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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第166話 偶に同僚と釣りに行きますが、魚に馬鹿にされている気分になって好きじゃ無いです

 12日目の朝は小雨がしとしとと続く状況で始まった。リズに聞くと、どうも朝方から降り始めたらしい。


 朝食は温かい物は諦め、携帯食を白湯で流し込む。


 調査団とも話をしたが、このまま進むとの事だった。体調面の管理だけは徹底してもらう。


 昨日林に入った時よりもゆっくりとした動きで馬車が進む。視界が悪いので、確認しながら進む為こんなものらしい。

 道は有るが、やはり人の手が滅多に入らない為、状況は悪い。倒木の度にドルが出て放り込んでもらう。


 雨の中前方に集中するレイと話していたが、この道自体は過去海側に進出を考えた貴族が敷いた物らしい。

 海産資源で自活させるコンセプトだったが、薪や食料の運搬コストで足が出て諦めたとの事だ。

 魚での資金獲得も考えたが、馬車で10日の距離だ。塩漬けにしなければ腐る。その塩の値段が移送コストに乗り、とてもでは無いが採算ベースには乗らなかったらしい。

 林からの薪作りも半年から1年かかる。そこまで待てずに撤退した模様だ。それから海は、余程他の町に近くない限り鬼門になったらしい。


 海の傍はあまり魔素が濃い場所が無いらしい。その為、魔物もほぼ出ない。人類生存圏の拡大を考えた場合は海側への進出は有りだと考えるが、住むには過酷な場所だ。

 私も、塩作りの勝算が無ければ手が出せなかっただろう。


 そんな感じで、休憩毎に赤ワインと蜂蜜と香辛料をお湯で割った物を御者に渡している。勿論アルコールは控えめだ。飲酒運転で事故とか洒落にならない。

 非常に好評で士気も上がるので、本当に良かった。


 しかし、林と聞いていたが結構深く、もう森に近い気がする。塩作りの薪類は炭の移送を前提に考えていたが薪炭向きの木々も豊富だ。長い目で見ると、樵も派遣してさっさと地産する方が良いな。


 そんな感じで、12日は終わった。雨に濡れながらテントを張り、休む。私は後番なので、魔術の練習をしていたが、徐々に雨も止んで行き、朝にはまた快晴に戻っていた。


 13日目の朝は1日振りの温かい食事を楽しむ。御者の皆も体調不良者はいなかった。本当に安心した。

 このまま13日も移動に終始する。道が想定より良かったらしく、予定は14日の昼頃だったが、14日の午前中には着きそうらしい。ドルが倒木を見つける度に放り投げているのも大きい。

 普通、処理にもっと時間がかかる。そう言う意味でも、助かっている。猟などしつつ、食生活も充実させる。13日目もそんな風に終わった。


 14日目の朝は快晴だ。昨日の獲物の残りで朝を楽しみ、馬車での移動を開始する。2時間も走ったら、懐かしい海の香りがし始めた。


「なんか、生臭い?」


 フィアは鼻が敏感なのか、海の匂いに気付いたらしい。


「これが海の匂いかな。もう少しで着くと思うよ」


「えー。何か、腐った物の臭いじゃないの?」


 フィアが凄い嫌そうな顔をする。

 まぁ、海の周辺はこんなものだなと、日本もこの世界も変わらないなと思う。


 予定よりも大分早く林を抜けた。途端に平野が広がり、その先に薄い青色が広がる。海だ。

 仲間達も初めて見る光景に釘付けだ。


 個人的には、色々な椰子の木が生息しているのが気になる。日本の北限は沖縄辺りだ。そこまで南でも無いのに、大丈夫なのかと思うが、パニアシモの話を思い出し、諦める。

 色々な種類の椰子が大量に生息している。甘味料の生産や酒作りも出来るだろう。ココナッツジュースとか、沖縄以来だ。


 海に程近い、過去の村の跡地に馬車を着ける。建材としては再利用は難しい程度に朽ちている。

 どれほど前に建てたかは詳しく聞いていないが、湿った潮風に晒された空き家だ。そう長くはもたないだろう。


 野営の準備を進めながら、私は海の様子を確認しに行く。石に覆われた一面を過ぎると、砂浜が広がる。波は穏やかで兎に角透明度が高い。どこまでも底が見える。

 水に触れると、気温より少し高め程度か。


 ホバーで海上を飛び、沖の方まで出るが何時までも底が見える。魚影は豊富だ。信じられない程の透明度の中で、縦横無尽にあらゆる魚が泳いでいる。


 ただ、正直深さの感覚が分からない。どの程度の深さなのだろうと思いながら進んで行く。20km程だろうか沖に進むといきなり棚になっており、一気に深くなる。その辺りで海の色が変わる。

 水に触れてみると、信じられない程、冷たい。岸側の海流と、沖側の海流で全く違うのだろう。と言う事は、この棚付近は魚の宝庫の筈だ。昆布のような海藻も生えており、その間を魚が行き交っている。

