表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
163/810

第160話 過酷な過去の有る軍所属だったお爺ちゃんと会話をしていると興味が尽きません

 延々焚火で炙られた鍋の底の煤を落とすのに必死だ。こいつ手強い……。

 背後でレイが若干呆れた顔で見ている。手伝うかと聞かれたので、自分でやると答えたからだ。

 男爵と言っても、ただの冒険者だ。それを忘れたら、堕落する。男爵らしさなんて、公式の場でだけ出せば良い。私は実利を取る。


 徐々に、夕焼けが夜空に変わり始める頃に、入浴の準備を始める。リズを除く皆は毎日行われると思ってもみなかったらしく、狂喜乱舞だ。ティアナも珍しく取り乱していた。

 ロッサは身長の所為で、樽から出る時にちょっと怖いそうだが、湯に浸かるのは好きなので、喜んでいる。リズが介添え役になる。


 昨日の順番で、どんどん浸かっていく。チャットは若干長風呂だが、それ以外はテキパキだ。


 男性陣が終わり、馬車の番をしていたレイを呼ぶ。


「私めもですか?」


 キョトンとした顔で、聞いて来る。


「まぁ、仲間のようなものですから、是非楽しんで下さい」


 呆然としている間に、説明を進めていく。


 服を脱ぎだすが、この人引退した体じゃない。薄い脂肪の下は凶悪なまでにしなやかな筋肉が詰まっている。

 丁度ロットの完成形なのだろう。見た瞬間びっくりした。


 頭と体を泡が出るまで丁寧に洗い、樽に浸かる。


「あぁ……。これは。気持ちの良いものですなぁ……。過去山奥の作戦の際に、現地で湯の湧き出る泉の話を聞きました。現地の民は入っていたようですが、私達は尻込みました。はは。今思うと、後悔してもしきれませんな」


 にこやかに、話し出す。

 自然湧出の温泉で、入浴可能の温度か……。秘湯だな。凄い羨ましい。そのうち行ってみたいな。


「私はもう、軍属より引退した身です。守秘義務からも解放されました。男爵様もこれだけの才覚をお持ちだ。すぐに登り詰めて行かれるでしょう。なので少しだけ」


 真剣な顔で、言葉を進める。


「知っておられるかは分かりませんが、斥候団は戦争や他の軍の補助だけでは有りません。国内のあらゆる領地での諜報活動も行います。隣国に赴く者もおりますが、少数です」


 やはり、王家は、斥候団でインテリジェンスをまとめてやっていたか……。


「この辺りは子爵以上になれば、皆伝えられます。ただ、やはり諜報活動と言うのも綺麗事では済みません。汚い仕事も多うございました。それに疲れたのでしょうな。この歳で引退を決めましたのも」


 レイが額に滲んだ汗を端切れで拭きとる。


 男爵なんて、貴族と言っても誰でもなれる。言ってしまえばペーペーだ。そんな役職に大事な話なんてしない。

 子爵以上は実績を上げて国に認められる必要が有る。本当の貴族生活の始まりは、そこからなのだろう。


「その際に公爵閣下より、若い者に混じって生活を共にして若さを取り戻せと賜りました。あの時は意味が分かりませんでしたが、今となっては閣下のお言葉は正しかったと実感しております。毎日が楽しいのです」


 レイが空虚な取り繕った笑いでは無く、心から微笑む。


「昨晩もそうですが、男爵様は本当にお優しい。仲間をそしてこれからの自領の民を優しい世界へと導く為、邁進なされております。私はその先が共に見とうございます。僭越ながら私レイは今後ともお傍を離れず、男爵様の御為に働く所存にございます」


 樽の中、真剣な顔でレイが深々と頭を下げる。


「そんな大層な話では無いです。今でもレイには頼り切りですから。さぁ、あまり長湯は体に毒です。上がって冷たい物でも飲みましょう」


「ははは。ありがたきお言葉です。では、失礼致します」


 そう言うと、樽から上がり、体を拭い、服を着る。もしもの時の為に用意していたカップに冷たい水を生む。


「どうぞ」


「これはこれは。ありがとうございます。……あぁ。甘露ですな。こうやって汗をかいた後の水と言うのは、何物にも代え難い。幸せですな……」


 水を飲み、空を見上げながら、訥々と語る。


「お手数をお掛け致しました。これより引き続き、馬車の護衛の任に着きます。どうかお体には重々お気を付け下さい」


 そう言うと、深々と礼をして、馬車に向かって行った。


 私も用意して、樽に浸かる。

 しかし、調査旅行2日目も無事に済んだか……。やった事はうどんを作ったぐらいだけど。まぁ、イベント盛り沢山よりはましか。

 後3日程度で、まずは町の予定地だ。頑張ろう。


 そう思いながら茹らない程度に浸かり、昨日と同じく樽を洗う。


 前番のティアナがもこもこお化けで警戒しているのを見ながら、ドルのいるテントに入って行く。

 ちなみにテントの内訳は女性用2組はリズ、チャット、ティアナ、ロッサが交互に使っている。男性用でドルと私。もう一つはフィアとロット用だ。


 昨日より早めだが、色々やっていたら眠くなってきた。毛布に包まった瞬間、意識が落ちて行くのが分かった。明日以降も頑張ろう。


 そうやって、2日目の夜がゆっくりと静かに終わって行く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価を頂きまして、ありがとうございます。孤独な作品作成の中で皆様の思いが指針となり、モチベーション維持となっております。これからも末永いお付き合いのほど宜しくお願い申し上げます。 twitterでつぶやいて下さる方もいらっしゃるのでアカウント(@n0885dc)を作りました。もしよろしければそちらでもコンタクトして下さい。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