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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第144話 サンプルは数を試さないと意味が無いです

 少し早いけど昼ご飯にしようかと道を歩いていると、ロッサが見えた。


「こんにちは。ロッサ」


「あ、リーダー。こんにちはです」


 ぺこりと頭を下げて挨拶を返してくれる。


「何か用事でも有ったのかな?」


「いえ。中々村を回る機会も無かったので。お店などを覗いていました」


「そっかぁ。今から少し早いけどお昼でもと思っていたけど、一緒に食べる?」


「はい。嬉しいです」


 にっこり笑って同意をもらった。


 そのまま、お店に向かう。


 勧められた席に着き、食事を選ぶ。私は川魚のソテーを選んだ。流石に肉料理ばかりは食傷気味だ。魚が食べたい。


 ロッサは肉料理だが、量を減らしてもらっていた。そう言う配慮をしないとお腹がこのままか……。ダイエットか、でも変なダイエットをするとリバウンドが怖い。


 料理を待っている間、今までの冒険の話などを聞いて行く。ちょっとたどたどしい部分は有るが、一生懸命色んな事を伝えようと、顔を真っ赤にしながら話してくれる。


「へぇ。そんな事が有ったんだ」


「そうなんです。だから一人はきついなって思っちゃいました」


 ちょっと話が微妙な所に入り、気まずい雰囲気が流れた。

 うぉぉ、会話に困るお父さんの気分ってこんな感じなのか?


