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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第152話 物語とかで盗賊とか討伐した場合、後始末ってどうするんでしょうか?

 結局、戦闘に参加するのはリズ、フィア、ドル、それに偽装兵5人。そこに私とロットとロッサ。計11人。4人を先制で処理しても、2倍強の相手か。悪手だな。


「盾部隊は弓の射程外で一旦進軍を停止。私とロッサが処理次第、合流する。その後は私が指揮を執る」


 地面に簡易な現況図と、部隊を表す石を動かしながらそう伝えると、円陣を組んだ戦闘要員の皆が頷く。


「ロッサさん、作戦開始の合図は風魔術でこんな感じに合図を出すから。それを感じたら、2人を倒して欲しい」


 実際にロッサの右肩に軽い風の塊を当てる。怪我はしないが自然の風とは明らかに違う。合図にはなるだろう。

 射手への急襲は、右側を私達、左側をロッサが担当する。


 戦闘装備のまま、馬車に乗り込み、車止めを警戒しながら、ゆっくりした速度で進み始める。


「レイ。御者と言う立場で申し訳無いけど、部隊の直後で待機してもらえるかな?もし何かが有った場合、伝令として退避を皆に伝えて欲しい」


「畏まりました。雇用契約に関して、あまり厳密にお気遣いなさらないように。引退した身ですし、御者の身ですが、降りかかる火の粉は払っても良いと公爵閣下、子爵様よりもお話を頂いております」


 あぁ、やはりロスティーとも関係が有ったか。まぁ、今は私の部下だ。気にしない。

 それに気にするなと言われても、私の性分だし、契約は何物にも代えがたい程に大切だ。


「分かった。だが、戦闘に参加する必要は無い。もしもの際の伝令に徹して欲しい。私に取って、大事な部下なのだから。命を大切に」


「勿体無いお言葉です。分かりました。もしもの際は後続を率いて逃走を補助します。ご武運を」


 深々と頭を下げるレイの肩を軽く叩く。引退した人間も使わなければならない状況に、自分の不甲斐無さを感じる。もっと力が必要だ。


 予定した場所に馬車が到着したので、順次停車して行く。

 今回参加する部隊が、纏まる。


「さて、本番だ。ロッサさん、無理はしない。自分の身が優先だ。処理次第すぐに撤退を。無理なら手を出さず下がって報告。大丈夫?」


「分かりました。無理はしません。もしもの際は、即座に盾部隊に接触、報告します」


 ロッサがキリっとした顔で答える。若干、緊張の色も見える。無理も無い。初めて人を殺すかもしれないのだ。


「先程も言ったけど、全ての責任は私が負う。君が人を殺したとしても、それは私の指示の所為だ。全てを私に擦り付ければ良い」


 そう言いながら、ぽんぽんと頭を叩く。一瞬ぽかんとした顔の後に、花咲く微笑みを浮かべる。


「はい。頑張ります」


 ロッサが力強く頷く。


 盾部隊はじりじりと前進。私が戻らない場合、万が一でも本体とは接触しないよう厳命した。レイの『警戒』で本体が近付くようなら、後退するようにも指示を出した。


 私とロット、ロッサが急ぎ、前方の射手の視界外辺りまで走り、林に潜り込む。ロットの『警戒』と私の『警戒』でお互いの位置を調整しながら『隠身』を全開で前進する。

 私達が若干先行する形で、進む。ロッサにも『警戒』でこちらの状況を把握しながら進むように指示している。


「こちらの4人が『警戒』で確認出来ました。等間隔で配置されています。本隊はそれなりに奥です。大声を上げられた場合は気付かれますが、殺害による木からの落下の場合は微妙なところです」


