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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第179話 何でも宣伝に変えてしまうのはコマーシャルの見過ぎでしょうか?

 包みを解く。中から出てきたのはトランプ2種類と自作の謎の石製チェスだ。本物のトランプは後で回収する。焼き印製だけ置いて帰る。そうしないと皆に怒られる。


「ほぉ。これは……。2種類の遊戯かい?君、結構忙しく動き回っているよね?報告を聞いても、遊んでいる暇なんて何処にも無いけど、どうやって考えているんだい?」


「その辺りは隙間時間を工夫して、でしょうか?まぁ、折角ですのでご覧下さい。後、今回の遊戯は人数が必要ですので、使用人の方も御一緒に説明を聞いて頂ければと考えます」


 そう言うと、ノーウェが執事に目配せをする。そのままドアを開けて出て行く。誰か呼びに行ったのかな。


「ふーん……。この木札は13種類の4つのマークかぁ。あぁ芸術ギルド云々言っていたのは、この所為かな?」


 ノーウェが本物のトランプの方を広げて眺め始めた。大事には扱っているが、頻度が高い為、少し傷が付いているがまぁ見せるだけだから、許してもらおう。


「そうですね。そちらは試作で仲間と調整中の物です。富裕層向けにはそちらを受注生産してと考えております。絵札の英雄に関しても、お客様や国によっても変わります。何でしたら、御当主の肖像等を入れられましたら、宣伝にもなります。娘様の顔を描いて贈答と同時に紹介と言うのも乙かと思います。その為の絵師です」


「はぁぁぁ。君、本当にそう言う所、抜け目が無いよね。贈答品に肖像を入れて顔を売るか……。娘の顔を売りたいなんて話はやっぱり有るしね。一生物の記念かぁ。良く考えているよ……。あぁ、やっぱり紋章は入れるのかい?」


 焼き印の方を確認し始める。


「そうですね。裏はその形式で考えております。表の焼き印のそちらは一般層向けの量産品となります。偽造防止は必要ですが、流石にロスティー様に差し上げる品でも無い物に略式紋章とは言えお使いするのは憚られましたので。今回はサンプルとして私の略式紋章で代用致しました」


「これも宣伝だよね?はぁぁ。父上、泣くよ?そんな薄情かって。あぁ、こっちで許可出すから公爵の略式紋章の無制限使用を許可するよ。父上も文句は言わないよ。後で書面も用意するね。君だったら悪用なんてしないでしょ。管理不行き届きの場合でもこっちの諜報部隊使って良いよ」


 ぶっ……。それ、会社の取締役の認め印を係長が勝手に押し放題な世界だけど、良いの?意味分からん。


「過分な御対応頂き、恐縮です。管理は徹底するよう致します」


「固い、固いよ。本当に君は相変わらずだ。はは。しかし、これを受注生産となると結構大きな事業だよね。芸術系の人材なんて余ってるし、その辺の雇用も気にしてた?君、本当に見る所、違うよね。ありがたいけど、申し訳無いかな」


「いえ、少しでも王都、王家の安寧をと思い、非才ながら知恵を絞りました」


「君が非才なら、世の貴族は皆、家畜だよ。しかし、どうする?君の領地だとちょっと受注も納品も不便だよね?」


「出来ればそこは、国土の中央に位置されております、ノーウェ様にお願いしたく考えます」


 そう、この町、国土全体で見た時にはかなり中央に位置している。西側に王都が有るから混乱するけど、今後『リザティア』が発展すると文化の中心はノーウェの町になる。それだけ東側に余地が有ると言う話でもあるけど。


「はは。これ、君の領地が発展したら、うちって勝手に潤うよね?はぁ、気を遣うのも良いけど、程々にしないと疲れちゃうよ?でも、本当にありがとう。嬉しいよ。うん、受注、生産、販売はこっちが原価で持つよ」