 丁度良いタイミングで料理が運ばれて来る。


「じゃあ、食べようか?」


 努めて明るく聞いてみる。ロッサも乗ってくれて明るい雰囲気を取り戻す。


 久々の魚。開いて焼いた魚に、野菜の餡のような物がかかっている。味付けは単純だが、野菜の種類は多目で満足感は高い。あぁ、日本人は魚を食べないと無理だ。 

 そんな感じで食べていると、じっとこちらを覗き込むロッサの視線を感じた。


「ん?どうしたのかな?」


「いえ。美味しそうに食べるんですね」


 そう言うと、少し頬を染めた。


「味見、してみる?」


 魚を切り分け、匙を差し出す。


「え!?いえ、いいえ。あ、嬉しいです。嬉しいけど、大丈夫です!!」


 大慌てで、両手を振りながら否定される。

 そんなに力いっぱい否定されると、何か切ない。


 そんな感じで二人とも、食べ進めて行く。話を聞く限りはやはり両親が亡くなった後は、過酷な人生だったようだ。

 まだ未成年がゴブリンを相手に、延々と狩りを続け、宿に帰って寝るだけの毎日……。

 レタニアステが言っていた「余裕の無い人間がどないな生活するんか」の部分を突きつけられた気分だ。


 気付かない内に顔に厳しさが出ていたのか、ロッサが心配そうな顔をする。


「あの大丈夫ですか?あたし、何か悪い事を言いましたか?」


「いや、そんな事無いよ。ロッサが大変な思いで生きてきたんだなって」


「そんな事無いです。周りでもっと大変な人は沢山いました。私はお父さんとお母さんから色々教えてもらったから、こうやって生きていますし、リーダーにも会えました」


 そう言うと、ロッサは目を瞑り、何かを噛みしめるような表情を浮かべる。


「だから、今は幸せです。リーダーは言ってくれました。皆で一緒に幸せな未来を考えようって。だから、前を向いて、幸せって何だろうって考えられるようになりました」


「そっかぁ。もっとロッサが幸せになる為にどうしたら良いのか考えて行こう。今だけじゃない、この先もっともっと幸せになる為にどうしたら良いのかを」


 万感の思いで答える。


「あ……ありがとうございます。あの、その、頑張ります!!」


 はにかんだ後に、両手の拳を握りしめてふんすっと言った顔で、はっきり答える。


 あぁ、あの時の人形みたいな、何かに疲れて自暴自棄の女の子はいない。きちんと自分で未来を考え、歩み出した女の子がそこにいる。

 そんな変化を眩しく思いながら、食事を続ける。


 食事の後は、こちらで清算した。ロッサはしきりに恐縮していたが、まぁ、福利厚生だ。上司の奢りも偶には悪くないだろう。


「あの、ありがとうございます。私、これからも頑張ります」


 そう言って花開く様に微笑みを浮かべる。


「うん。でも、程々にね?ロッサさんは頑張り屋さんだから。頑張ると言うより、自分を大事にした上で何が出来るのか。それを考えてくれれば嬉しいかな?」


 そう答えると、ロッサがまた少し頬を染める。


「はい……。自分で何が出来るのか。何をするべきなのか。考えて行きます。皆さんと幸せな未来を送る為に」


 微笑みながら答えたロッサに手を振り、その場を離れる。

 年頃の女の子の対応って難しいな。どうしても未成年って考えると、色々考えてしまう。歳で考えても中学生、背丈は小学生だ。負担は軽減してあげたい。

 仲間って言うより、父親の思考だな。そう思うと苦笑が浮かぶ。まぁ、乗り掛かった船だ。考えて、良い結果を出すしかない。


 食事を終え、店を出たが、用事は済ませてしまった。


 家に帰って、訓練と石鹸作りの作業でもするか……。うわぁ、休みにする事の無い、寂しいおっさんの思考っぽい。切ない。

 自分で自分に突っ込みを入れ、自分で落ち込んでいたら世話が無いなと思いながら、家に向かう。


 家に着くと、扉の鍵が閉まっていた。叩いても反応が無い。ティーシアはどこかに出かけているのかな?

 家の横から、裏手に回り、納屋に入る。石鹸3号も徐々に鹸化が進み、どろどろとクリーム状になってきた。一部は固形化している。

 毎回、材料の配分は納屋に置いているはかりを使い、重さをチェックして書き残している。まぁ、灰の質でもアルカリの濃度は上下するだろうし明確な指針は無い。

 それでも、アテンの奥さん、お義姉さんがもし石鹸作りをするならば、この情報は必要になる。

 経過観察や、留意点などを細かく記載して行く。


 社会に出ると報告書を始め色々書類を書き残さなければならないが、これにも多くの意味が有る。

 自分が何をしたかのアリバイ作りとしてもそうなのだが、後任への引継ぎと言う意味合いが最も大きい。

 通常今の仕事をそのまま続けて欲しいと会社に思われる事は少ない。専門職等は別だろうが。

 基本的には時間の経過に合わせて、どんどん規模の大きい仕事や複雑な仕事へとシフトして欲しいと会社は考えている。

 その際には後任する人間への引継ぎが有る。引継ぎに際して、使われるのがこれらの資料だ。疎かに出来ない。後が困るし、度々戻って手伝うなんて意味が無い。


 各種書類をまとめ、石鹸3号の様子見も終わった。どうせ長期に出かけるなら、甕を買って来て4号も作っておくかな……。

 そう思っていると、家の方で音が聞こえた。ティーシアが帰ってきたか?


 表に回り、ドアを開けるとティーシアがいた。


「おかえりなさい」


「あら、帰っていたのね。ごめんなさい。閉め出しちゃったわね」


 そんな会話をしながら家に入る。どうも村長の家で石鹸の件を話し合っていたようだ。

 大まかな所で同意は得られた。後は皆が実際に使って効果を実感するフェイズだ。これには小さな手洗い用石鹸を無償で配って、テストしてもらうしかない。

 肌に合わない場合は諦めてもらう。肌荒れ程度ならば、薬師ギルドですぐに治療してもらえる。その対価は用意しておく。

 使う油の量や手間を考えると、蝋燭よりは高く売りたい。その為にはまず使ってもらって反応を見るしかない。


 食事に関しては、村長の家で出たらしい。お茶の用意をしてくれる。

 お茶を楽しみながら最近の家事の話をしていく。

 洗濯にも石鹸を使うようになった。体感的には汚れ落ちは石鹸の方が良いらしい。油汚れには効果が高いと言っていた。

 石鹸に臭いが有ると言っても、洗って外に干していたら臭いは飛ぶ。干したての洗濯物は何だろう、思い込みなのか微かに美味しそうな香りがする。揚げ物の後の香りと言うか……。

