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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第13話 冒険者ギルドに来ましたが、思っていた感じではありませんでした

 村に出ると既に賑わいが始まっていた。

 農業従事者は夜明けと共に作業に入るらしく、各農地に疎らに人が鍬を振るっていた。

 製鉄技術が発達しているのか、風呂鍬を使っている。


「牛も馬もいないから犂は無いのか。三圃式農業と一緒に農業改革の基本要素だった記憶が有るんだけど。まずは大型家畜の越冬が出来るか、かな」


 一部には屋台が立ち並び、食欲をそそる香りを漂わせている。

 住居が有れば屋台の必要性はそこまで無いはずなので、単身者や宿泊者が多いのだろう。


「農地の規模に対して住居や設備の数が充実していたけど、何故だろう。何かのハブになっているのかな?」


 <解。呼称トルカ村の主要産業は農業です。それに付随し、呼称南の森での採取、呼称北の森での討伐を実施するに当り、中間地点と言う距離的アドバンテージが有ります。>

 <また、西側には呼称ルース村、東側には呼称メブブルク村が存在し、それぞれとの交易の中継地としての立地条件が有る為、比較的他村より豊かです。>


 『識者』先生が答えてくれる。

 ルース村にメブブルク村か。リザティアのお兄さんもどちらかに出張しているのかな。


 取り敢えず、TODOの消化の為宿屋に向かう。

 ティーシアさんにベッドの意匠の看板が上がっていると聞いていたので見回ってみると、3軒ほど発見出来た。

 1軒は明らかにハードルが高そうなので選択から外し、近場の2階建ての宿に入ってみる。

 名前は『青空亭』との事。


 あれ?先程から普通に文字を読んでいる。


 <告。彰浩の視覚情報の認識を発音と同じく、相互補完しています。>

 <記述の際にもインターセプトし、表記を変更します。>


 流石『識者』先生。そつがない。

 会話と記述は異世界系の物語の一番のネックなので、そこが解消されるのは本当にありがたい。

 この歳で新しい言語覚えるのは本当に無理。

 会社の方針でTOEICの受験が今年から予定されていたけど、本気で転職しようかと考えてしまった。


「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?それともご朝食ですか?」


 恰幅の良い前髪の禿かかった60代くらいの男性が声をかけて来る。

 身なりも小奇麗で印象は良い。

 ロビー部は食堂が併設され、掃除も行き届いている。


「ワラニカ王国に入って初めての宿泊を予定しています。貨幣の情報と宿泊費を教えて頂けますか?」


 男性は店主で有り、奥さんと従業員2人で経営をしているらしい。

 貨幣に関しては秤量貨幣では無く、計数貨幣との事。

 各王国毎に貨幣種決まっており、両替が必要との事。

 両替の際には国の信頼度に合わせてレートが設定されており、現在のワラニカ王国貨幣は若干低目に設定されているとの事。ここからも国力が見えてくる。

 ちなみにワラニカ王国貨幣はワールと言う通貨単位で、一般通貨は一律鉄製との事。

 1、5、10、50、100、500、1,000、5,000、10,000、50,000までの種類が有りそれぞれ大きさが2mm程度ずつ大きくなっている事と表面に刻まれた数字で確認するとの事。

 裏側には、統治を司る神と有名な歴代の王の顔が刻まれている。正直、名前を言われても全く分からない。

 100,000、500,000、1,000,000単位のワールも有るがこちらは金貨で有り、大きな商取引等で使用される為一般的なお店ではあまり使われないとの事。

 金貨はともかく鋳造の鉄貨なら偽造し易そうだが、どうも統治を司る神の権能によりすぐさま察知されリアル神罰が下るとの事。

 過去の神罰があまりに凄惨かつ、一族郎党範囲で有った為、偽造は割に合わないと言うのが各国の認識らしい。

 まぁ、自分の顔が刻まれているものを偽造されるのも気分が悪そうなので、納得は行く。若干子供っぽい感じもするが、ギリシャ神話の神もやりたい放題だったなと。


「一泊は朝夕食事付きで5,000ワール。食事抜きなら4,000ワールになります。繁忙時を除きキッチンはご利用頂けますので自炊も可能です」

 

 日本円で考えると、安目のビジネスホテルな値段だなと。

 一人部屋はそれなりに空いているらしい。


「お湯は桶1杯で500ワール。蝋燭は1本1時間毎に1,000ワールとなります。必要な際にフロントにお声がけ下さい」


「ありがとうございます。取り敢えずこちらでの宿泊を予定していますが、他も少し見てみたいので、また後程寄る事にします。ありがとうございました」


 あぁ、ちなみにトイレの事も聞いたが、各階に共用の腰かけ式トイレが設置されているらしい。水場も併設されているとの事。

 トイレ重要、超重要。


 取り敢えず、TODOリストチェック。


 [x]貨幣価値の確認


 宿を出て、もう1軒へ向かう。場所は大分中心地から離れている。

 看板には『大地と槌亭』と書かれている。

 扉を開け中を除くと、フロントと併設されているのは食堂兼酒場のようだった。と言うのも酔って潰れている鎧姿の人々が死屍累々となっている。

 周りを見渡しても掃除が行き届いていない。店主も申し訳ないが若干小狡そうな壮年の男性だった。

 収入にもよるが、お金で安全を買った方が良いなと、声もかけずその場を後にした。


 取り敢えず、TODOリストチェック。


 [x]宿の料金の確認


 うむ。リストが埋まると物事が進んでいる感じがして気持ちが良い。

 さて、朝の喧騒も落ち着いてきた頃なので、ギルドに向かいますか。

 

