第145話 え?桃から生まれたとか説明出来ませんよ?
槍に集中していて気づかなかったが、今回は鹿とイノシシを同時に狩れたとアストが喜んでいた。それなりに大荷物な筈なのに全然気づかなかった。『警戒』も切る程集中していたしな。
今年は獲物がかなり濃いらしい。何だか色々今年はと言う言葉を聞く。そこはかとなく嫌な予感もするが、確信が無いので何も言わない。
皆が集まり食事を楽しむ。冬が近づいて来た所為か、シチューなどの汁物が増える。
あー、じゃが芋の事も考えないといけないな。まだ実物を見た事が無いけど、持ち込まないといけないのかな?
大麦のどっしりしたパンにシチューを含ませて食べる。入っている肉もごろごろしている。
あぁ、やっぱり食生活も改善しているな。獲物から自分の取り分を得られるようになったら、かなり余裕が出ている。
そんな所にちょっとした幸せを感じながら、美味しく食事を頂く。
野菜類も庭の家庭菜園でティーシアが育てている。菜っ葉系の野菜を食べられる幸せ。どうしても男性の独り身だと、食事が茶色系に染まる。
そんな感じで食事も終了となり、お風呂時間となる。水魔術が上がって毎回のお湯の生産を私が一手に引き受ける事が出来るようになった。
このお湯を沸かすのにも馬鹿にならない薪のコストがかかる。昔からティーシアが色々やりくりしていたが、その辺りも解消されて、かなり嬉しそうだ。
また、そう言う意味では1日置きだった入浴も毎日に変わったらしい。始めの頃のくすみは全く無い。普通に地球の外国人って感じだ。
お湯を張り、主寝室のアストに声をかける。
納屋に行って石鹸の攪拌でもしようと動き出すと、リズがじっとこっちを見ている。
「どうしたの?」
「トランプは?」
そこまで気に入ったのか。
頭を優しく撫でながら答える。
「お仕事優先。それに人数が増えた方が楽しいよ?」
「えー」
すっごい嫌そうな顔でとぼとぼと部屋に戻る。
まぁ、あれか。新しいゲームを買ったのにお預けされている状況と同じか?
そう言う意味では悪いと思うが、流石に2人トランプは飽きて来る。
納屋で石鹸4号を世話していると、ティーシアから声がかかる。
お湯を入れ替え、そのまま魔術の訓練を始める。風と水、土を交互に過剰帰還を感じるぎりぎりの線を考えながら、効率を見て行く。
照準が有るのでばら撒く必要は無いが、敵の数が多い場合否応無しに数を撃つ場合は有る。
生物の頭蓋骨を貫通し、脳を破壊出来るぎりぎりがどの辺か見定めて行く。当面は熊かな。
休み休み訓練をしていると、ぶすーとした顔のリズがやって来る。
「お湯欲しいよ?」
「ご機嫌斜め?」
「ちょっと」
言葉少なに返してくる。頭を撫でながら、キッチンに一緒に向かう。
「洗ってくれる?」
仲直りのつもりなのか、上目遣いで聞いて来る。
「喜んで」
しょうがないと、微笑みながら答える。
洗っている最中、敏感な部分に触れたのか、微かな反応が返って来る。あぁ、この子もそう言う年頃なんだなぁと思ってしまう。
全身を洗い終わり、たっぷり流し、そのまま樽に浸ける。
「ふぇぇぇ。やっぱり声出るよ、これ」
垂れた何かの様に、でろーんと樽の縁に顎と頬を乗せている。くそ、可愛いな。和むし、癒される。
「ゆっくり温まりなよ」
そう言って、部屋に戻ろうとすると、引き止められる。
「お話したいな」
リズが甘えて来る。
「どんなお話が良い?」
少しリズが考えた後、呟く。
「ヒロの国の英雄の話が良い」
うーん。難しいな。まぁ、適当にアレンジするか。
