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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第139話 何かが問題を起こすと余波はまた色々な問題を起こします

 食事を終え、リズとアストは猟に出かけた。


 ティーシアと一緒に、食後のお茶を楽しんでいる。最近ハーブティーの頻度が上がって来た。聞いてみると、雑貨屋のハーブティーを試しに買っているとの事だ。

 栽培物だけじゃなくて、嗜好品を購入出来るだけの余裕が生まれている事に純粋な嬉しさを感じた。


 また忌み職の部分に関しても、税の滞納分の返済を少しずつしている事で村民感情が大分緩和されてきているようだ。

 生死を生業にしている部分は覆せない事実だが、税の滞納を公然と認められている事への反発心も強かった。

 その問題が解消されてきているので村内の雰囲気が変わっているようだ。


 余裕が余裕を生む良いスパイラルが働いている事に、深い満足を感じる。私が出来たのは、ほんの一押しだ。その後に頑張っているのはアストとティーシアだ。

 そんな二人が、将来の義父母と言うのは、誇らしい。


 地球への帰還は何時でも試せるので、先に済ませる事を済ませて行こう。


 まずは冒険者ギルドだ。熊の件を確認したい。そう思い、てくてくとギルドに向かう。

 鑑定の受付が空いていた為、熊の高騰に関して確認をする。しかし、口外禁止の内容のようで、ハーティスからの説明と言う話になった。

 そのまま、ギルド長の部屋に案内される。暫定とは言えギルド長代理だ、この部屋で仕事をしてもおかしくはない。

 職員のノックに応答が返る。扉を開けてもらい、中に進む。


「おはようございます。男爵様」


 ハーティスが尚憔悴した顔をしている。これ、寝てないな。効率が悪くなるだろうに。まぁ、今だけはしょうがないのか……。


「忙しい所申し訳ない。熊の高騰の件に関して確認したかったのだが」


 そう告げると、ソファーを勧められたので座る。同時に職員がお茶を置く。


「結局は、前ギルド長の余波です」


 ハーティスが言うには、そもそも熊がこの時期まで高騰する事は無いらしい。例年なら、もう冬支度の準備は終わっている時期の筈だ。

 何故時期がずれているかと言うと、物が無いからだ。子爵領及びその西の領地の熊の毛皮や肉の多くは北の森の物が使われている。味も良く、毛皮の質も良いからだ。


 では、何故それが時期通りに流通しないかと言うと、例年であれば熊に特化した罠猟の8等級のパーティーがこの時期に多く現れる筈が、ダイアウルフの所為で散っているからだ。

 罠猟は獲物に特化した罠を仕掛け、その獲物だけを狙う。熊で有れば熊用の罠を使う。だが生息圏内にダイアウルフが出現する可能性が有る為、彼らが危険で近寄れないのだ。

 その為、この時期でも越冬に必要な量の肉や皮が確保出来ていないのだ。


 肉だけなら分かりやすいが、何故毛皮もかと言うと、虫食いが発生するからだ。

 貴族には貴族の面子がやはり有り、虫食い品など客の目につく場所に出せない。そうなると、新しい物を仕入れる流れだ。現在、有るだけ全て加工に回されているが、全然需要に追い付いていない。


 そろそろ熊も冬眠の時期が来る。早くしないと、肉すら足らない事態が起こりうる。そうなれば冬越えが難しい人間が出て来る。飢え死にが出るかもしれない。

 本当にあの豚が祟る。このままでは、ダイアウルフがある程度片付かないと、どうしようもない。


「子爵様のダイアウルフ討伐を早めてもらうのを確約してもらい、それを担保に熊猟のパーティーを指名で呼び寄せるしかないか?」


 そう問うとハーティスが頷く。ノーウェ次第か。異常は把握しているだろうから、動く時は早い筈だ。連絡が着くのを待たなければならないか。

 熊の高騰に関しては、分かった。今は手の出しようが無い。


「そう言えば、豚の状況は?」


「腱に関してはそのままです。現在治せる神術士は村にいません。また子飼いの者に見張らせています。財産も凍結しておりますので買収も不可能です。またこの情報は職員内に周知しております」


 取り敢えずは復讐を考えても、自分は動けない、誰かを動かすにしても買収も出来ないか。後は外部からの手が入った場合だが、もう確実に地位が戻らない豚に興味は持たないか。

