第142話 バックギャモンって分かるまでがちょっとハードル高いです
朝起きると、リズがトランプの木箱を見ながら、うんうん唸っていた。
「どうしたの?」
「ヒロに勝つにはどうしたら良いのかなって悩んでたよ?」
うん。駄目な子だ。
頭を優しく撫でて、立ち上がらせる。
「さぁ、お仕事、お仕事。ティーシアさんを手伝っておいで」
「あぁ!!ずるい!!何かずるい!!勝ったままはずるい!!」
何か文句を言っているが、聞かない。あぁ、娯楽を覚えると人間は駄目になるな。ちょっと依存性も考慮しないと駄目か。
まぁ、あの年頃故も有るのかな。学生の頃、嵌っていた物も今は褪せて見える時が有る。これが歳を取るって事なのかな……。
そのまま、朝食の準備を手伝い、リズとアストを見送る。
朝食後は、木工屋に向かい、トランプの量産を試みる。
「この枚数の木札を均等の厚さで抜くんですか?うーむ……。削り厚の微妙な差異は出ますよ?」
まぁ、そうだろう。流石に木材も同じ厚さの物は無いし、削りの精度もそこまでは高くない。
この世界精度でどの程度の物が出来るか試してみたい。
「はい。そこはしょうがないでしょう。裏は白で塗って処理して下さい」
「それは、木が変わっても均一にはします。そうですね、塗装で厚みを調整します……」
考え込みながら、主人が言う。
「ちなみに、お幾らでしょうか?」
「抜きの型を鍛冶屋に頼みますので……。そうですね、今回は数が数ですので4万と言うところでしょうか」
「今後同じ物を作ってもらう際はどの程度になりますか?」
「初回は勉強代が有りますので。次からは1万5千万は欲しいです。精度を出すとなると、それなりにかかります」
ふむ。厚みに対して、削り精度を出すとやっぱり高くなるか。
「ちなみに100セット単位等でお願いした場合は、どのくらいになります?」
「うーん……。そうですね、かかりきりになりますので、単価1万程度でしょうか……」
リズの5万は妥当だな……。思ったより量産でも価格が抑えられない。まぁ、規模の問題も有るか。量産に関しては子爵の所の職人集団に任せよう。
「分かりました。では、まずは1セットをお願いします。後、これなんですが……」
昨日の晩、リズが寝入った後書いていた設計図を差し出す。
「うーむ。駒は前の抜きで良いと言う話ですので、新しい機材は必要無いですね。塗装も白と黒だけですか……。ただ蝶番が小さいので新たに作ってもらう必要が有ります」
白黒のコマでバックギャモンを作ろうかなと。これに関しては、そこまで技術がいらない。
「はい。では、どの程度ですか?」
「これも削りの精度が必要ですね。ここの縁の穴に駒を格納して挟み込むんですよね?有る程度落ちない程に駒と穴の精度を出すとなると……。やはり5万は見て下さい」
現代の精度を求めると、やっぱり高くなるな。ケース別、盤も一枚板にしても良いのだが、大きいので邪魔なのが問題だ。
「分かりました。それもお願いします。最後にここの穴のサイズに合わせて、これを10個程作って欲しいのですが」
また、設計図を出す。今度は難易度がそこまで高くは無い。
「穴……。あぁこの四角い穴ですね。全面のサイズを合わせた六面体ですか。これはすぐに精度が出せます。10個で5千で大丈夫です」
まぁ、サイコロは色々必要になるので、ここで作っておこう。
「じゃあ、その四角いのだけ早めに仕上げて欲しいのですがどの位かかります?」
「今日中に作りますので、明日には出来ます。他の2点は10日は見て下さい」
調査中には出来るか。サイコロだけでも先に貰っておこう。
「じゃあ、9万5千ですね。先にお支払いしておきます」
料金を支払い、挨拶をして店を出る。ノーウェにも頼まれているのでさっさと実物を見せないと。上司の機嫌取りは色々後で役に立つ。
そのまま鍛冶屋に向かった。
「おぅ。どした?」
ネスが何かの作業中なのか、背中で声をかけてくる。
「焼き印を大量に作って欲しいんですが」
「ちょっと待ってろ」
そう言われて弟子に椅子まで誘導される。
白湯が出てきたので、ちびちびと飲む。
「おぅ。待たせたな」
20分程度経つと、ネスがこちらに向かって来た。職人の仕事を覗くのは楽しいので、全く待った気がしない。
「これを焼き印で作って欲しいです」
59枚の紙を差し出す。4種類13枚ずつとジョーカー分、それとサイコロ用の6枚分だ。
「こいつは……。細けぇな。この絵の線はもっと太くなるぞ?」
「はい。それは問題有りません」
「流石にただって訳には行かねえな……。50でどうだ?」
まぁそうなるよな。それでもかなり安い。大分勉強してくれている。
「はい。それで大丈夫です。どの程度かかりますか?」
「小せえが数が多い。前の件もあらぁ。それに絵は細かい分時間がかかる。10から15日って辺りかぁ?」
「それで結構です。先にお支払いします」
料金を支払い、進捗や近況を少し話す。そのまま辞去し、何をしようかなと考える。
まぁ、この世界に賭け事なんて概念を入れるんだ。神様にお許しだけはもらう必要が有るかな?
そう考えて、教会に向けて歩き始めた。