 言わなくても分かるから、凄いよな、この人。きちんと地図を俯瞰して考えている。為政者なんて皆、こうやって考えているんだな。


「では、本式の方は、受注生産でその度毎の価格設定で行きましょう。量産品の方は、一式5万程度で考えております」


「んー。何が出来るか分らないけど、5万は原価じゃ無いのかな?ん、皆来たかな。では説明をお願い出来るかな」


「畏まりました」


 気付くと使用人含めて、結構な数が揃っている。

 リズの時と同じく、大富豪や神経衰弱、ポーカー、ババ抜き、ページワン、ブラックジャック等色々ルールを教えながら遊んで行く。


 どれも新鮮だったのか、使用人含めて興奮の渦だ。本当にこの世界、娯楽が無いなとしみじみと思う。


「はぁ、こんな木札一つで良くもこれだけ遊べるね。どんな頭で考えているのか開いてみたくなったよ」


 流石にそれは止めて欲しい。まぁ、過去の地球の人間がそれだけ洗練させたと言う事だ。


 ブラックジャックにはあのみすぼらしいチップで対価のやり取りをしている。


「君、このチップ、1枚幾らで考えているの?」


「千、万、10万でしょうか」


「はは。10万ならこの短時間で約2,800万の売り上げか。娯楽室なんて言うから元が取れるのか心配したけどやるねぇ。これも、そこの為に開発したでしょ?」


 少々大人げ無く毟り取り過ぎた。


「少々遊んで頂き、夢を味わって頂く程度です。大きく勝たれたお客様はそのまま祝勝会と言う形で別室に誘導致しますし、大きく負けそうなお客様はその前に別の遊戯に誘導致します」


「ふぅん……。いや、成功は疑っていなかったが、確信に保証が付いた気分だ。良いよ、大いにやろう。これなら、遊戯場だけでもやっていけそうだね」


 公営カジノか。それはちょっと先かな。


「そこは洗練された対応とセットで初めて、快適な空間となります。遊戯と賭けだけでは殺伐としますよ?」


「はは。それもそうか。まぁ、あまり酷い事をすると、神様に目をつけられそうだね」


「はい。その辺りはしっかりと聞きました。あまり酷いと首を締めるそうです」


「君だから、本当に聞いたんだろうね。肝に銘ずるよ。はは」


 ノーウェが苦笑する。まぁ、ギルドでの出来事も有る。冗談とも思えないだろう。


 そのまま、使用人に慣れてもらう為にトランプは渡しておく。混ぜないようにだけ、気を付けてもらうが、裏が違うので心配はしていない。


 次にチェスの説明だ。執事達や官僚系の人材が周りで待機している。

 駒の動きや特殊なルールを合わせて、説明をしていく。


「これはリバーシと同じ、2人用なのかい?今までと違い工夫があまり無いね」


 そう言われると思った。


「では、こちらをご覧下さい」


 土魔術で駒を作って行く。ポーンはゴブリンの形に、ビショップはワイバーンの形に、ナイトは立ち上がった馬にレイが乗った形に、ルークは細かい城塞の形に、クイーンはノーウェの立像の形に、キングはロスティーの立像の形に仕上げていく。台座の部分に各駒の名前を刻んでおく。

 ワイバーンはざっと見ただけなので、かなり作りが甘い。大分練習したが、この辺りが限界だ。


「基本形はこちらですが、このように駒の形に決まりは有りません。贈答先に合わせて、駒の形を変えて頂けます。先程のトランプと同じくキングを御当主に、クィーンを娘様に変えて頂くのもよろしいかと。きちんと縮尺を合わせれば娘様のプロポーションも分かります。また引退する将の為にキングをその方の形にするのも長年の忠勇を認めるようで感動的かと考えます」


