第168話 冷凍の海鮮ミックスは重宝しますが、お店で海鮮系を食べると今までのは何なのかと愕然とします
15日目の朝は快晴だ。あの後?キスして、色々いちゃいちゃした。最近スキンシップが無かったので二人とも盛り上がった。勢いでは最後までしていない。砂が入ったら大変だし……。
夜番のメンバーに夜中、満潮も確認してもらったが、岩場辺りまでしか潮は上がってこない。大丈夫だ。
私は起きてすぐに、うどんの準備を始めた。干潮の際に磯で貝とか拾って、海鮮焼きうどんとか良いなと用意を始めた。休んでいる人間が集まっているテントで寝かしてもらう。
今回は人魚の人にも食べて貰おうと多目に作った。
しかし、300km南下しただけで、結構気温が変わった。距離的には東京から名古屋くらいの筈なのに、海が近い所為か少し暖かい。間違い無く15度前後は有る。
朝ご飯の最中にフィアがリズの薬指に気付いて、騒いでいた。仲間からは祝福の言葉を貰っていた。調査団の方も同じくだ。何名か妙齢のお嬢さんが羨ましそうに見ていた。頑張れ……。
後、珍しく昨日の蟹の話題を調査団と話していた。仲間達は、あまり食事に拘らないのかその場で美味しいと言って終わりだったのだが。これが蟹の魔力か……。
調査団が無謀な事をしない事を願う。あれは、危険な生き物だ。まぁ、前衛がほとんどなので無理だと思う。
寝かしまでの作業が終わったので、村の設計と塩田の配置の調整に移る。
ちょっと距離は有るが、勾配が北から南に有るので、粘土で流下盤を敷いて循環槽を設ける。何度か往復させ、塩分濃度を上げる。
モウソウチクは大量に有ったので、それで枝条架を作り、集水桶に溜める。これを繰り返せば、濃い海水が出来上がる。潮風がかなり強いので、乾燥は早いだろう。
ここで出来た鹹水を大鍋で荒く煮詰め、不純物や灰汁を取り出し、濾す。それを再度煮詰めれば塩が結晶化する。この結晶を濾せば完成だ。残りの水分はにがりとして使える。
作業の動線を考えながら、配置を決めて行く。正直、やった事の無い作業なので良く分からないが、一般的な工場の設計と、海水の乾燥時間を考えながら設置案を伝えて行く。
村の設計に関しては、調査団側で案が有ったので、それを実際の場所に当てはめながら確認して行く。基本的には前の貴族の村に合わせた形だ。塩作りの作業場までの動線も悪くない。
縁起が良いかは分からないが、そこは拘らない。実利が先だ。将来的に干物用の場所等も想定しながら、村を考えて行く。将来的に保存食事業も考えて前の村の規模で考えておく。
住宅の建設も事業規模の拡大に伴って、拡大していく。建材は途中の林から自給してもらう。将来的には薪炭含めてあの林で賄いたい。
そうやって、設計の詳細を詰めていると、ロッサがこちらに向かって来た。
「リーダー、人魚さんが来ました」
ロッサが凄い興味深そうな顔をして言ってくる。調査団に引き続き、設置の調整と町作りの基礎の確認をお願いする。
「ロッサさんは人魚は見た事有るの?」
「話では聞いた事が有ります。凄いです。お魚さんです。初めて見ました」
あぁ、興奮している。ここで人魚のお姫様の話とかしたらどうなるのかな。憧れが上がるか、泣きだすか二択か。やめておこう。
そう思いながら、ロッサに誘導されて、浜の方に向かうと、昆布お化けがいた。
「あ、こんにちは。昨日はどうも」
そう声をかけると、安心したのか、岩場に物を降ろす。
「こんにちは。お話し通り、持ってきました」
人魚さんは器用に小さなジャンプを繰り返し、前に進んできた。
物を見ると、真昆布の根から採取した物に、大きなホタテやイカ、エビ等が大量に一緒にまとめられている。
「うわぁ、こんなにも。すみません。こちらで用意出来るのは塩漬け肉と携帯食だけですよ?」
「あぁ、大丈夫です。いつも食べている物なのでお裾分けです」
そう言うとにこにこする。あー、これはお昼一緒に食べて貰わないと駄目だ。
「これからお昼ご飯を作ります。一緒に食べて行って下さい」
「えぇぇ。良いんですか?なら、対価は良いですよ。久々に陸の物が食べたかっただけですから」
凄い遠慮された。どうも、本当にそれだけのつもりだったらしい。なら尚更食べて貰わねば。
