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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第164話 ドジっ子って需要あるのでしょうか?

 9日目の朝を快適に目覚める。海に行くと思うと心が何故かときめく。子供か私は。海まで5日はかかる。まだ先の話だ。


 朝ご飯を皆で食べる。燻製肉に関してはこれで終了だ。傷む前に食べ切れた。残るは干し肉の塩漬けだ。こちらはまだもつ。


 調査団の方の調整も完了し、馬車で南に下る。途中までは街道敷設の為か仮の固められた道が続いていたが、それが途切れると、道無き道だ。

 レイが太陽の方角を確認しながら、進んで行く。コンパスを確認しても南下しているのは間違い無い。


 しかし、兎など小動物が素人の私でもちらちら発見できるのだが、捕食する大型動物が見当たらない。極々稀にイヌ科っぽいコヨーテみたいな生き物は見かけるが、その程度だ。

 自然環境に対する違和感がどんどん溜まっていく。


 馬車の中では、私が作ったチェスもどきを使って、2組がチェスを楽しんでいる。土魔術の習熟が上がったのと、イメージの明確化が進み、納得のいく物が作れた為だ。

 ロット、チャット、ティアナ、ドルでローテーションして楽しんでいる。ティアナはチャットの長考から解放されて、かなり機嫌が良い。


 トランプ組の人数が減ったので、私も混ざっている。リズ、フィア、ロッサだけでは戦術の幅が狭く、せめてもう一人と言う事で巻き込まれた。

 後続の邪魔にならないように、窓の隙間から土魔術を放ちながら、トランプに混ざる。


 最近は大富豪一強状態から、ブラックジャックへの移行が進んでいる。ディーラー役がきちんといれば、賭け事を楽しむと言う副次的な産物を純粋に味わえるようだ。

 今後のカジノ開設に向けて、生の声が聞けるので、それはそれで良いかとも思う。


 私?延々機械的にディーラー役をやっている。カードを引いて、チップをやり取りする係だ。

 どう考えても、一緒に遊ぶと言う感じでは無く釈然としない部分も有る。ただ、皆楽しそうなので、良いが。


 そんな感じで、9日目は緩やかに過ぎて行く。


 10日目の移動中、夕方頃だろうか、レイから声がかかる。


「そろそろ南の森です」


 そう言われたので、前方を見ると、予想通り竹林が微かに見え始めた。筍かぁ……。もし林が続くようなら明日早めに起きて採取しておくか。


 そう思いながら、窓から竹林を覗く。マダケやモウソウチク、ハチク等色々な種類が、走って行く間に見えた。正直他の種類の竹っぽいのもいたが何かは知らない。

 懐かしいなと思っていたが、違和感が上がって来た。地下茎植物で、ここまで共存しているのは何故だ?喧嘩し合わないのか?


 そのまま竹林沿いを走り、林から離れた所で野営の準備が始まる。この時期はシホウチクの筍だろうか。確か、細身で節が独特だった筈だ。


 私は、森を調査すると皆に伝え、一人竹藪の中に入り込んで行った。元々危険な生物はいないと言う話なので、すんなり通った。


 コンパスを確認しながら竹林を歩いて行くと、ある程度一種が固まって生息しており、移動すると他の種類がと言う感じだった。

 混在はしていないが、こんな行儀の良い植物では無い。名前を聞いても、全く聞いた事の無い植物だった。地層の件と良い、竹と良い、違和感で気持ち悪くなってきた。


 すると、突然『識者』先生が慌てた口調で告げた。


 <告。深刻なエラーが発生しました。不明なシステムが接続されました。カウンターシステムの実行を宣言します。実行完了。該当のシステムの接続をブロックしました。>

 <不明なシステムが接続される際に一部のセキュリティーホールが利用されています。修復を開始します。……現在の権限では修復出来ませんでした。対応を検討します……。>


 と言った瞬間、どこかでゴンと鈍い音が聞こえた。


「へ!?」


 何これ?びっくりした。何が起きているの?