 ノーウェが苦笑交じりに溜息を吐く。


「君、多才だけど魔術士なんだよね。忘れちゃうよ。あぁ、だから彫刻家や工芸家か。分かった。これも量産と受注品か」


「御明察です」


「ははははは。君、商売のセンスと人を楽しませる事に関してはもう、上が無いね。いや感服した。面白味が無いかと思えばこんな物を見せられるとは。面白い。実に面白いよ」


 まぁ、エンターテインメントは虚を突くから面白い。これくらいのサービスをやらないと面白くない。


「さぁ、実際にやってみようか。先程から聞いていて心が躍って仕方が無いよ」


 にっこりと微笑み、ノーウェが駒を動かす。それに対応しこちらも駒を動かして行く。


「ナイトをこちらに、チェックです」


 個人的にナイトと桂馬は大好きだ。何故かは分からない。両方、駒を飛び越えられるのが虚を突きやすいからかな。


「んー……。4手先でチェックメイトかい?」


「そうですね」


「はぁ、良く出来ている。うん、これは面白い。リバーシも無限の可能性を感じたが、こちらは思考の果てが見えない。この小さな盤の上がなんて雄大なんだろう。素晴らしい、素晴らしいよ」


 この調子で将棋辺りを投入したらどうなるかな?考える幅が一気に増えるけど。


「お褒め頂き光栄です」


「いや。こちらこそありがたい。ここ数日、欝々としていたからね。心慰めるか……。いや、本当に助かった。ありがとう。紹介や、受注、生産、販売に関しては任せて。こちらで委細行うよ」


「出来ましたら、トランプは新領地でお目見えと行きたいです。チェスに関しては早速にでも」


「分かったよ。娯楽室の目玉だね?しかし、トランプが5万か……。安すぎないかい?」


「農家や冒険者の日々の疲れをちょっとした遊戯で癒す為です。ちょっと大きな儲けが出た時に買えるくらいで丁度良いかと考えます」


「なるほど……。数で儲けを出すか。はは。物も無いのに金を生み出すか。本当に君は面白い。じゃあ、チェスもそんな考えかい?」


「そうですね。リバーシと同じように考えて頂ければと。彫刻には時間もかかります。その分高くはなりますが、まぁ、それもステータスです」


「なるほど……。分かった。チェスに関しては、こちらで価格は設定しよう。いや、有意義な時間だった。本当に殺してやりたいような無駄な仕事だったが、この時間だけで救われた」


 そう言うとにっこりと微笑む。


「いえ。少しでもノーウェ様の心をお慰め出来たのであれば、子としてこれ以上の名誉は有りません」


「はは。固いね、君は。だけど、この気持ちは本心だ。これからもよろしく頼む。仕事の件は年始以降だ。軍編成の予定が先程出てきた。来月半ばと見ている。先触れは出す。申し訳無いが頼むよ」


「仲間にもそう伝えます」


 そう言いながら握手を交わす。そこからは周辺で遊戯を試している使用人達の横で談笑を始める。護衛中に有った国内の動きも少しは分かった。予算編成の時期のど真ん中での軍事行動だが、その辺りはロスティーに委細任せるらしい。親子ってこう言う場合は便利だな。

 一息入れると言うタイミングで本式のトランプを回収し、辞去する事にした。

 そもそも絵札に何を描くかは都度変わる。マークの色だけ覚えてもらったのでサンプルが無くても問題は無い。量産の方で十分参考になる。

 屋敷を出る前に一枚の書類を執事から恭しく渡された。内容を確認すると、ロスティーの略式紋章の無制限使用許可証だった。ノーウェのサインとロスティーの紋章が入っている。本物だ。うわ、怖い。これどうしよう。額に入れて……保管する場所ねえよ。なんだこの危険物は。


 屋敷から出て、溜息を吐く。さて、思わぬ話になったが、どちらにせよ巻き込まれる話だった。そう考えれば、ましにはなっただろう。仲間とも詰めないといけないな。


 そう考えて、肩を上げ下ろして凝りを解す。顎を上げた瞬間、冬の青空が何処までも透明で、ふと心の何処かが動いた。あぁ、綺麗な世界だ。

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