 ムクロジの代金が浮いたわとティーシアは笑っているが、毎日の洗濯だ。ムクロジの代金も馬鹿にならない額になる。


 長めの調査旅行に出るので、石鹸4号を作りたいが管理は可能か聞いてみたが、量が増えてもやる事は同じなので大して手間は変わらないと答えられた。

 今後、家計をより助けてくれるかもしれない商品の製造だ。ティーシアも気合が入っている。


 それを聞いて製造を進める決心がついた。お茶を飲み終わり、雑貨屋に向かう。

 同じサイズの甕を買い、ついでにと木工屋まで足を運び、補充の樫材も買い込む。何時もは暇そうな主人も今回の製造依頼でばたばたと働いていた。


 木工屋に関しては、基本的に在庫の製造販売、修繕以外に仕事はほぼ無い。税徴収の際に荷車の大型発注が有るくらいで、基本的には手隙の場合が多い。

 そう言う意味では、私の開発依頼は懐的に助かっているらしい。樫材を買いながらそんな事を言われた。


 利用が自由な何もない空き地に移動する。樫材を燃やす為に他の薪で加熱用の種火を作ろうかと思ったが、魔術で試してみるかと思った。

 持続する燃え盛る炭をイメージしながら高温の炎を詠唱し、同時に螺旋状に昇って行く気流をイメージし発動する。


 最初は表面的な燃え方だったが、木材の構造内部に達した途端爆発的に燃え方が激しくなる。あぁ、これ、火炎旋風みたいな物か。火の勢いに驚き後退しながら思った。

 高温を維持したまま、燃えて行く。灰が飛ぶと困るので、風の勢いはかなり抑え気味だ。必要十分の酸素が供給されれば良い。各材木を突き崩し、頃合いを見ながら風を微妙に調整していく。


 あれ?毎回思っていたがこれって並行魔術なのか?うーん。魔術の先生が頼りないから聞く気にもならない。新領地で小さくても良いから学校を立てて魔術士の先生も招集したいな。

 領民の未来は広い選択肢を持って欲しい。自分のなりたい職業に就けるように、後押ししてあげたい。


 自然に燃え尽きるより遥かに早く、真っ白な灰が出来上がった。温度が一定して高かった為か、色むらも無く綺麗に真っ白だった。

 灰を掻き集めてズタ袋に詰め、家に戻る。


 盥で適量の灰を計った水で攪拌する。落ち着くまでは、細かい魔術制御を練習しながら待つ。

 余った灰に関してはそのまま次に使えるのでズタ袋に内容物を記載し、納屋の隅に置かせてもらう。


 灰汁が落ち着いて来たら、買ってきた甕に低い温度で溶かした適量の油を流し込む。各材料の重さは都度計り比率を記載しておく。

 攪拌し、一旦は反応を待つ段階まで来た。外を見ると、もう空が赤くなり始めていた。集中し過ぎた。


 明るい内にと、槍の訓練を始める。せめて新領地に行ったら武芸者を招集してでも習おうか。それとも騎士団で槍を使える人がいないかな?

 そんな事を考えながらも、真剣に素振りを行う。1時間程だろうか?もう腕も上がらないし、腰で振っているので腰も痛い。へたり込みながら荒い息を吐く。


 へとへとになりながら家に入ると、アスト達は帰って来ていた。集中していたのか気付かなかった。


 そんな忙しい合間の休日も日が暮れて行く。冬へ向かう空は澄み切って、鮮やかな茜色をしていた。

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