 ロットの報告を聞き、改めて2人目が問題だなと改めて思う。相手が緩んでいるなんて思い上がりはしない。熟練の兵士相手と思う事にする。


 相手の視界ぎりぎり辺りから『隠身』だけでは無く、進み方にも気を付け、音が出ないように進む。

 気付かれないぎりぎりと見た場所で、一旦停止。ロットの指摘で射手を特定した。小汚い男が弓を片手に木の上でぼけっとこちらを向いて座っている。

 ロッサも止まった。用意はここまでだ。


 視界に微かに映るロッサにシミュレーターで風の塊をぶつける。

 と同時に、男の肘と膝、そして声帯辺りを小さく爆散させる。同時に衝撃で男が木から落下する。

 声帯辺りは太い血管が多い。状況によっては死亡だろう。くそっ、気持ち悪い。


 ロッサも撃ったのか、前方に走り出す。こちらも音を気にせず全速で次の位置取りに向かう。

 同じような男がもう1人、樹上で待機している。若干不審そうな顔をしてきょろきょろしているのは先程の男の落下音が聞こえたからだろう。

 こちらも同じく肘、膝、声帯を狙って爆散させる。こちらも衝撃で木から落ちた。これで一旦、ミッションコンプリートだ。


 ロッサの方は弓を撃つ手間が有ったのか、若干時間を置いて、後方に駆け出す。私達も、盾部隊に向かって林の中を駆け出す。


 ロッサを含む部隊に合流し、ロッサの状況を聞く。


「首元を狙いましたが、絶命していません。両者うめき声は上げていましたが、痛みで大きな声は出せないでしょう」


 隠密作戦はここまでか。盾部隊に向き合う。


「ここからはぶつかり合いの可能性が高い。射手、魔術士に関しては、私が確認する。いなければ白兵戦だ。諸君の奮闘を期待する」


 そう言って隊列を組み、盾を前面に押し出し前進を始める。弓を射られた場合、致命傷だけは避ける為の構えだ。

 リズ、ドル、フィアが先頭、その背後から左右斜めに5人の偽装兵が守る。私はドルの真後ろ、ロットとロッサはその後ろ。少し下がってレイが配置されている。


 歩き始めてしばらくすると、前方の木々の合間から、ばらばらと統率されない、軽装と言うのも烏滸がましい、ほぼ革鎧だけの男の集団が現れる。練度が低いな。

 数を数えて26人が隊列とも言えない、集団を作る。レイを振り向くが目礼される。これで全員だ。


 集団の中から比較的ましな革鎧を着けた男が前に出て叫ぶ。


「ひゃっはぁ。その人数で勝てると思ってんのか!?馬鹿じゃねえの。ははははは。金と、食い物、女を置いていけば見逃してやる。あぁ、ババアはいらねえぞ?その場で叩っ斬るからな」


 人数差に優勢を感じているのか、下劣な男が下劣な言葉を吐く。出て来る時に確認したが、弓を持った人間はいない。

 ホバーで一旦前に出て、術式制御の範疇に全員を収めるが、魔術士もいない。すぐに戻って、隊列の正面に立つ。


「弓無ーし、魔術無ーし」


 そう背後に叫ぶ。


「貴様等、貴族相手に盗賊行為か?このまま縛に就けば命までは取らない。これはお願いじゃない。命令だ」


「馬鹿じゃねえか?この人数相手に何、寝言抜かしてやがる?あぁ、女いるじゃねぇか。さっさとこっちに寄越せ。お前は後でバラバラにしてやるよ」


 侮蔑の表情で、半笑いを浮かべながら男が叫ぶ。


 あぁ、リズの事か。


 頭の中のどこかで微かに何かが切れる音がした。戦術?この愚かな兵士未満の集団にか?

