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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第165話 筍の天婦羅は、ザクッとした歯ごたえの後のシャクシャク感と溢れ出る水分が幸せです

 11日目の朝は、まだ暗い内から始まった。後番のティアナに挨拶をする。


「おはよう。ティアナさん。様子はどう?」


「あら、リーダー。早いわね?特に問題は無いわ。無さ過ぎて、眠ってしまいそうよ」


 ティアナが苦笑を浮かべながら答える。


「そうか、問題が無かったら良かった。鍋の方の様子はどうかな?」


「灰汁取りは終わりね。もう、骨もぐずぐずよ」


 昨日の夕ご飯に出た鳥の骨を夜通し炊いてもらっている。お湯は偶に起きて継ぎ足した。蓋を開けると濃厚な鳥の香りがする。

 ガラスープの準備は出来たか。


「そっかぁ。良かった。あ、ランタン借りて行くね」


「ええ。どうぞ。採取かしら?」


「昨日当たりを付けたのが有るから。朝しか採取出来ないんだ」


「分かったわ。いってらっしゃい」


「行って来ます」


 そう言って、竹林の中に踏み入る。昼と違って、結構怖い。幽霊とか怖がるタイプでは無いが、気味が悪い感じはする。

 なんだろう、なまじ慣れている日本の風景が余計に影響している気がする。


 昨日進んだ道を確認しながら、進んで行く。シホウチクを見つけ、地面に四つん這いになって、手の平で周辺の土を撫でて行く。


「有った」


 微かな突起を見つけて土を取り除くと、可愛らしく筍が顔を出した。鍬で周りから掘り出す。

 1本見つければ大体感覚は掴んだ。そのまま四つん這いで這い回り、細い筍を採取して行く。


 しかし、こんな姿日本で見つかったら事案だなとも思う。小太りの男、早朝に竹林で四つん這いになり蠢く。うわぁ、怖い。


 馬鹿な事を考えながら、次々と採取していく。空が黒から濃い紺色になる事には一抱え分の筍が収穫出来た。

 誰の手も入っていない竹林だ。豊富だ。筍も『認識』先生で確認したが毒は無い。ちなみに生態もシホウチクっぽい。シホウチクの詳細なんて分からないけど。


 野営地に戻り、ガラスープを寸胴に大きな端切れを使って濾す。骨は穴を掘って埋める。

 鍋は洗い、新たに熱湯を生む。沸き立ったら塩を加えて、筍を投入する準備をする。

 筍を洗い、皮つきのまま鍋に投入する。


「あら?木の芽かしら。食べられるの?」


 ティアナが覗き込んでくる。


「少し苦みは有るけど、歯応えは良いし、香りも良いよ」


 それを聞くと、少し眉を寄せた。


「苦いの?それ、本当に美味しいの?木の芽ってどれもえぐい印象だわ」


「うーん、間違ってはいないけど、そこまではえぐくないかな。それに爽やかな味だよ」


 それを聞いて、ティアナが思案顔で悩み始めたが、まぁ、食べれば分かるかと気にしない。


 本当なら、昆布と鰹の合せ出汁で鳥鍋にしたいところだが、無い物は無い。ので、ガラスープで鳥と野菜で炊いてしまう。

 根菜類は在庫が豊富だ。葉野菜も昨日の採取で余った物が有る。肉も食べ切れなかった分が紙で包まれて保管されている。


 寸胴に入れたガラスープに鳥を一口大に切って行き、投入する。色が変わった辺りで根菜類を投入する。


 鍋を茹で溢し、10分程度でお湯を空けて、皮を剥き筍を味見する。ほのかな苦みと爽やかな竹の香りがする。独特の歯応えが気持ち良い。灰汁も抜けている。

 全ての筍の皮を剥き、食べやすい大きさに切り、スープに投入する。後は炊いて行く。頃合いを見てざっと味見をして塩を加える。


 空が藍色から、青色に変わる事に、鍋を降ろし、馬車に持って行く。そろそろ皆起き出してくる。


「あら?朝ご飯で食べるのじゃないのかしら?」


 ティアナが不思議そうに聞いて来る。


「んー。味を染み込ませるのに、1回ゆっくりと冷やさないと駄目なんだ。食べるとしたら、昼か夕かな?」


「まぁ、面倒ね……。本当に貴方、料理人なの?どうしてそこまで細かい事をするのかしら」


「故郷で料理は良く作っていたから。美味しい物が食べられるなら良いんじゃないかな?」


「そうね。もう、気にしないわ。お好きにどうぞ」


 そう言いながらも、嬉しそうな顔だ。美味しい物を食べるのは好きなのだ、この子。


 起き出して来た皆に、鳥肉を使った旨を報告する。特に用途は決まっていなかったので、文句は出なかった。と言うか、新しい料理に興味津々だった。


 朝は塩漬け肉を使った葉野菜のスープと、携帯食で済ませた。


 ここから馬車に乗り、竹林を抜けるとまた林を通るそうだ。過去海までの経路を作る時に一旦整備した道が開けているらしい。

 ただ、ここの林道が荒れている可能性が有る為、スピードを出せないそうだ。


 昼過ぎ辺りに、竹林を後にする。夕方前に林の入り口に入った。道は馬車1台が通れる程度の細さだ。向かい合えば、擦れ違いも出来ない。


