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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第173話 折角結婚する相手なんだから、最高のプレゼントを贈りたくないですか?

 12月27日は薄曇りの天気だった。何時寝入ったのかも記憶に無い。ただ、横では温かい大切な者が眠っている。

 時刻的には夜明け前くらいだ。スマホは満充電。充電器は満充電には程遠い。護衛任務の際に中々充電出来なかったのが痛い。ソーラー充電は便利だが、兎に角時間と環境が必要なのが玉に瑕だ。


 しかし、早起きにも慣れた物だ……。日本ではあんなに朝起きるのが辛かったのに。流石にこの世界に3か月以上いればそう言う物なのだろうか。


 リズを起こし、他の仲間も起こしていく。アスト達はリズに、フィアの家族はフィアに任せた。皆、早起きには慣れているし、昨日も早く寝たのですっきりお目覚めだ。

 フィアの妹はちょっと興奮して寝不足だったみたいだが。フィアによく似ているとくすっと笑ってしまったがリズに怪訝な顔をされた。

 耳元でその旨を囁くとちょっと怒りながらも納得した顔をしていたので、同罪だ。友達思いの大切な愛おしい娘さん。


 朝食は混み合う前に食べられた。フィアの家族は農家なので中々遠出をする機会も無い。ちょっとした旅行気分なのだろう。

 事情がはっきりとわかっていない子供達は少しワクワクした感じだ。悲壮感が漂うよりはましだ。

  

 支度を手早く済ませて、皆で馬車に乗り込み、町の入り口に向かう。流石に寄親を待たせるのは外聞が悪い。


 町の入り口から出てすぐの空き地では、ノーウェの騎兵部隊だろう。黙々と準備を進めている。

 馬の数は、50程度か。結構な規模だ。この辺り、一切の妥協は無いな。怪我をせず、圧倒的に鎮圧出来る戦力を用意する。流石だ。


 そう思っていると、馬車が領主館の方から悠々と歩んでくる。それを見た騎兵達が下馬状態で美しく整列する。練度が高い。あ、指揮官の人、指揮個体戦の時の騎士だ。

 馬車からは軍装のノーウェがゆったりと、降りてくる。その後ろから執事が走り、指揮官と何かを話し始める。


「おはようございます。ノーウェ様。御機嫌いかがでしょうか?」 


 邪魔になるかと思ったが、本人は立っているだけなので、思い切って声をかけた。


「おぉ。おはよう。機嫌?とても良いよ。最高の朝じゃないか。これで色々と心が晴れると言うのだから最高の気分だよ」


 にこやかに言ってくる。


「そうだ。色々紹介したい人間もいるし、今回の件で調整もいるね。馬車はこちらに乗りなよ。婚約者だったかな?折角だから紹介してもらいたいな。君と一緒になる幸運な女性をね」


 にっこりと気軽にノーウェがそう言うと、別の執事が早速席の準備を始める。

 私は、自分の馬車に戻りノーウェの馬車に乗る事とリズを連れて行く事、私達の馬車は後方に付いて行く事を伝える。

 レイがすかさず復唱し、馬首をめぐらす。そのままゆっくりと騎兵の行軍の邪魔にならない位置に馬車を待機させる。


「では、忠実なる諸君。正義の使徒達よ。諸君らはこれよりトルカ村に巣食う悪を排除する為に戦地に赴く。だが恐れるな。諸君らは正義だ。何人(なんぴと)もその正義を妨げる事は出来ない。たとえそれが神で有っても、正しきは実行される物だ。忠勇なる諸君よ、騎乗!!」


 ノーウェが良く通る声で行軍前の演説を行う。兵達が一糸乱れぬ動きで馬に跨る。


「進軍!!」


 指示と共に、先頭の騎兵からゆっくりと進み始める。2列縦隊で25組が綺麗に整列し、等間隔で進む様は迫力で有り、圧巻だ。本当に練度が高い。

 指揮個体戦の時も思ったが、貴族達は戦争が出来無いんじゃ無い。敢えてしないだけだと本気で感じさせる。


「さて、そろそろ進もうか」


 ノーウェがそう言うと先に馬車に乗り込んだ。私は馬車に足をかけて、リズをエスコートする。少し恥ずかしそうに手を掴み、リズが馬車に乗り込む。

 乗り込んだ瞬間、あぁ、金持ちって……。と思った。ゆったりとした椅子に豪奢な刺繍が施された厚手の布がかけられている。内装も大分凝っており、まるで応接室のようだ。


「さあ、座って。そして折角だから、紹介してくれるかな。今、国でその才を知らぬ者がいない君の心を射抜いたその女性を」


「こちら、私の婚約者、リザティアです。リザティア」


「初めまして、子爵様。リザティアと申します。以後、よろしくお願い致します」


 目礼し、はっきりとした声で告げる。あー、こう言う時に目礼ってリズでも知っているのか……。私どんだけ空気読めない人なんだろう。ロッサの事、言えないわ。暴力だ、暴力。


