第151話 こう、戦闘前の声かけって、どうやったら恰好良いのか分かりません
ペルスを筆頭に、現状の説明を行う。特に偽装兵の10人は真剣に聞いている。
「レイ、規模はどの程度だろう?」
「射手合わせて、30人です」
そう言った瞬間、調査団側はかなり渋い顔をする。
正直、私もそうだ。どんな相手かも分からない集団がこちらの戦闘要員の倍近くいる。
「相手が敵性以外の可能性は?」
「大きな獲物を待ち伏せる可能性は有りますが、この辺りでは全く可能性は有りません。目的は不明ですが、この道を通る対象に危害を加えると言う意思は明確です」
レイが気負いもせず答える。軍人が敵に対しての判断だ。しかも斥候職。まず間違いは無いのだろう。
敵確定か……。
「陣形は?」
「射手が10m程度でしょうか?その程度の間隔で左右に1人ずつで4人です。奥側に13人が林の左右に分かれています。距離に関しては、もう少し近付けばはっきりします」
あぁ。典型的な待ち伏せだな。先制で矢を撃って混乱している状況で、奥の集団が出て来て挟み撃ちだ。
まぁ、こちらに高性能レーダーが有るとは思うまい。正直この人、人類と言う単位で見ても圧倒的な『警戒』だろう。
「迂回は出来無いかな?」
ペルスに問う。
「この状況では、馬車が林を抜けるのは難しいです。切り開けば可能ですが、どの程度の時間をかけるかは分かりません。下手したら、野営を含めて数日かかる可能性も有ります」
斧なんて、偽装兵の内1人のバトルアックスだ。正直、木を切る物じゃ無い。それを使ってもどれだけ木を切れるか分からない。
このままだと、林を抜けないと方向転換も出来ない。大きい馬車と言うのも、不便な物は不便だ。
それに夜陰にまぎれて襲撃を受けるなんて、考えたくも無い。
「射手の位置は分かる?」
「かなり道に近いです。射手と断定するならば、射線が確保出来るぎりぎりに潜んでいるのでしょう」
うーん……。先程の休憩の時テストをしていたが、水魔術の出現ポイントのぎりぎりが100m弱だ。弓の射程の中だ。先制される可能性は有る。
ただ、当たらない可能性の方が高い。そこまでだと曲射になるし、射線が確保出来ないのと、そもそも尋常じゃ無い技量が必要だ。
そんな人材、軍が諸手を挙げて欲しがる。盗賊に堕ちる意味が無い。いや、人として壊れている場合は分からないか……。
どうしても射手は潰したい。後方の集団に紛れているかもしれないが、目に見える射手は潰すべきだ。白兵戦は魔術でどうとでもなる。遠距離からの攻撃は万が一が有る。
『隠身』と隠蔽して、でぎりぎりまで接近して射手だけ潰すか……。
そこで気付く。先程から潰すと考えていたが、何を以って潰すと言うのか?殺すのか?人間を?
そう気付いた瞬間、猛烈な吐き気が襲って来た……。人を殺すのか……。
「ヒロ、大丈夫?」
どうも、顔色が悪いのに気付かれたらしい。
「大丈夫。ちょっと考え事していただけ」
そう、リズが、仲間が、ビジネスパートナーの命がかかっている。半端な事は出来ない。童貞切るって言うけど、そんな生易しい物じゃ無いな……。
盾持ちで隊を組んで、先行する。その間にレイと一緒に射手を私が殺すか……。
でも、レイをこんな事に使うのは契約違反だ。
御者は戦闘要員じゃない。給料にも含まれない。偽善?契約を神聖不可侵として豚や組織にだって喧嘩を売った。その私が契約を裏切れるか。
となると、馬車である程度まで接近して、ロットと私で射手を殺す。その後、盾持ちと合流し、残りを相手にするしかないか……。
盾で致命的な部分さえ守ってくれれば、神術で治すのは可能だ。
まずは、この作戦を皆に伝えてみた。
「それでは、1人目の際に気付かれます。2方向から一気に攻めるべきです」
ロッサが必死な顔で手を挙げて言ってくる。
「その場合は、逆方向は誰に任せるべきか……」
「あたしが出ます!!」
被り気味にロッサが答える。
未成年者に人を殺させる?そう思った瞬間、自己嫌悪で改めて吐き気が込み上がって来た。
青い顔に気付いたのか、ロッサが必死な顔で言ってくる。
「あたしもパーティーの一員です。あたしも出来ます。人は殺した事無いですが、皆が怪我したり……死んだりするのは嫌です」
真剣な表情で叫ぶ。
がぁ……。くそが……。子供だぞ?俺でも、考えただけでも吐き気を催す行為を子供にやらせるのか?
「リーダー」
ティアナが肩を掴んでくる。
「貴方が何を考えているのか、分からなくは無いわ。でもね、この仕事では、何時か、誰もが通らないといけない道なの。早いか遅いかよ?貴方一人で全てを背負える訳無いわ。仲間にも背負わせなさい」
真剣な表情で、目を貫いて来る。
それを見た瞬間、色々諦めた。価値観の違う世界。「成すべき時は成せ」か……。畜生。腹括ったんだろ?童貞くらいさっさと切れ。男だろうが、俺。
「ごめんね、ティアナさん。嫌な役をさせちゃった。ロッサさん」
「はい」
「きっと後悔する。一生の傷になるかもしれない。それでも、仲間達の為に、お願い出来るかな?」
「リーダーは幸せな未来を考えてくれると言ってくれました。その為には、その道が血に塗れていようが、前に進むと決めました。だからリーダー。導きでは無く、指示を」
あぁ、この子の方がきちんと本質を理解している。私なんて、ただの頭でっかちな人間だ。
ちょっと困難があればすぐに弱気になる。この子との話も依存症相手のカウンセラー気分だったのかもしれない。
でも、もう、仲間って、家族って決めた。だから。
「作戦を伝える。まず前方の4人の想定、射手に対して私及びロット班、ロッサ単独班により、殲滅する。一旦その時点で2班は後退。盾部隊と合流の後、残りの26人の殲滅を行う」
そう言った瞬間、全員が一斉に頷いた。
「一切の遠慮呵責は無しだ。全ての責任は私が負う。知らない他者の命より、自分の、仲間の、命を優先しろ。これはお願いじゃない。命令だ」
「はい」
全員が唱和する。
「じゃあ、始めよう。この優しい世界で愚かな行為を働く者達に鉄槌を。私達を獲物と見る奴らの喉笛を噛み千切れ!!」
その声と共に、今回の戦闘要員が駆け足で用意を始める。皆、真剣な面持ちで必死に用意をしている。
そんな中、私は一人ぽつんと立っている。少しだけの切なさと、大きな気持ち悪さ。そして、これを実行しようとしている馬鹿達への激しい怒り。
そう、私は決めた。守るべきものを守ると。だから、知らない誰かさん。君達が私達に危害を加えると画策するのであれば、死んでもらう。そう、私がそう決めたのだから。