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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第159話 偶に無性に麺類が食べたい時って無いですか?特にラーメンと限らないですが

 しばらく孤独に訓練をしながら警戒をしていると、ざわざわした雰囲気を感じて野営地を振り向く。

 どうも、リズ達が帰って来たらしい。近場を歩いていた調査団の人間を捕まえて、うちのメンバーを呼び出すようにお願いした。


 少し待っているとティアナが来てくれたので、周辺警戒の交代をお願いすると、すぐに了承してくれた。どうも若干憔悴しているようだ。


「お相手に苦労している?」


「私にも分からない事を聞かれても答えようが無いわ。しょうがないから詳しくはリーダーに聞いて欲しいと返しているわ」


 うわ……。それも面倒くさそうな。まぁ、ある意味自業自得か。甘受しよう。若干今までの状況の引継ぎをして、その場を離れる。


 野営地の真ん中に向かうと、小さな人だかりが出来ていた。中を窺うと、リズとロッサが凄い勢いで、大物の鹿の内臓を取り出していた。この後、川で冷やすようだ。


「おぉ……。大物だね……。あまり想定していなかったよ」


「探したのよ?ロッサと手分けして。でもお互いが追い込み出来るから、やっぱり楽だよ」


 リズが言うと、ロッサがこくこくと頷く。


「リズさん、格好良かったです」


 だが、材料はこれで揃った。


 私達がここまで到着するのに丸1日かかった。馬だけと行っても休み休みだ。村での引継ぎも有る。潰す勢いで走らせなければ、到着は昨日と左程変わらない。

 そう考えると、今日1日は料理の時間に充てる事が出来る。


 内臓と肉に関しては、出来るだけお昼ご飯に回そう。一部の肉が有れば晩ご飯には足りるだろう。


 そう思っていると内臓の処理が終わったのか、リズがロープで縛り鹿を川に持って行った。流石慣れている人間、二人がかりだと仕事が速い。


 獲物が冷えるまでと言う事で、周辺警戒を転々としながら、待つ。


 そろそろお昼の用意を始めるかと言う話が出た頃に、鹿が冷えたとリズから話を受けた。そのまま捌きをお願いする。

 しかし、何度見ても、猟師が獲物を捌く姿は圧巻だ。日本だと、マグロの解体ショーは見たが、それ以上の迫力だ。皮がするりと剥けるのが小気味好い。


 お昼担当はロットなので、鹿の内臓と肉をお願いする。私は骨を貰い、焚火を別で用意する。積載の薪を補充しても、余った分だ。

 骨を炊く予定の大鍋も今回の旅に合わせて購入した。寸胴に近いシチュー鍋だ。業務用らしい。

 9人からの食事を作るので、諦めて調整出来る台座と一緒に購入した。馬車での移動じゃ無いと持ち運ぶのは面倒だろう。


 別の焚火に台座を据え付けて、火を点ける。ある程度炎が上がり始めたところで、鍋を置き水を生む。グラグラと沸いたところで洗った骨と香草を投入して行く。

 すぐに灰汁が浮いて来るので、まとまった段階で、丁寧に取って行く。ここからは地道な戦いだ。周辺警戒はパーティーメンバーでローテーションして貰った。


 強火の前で灰汁を掬っていると、すぐに汗が滲み始める。幾ら寒くなって来たと言っても火の前では熱い。端切れで拭いながら、飽きずに様子を見続ける。


 そんな時間を過ごしていると、お昼の時間になった。鍋を火から離し、皆の元に向かう。


 お昼ご飯は鹿の内臓のスープと、脚の炙り焼きだった。スープは香草が効いており臭みも感じない。炙り焼きも香辛料をふんだんに塗しており、複雑な味わいで両方美味しかった。

 ロットも野営慣れしているので、この辺りは信頼度が高い。まぁ、本人はフィアに褒められてニヤニヤしているが。


 食事も終えて、私は改めて、鍋の様子見だ。水分が減り過ぎれば熱湯を足し、灰汁を掬う。

 何時の間にか周囲は鹿の出汁の香りで溢れていた。でもまだ早い。もっと、骨が崩れそうになるまでだ。慎重にかき混ぜながら、鍋を見つめる。


 周囲を見ると、調査団の人間は今後の計画の修正や、実際に現場で何をするかの打ち合わせを行っている。女性陣も詳細な情報が得られないと分かったのか一時期の勢いは無くなっている。

 パーティーメンバーは周辺警戒と、手が空いている人間は訓練、後はテントで待機だ。個人的には待機してもらわないと生地が冷えるので助かる。

 御者達は万が一を考え、1台の内2匹の馬を連れて、周辺の草を食べさせている。メンバーから護衛も付けている。毒草とか食べないのかと余計な心配をしたが、有ったとしても御者が事前に摘んでしまうらしい。馬も親から学ぶのか食べないとの事だ。


 私は、土魔術の訓練をしながら鍋番だ。周囲に大小様々な石ころが転がっている。風に関しては、2.00に上がってから習熟速度が極端に落ちた。やり方が間違っているのか、そう言う物なのか分からない。

 水は規模と温度の調整でじりじり上がるのは分かった。だが、こちらも上がりは悪くなった。1.00で一人前、2.00で熟練者、3.00で人外なイメージなのかな?