『痛いですぅ。ふぇぇぇぇ……。あ、すみません。パニアシモと申しますぅ。ツールを使い慣れなくて間に合いませんでした。他の方の力を借ります』


 『祈祷』で泣きそうな、聞いた事の無い女の子の声が聞こえた。何か、祈祷の向こうはざわついている。こんなんだからあんたはとか、ふぇぇぇとか微かに聞こえてくる。


 <告。深刻なエラーが発生しました。不明なシステムが接続されました。カウン>


 『識者』先生がまた同じく慌てた口調で告げたと思った瞬間、ブツッと言う音と共に沈黙する。


 気付くと、目の前には、シックなイブニングドレスを着た黒髪の涙目の美少女が立っていた。


「改めまして。初めまして、お客様。私はパニアシモ、植物を司る者です」


 そのまま一礼する。


「あ、はい。アキヒロです。よろしくお願いします。でも、ここ、教会じゃないですよね。どうやって来られたんですか?」


 今までは教会でしか直接話した事は無い。何も無い所では『祈祷』の会話だけだ。


「はい。『祈祷』が2.00に上がったとログで見ました。1.00である程度明確に会話が出来ます。そこから上がるに連れて明瞭になります。2.00の段階で、対象者は教会と同じく座標点として認識されます」


 『祈祷』が上がるのにも意味が有ったのか……。と言うか、座標点って……。歩く教会みたいな物か?


「私、自分のインターフェースは触れるのですが、他の方のツールを触るのが苦手で。急いで使ったのですが、駄目でした」


 涙目の涙が、盛り上がって来る。今にも泣きそうだ。


「いえ、気にしていません。で、どのようなご用件でしょうか?」


「はい。貴方が土の状況や、植物の状況を気にされていましたのでお話をと思いました」


 涙は少し戻って行った。ちょっとおどおどしていて、非常に話しにくい。


「この世界はとても過酷です。それは人類に対してだけでは有りません。他の動植物に対してもです」


 私は、それを聞き、頷く。


「また、人類と括りましたが、貴方がお気付きのように人類と表されるのは人間達が考えている狭い範囲では有りません。遺伝子情報が共通する人類全体を指します」


 あぁ、アレクトアの時にオークの事を考えたが、正にか……。ゴブリンだって、オークだって、その他の2足歩行で知能を持つ者は全て人類の可能性が高い。

 ゴブリンを殺して来た事に今更気持ち悪さを感じた。それに盗賊が持っていた『殺人』か……。あれだって、同じ人類を殺していたらいつか生えるかもしれないのか……。何か嫌だな……。


「貴方方が争われるのは、人類が魔素に過剰に適応する際に、脳の一部に変異が起こり意思疎通が出来なくなるためです。その為、貴方方が魔物と呼ぶ人類は魔素の濃い場所で生息します」


 パニアシモが少し微笑みを浮かべる。


「貴方方人間の魔術士も魔素に一部適応した人間です。ただ、それで特に問題、変化は発生しません。そこはご安心下さい」


 あぁ、唐突にある日ゴブリンになっていましたとか嫌だ。それが無いならありがたい。


「分かりました。そこは安心しました。では植物や土壌の件ですか、お教え願えますか?」


「はい。植物に関してですが、先程の通りこの世界は生き物全般に対して過酷です。故に私は、植物を通して生きやすい環境作りを行っています。自然の恵みとして食べられる物を多く、その収穫時期を長く、生きられる場所を広く調整しています」


 だから、同じような植物でも名前が全く違う物と『認識』先生は伝えてくるのか……。


「それは貴方が考える人だけの為では無く、人類全体や他の生物達の為でも有ります。魔素の濃い場所でも生きられるように。毒を持たなければならない生き物は毒が無くても生きられるような環境を提供しています」


 あぁ、初めてのアオダイショウもどきの毒も微毒だったのはそう言う意味か……。


「勿論、その他の微生物等も配慮します。宿主を壊すようなウィルス等もプロパティを一部変更し、大きな影響を及ぼさないようにしています。地球のエボラでしたか?近縁種はいますが、性質はかなり違います」


