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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第150話 ふぉふぉふぉみたいな感じでお茶目な引退した人、好きです

 先頭車両の御者は楽かと言うと、全然そんな事は無い。バックミラーもサイドミラーも無い世界だ。折を見ては、御者台の端から体を乗り出し、後続の確認をしている。

 どう考えても、後続の御者の方が楽だ、これ。間隔は50m程だろうか。時速15kmでブレーキも無い世界だ。追突が怖い。様子を見る事が出来るのは後続1台までだろう。


 レイが「スピード上げる」の旗を振る。後ろの幌から首を出して覗くと後続の御者が「了解」と振り、「スピード上げる」の旗を振る。

 「了解」が見えない場合は再度振るか、異変と認識するらしい。クッションの上でぽよぽよしながら、レイが説明してくれた。


「しかし、クッションですか?これは良い物ですね。毛皮を敷いておりますが、やはりこの歳になりますと寒さは堪えます。本当にありがとうございます」


 この歳と言う程の歳じゃ無い気がするが、もう引退を考える歳なんだよなぁ……。黙っていても率先して処理されてしまうので、もう少し手伝ってあげたいのだが。

 レイは毛布に包まりながらも、風に吹かれながら真っ直ぐ前を見ている。


 居住スペースに戻って、クッションの代金を立て替えているけどどうすると聞くと、満場一致でパーティー資金で処理が決まった。

 皆、毛布を被って、クッションの上でぽよぽよしている。この状況で反対を言っても、説得力が無い。


 椅子部分は折り畳み、直接床に座っている。皆はトランプで遊んでいる。私はティアナにチェスの駒の動きとルールを説明している。

 この世界の人間が複雑なルールに対応出来るのかのテストだ。


「兵士は補給が充実している状況だと、急襲出来るのね。でも兵士が急いで動いても、同じ兵士はそれが見えて対応が出来ると言う訳ね。しかも兵士は薙ぐ事しか出来ないと言う事かしら」


 実際、実家でも騎士団を率いていただろうし、その姿を見ていた為か、理解が早い。しかしそう言う説明を聞くとアンパサンも意味が分かりやすい。


「兵士も叩き上げで、司令官になれると言う訳ね。それに王様が城に入り防御を固めるとは、これ良く出来ているわね」


 感心した顔で、チェス盤を眺める。プロモーションもキャスリングも理解してくれた。チェックとチェックメイトもきちんと説明する。

 じゃあ、取り敢えず一からやってみようかと、試しに一戦してみる。


 馬車の独特の横揺れの中、盤の駒がずれるのを修正しながら、駒を動かして行く。


「じゃあ、キングをこっちとキャスリングするね」


「あ……。あぁ、そうね……。キャスリングが有ったわね……」


 キャスリングは2手分の動きだ。条件が揃えばこんなに便利なルールは無い。


「じゃあ、ナイトをここに。チェック」


「あっ……。そうね……」


 長考に入る。でも、4手先でチェックメイトだ。チェスに関して個人的には最後の方は、どれだけツークツワンクの状況を作り、コントロールするかだと考える。

 将棋なら手駒で盛り返す事も出来るがチェスは型に嵌ると比較的最後の展開が読みやすい。

 

