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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第178話 報告の重要性が分かる上司と仕事すると本当に楽です

 鍛冶屋に寄る。手土産は重要だ。


「商売は如何(いかが)ですか?」


「おぅ。気色悪(きしょくわれ)ぇな。順調だよ。仕上げだろ?乾いてるって」


 気を利かせて、取り出しやすい箱まで作ってまとめてくれている。裏の焼き印のずれも目立たない。絵札も綺麗に押されている。ニスも完璧だ。


「良い出来ですね……」


「っへ。まだまだだ。弟子達ゃぁ、付け上がる。その辺にしといてくれ」


 鼻を指で擦りながら、へへっと言った顔で笑う。あぁ、この人、良い親方だな。


「で、一点お尋ねしたいのですが」


「あん?何か有ったか?」


「この槍なんですが、調べてもらえますか?」


 オークが持っていた槍を渡す。


「あぁ、何だこりゃ。ばらすぞ?」


「はい、構いません。調べて下さい」


 巻皮を外し、槍頭を柄の中から抜いて、構造を見始める。小さなハンマーで槍頭を細かく叩く。


「研ぎは酷ぇな。何時から研いで無い?槍頭は鋳造(ちゅうぞう)だな。しかし、(むら)が有る。あんまり良い職人じゃねえなぁ……。温度管理が出来てねぇ。型も悪いな」


「どの程度の職人と見ます?」


「うちの弟子でも、全然まともだ。なんつうか、言われた事をそのまま考えずやりましたって感じの仕事だな、これ。売れねえぞ、こんなもん」


 物は悪いのか……。


「ちなみに鉄の質自体はどうです?」


「うーん。元々の塊鉄炉の構造の問題か?規模も小せぇし温度が安定してねぇ。これ、人力でふいご使ってんじゃねぇか?精錬も何か力尽くな感じがする。つっても古い感じじゃねえな。なんだこりゃ?」


 この鍛冶屋も、裏には水車が有り、それを利用してふいごを動かす。ある程度の速度調整を行い一定速度で酸素を送り、温度を安定させている。


「オークが使っていた槍です。人間が作った感じじゃないですか?」


「あん?オークがか!?あー。この辺りの鍛冶屋が使う鉄は製鉄所の品だからな。ある程度の品質は担保されている。一から製鉄するにせよ、ここまで無様にはならねぇな」


「と言う事は、魔物側で作った鉄と見ても間違いじゃ無いと?」


「うーん。今時分まともに鍛冶やってりゃ、こうはならん。それは言い切る。魔物が作ったかどうかは分からん。他の国だってこの辺は似たり寄ったりだ。人じゃねぇ可能性は高ぇな」


 あぁ、魔物側で開発した可能性は高いと。一回開発されたら、後は改善、改善だ。すぐに追いつかれる。鉄製武器の優位なんてあっと言う間に消えるぞ。


「分かりました。人が作った物では無いのは確かそうですね。その辺りを子爵様には報告します」


「あぁ、そうした方が良いな……。こりゃ、でけぇ話になりそうだな?」


 職人が考えても分かるか……。まぁ、改善するのが職人だ。そりゃそうか。


「そうですね。急ぎ、子爵様に伝えます。では、ありがとうございました。また」


 挨拶と共に、席を立つ。そのまま屋敷に走る。


 屋敷の執事に急ぎで子爵に伝えたい事が有る旨を話す。執事が優雅に扉を閉め、しばし待つ。執事に先導され、応接間に通された。ノックの後に扉が開かれる。


「何度も失礼致します。ノーウェ様。少し急ぎの案件が出来ましたのでご報告に上がりました」


「いや、良いよ。君なら何時でも大丈夫さ。さぁ、座って、座って」


 ソファーに座ると同時に、お茶が出される。用意良いな。毎回待っているのお茶入れている時間か。だから最短なのか。賓客扱いだな、怖い。


「で、どうしたのかな?今以上に急ぎの話が出来たの?現状、ギルド関連の決裁判つくのと苛々する報告書読むので精一杯だけど」


 ノーウェが苦笑を浮かべる。


「報告が1点と、お願いが1点です。実は、本日北の森に遠征に出まして、その際に」


 森の奥のオーク集落から大分離れた場所で、ダイアウルフを従えたオークに出会った事。

 オークの実力は、8等級の最初程度の力は十分有った事。

 そのオークが鉄製の武器を持っていた事。

 鉄製武器が人間の鹵獲品では無い事が、鍛冶屋との話で判明した事。


 まずはそこまでの顛末を説明する。


「だぁぁぁ。あの豚と馬鹿、本当に碌な事をしないね。オークの話も鋭意対応中の返事のまま、音沙汰も無い。それでこっちの諜報部隊を出したら、集落作っているって言うじゃないか。うちの庭だよ?あぁ、殺しても殺し足りない」