 特に大きな出来事も無く、日は順調に傾いて行く。15時頃だろうか、村に送り届けた3人が馬に乗って合流してきた。


 話を聞くと盗賊達に関してはカビアに引き渡したらしい。そこから町に馬を出し、子爵の判断を仰ぐとの事だ。

 本人達は最低限の食料と水の対応はされているとの事。まぁ、その先を考えると、何も言えない。

 引継ぎが完了したので、朝から駆けて来て、この時間らしい。元々ここに到着するのは夕方早めの予定だったから、馬だけならこんなものか。


 疲労も有るので、3人には休んでもらう事にした。余った馬の3頭だが、偽装兵の人が持ち回りで1人乗って即応担当に付くと決まった。

 残りの馬は先導に着いて来るそうだ。寒いのに申し訳無いと言ったが特に気にしていなかったようだ。流石、軍人さん。


 今日はもう時間が遅い為、次の野営地だと夜になる。それは危険と言う事で、予定通りこのまま野営と言う話でまとまった。


 話し合いが終わると、調査団の方は食事の用意を始めた。時間を見ると結構な時間が経っていた。


 鍋の方の味見をしたら、濃い出汁が出来ていたので、弱火にしておく。

 テントで寝かせた生地を馬車に運ぶ。土魔術で麺棒状に生みだしてみたが、成功した。イメージがCADで設計した円柱だが、補正が入ったのか想像通りの物が出来た。

 打ち粉を塗して、生地を延ばしていく。薄く延ばしたら、折り畳み、均等に中華包丁もどきで切って行く。包丁に関してはネスに打ってもらった。本人は怪訝な顔をしていたが、重宝している。


 鹿肉の腹身に香草と香辛料を塗して串焼きにして行く。頃合いを見ながら、並行して別の鍋にお湯を生み、麺を茹でて行く。カップのサイズを考えて、半分ずつ茹でる。

 鹿の出汁はぐずぐずになった骨を慎重に取り出し、塩で味付けをしていく。


 麺が茹で上がれば桶の冷水で洗い、ぬめりを取る。再度鍋に熱湯を生み、温め直す。


 カップを用意してもらい、麺を小分けにしていく。菜箸は暇な時に適当な木材を削って作った。作る時はバランスの調整とか、これはこれで難しい物だと思った。

 ネギ系の香草をその上に塗し、肉を置き、出汁をかけていく。塩ラーメンならぬ、塩うどんか?まぁ、完成だ。暇が無いと作れないな、これ。


「本日も一日無事終わりました。麺もスープもまだ有りますので、お代わりは言って下さい。では、食べましょう」


 フォークはそれぞれ木製の2つ又の物を持っている。昔から何故2つ又なのか疑問だったが、最低限の用途と量産を考えた場合に3つ又で有る必要が無いのだと分かった。


 スープを口に含む。長時間じっくり煮だしたスープは濃いコクと濃厚な甘い香りを放つ。爽やかな緑の香りと一緒に口を楽しませる。牛骨ラーメンの有名店は行ったが、あれよりもっと明確に甘い。

 麺もふんわりからしっかりに変化し、最後にシコっと千切れる、独特の歯応えが出ていた。足踏み工程が足りないかなと思ったがモチモチ感が出てこれはこれで良いなと思った。


「うわ、何これ。モチモチしてるのに、噛み応えが有る。超気持ち良い。意味分かんない」


 フィアが笑顔で叫ぶ。


「なんやろう……。鹿の肉が乗ってるさかい、香りがすんのは分かるんですけど。この濃厚な感じは……。美味しいんですけど、ちょっと表現する語彙が有りません」


 チャットが何か思案顔でぶつぶつ言っている。ただ、物凄いペースで食べているので、満足なのだろう。


「芳醇な香りね。鹿ってこんな香りを出すのね。それに、スープが濃厚……。野営と言うより店でも食べた事は無いわ……。何よ、これ。もう、官能的と言って良い歯応えね……」


 ティアナも首を傾げながらも、嬉しそうに食べている。


「はー、これが狩って来た鹿ですか?何時も、お肉を焼くだけでしたので、こんな使い道が有ると知りませんでした。美味しいです」


 ロッサもにこにこと麺を静かにちゅるちゅる啜っている。


「鹿……ですか?甘いですね……。獣の肉は飽きる程食べて参りましたが、骨がこれほどの味を出すとは……。軍でも学ぶ事は有りませんでした。精進します」


 レイも珍しく感情を露わに、称賛している。


「ヒロ、家でもこんなの出さなかったじゃない。ずるいよ?」


 リズが上目遣いで睨んでくる。黙って頭をぽんぽんと叩く。


「薪が大量に必要だからね。機会が有れば、また作るよ」


 皆が凄い勢いで食べるので、予想通り、次の麺も綺麗に消えた。肉は無いので、お代わりはネギだけのかけうどんだが、それでも大満足だったらしい。


 後片付けをしながら、こう言う麺文化みたいな麦の利用法を伝えて行ければなと思った。やはり、寒い中で食べる麺類は最高だ。

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