 村の中央に有る比較的大きな建物に向かう。黒地に白い盾と交差した両刃剣の看板がギルドだ。『冒険者ギルド トルカ村支部』。うん、ここだ。

 扉を開け中に入ると、役所と昔の職業安定所を足したイメージの内装だった。

 テンプレだと酒場が併設されてガラの悪いお兄さんが喧嘩を売ってくるイメージだったので、若干戦々恐々としていたが、拍子抜けだ。

 登録と書かれた窓口が見えたのでそちらに向かう。担当は20歳くらいの素朴な村娘って感じの女の子だった。


「初めまして。冒険者ギルドにようこそ。ご登録ですね?」


「はい。登録と規約の説明をお願いします」


「では、まず規約のご説明の後、ご登録に移ります」


 仕事の内容に関してはティーシアさんに聞いていた事の説明が大半だった。


「税金に関してですが、ご登録の後、貴方は冒険者ギルドの所属者となります。冒険者ギルドの税収は各依頼より各国の税率に基づき天引きされます。税収額は国毎にまとめ報告されますので日常では気になさらなくて結構です」


 あぁ、天引きなのか。一々税金を申告するのも面倒なので助かる。

 正直先程の宿屋の醜態を見ると江戸っ子気質なのも多そうなのでその方が確実なのだろう。


「また冒険者の方々には業務貢献に応じて、等級が付与されます。最低の10等級から最高の1等級までの10段階となります」


 ぉぉ。冒険者ランク。テンプレの俺つえーなやつか。


「この等級に関してですが、本質は信頼度です。稀に強さの基準と誤解される方がいらっしゃいますが、真摯に任務遂行を続ける信用の積み重ねとご認識下さい。また等級に応じ選択可能な業務範囲が増えます。ただ、該当任務が実施可能かを判断する為、昇級毎の審査が発生します」

 

 例えば、ある等級で護衛任務が有るのに、護衛をした事が無い人間が付いても碌でも無い事になると。

 スペシャリストは各職分のギルドに所属し、冒険者はゼネラリスト向きと言う事か。


「信頼度と申しましたが、これは文字通りとなります。不慮の事故等での任務不履行に関しては情状酌量が有ります。故意、過失での任務不履行に関しては相応の罰則が科されます」


「ちなみに罰則を例で挙げると、どのようなものですか?」


「過去発生した事例では、パーティーでの配達任務の際に配送物を略取した冒険者がいました。該当者に関してはギルドの総力を挙げ拘束、その際の経費・配送物の代金・遅配による損失を科しております」


「現在その人はどうなっているのでしょうか?」


「かなり前の話の為、もう故人です。ただ、生涯その際の損失を支払う為だけに生きていた事は伝わっております」


 かなりヘビーだ。聞いてる限りそこはかとなくブラックな香りがする。

 まぁ、基盤もないし、生きて行く為に選択肢は無い。


「依頼に関してですが、同時に受ける事が出来るのは1件のみです。ただ、実施に際し対象外の事象が他の依頼に抵触する場合は、後付けでの処理が可能です」


 例えば、採取依頼を受けて自己防衛で討伐を行った場合も、討伐対象が依頼に上がっている限りはそちらも対象になると。


「詳細に関しては別途明文化した資料を2階の書庫に保管しております。そちらをご確認下さい」

 

 3階建ての建物だが、2階には資料室が有るらしい。後会議室も併設されており、内密な話も出来るらしい。

 デリケートな依頼者もやっぱり訪れるらしい。


「登録の意思はございますでしょうか?」


「はい。登録を進めます」


 手っ取り早く生活費を集める為には四の五の言っていられない。


「では、こちらに必要事項を記入して下さい」


 A6くらいの大きさの羊皮紙が手渡される。名前はアキヒロ、年齢は35歳、現在の所在地は取り敢えずアスト宅で良いか。


「ではこちらの針に人差し指を突き刺して下さい。血が滲む程度で結構です」


 拇印でも押すのかなと思いきや、取り出してきた白いカードの丸印に血を落とす。

 すると、白いカードが仄かに輝き、血は跡形も無くなっていた。

 何これ?


「こちらがギルドカードとなります。今後の貴方の身分を証明する物となります。また、このカードをインデックスに、貴方の業務状況のデータベースにアクセスする為、紛失等にはお気を付けください」


 何か近未来なアイテムが出てきた。文明が隔絶している。


「カード及び読み取り機器に関しては、術式を司る神及び細工を司る神が量産している為、お気になさらず」


 神様が家内制手工業のように機器を量産している姿を思うと、ちょっと和む。後、動力は何なんだろう。お約束で魔力とかかな。


「動力に関しては周囲の魔素を消費し稼働しています。消費量は微々たるものですし、ほぼ故障も有りません」


 カードを見ていると、先程羊皮紙に記載した情報が浮き上がってくる。ちなみに10等級と言う情報も記載されている。


「なお、このカードは貴方の魂に直結しpingを打ち続けています」


 異世界でpingとか、意訳だけど、やはり合わない。


「貴方の魂が遊離した場合、各読み取り機に死亡報告が流れます。これをトリガーに遺言サービスも無償で提供しておりますのでご活用下さい」


 死ぬ時までサービス有か。出来れば使わないで済むようにしたい。


「では、説明と登録は以上となります。貴方の信頼がギルドのそして貴方の力となります。どうかご自愛の上、頑張って下さい」


 にこやかに微笑みながら、受付嬢さんが促す。


「対応ありがとうございました。説明も分かりやすかったです」


 長々と続いた説明に若干の疲れを覚えながら、依頼を探しに行く。

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