零れる。


 しかし、神様から直接言葉を賜る初詣って贅沢だな。槍を手に取り、杭を腰に差し直す。


 さて次は冒険者ギルドかな。あぁ、面倒くさい。憂鬱だ。

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