 ティアナがキングを逃がす。


「じゃあ、ルークをここに。クィーンを取るよ。チェック」


 ティアナが暫し考える。だが、諦めたのか首を下げる。


「次の手で、チェックメイトね……。これはルールを覚えるまではちょっと難しいと思っていたけど、実戦を考えれば有り得るわね」


「元々軍事演習用の駒で遊んだ物だから。面白い?」


「負けて面白いも無いわ。ふふ。でも、面白いわね、これ。無数の戦術がこんな小さな世界で繰り広げられるなんて」


 ティアナがそう言うと、苦笑から、迫力の有る笑みへと変える。


「さあ、次よ。今度こそもう少し食らいつくわ」


 あぁ、この子も負けず嫌いだ。この世界の人間は我慢強く耐えて、最終的に勝つ事を捨てない。負けず嫌いばかりだ。


 もう一戦して、かなり慣れたようなので、チャットへのルールの説明をお願いした。


 御者台の方に向かい、レイに状況を確認する。


「道は順調です。間も無く最初の休憩地です。暫しお寛ぎ下さい」


 先を見るが、そこまで悪くは無い道が続いている。

 元々この道は、王国と東の隣国が交易の為に共同出資で作った道だ。馬車一台分の太さ程度だが、敷くまでかなりの額になったはずだ。

 交易自体は、大規模な隊商を組んで行われている。私は直接見た事が無いが、200人を超える規模の集団で動くらしい。

 食料から戦闘まで全て完結出来る規模で移動する。それでも町の周辺では盗賊の襲撃を受ける事も有るらしい。

 正直、そんな集団相手に喧嘩を売ると言う行為が意味不明なのだが、やはり根絶は難しいらしい。そう言う思考の人間はやはり一定数いる。


 しばらく、窓を薄く開け、後続に影響が出ないように魔術の訓練をしていると、緩やかにスピードが落ち始めた。


「休憩です。30分程度ですが、薪は次の休みで補充します。在庫の薪を使います。温まりましょう」


 流石に御者は冷え切っているだろう。

 急いで降りて、荷物から薪を出してくる。小枝中心で、太い薪は使わない。この休憩時間では燃え尽きないので勿体無い。


 薪を組み、火魔術で火を点け、一気に燃え上がらせる。


 後続の馬車組が続々と降りて近づいて来る。皆からカップを預かり、白湯を生み出して行く。

 湯気を立てる白湯を御者達がありがたそうに息を吹きかけながら啜る。


「ここまでは順調そうですね?」


 皆、焚火を囲んで談笑している。


 ペルスに状況を確認すると、予想より若干早い程らしい。


 旧式の馬車と言っても枯れた技術の塊だ。それにサスペンションを搭載して試行回数も稼いでいる。

 信頼性が高いので、かなりのスピードを出せるようだ。


「このままなら、予定より早めに目的の野営地まで到着出来そうです。林の中ですので獲物も期待出来ます」


 食料を幾ら積んでいても、現地調達は基本だ。それに木々が有れば薪も補充、利用出来る。ありがたい話だ。


 ここまでで後続の馬車及び乗員に問題は無い。ノーウェ家臣団謹製の馬車だ。何か有っても修理機材はきちんと搭載している。


「道はかなり整備されていますね。驚きました」


「隊商が使いますので、年次予算が組まれています。また、今回の男爵領の計画でこの辺りは一気に整備されます。隊商も喜ぶでしょう」


 隊商も馬車が中心だ。驢馬もどきもいる。こいつに関しては地球の驢馬より足は遅いがスタミナが尋常じゃ無い。地球の驢馬よりもまだ距離を稼ぐ。

 そう言うゆったりと確実に距離を稼ぐスタイルで何隊かが往復を繰り返しているらしい。通り道の町、村は商品を買える事と宿泊や消耗品の販売でかなり潤う。


 今設計している新男爵領の町だと、若干この道からはずれる。だが、それでも寄ってもらえるような町作りを考えなければならない。

 基本的に空白地帯なので、寄ってはくれるだろう。だが、しょうがなく寄られる町なんてごめんだ。商機が有るから寄るような町を作らなければ。


 そんな事を思いながら、各馬車の馬に飲ませる水を補給して行く。水魔術が使える魔術士が恐縮していたが、訓練も含めてなので喜んで対応している。

 水も常温より温度を高めに設定している。あまり体を冷やし過ぎるのも辛いだろう。


 各馬の調整も終わり、出発となった。


 進みだした馬車の中は相変わらず、ゲームルームみたいになっている。君達、ゲーム中毒みたいだよ?

 まぁ、最初の頃の娯楽に飢えたがつがつした感じから、純粋にゲームを楽しむ余裕は生まれていた。そりゃあれだけ遊べば余裕も出て来るか。それくらい、ずっと遊んでいる。


「皆、そんなに面白い?」


 そう聞くと、ティアナにチェスを習っているチャットも含めて激しく頷いた。うん、遊戯はこの世界では武器だな。その点でも勝算が出てきた。


「飽きない?」


「え?飽きるって、何に?幾らやっても新しい発見が有るのに。飽きないよ?」


 リズが真顔で答えて来る。


「超楽しいじゃん。毎回過程も結果も違うし。人によって考え方も違うじゃん?こんなのやった事が無い」


 フィアも楽しそうに答える。


 そうか、まぁ、楽しそうなら良かった。きっとそれも生活の余裕って奴の一部だ。大切にしないと。


 そう思いながら、窓の隙間から外を覗くと疎らだった木々が少しずつ密集し、林になっていく。この辺りから道沿いに湧き水を元にした小さな川が何本か走っているらしい。

 極力橋を造らないように、林を抜ける道にしたとの事だ。


 そんな林を見ながら、土魔術を地面に向けて撃つ。どれだけ最小の規模で敵を無力化するのか。その訓練を延々やっている。

 もしもが有るので、使用量に影響が出ないよう小規模に撃っては休憩をすると言う繰り返しだ。正直、完全に回復しているかは分からない。ステータスなんて便利な物は無い。


 林が徐々に深くなるのを見ながら、そんな感じで暇を潰していると、レイから鋭い声で呼ばれた。


「失礼します。男爵様」


 御者台に駆け寄る。


「どうした?」


「複数の人間が、3km程先で密集しています。かなり前から『警戒』範囲に入っておりましたが、動きが無い為お呼びしました」


 えぇぇぇ。『警戒』の範囲って3超えるとkm単位なの?どれだけ広いんだよ。3kmより前に察知していると言う事はもっと広いと言う事だ。

 怖い。本職の斥候怖い。少なくとも不意打ちは出来ない。


「隊商の可能性は?」


「小規模の隊商が休んでいる可能性は考えましたが、王国側では無いです。ここ最近の出入りは追っています。また、集団の手前に道に沿って転々と反応が有ります」


「射手と見ているのか?」


「はい。その場合は……」


「盗賊か、こちらに危害を加えようと考えている相手か」


 そう言いながら「スピード落とせ」の合図を送らせて馬車の速度を落とす。待ち伏せなら振り切るのは難しいだろう。それに車止めでも仕掛けられていたら事だ。


「取り敢えず、対象を敵性と判断する。明確にこの判断が解除されない限り、排除の方針を貫く」


 そう告げて、十分に速度が落ちた段階で「止まれ」の指示をレイに出させる。


 はぁぁ。アレクトアが言っていた「成すべき時は成せ」か……。気が重い。


 取り敢えず、まずは皆を集めて対策会議だな。面倒な話だ全く。

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