「うんうん。初めまして、リザティアさん。私がノーウェ。ノーウェ・ウェンティだよ。君の婚約者の寄親をしている。結婚したら君も娘だね。よろしくね」


 ノーウェが優しい顔で、リズに告げる。


「さぁ、顔を上げて。この才持つ者を永遠の愛で縛ったその姿を見せて欲しいな」


 そう言われ、リズが顔を上げる。


「うん。綺麗だ。お似合いだよ。いやぁ、君、本当に羨ましいね。綺麗な婚約者に確実な成功の道。男の本懐じゃ無いか」


 そう言いながらノーウェが笑う。


 気付くと、私達の他に初老を超えた男性と、質素な平服の女性が座っている。


「あぁ、紹介しよう。こちらがヴァタニス。うちの元政務官僚で今回の代行役」


「ヴァタニスです。よろしくお願い致します」


 ヴァタニスと名乗った男性が頭を下げる。こちらも礼を返す。


「こちらは、ヘレーシアさん。今回の裁定役」


「ヘレーシアです。非才の身ですが、出来る限り務めさせて頂きます」


 ヘレーシアと名乗った女性も頭を下げる。礼を返しながら考える。裁定役?

 『認識』先生に聞いてみると、『祈祷』が1.00ちょっと有る。あぁ、裁判の時の神の声を聞く役目か。平服なのは、この人民間人だ。


「裁定役も結局、神の声の代弁者だよね。本人の信用が大切で、きちっとした生活をしていないと信用されないんだ。結構大変なんだよ、裁定役も。その点彼女は優秀さ」


 そんな感じで世間話が始まる。今回の顛末をさらっと皆に説明しながら話は進んで行く。


「私もギルドとまともに連絡が取れなくて困ったよ。しかもオークションがいきなり開催されたと思ったら、侯爵からの感謝状だ。貴領地の産物の見事さに敬意を、だよ?いきなり過ぎて驚いたよ。うちの産物が出展されるのも知らなかったし。根回しも出来なかったよ」


 ノーウェがオークションの顛末を語り出す。 


「しかもオークションを調べたら、出展者が冒険者ギルド扱いだ。これ、普通取得者名義で出す物なんだよ。手数料の支払い者が不明になるからね。おかしいだろ?一から調べればすぐに分かる内容も取り繕えない馬鹿の集団だよ、あれ」


 苦笑しながら、ノーウェが話して行く。

 その内、こちらの新領地の話にもなっていく。


「そう言えば、新しい町の名前はどうするの?そろそろ名義を登録しないといけないから、決めて欲しいかな」


「はい。それは愛する者に贈ります。『リザティア』と。これから永遠に共に歩む者です。町もそれに相応しく、愛すべき対象とします」


「へー。妻の名前を付けるのはそうそう無いけど、無くは無いかな。君、あれだね。結構ロマンティストだね」


 ノーウェがニヤニヤ笑う。


「恐縮です」


 リズは顔を真っ赤にしている。自分の名前が町に付くとは思っていなかっただろう。結婚祝いとして贈るよ。受け取って欲しいな。


 ちなみに、トルカ村のトルカはこの世界の言葉で、産地を意味する。身も蓋も無い。生粋のリアリストらしいネーミングセンスだ。


 そうして和気藹々とした雰囲気で道を順調に進む。

 ヴァタニスの官僚時代の武勇伝が面白おかしく紹介されたり、ヘレーシアのお仕事の詳細を教えてもらったり。

 この人かなりの引っ張りだこだ。ほとんど休んでいる暇無いんじゃないかな。『祈祷』ってそこまで上がり辛いんだ……。勝手にばかばか上がるから気にもしていなかった。


 そんな感じで休憩を挟みながら、村の目の前までやってくる。騎兵隊は下馬し、隊列を組む。狭い村の道だ。馬上戦闘なんて愚かな行為はしない。抵抗が有っても重装での包囲殲滅で十分だ。


 周囲の雰囲気が静かに熱気に包まれる中、悠然とノーウェが歩を進める。


「じゃあ、始めようか?冒険者ギルドって愚か者の最後の始まりってやつをさ」


 にっこりと微笑み、右手を振り上げ、勢い良く振り下ろす。

 生粋の戦闘集団が、静かに美しい流れで、冒険者ギルドの建物を取り囲む。


 さぁ、望む事では無いが、降りかかる火の粉は払うのが主義だ。組織に対して組織での対応で悪いが、権力とは行使する為に存在する。馬鹿には悪いがさっさと終わらせてもらおう。

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