第140話 訓練は重要です、訓練は裏切りません
リズが帰るまでは時間が有るので、訓練の時間にする事にした。
この頃自由時間が減って槍の訓練も出来ない。前衛にも出ないのでどんどん体が鈍っている。
無心に槍を振るう。突き、薙ぎ、払う。米を基本に相手の動きを意識しながら、突きで牽制を混ぜて行く。
まぁ、熊相手に読み切れないけど。今までの動きを元に色々考えて行く。
スタミナはあれだが、切れと言うか鋭い突きは出せるようになってきた。薙いでも以前程、体が持って行かれる事は無い。少しずつ上達はしている。
1時間もしたら、へばった。尻もちをつきながら荒い息を吐く。やっぱり鈍っている。
でも、鈍ると言う事は訓練に意味が有ると言う事だ。訓練は絶対に裏切らない。どこかで必要になる局面が有る筈だ。
後は魔術の訓練を進める。風に関しても兎に角規模と吹かせ方にバリエーションを付けて行くと、上がりやすいのは分かっている。
<告。『術式制御』が2.00を超過しました。>
お。『術式制御』の方が先に上がった。ちなみに、『術式制御』に関して、皆驚くほど低い。
各属性制御は上がっているのだが、術式制御は低いままなのだ。要は距離を求めない、取り敢えず威力を高める発想なのだろう。
取り敢えず2.00間際で、30m前後だった。どこまで射程が伸びるのかが楽しみだ。
水魔術を使い、歩測で距離を測って行こうとするが、庭と隣接する空き地では、80m近くを測るのが限界だ。
あるぇ?確かに、2.00に上がるとスキルの効果が尋常じゃ無く上がるが、80m超えるのか……。
致死攻撃を80m以上って、銃並みに危なくなってきた。これはこれで怖い。
そのまま風魔術を色々と使い続ける。チャットのようなノックバックさせる風も非殺を考えれば有効だ。風の壁を叩き込む感じだろうか?
熊を持ち上げた感じをイメージして、地面から爆風を噴き上げたりと訓練を続ける。
<告。『属性制御(風)』が2.00を超過しました。>
よし。風魔術も上がった。シミュレーターで威力を確認してみる。
あー、これ危険だ。warningが出ない限界辺りで、色々条件を付けて行った。最終的に時速1200kmで木が中心から爆散している。
マッハ出ても過剰帰還無しか……。視認するの無理だろう、もう。
チャットが使っていた程の爆風で面を持ち上げるのはまだ不可能だが、もう少し圧縮した空気で相手の一部分に叩きつけてノックバックさせる事は出来る。
風の使い方も大分分かってきた。使いやすい。
一旦風は置いておく。過剰帰還を感じない程度に休憩を挟みつつ、次は水だ。
兎に角、温度と水量を調整して、大量にばら撒く。正直、庭がぐしょぐしょだが、まぁ、乾けば問題無いか。
延々、休憩を挟みつつ、水浸しにしていく。庭の植物に影響が出ないよう、熱湯は厳禁だ。
<告。『属性制御(水)』が2.00を超過しました。>
水も上がった。兎に角色々な局面で水を生んでいたから、これも上がるのが早い。水、大事。
シミュレーターで限界を見てみたが、常温の水なら25mプール4レーン並みの規模の水が生める。ちょっとした池じゃん。水量だけで相手を無力化出来そうだ。
休み休み使えば、溜池でも水を満水に出来るな……。日照りの時に重宝しそうだ、これ。
熱湯間際まで上げれば、旅館の大浴場よりちょっと小さい規模の水量だ。氷だと、4畳半の部屋1個分くらいかな?十分攻撃手段だ、これ。
後は、火と土なのだが、両方効率的な上げ方が分からない。火は危ないので練習しにくい。
土はチャットに聞けそうなのだが、こっちは内緒で向こうの情報ばかり聞くのはアンフェアだ。
草の生えていない荒地に火を生み出したり、石を飛ばしたりで、訓練を進めて行く。休憩を挟みながらだが、徐々には上がって行く。
結局、夕方まで飽きずに訓練をしてしまった。
現状のスキル状態は、こんな感じ。
◇スキル情報◇
『識者』
『認識』
『獲得』
『槍術』0.52
『隠身』0.59
『警戒』0.86
『探知』1.01
『軽業』0.25
『勇猛』1.19
『剛力』0.89
『祈祷』1.96
『術式制御』2.00
『属性制御(風)』2.00
『属性制御(水)』2.00
『属性制御(土)』0.42
『属性制御(火)』0.32
『属性制御(神)』1.13
『術式耐性』0.47
『フーア大陸共通語(会話)』0.59
『フーア大陸共通語(読解)』0.44
『フーア大陸共通語(記述)』0.08
下がっている物は無い。『槍術』が地味に上がっているのが、訓練の成果と思うと嬉しい。『剛力』が上がっているのは、毎回限界まで肉を積載しているからだ。
『警戒』が1.00を超えれば、一気に確認範囲が広がる。魔術の射程と合わせて範囲が広がれば、一方的に蹂躙出来る可能性が高まる。狙うのはここだな。
『祈祷』?向こうから話しかけて来るのに、『祈祷』のアイデンティティってどこに有るのか分からない……。神様がみてる……。
そんな感じで、訓練を終了し、夕食の手伝いに家に入った。
ティーシアの手伝いをしながら、時間を過ごしていると家の周りで物音が聞こえる。納屋の方に向かっているので、獲物は有ったのかな?
玄関の扉の開く音がして、帰宅の挨拶が聞こえて来る。
「おかえり、リズ」
「ただいま、ヒロ」
満面の笑顔で抱き着いて来る。昨日の件が原因か、凄く懐いて来る。あー。そうだよね。うん、女の子ってこんな感じだ。自分の要望が通ると、何か、凄く懐いて来る。
アストも笑みを浮かべているので、獲物は有ったようだ。ティーシアが着替えの手伝いなどで一緒に主寝室に向かう。
「キッチン見て来るね。早く楽な格好に着替えておいで」
そう言って、リズを部屋に向かわせて、私は料理の続きに戻る。
そこで、はっと気づく。あれ?男女逆じゃね?私、若妻役?あれ?私35歳メタボでもサラリーマンです。大黒柱の筈なんだけどなー。
そう思いながら、湯気の上がるキッチンで料理を進めて行く。折角の幸せな家庭模様だ。野暮は止そう。