第15話 初めては……ゴブリンでした……ポッ
そういえば、現状可能な依頼は分かったし、報酬額も把握出来たかな。
取り敢えず、TODOリストチェック。
[x]各依頼の難度と報酬額の確認
難度と言うか、等級で明確に分かれていたし。
北の森までは村からある程度踏みしめられた道が続いていた。
依頼も有る為、それなりに往来は有るようだ。
流石に時間が時間だけに、人には出会わない。皆もっと早い時間から活動を開始している。
ぼけっと道を見ていると道脇に見覚えのある草と見覚えの無い草が疎らに生えている。
「やっぱり植生がおかしい。植物を司る神が異世界から持ち込んで、そこから自生し始めたとかなのかな」
セイタカアワダチソウみたいになっても知らんぞと思いながら、とぼとぼと歩く。
小一時間程経った頃から、木々が疎らに見え始める。
「んー。こっちは針葉樹林が主体か。土地が悪いのか加護の問題か。クロマツ、アカマツ……。こっちはヒノキか、スギも有るし」
北の森に棲んでいるのは、松の実やキノコ類が主食なのかな。
あぁ、木の皮剥いだりもするか。
「あぁ、やっぱり見た事も無い木も有るか。実が成ってるけど食べられるかも分からないな」
取り敢えず、帰ってからリザティアに聞いてみようと、見た事の無い実を幾つかずつズタ袋に詰めていく。
足元を確認しながら歩くが、ヴァズ草は見当たらない。
「流石に入り口付近のは全滅かな」
スマホのコンパスを確認しながら道を外れ、一路北に向かう。5m間隔程度毎に木の表面に1と北向きの矢印を鉈で刻む。
「取り敢えずコンパス有っても迷子は洒落にならないし」
そこまで繁茂しているわけではなく、森と言うには豊かさを感じない。
南の森が異常にもっさりしていただけかもしれないが。
後、森の奥に近づくにつれ、形容し難い何かを感じるようになってきた。
<告。現在感じている気配と称する感覚は魔素を認識しているものです。>
『識者』先生がすかさず教えてくれる。
この感覚が強くなると、他の気配が分かり辛いな。
正直ただの一般人の為、気配を感じると言っても五感で感じているだけなので、他の感覚が強くなると阻害されてしまう。
尚小一時間程進むと沼沢地に近い地形が見えてくる。
「周りを見る限り川は無いか。全体的に湧いているのか」
足場が悪くなる前に周りを見渡すと、やっとヴァズ草がちらほらと見えてくる。
「んー。流石に水場が近くないと生息出来ないか。後は魔素の濃さにもよるのかな」
受付の女の子に言われた通り、明らかに20cmを超えるものを根ごと引き抜いて行く。
『認識』先生で確認しながら黙々と抜いていく事、2時間程度。
この体形で中腰を延々続けるのは全く無理な為、適度にその辺りの岩にへたり込みながらの作業である。
「だー。100本達成。これ以上は腰が死ぬ」
5本ずつを適当な雑草で結び、それが20束。
流石にあまりの疲労に気分が落ち込む。時間を見ると13時を超えていた。
「取り敢えず昼と行きたいけど、蛭とか大丈夫だよな」
ズボンの裾を捲り靴下の下も確認するが発見は出来ない。首筋から肩口にかけても触れてみるがそちらも問題無い。
「取り敢えず任務達成と言う事で。森を出てからお昼ご飯かな」
コンパスを確認しながら南に向かうと、傷をつけた木が目に入る。
後はそのまま南方面に向かえば道までは出られる。
「思ったより収入良いな。実は冒険者って実入り良いのか?まぁ、コンパスとか無いと遭難の恐れがあるし、そこまででもないか」
若干気を抜きながら歩いていると、遠目の藪が鳴るのに気づく。
「ん?動物か?」
見晴らしの良い場所で木々が密集している訳でも無い。取り敢えず危機管理の為、杖代わりに使っていたグレイブもどきを構え、藪に隠れる。
ガサガサと音を出しながら出てきたのは、灰色をした2足歩行の生き物。
耳は横に長く、目はほとんど黒目だった。鼻はブタのように巻き上がり、唇は薄い。乱杭歯の中に上顎に2本の牙が見える。
身長は130cmほどで、頭髪は無い。腰には獣の皮をそのまま巻き付けている。
手には1m程の木の先端を尖らした槍のような物を持っている。
「うぉ。あれがゴブリンか。もっとしもべ妖精みたいなのを想像していたけど、大分醜悪だな」
キョロキョロと周りを見渡しながら、付近の周回を始める。
「んー。動きを見ている限り斥候っぽいな。これ以上増えられるのはまずいか」
ギとかガとか鳴きながら、徐々にこちらに近づいてくる。
「このまま引くと見つけられた場合、増えて追いかけられる可能性が大きいか。ここは先手必勝かな」
正直4足歩行の生き物を狩猟した事は有るが、2足歩行の生き物と対峙するのは初めてだ。
藪の背後を音を立てないように回り込み、ゴブリンの背後の藪まで移動する。
ゴブリンは周りをしきりに気にしながらも無防備に歩を進める。
「おうらっ!」
藪から一気に飛び出し、グレイブもどきをゴブリンの右大腿部に向かって振り抜く。
刃が当たらなくても鉄塊の勢いで足を殺す目的だったが、鉈の部分は骨の半ばまで割入っていた。
「ギッ、ギガァァ!」
ゴブリンから悲鳴が上がる。
グレイブもどきを上下に抉り骨の圧迫から解放する。
ゴブリンは驚きと痛みの為硬直し、背後の確認も出来ず、蹲ろうとしていた。
「これで、止めだ!」
解放したグレイブもどきの刀身を半回転させつつ、そのまま左に旋回し左側頭部に向かって叩き込む。
刀身の回転が足らなくても殴打で脳震盪まで行ければと思ったが、うまく刃筋が立ち左側頭部から顔の半ばまで入り込む。
びくびくした感触が徐々に弱まり、完全に停止する。
<スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『槍術』0.16、『警戒』0.08。該当スキルを譲渡されました。>
昔からアニメや時代劇で攻撃の度に叫ぶのを見て、黙って戦えよと思ったが。実際に人間に近い生き物を殺すには勢いと気合が必要なんだなと気付いた。
でも思ったより、恐怖や嫌悪感が無い。流石に食べる動物を狩るのとは違うと思っていたのだが。
<告。スキル『勇猛』の能力は恐怖系のスキルの2倍までを無効化するものです。また、状態『怯懦』に関しても効果を発揮します。>
<現状では、スキル『勇猛』は0.2の為完全な発露にまでは至っていません。ですが、一部効果が影響を及ぼしているものと考えられます。>
『識者』先生から説明が入った。流石いつでも冷静的確な。
取り敢えず、初めて2足歩行の生き物と戦った私はこの後を思い若干途方に暮れていた。