 昆布の南限が日本なら確か東北地方辺りまでだ。ここの水温はその辺りの温度まで恒常的に冷えているのだろう。

 海の底から豊富な栄養を乗せた寒流が流れ込み、暖流とぶつかり攪拌される。うん。ここは良い漁場になりそうだ。


 そう思いながら、より沖の方を見ていると、鯨みたいな巨大な生物が水面を破り、飛び跳ねるのを見る事が出来た。うわぁ、ホエールウォッチングでもこんなに近くでは見れない。凄い。

 まぁ、あんな大きな生き物にぶつかられると危険なので、棚の辺りまでで漁はしてもらおう。そう思った。


 急いで戻ると、野営の準備は完了していた。


「様子はどうだったの?」


 リズが聞いて来る。


「魚影は濃い。後お目当ての物も見つかった」


「お目当て?」


 リズが首を傾げる。正直、南の海と聞いていたので昆布は諦めていた。それが手に入りそうなので喜ばしい。


 お昼ご飯の為、採取と薪拾いはお願いした。私は釣り竿を取り出し、釣りに出かける。魚の状況も確認したい。今の時期なら脂の乗った魚が釣れるだろう。


 桶を担いで、東側に2km程進んで行くと岩場が広がっていた。幾つか当たりを付けて岩をひっくり返すとイソメもどきががうじゃうじゃいた。一掬いを袋に入れて、岩場の突端に向かう。

 仕掛けは済んでいるので、水深を見ながら浮き下の糸の長さを調整して、波間に投げる。狙えるならばこの時期なら石鯛かな?糸が切られる危険も有るけど。


 気長に待とうかなと思ったら、いきなり浮きがビク、ビクと反応する。あるぇ?反応早すぎない?そう思いながら、浮きの動きを見て、大きく沈み込んだ瞬間を狙い、竿を上げフッキングする。

 その瞬間、リールのハンドルが凄い勢いで回り、糸が出て行く。糸を切られないように慎重にゆっくりと巻き上げて行く。疲れるのを待ちながら、引いては出しを繰り返す。

 竿がしなって折れるのが怖いので、魚の方向に真っ直ぐにして自分が後に下がりながら巻き上げて行く。数分の戦いの後、魚影が見えて来た。予想通り白黒の縞々だ。やはりこの世界でもいたか。


 見えてから、また数分戦い、釣り上げる。全長で50cm強だろうか。重さも結構有る。日本でも中々お目にかかれない。このサイズがゴロゴロいるなら、数匹で十分だな。

 『認識』先生の生態の説明で毒は無いと判明した。イシダイの近縁種なのだろう。

 ナイフで締めて水魔術で放血する。血が抜けたところで再挑戦だ。その後は外道もかかるが、イシダイも結構かかる。頭の良い、慎重な魚の印象だったが、この世界の魚は擦れていない。

 4匹程で終了とした。塩焼きと潮汁かな?


 戻ると、採取組は戻って来ていた。薪組はちょっと林まで距離が有るのでまだ戻って来ていない。

 在庫の薪を組み、焚火を点ける。


 魚は鱗を丁寧に取り、三枚におろし、腹骨も削ぎ残った骨を丁寧に抜く。頭も半分に割る。頭と中骨はじっくりと焼いて行く。

 出汁は鯛からだけだが、まぁ、これだけのアラだ。贅沢なのだろう。鍋に熱湯を生み、頭と中骨を投入する。根菜類は先に茹でて、後で合わせる。


 おろした身は、切り分け串を打ち、強火で表面を炙り、色が変わった頃に火から離してじっくりと焼き上げる。


 そうこうしている間に、薪組も帰って来た。


「大きい魚ね……。海ってそんな大きな魚ばかりなの?」


 ティアナが聞いて来る。


「広いからね。大きな魚もいるよ。味は保証する」


 そう答えながら、魚を焼くのに集中する。


 そうこうしている間に、潮汁に根菜類を投入し、乾燥させた生姜を刻んで振りかける。塩で味を調え完成だ。

 皆のカップに注ぎ、魚の食べ方を説明する。頭なんて食べた事の無い人間ばかりなので、頬辺りの肉など取り方を説明する。

 塩焼きは皿に置いていく。


「取り敢えず、第2の目的地まで到着しました。ここの調査が終われば、帰還です。もう少し頑張りましょう。では、食べましょう」


 潮汁を口に含む。通常昆布出しベースにするが、これだけ鯛が入っているのでうま味は気にならない。逆に贅沢な味がする。身も脂が乗ってほろほろと口の中を楽しませる。

 塩焼きは、絶品だ。脂もそうだが、久々の新鮮な海の魚だ。それだけで満足だ。


 周囲の人間も、もう、黙り込んで黙々と食べている。何時もなら騒がしいが、美味しい物を食べる時は静かな物だ。フォークを慎重に使い、頭の部分から肉を取り出しては明るい顔をしている。

 残念ながら数的にレイは頭無しだが、中骨部分を多目に分けた。


「海の魚って、こんなに美味しいのね……。川魚のパサパサしたのが嫌いだったわ。でも、これは美味ね」


 ティアナが呆然と呟く。

 まぁ、塩焼きにしても脂が乗っているのでジューシーだ。川魚は火加減が難しい。


 そんな感じで、海到着後の一食目は好評の内に終わった。

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