「今日は、林の中で野営の予定です。開けた場所は有りませんが、ほぼ人の往来は有りませんのでそのまま停車します」


 レイがそう言って、馬車を進める。道は確かに草が生えて荒れている。ただ、草に紛れて倒木などが転がっていると危険な為、スピードはかなり控えめだ。


 夕方遅くならない時間に馬車を止める。


「本日はここまでです。皆様お疲れ様でした」


 レイの言葉に合わせて、皆、薪拾いと採取、狩りに分かれる。

 今晩に関しては、筍の炊いたのが有るので、明日の朝以降の獲物を探すらしい。薪は補充分も含めて大量に探したい。


 そんな感じで暗くなる手前まで皆頑張った。お蔭で、雉っぽいのが9羽と各種野草、薪が大量に手に入った。


 焚火を点けて、今朝の鍋を温め始める。空を見上げると徐々に暗い雲に覆われて行く。


「明日は雨でしょうな。視界が悪くなりますので、尚警戒が必要です」


 私達は馬車の中なので特に雨は気にしないが、御者は外だ。


「風邪の可能性が有ります。雨の場合、留まる事を考えては如何ですか?」


 レイに聞いてみる。


「心配には及びません。雨中の行軍は良く有る話です。調査団側の御者も行軍経験の有る者ですので、そこはご心配無く」


 いや。風邪の心配をしているんだが……。大丈夫なのか?気にしない方が良いのか?

 話を聞くと、どうも撥水加工の布に身を包んだ状態で進むらしい。そこまでするなら、延期したら良いのに。食料等は余裕が有る。万が一の事故も有る。


「ご心配無く。その辺は皆心得ております。日程に影響を及ぼす真似はしません」


 そこまで言われればと、諦める。調査団側も当たり前の事のように捉えている。


 若干もやもやしたものを抱えながら、鍋を温めて行く。鳥の脂で真っ白だった表面は溶け出しぐつぐつと芳醇な香りを放ちだす。

 最終的に鳥のモツを洗って串で塩焼きにしたものと、筍を炊いたものが夕ご飯だ。


「さて、海までもう少しとなりました。気を引き締めて行きましょう。では、食べましょう」


 まずは塩焼きを口に頬張る。野趣溢れる甘い油が口に広がり、歯応えの有るモツが口の中に肉汁を吐き出す。単純な塩だけなのに、鳥の内臓の香りと油が合わさって複雑な味になっている。

 筍をフォークで刺して、食べてみる。炊いたので香りが飛んだかなと思っていたが、独特の歯応えを噛み切った瞬間、濃厚な鳥の出汁の香りと共に、峻烈な緑の香りとほのかな苦みが口に広がる。

 ザクっとした歯応えから、シャクシャクした歯応えに変わるまでに、鳥のうま味、筍の香り、野菜の甘さが口で踊る。うん、やはりシホウチク好きだわ。天ぷらも好きだけど油が大量に用意出来ない。


「うわ、何これ。この噛んだ感触、超面白い。美味しい。え、これ木の芽なの?あの緑の奴?うわー、こんなに美味しいんだ」


 フィアが叫ぶ。


「木の芽も美味しいんですが、スープがまた濃いですね……。何とも言えん味わいです」


 チャットが出汁を口に含んでほわんとした顔になっている。


「これが今朝のね……。確かに苦みは無いわ……。この歯応え、癖になりそうね……。長い時間をかける甲斐は有るわね」


 ティアナがにこにこと食べて行く。野菜系が好きなので、筍もお気に召したようだ。


「美味しいです。このコリコリしたやつは食べた事が無いです。お肉もお肉以外の味がじわっと出て来て、初めてです。美味しいです」


 ロッサが腕を振り回さんばかりに、感動を表現している。


「ヒロ、ずるい。家であまり作らないよね?こんなに美味しいなら作ってよ」


 リズがぶーっとした顔で言ってくる。


「私が作ったら、リズの練習にならないよ。早くリズの美味しい手料理が食べたいな」


 そう言うと、機嫌が直ったのか、パクパクと食べ始める。


「これは……。美味しゅうございます。領地が動き次第、料理を広めるべきかと。これは、ここだけでは勿体無いと考えます」


 レイも冷静な顔をしているが、凄い勢いでパクパク食べている。軍人さんは早食いが多いがそれよりも早い。余程気に入ったか。


 そんな感じでお代わり、お代わりであっさりと全部無くなった。流石、今が旬の筍。美味しかった。


 後片付けと並行し、お風呂に入ってもらう。もし雨が降って来たら、入れない。


 そんな感じで、1日分の仕事が完了する。


 今日は中番なので、途中で起き毛布に包まり、警戒を続ける。星も雲に隠れ、周囲は本当の闇だ。焚火の照らす範囲以外は見えない。


 私は土魔術で時間を計りながら、延々色々と造形したり、ただただ大きい石を作ったりと習熟に励む。練習、練習。


 そうこうする内に、後番の時間のようだ。リズが起き出して来た。


「夕ご飯美味しかった。馬車で鍋を抱えているから何事かと思ったけど」


「揺れるからね。倒れたら大惨事だよ」


「そのお蔭で美味しい物食べれたから、良かったよ」


 そう言って笑い合って、ドルのテントに潜り込む。そんな感じで11日目の夜は過ぎて行った。

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