 エボラも有ったのか……。感染しなくて良かったぁ。でも性質が変わっているなら、感染しても大丈夫なのか?分からない。


「私達は遍く愛の対象として、全ての生き物を思っています。それはその生き物達が暮らす土壌、環境全般に関してもです。生き物達が暮らしやすいように、10万年を使い、少しずつ環境を調整してきました。テラフォーミングと言うのですか?それに近い行いです」


 シェルエが言っていた10万年か……。


「地軸や地殻の一部にも手を入れています。貴方が先程までいた地域も植物達の住処として存在しています。ただ、そこで人が生活する事は問題無いです。それが人の人たる営みなのですから」


 少し寂しそうに言った。


「あの子達は、また別の場所で生活してもらいます。なので、貴方の思うままに生活環境を作って下さい。また、ここの森に関しても通常は争い合う部分をプロパティの一部を変更し、共存共栄するように変えました。バランスも調整しています。傲慢と言われようとそれが神の神たる使命です」


 だからここは色々な竹が混在しているのか……。植物を司る神の手が入った森に違和感を感じていたのはそこか……。


「土壌に関しても植物達の為に、またそこで生きる生き物たちの為に調整しています。アレクトアさんが『ご都合主義』と言っていましたか?それを貴方方がどう使うのも自由です。私達は貴方方、また全ての生き物が幸せに暮らせるならそれで良いと考えます」


 本能の部分の幸せは、子孫繁栄だ。生き物の基本はそこに有る。それを出来る環境を提供していると言う訳か……。膨大な、莫大な世界だな。よく管理出来る。


「もし私が過剰に植物、生き物を根絶するように動いた場合はどうしますか?」


「貴方のメンタリティでそれを選ぶ可能性は皆無と考えます。ただ、結果的に何かを根絶したり環境を変化する可能性は有るでしょう。その際は皆で支えます。根絶しそうなもの達を移動させたりします。これまでもやって来ました。これからもやって行きます」


 はぁぁ。ばればれか。ただ、農業を進めた場合に在来種等を駆逐する恐れは有る。その場合に、どこかに移動して新たに繁茂させてくれるなら、心の痛みも少し減る。 


「では、自由に生きよと、そう言うのですね」


「はい。自由に生き、幸せを謳歌して下さい。細かい事に囚われ過ぎると、本質を見誤ります。導く程大袈裟な事は出来ませんが、貴方も遍く愛の一部です。その幸せを願っています」


 そう言うとパニアシモはにこりと微笑んだ。


「あまり気にしないで下さい。貴方方が生きやすい環境は私達が作ります。ただただ、幸せに生き抜いて下さい。それだけが、私達の望みです」


 遍く愛か……。それがどれだけ大変かは分からないが、それでも尚その思いで仕事をこなしているんだ。皆、凄いな。


「分かりました。違和感は有りますが、気にしない事にします。態々ありがとうございました」


「いいえ。また何か有ればお会いしましょう。今度は失敗しません。では、またの機会に」


 そう言うと姿を消した。


 <告。再接続を確認しました。深刻なエラーは復旧しました。不明なシステムの接続ログの確認を行います。…………確認完了。不明なシステムは接続されていません。正常な動作が確認されました。>


 いつもの『識者』先生。でもちょっと不機嫌に聞こえるのは私の思い込みか?セキュリティホールを使われるとか忸怩たる思いだろうしな。


 突然の邂逅に驚きながらも、この世界に来てから付き纏っていた疑問が少し解けて良かった。

 他の生物、まぁ、敵対する魔物と言う人類も同じく恩恵を受けている。それが攻めてくるのだ。そりゃ、人類生存圏が狭いのも分かる気がする。


 少し探せば、シホウチクも有った。『認識』先生で見ても毒は無い。明日の朝、早起きして筍を採取しよう。塩茹でで食べるのも美味しいだろう。あのほのかな苦みは好きだ。

 そう思いながら、野営地に戻る。


 食事の用意は終わっており、それを食べ、お風呂に入る。


 スマホのアラームを大分早めにセットして、眠りにつく。10日目はこうして終わった。

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