取り敢えず、海で待っていてもらい、出来たら呼ぶと言う流れになった。
真昆布は岩場に干した。10枚も有るが、どうしよう。結構大きい。2年物くらいを想定していたがそんなもんじゃない……。干したら縮むかな……。淡い期待を寄せる。
浜辺に鉄板と焚火の用意をする。うどんは並行して炊く事にする。食材を『認識』先生で確認するが貝毒も無いし、他も毒は無い。大丈夫だ。
ホタテも大きい。包丁で貝柱を切って開いた瞬間驚いた。こんな貝柱見た事が無い。イカも皮を剥き、板状に切り、隠し包丁を入れる。ゲソはぶつ切りだ。エビも立派だ。頭を落とし皮を剥き、ある程度の大きさに切って行く。
エビの頭と殻は別にしておく。夕ご飯のスープの出汁に使おう。こんなに大量に有れば十分出汁に出来る。と言うか、超豪華海鮮焼きうどんになりそうだ。
うどんが茹で上がったので、冷水で洗いぬめりを取る。
保存していたラードを多目に鉄板に落とす。イノシシの香りが上がって来たところで葉物を炒めていく。そこに海鮮を火の通りにくい物から順に投下して行く。
暴力的な海の香りが上がる。その匂いで仲間達が集まって来た。海鮮に火が通らない内に締めたうどんを混ぜ込み、火で温めて行く。火が通った海鮮から白い出汁が溢れるがうどんがそれを吸い込む。
海鮮が縮まない辺りで味見をして塩胡椒をする。最後にネギっぽいものを刻んだのを大量に塗して、完成だ。
作り始めた時点で呼んだ人魚さんに昨日作ったのと同じ深皿に山盛り乗せて渡す。他の皆にも分けて行く。兎に角うどんと同量くらい海鮮が乗っている。
「では、新しい隣人よりのお裾分けです。皆さん楽しく召し上がって下さい。では、食べましょう」
人魚さんも、フォークは使えるらしい。麺の食べ方が分からないようだったので、刺してくるくる回す動作を説明すると、すぐに自分で食べ始めた。
取り敢えず、麺を口に含んだ瞬間、複雑な磯の香ばしい香りが広がる。噛んだ瞬間じゅわっと海鮮の出汁のうま味が舌で踊る。シコっと噛みちぎり咀嚼するとうどんの甘みと海鮮のうま味が混じり合う。
ホタテもイカもエビも味が濃い。日本で食べていたのは何なんだと言う程、芳醇だ。生き物の躍動を感じる。美味しい。
「この白い四角いのふわふわしているけど、噛んだら甘い。超美味しい……。これ前のうどん?だよね。こんな食べ方も出来るの!?」
フィアがイカを気に入ったのか、ぱくぱく食べている
「複雑やけど、どれもきちんとそれぞれのお味がするんですね……。おうどんも味が染み込んで美味しいです」
チャットがうどんを褒めちぎっている。前の時もそうだが、複雑な味が好きらしい。
「この赤いのが良いわね……。ぷりぷりした触感なのに、噛むと濃厚なうま味……。あぁ……美味しいわ……」
ティアナはエビが好きみたいだ。
「あの、美味しいです!!海って美味しい物がいっぱいなんですね……。凄いです」
ロッサはもう、延々ぱくぱくしている。体が小さい分、うどんを食べているのかうどんに食べられているのかって感じだが。
レイも含む男性陣は、もう言葉も無い。ただただ、食している。
人魚さんもうどんが気に入ったようで、美味しそうに食べている。海鮮も火を入れる事が無いので、また新鮮な感じがして美味しいそうだ。
うどん含めて結構な量を作ったのだが、全員が完食し、転がっている。人魚さんも一緒に転がっている。
「お土産にお肉持って帰ります?」
と聞くと、また今度でと言われた。まぁ、満足してもらって良かった。
取り敢えず後片付けの前に、昆布を裏返しに行く。太陽と潮風で表はほとんど乾いていた。裏返して風で飛ばないように根っこに石を積む。
戻って来ると、人魚さんが帰るところだった。
「また、村が出来たら遊びに来ます。今日は美味しかったです。ありがとうございます」
「私、アキヒロと申します。私の名前を出して頂いたら話が通るようにしておきます」
そう言って別れた。そのまま人魚さんは海に戻って行った。中々面白い人だった。名前も聞いたし、また機会が有れば会えるだろう。
海に潜り、ジャンプして、こちらに別れを告げる人魚さんを見て、良い隣人が出来たと、少しほっとした。