「じゃあ、いくよ?昔々」
子供のいない老夫婦に拾われた孤児がすくすくと勇猛な戦士に育つ。ある日オーガの暴虐を聞いたその子は夫婦に許しを貰い旅に出る。
旅の途中で従順な狼や大きな鳥、賢い猿と戦い、和解し仲間にする。連れた仲間の力であらゆる難関を突破し、オーガが潜む島へ船で渡る。
戦士は仲間と共に、オーガを殲滅し、人里を襲った際に持ち帰った財宝を手に故郷に帰る。その財と勇猛さを認められ、英雄としていつまでも語り継がれましたとさ。
難関の部分は色々山あり谷あり、アレンジした。鳥の航空支援能力とか、猿の斥候能力とか、狼の献身的な忠誠とか。
まぁ、元の物語からはかけ離れているな。何か、戦隊物的なお約束部分や現代戦の概念とか、お涙頂戴も入っていた。
話し終わって、あれ?こんな格好良い話だったっけ?と自分で首を傾げそうになった。
何か、聞き終わった後、リズがプルプルしている。
「うわー、何それ!!格好良い!!感動した。狼死ななくて良かった!!え、魔物って仲間になるの!?うわー、うわー」
おぉぅ……。思った以上に反応が良い……。ごめんね。この英雄創作物なんだ……。
頭を撫でながら、英雄について熱く語るのを黙って聞いていた。後でメモしておこう。
完全にノリで話したから内容うろ覚えだ。また聞きたいって言われたらこのままじゃ無理だ。
そんな感じで茹蛸になるまで語っていたリズを介抱し、私も樽に浸かる。
今日は平和な一日でした。レタニアステがあんなのとは思っていなかったが。
と言うか、地球の神様、その概念の所為で私の貯金が偶に急激に減ったりしたよ?上がる時はじりじりの癖に、下がる時はズドンだし。
まぁ、ロッサともきちんとゆっくり話は出来たし。色々含めて良い一日だったと思おう。
明日は、いよいよ調査団が到着するだろう。合流したら、男爵領の調査だ。アスト達にはそこそこの長旅になる事は告げている。
樽から上がり、後始末をする。
部屋に戻ると、ベッドの上でまださっきの話で興奮したリズがどたばたやっていた。
「ヒロ、狼飼おう!!可愛くて、懐く子」
「飼えません。家空ける事多いのに、動物は無理だよ」
「えー。猟師で小さな頃から育てている人いるよ?狩りにも一緒に連れて行っているよ?」
「機会が有ったらね?」
「ずるい!!ずーるーいー!!ヒロがそう言う時は駄目だった!!いっつも駄目だった!!」
リズがドタバタ騒ぐ。あぁ、可愛いなぁもう。
「狼は中々飼うのが難しいよ」
「世話する!!絶対に私が世話する!!」
溜息を吐く。しかし、狼の発情期が地球の犬と同じなら年2回。秋口か……。
妊娠期間が70日切るくらいだから、戻って来た時期は生まれたての子狼がいそうだ。うわぁ、子連れの雌狼とか会いたくない。怖い。
乳は有るな……。犬でも犬種や個体によって乳糖が駄目だが……。羊乳なら乳糖は大丈夫だ。どうしても駄目なら、出産した親狼を飼っている人に預けるとか……。
いやいや。何を飼う事前提で考えているんだか。
「また、拾ったりしたらね?」
「絶対だよ?」
座った眼でじーっとこちらを見て来る。
あぁ、早まったかなと思いつつ、あんな話をした自分を呪った。
宥め賺し、何とか寝付いた。
さて、先程の物語をメモメモと……。そろそろ手帳が欲しいが、開発……するのか?あー。もう少し良い紙が出回ってくれれば……。
そんな事を考えながら、書き終わった紙をそっと荷物に仕舞う。さて休みも終わりだ。明日からはお仕事だな。そう思いながら眠りについた。