 うわぁ、ノーウェが憤慨している顔なんて初めて見た。


「しかも、人並みの強さに、武器もか……。ダイアウルフは何とかなるとしても、敵の数が厄介だね……。いや、君、凄いよ。情報って物を理解している。値千金だ。本当に助かった。あぁ、また借りか。それでも恩に着るよ」


 苦笑が浮かぶ。


「ダイアウルフは程々の数で良い。あまり増えられても値崩れして困るからね。オークに関しては問題外だ。散る前に殲滅しないと森が保てない。本当にこの情報は助かった。で、君ならどうする?」


「騎士団400で集落を包囲。斥候隊で周辺を隈無く調べ、離脱対象がいない事を確認の上、集落を殲滅、でしょうか」


「んー。被害を出さずに処理するならそのくらいは必要だ。良い線だね。君、軍才も有るのかい?もう驚くのに疲れて来ちゃったけど。はぁぁ。自分の家の庭掃除だ。そのくらいは被るしか無いかな」


「この冬の間に決着を着けなければ、オークは散ります。そうなるともう手が付けられません」


「だよねぇ。同感だよ。んー。今回の動ける軍を集結させても純粋兵力は380から390くらいかな。それ以上は、他が回らない」


 そう言うと、真剣な目でこちらを射抜く。


「依頼は出す。手伝ってもらえないかな?今なら、無茶な依頼も出せるからね。戦争従事依頼だ。7等級扱いの達成数30辺りかな。達成料は一人100ずつは出す。それ以上は後で問題になるね。助けると思って手伝ってくれないかな?」


 あぁ、これ、お願いの形だけど、懇願と一緒だ。断れない。親の願いだ。聞くしかないか……。


「戦争従事経験がパーティーとして有りません。自軍の弓の範囲外での遊撃、逃走対象の抹殺等になりますが、よろしいですか?」


 最低限の安全は確保しておく。こちらで自由に動けるのであれば、まだましだ。


「うん。今回は殲滅がポイントだ。逃がす訳にはいかない。だから数が必要だね。その逃走対応に君達が入ってくれるなら助かる。後詰の一部を前に出せるからね。これで定数の調整は出来る」


 笑顔の中にもほのかに安堵が浮かんでいる。ノーウェでも、きつい判断だったのだろう。


「本当に君には、借りばかり作っている。それでも恥を忍ぶ。君も経営者だ、辛いのは分かる。それでも助かるよ。ありがとう」


 笑顔が強くなる。ノーウェ的には久々の朗報だったのだろう。良く見ると薄く隈も出来ている。


「いえ。親の為に動かない子はいません。是非お使い下さい」


 そう言いながら握手をする。


「それと、お願いの方なのですが」


 今日狩ったダイアウルフの皮を執事に渡して、ノーウェの部下に査定をしてもらっている。正直、極上品だ。傷一つ無い。

 執事がノーウェに耳打ちをする。それを聞き、ノーウェがにんまりする。


「本当に良いのかい?助かるよ。物が無いから色々困っていたんだ。変な勘ぐりをするのもいてね。ちょっと安いけど、2枚でこんなものでどうかな?」


 そう言うと、指を1本上げる。100万ワールか……。まぁ、それでも体裁は取り繕える。最低限だが仕方が無い。


「はい。子爵様ですので、それで結構です。親にせびれません」


 ノーウェが苦笑いを浮かべて執事に合図を送る。盆に載った美しい巾着袋が差し出される。あれ?100万ワール金貨1枚だろ。

 袋を持ち上げた瞬間じゃらりと重い音がする。え?分けるからって、細かいのでくれたのか?


 袋の口を開けた瞬間、顔を崩さないのに必死だった。100万ワール金貨が10枚入っている。嘘だろ。1本1千万かよ。


「いやぁ、オークションで熱が上がっちゃってね。どこからもひっきりなしに引き合いが来てね。でも、実際は数いるでしょ?流石にそこまで出せなくてね。実費程度で申し訳無いけど、また借りと言う事で」


 いやいやいやいや。貰い過ぎ、貰い過ぎ。びびった。なんじゃこりゃ。


「いえ、そのお気持ちだけでもありがたく思います。ご無理をお願いしたにも関わらず、助かりました」


「いやいや。職人が見たけど、極上品じゃないか。傷も無い。君達、本当に優秀だよね。あれなら利権とも交換出来る。本当に助かったよ」


 冷や汗が背中を伝う……。うはー。1日の儲けで家が買える。意味が分からないよ。


「で、仕事の話はさておき、ここからが本題です」


 服飾屋で買った高い布で包んだ物を取り出し、テーブルに置く。


「ん?これは?」


「ノーウェ様の心をお慰めする物です」


 そう言った瞬間、ノーウェが今日一番の笑みを浮かべた。

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