 こんな者の為に、ロッサに一生物の傷を負わせるところだった。


 延々沸き上がっていた怒りが、ピークに達した。


 目の前の男を含めて、有視界の男たちの肘と膝が小さく爆散する。

 悲鳴を上げながら、倒れ込む男達。視界が開けた先から、順に同じく爆散させて行く。作業と一緒だ。心は冷たく沈み込み、ただ、この作業を繰り返す。


 全員が倒れ伏すのに、左程の時間は必要無かった。


「レイを残し、全員馬車に戻れ。その際、先程の4人は確保、捕縛し後退せよ。該当の4人を除く担当者以外は装備を解いて良い。一切こちら側を向くな。厳命だ」


 後ろの皆にそう叫ぶ。戸惑いながらも、徐々に速度を上げて、馬車に戻って行く。


「すまないレイ。少し醜い物を見せるかもしれない」


「お気遣い無く、男爵様。戦時では日常茶飯事でございます。存分になさいませ」


 そう話しながら、注意し、集団に近づく。痛みにもがきながら、悲鳴と罵声を上げる集団。

 先程の喋っていた下劣な男を、集団から遠ざけるように蹴り出して行く。


「おい、芋虫。お前の仲間はこれだけか?」


 凍り付いた様に硬い声でそう聞く。


「がぁぁぁぁぁ。てめぇ、殺す。ぶっ殺してやるぅぅぅぅ」


 男が何を考えているのか、喚き散らす。


 その瞬間脛の辺りが、小さく爆散する。悲鳴が新たに大きく響く。


「おい。言葉は分かるか?私は仲間がまだいるのかと聞いた。話せ。さもなくば全身を潰す」


 脛の部分を神術で治す。肉までを爆散させた程度だ。全く苦にもならない。


「あぁぁぁぁぁ、殺す、殺す」


 男は喚くのを止めない。再度同じ個所を爆散させる。


「舌を噛もうが、答えない限り、治し続ける。苦痛は永劫に続くぞ?言葉は通じるか?話す気は有るか?話すまでは続けるぞ」


 そう言いながら、傷を治す。


「がぁぁぁ……。すんません……すんません……もう、勘弁して下さい」


 流石に状況を理解したのか、謝って来る。


 もう一度、脛を爆散させる。


「ひぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ」


「芋虫。お前は今までそう言った相手をどれほど殺して来た?その言葉を簡単に信じられると思うか?ちゃんと考えて答えろ。仲間はいるのか?」


 そう、先程倒れた集団に近付いた際に、『認識』先生が一般的なスキルと共にスキル『殺人』と言う言葉を言っていた。

 内容に関しては、分からない。今は知りたくも無い。ただ、スキルが生える条件を考えれば、碌なスキルじゃないだろう。

 それも、集団の半数以上に生えている。

 そう言う意味で、この馬鹿共は全く信用出来ないし、こちらも油断する気は無い。


 脛を癒す。


「仲間は、これで全員です」


 痛みに顔を歪めながら、懇願の顔で答えて来る。


 再度脛を爆散させる。


「なんで!?答えた!!答えたのに」


 脛を治す。


「もう一度問う。他に仲間はいるか?」


「いません。本当です。このまま続けても、他に答えようが無いです」


 あぁ、やっと折れたか。

 拷問等禁止条約?何それ?リズや仲間の危険を天秤にかければ、考えるまでも無い。ここは地球では無いのだから。


 一旦は有る程度信用出来る情報が引き出せると仮定して、話を聞いて行った。


 今回の襲撃に関しては、調査団の噂が町で広まった段階で計画された物らしい。

 出て行くのが、護衛のいない2台の馬車。村には7等級もおらず、8等級もそこまでいない。

 その上で、向こうの仲間が私達が護衛として馬車1台が付いたらしいと、報告して来た。

 規模的に護衛がいても最大12人程度。数で潰せると踏んだらしい。


 こちらは4頭引きとは言え馬車を引いている。本気で走らせた荷物無しの馬には速度で敵わない。しかも休憩無しで報告しているので、先回りはされる。

 ちなみに、盗賊団としては独立しており、仲間はいないらしい。30人の集団を食わせるのだ。それ以上の規模だと無理だし、目立つ。そう言う意味では妥当な回答だ。


 後顧の憂いが無いのはありがたかった。


 聞いていて、頭が痛くなってきた。そんなに貴族って嘗められているのか?それとも、こいつ等が馬鹿なのか?

 レイに確認してもらうと、周囲に30頭の馬がいるらしい。


 馬車まで戻り、仲間と調査団の人に賊の捕縛の指示と馬の回収をお願いした。

 その際に、射手に関して3人は無事、1人は危険な状態だったので傷を癒し、再度肘と膝を壊す。

 治して壊す事に矛盾と悲哀を感じながら、無表情に実行する。


 結局、童貞は切れなかった。


 皆の作業が終わるまで、座り込んで、ぼーっと考え込んでいた。ロッサの事、私の事、今後の事。


 ふと、背中からふわっと抱きしめられる。


「あまり、考え込んでも意味無いよ?ティアナも言っていたけど、何時かは通る道なんだから」


 リズだ。


「うん。分かっているけど、やっぱりね。出来れば手は汚して欲しくないとは考えちゃうよ」


「ヒロはそうやってすぐに全部自分で背負おうとする。何回も言ったよね?私も、皆も、一緒に背負うよ」


「まぁ、それ以降も色々やっちゃったから」


 拷問まがいの事も頭から離れない。


「それもヒロが必要だって思ったからやったんだよね?皆の事を考えてやった事なら、考えても仕方無いよ」


 そう言うと、ぎゅっと抱きしめてくれる。あぁ、少しだけ冷えて固まった心が解されるのが分かる。

 守ると決めても、この体たらくか……。日本人のメンタリティの弱さに呆れそうになる。でも、少なくとも、成すべき時は成す。改めて誓った。


 全員を捕縛し、馬も集めた。

 ペルスにこう言う場合の対処を聞いてみる。


「一般的には、殺します。襲撃と言う事は私達が証言に立ちますので、罪にもなりません」


「村まで護送した場合はどうですか?」


「そのまま町まで移され、縛り首です。余罪の確認はしますが、今回の件ですでに死罪は確定です」


 現行犯で自白もしている。情状酌量の余地も無い。

 商業を司る神が商人を塩の柱に変えた話は聞いたが、あれも明確な商業上のルール違反だからだ。この世界、ルール違反が見つかった場合には苛烈だ。


 しかも、この世界もご多分に漏れず、刑の執行は娯楽なのだ。辛く耐えながら生きている民に取って、奪い、犯し、殺す行為は侮蔑の対象だ。

 それが死刑になるのだ。鬱憤を晴らすにはしょうがないのだろう。個人的にはそんな物の為に生かしたつもりは無かったのだが。


「今からで有れば、村まで、馬に乗せて今日中に帰還出来ますか?」


「夜も大分遅くなりますが、可能です。その場合もしもを考えて偽装兵から3人を出す必要が有ります。そのまま馬は回収し、後から追いかける流れですね」


「今日の野営地で待つ形ですか?」


「そうなります」


 うわぁ、いきなり予定が狂う。もう、本当に、殺したい。でも、殺せない。葛藤で頭を掻きむしりたくなった。でも、しょうがない。


「罪人は馬に括りつけて、まとめて移送。護衛は調査団から適正者を3人出せ。水に関しては途中の川で飲ませろ。村で調整可能な状況で引き継ぎ次第、今回の馬を徴収し帰還せよ」


「分かりました」


 調査団の皆が唱和する。


 罪人の所持品に関しては、討った人間が基本的に回収する権利を有する。基本で適応出来ない物も有るが。人とか国家に属する物品とかだ。


 うーん。余計な荷物が増えそうだ。戻って来る時の馬とか。はぁぁ。

 色々迷ったが、この選択で行く。そう決めて、皆で問題点を洗いながら指示を出して行った。

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