 少なくとも豚に関しては、冒険者の資格剥奪、冒険者ギルドに関わる一切の業務への制限、またその旨の戸籍登録が実施された。告知も各ギルドに順に回っている。

 動けない豚はただの豚なので無視したい。精神衛生的にも、家族や仲間の安全の為にも、見張りに関しては引き続き徹底させる事をお願いした。


 ギルド長室を辞去し、鍛冶屋に向かう。


「おう、どうした?しけた面しやがって」


 ネスの声が癒しに聞こえる。


「ギルドの方でちょっとトラブルが有りまして」


「あぁ、あの汚い奴の話か?拘束されてるって言うじゃねえか」


「はい。その上、色々問題を残して行っていますので」


 話せる範囲で、ネスに説明していった。


「面倒くせえ話だな」


 まぁ、一言で終わる話だ。


「で、今日はどうした?」


「前に言っていました設計書を持ってきました」


 そう言った途端、顔が厳しくなる。


「描けたか?」


 黙って差し出す。ひったくるように設計書の内容を確認し始める。


「あー。そりゃそうか。弓が弱けりゃ強くすれば良い。強い弓は引くのと撃つので分けりゃ良いか」


「はい。その通りです」


「研究者に、ハンドルで引いている姿を見られれば3年だな。物だけだったら5年はかかる。設計書無しで開発するならだ」


「研究者じゃない場合は?」


「気にしなくて良い。見ただけでは構造が分からん。前提が違うから開発のとっかかりが無い」


 強い弓を作ると言う発想が無ければ開発はしないか。最短で3年は稼げる。その間にどれだけの権力を手に入れるかだ。


「ご感想は?」


「良くこんなえげつねぇもん考える。お前さんの故郷ってよっぽど捻くれてんな」


 二人で苦笑した。実際の開発には材料調達や機材の開発も含まれる。短期間では無理のようだ。


「弓の弦を張るだろ?あれをこの張力に負けねえ物として再開発しねえといけねえ」


「どの程度の期間を見ますか?」


「あー。ひと月はかかる。素材の当ては有るが機材の開発に時間がかからあ」


 ひと月か。予想以上に早い。


「無理はしないで下さい」


「おうよ。仕事の合間にちゃちゃっと作らあ」


 そう言うとお互いから手を差し伸べ握手を交わす。


「ご面倒お掛けします」


「良いって事よ」


 そう言って笑い合う。

 設計図に関しては厳重保管と言う事で約束を交わし別れる。


 さて今日の用件はここまでかな。家に戻って地球帰還を試そう。


 家に戻りティーシアと食事を取る。お昼ご飯も簡単な料理になっていた。そんな所も変わっていて嬉しかった。


 食事後は、そのまま部屋に戻る。


 話によると、シミュレーターと同じ原理と言っていたな。

 ゲームで良く有る、簡易な選択画面を強くイメージしてみる。

 すると眼前にこの世界の文字で書かれた場所と時間の行と日本語で書かれた場所と時間の行のウィンドウ画面が浮かぶ。

 矢印はこの世界の言葉の方が選択されている。矢印を下の日本語の行に移動するイメージを浮かべる。


 ぐらっと感じた瞬間、あの日扉を開ける直前に戻っていた。スーツもそのままだ。

 ポケットからスマホを取り出して時間を確認するが、出社の為に家を出る時間だった。


 こんなに簡単に移動できると現実が揺らぎそうになる。気持ち悪い。

 今まで無意識に感じていた魔素の流れを感じる事も出来ない。

 時間を考えると出社するしか無いと思い、久々の出勤となった。


 結論から言うと、TODOリスト作っていて良かった。2か月近くを向こうで過ごしていた為、内容など覚えていない案件だらけだった。

 必死でTODOを確認しながら、こなしていく。部下も懐かしい顔ぶれだったが、名前を忘れる程薄情では無かった。

 何とか本日の業務をこなし、定時で上がれた。週明けのTODOも必死で作成する。明日は土日。休んで色々出来そうだ。


 会社を出て、そのまま大型玩具店に向かう。ノーウェの望む物がテーブルゲームで有れば一旦簡単な物を持ち帰ってみよう。

 まずはトランプとチェスかな?戻った際の素材の変化が確認したかったのでトランプは一般的なサイズのプラスチック製を選ぶ。

 チェスは製造が容易そうな、作りが比較的抽象的な木製で駒の大きな物を選ぶ。


 カードで支払い、店の外に出て、路地裏に入る。周囲に誰もいない事を確認する。『警戒』の無い世界が久々で逆に違和感を感じる。防犯カメラも見える範囲にはない。

 袋に関してはいらない旨を伝え、物は鞄にそのまま詰めている。包装等は取り外し、全て鞄に戻す。トランプの箱とチェス本体のみ持ち帰る物として手に持つ。


 再度イメージして、ウィンドウを脳裏に表示させる。行先の2行の下にグレーアウトした文字が並んでいる。スーツや鞄等の所持品の羅列の中に先程のトランプとチェスを見つける。

 この2点が反転する事をイメージすると、トランプとチェスの文字列が白色に変化した。あぁ、この辺りのインターフェースはイメージ通りだ。

 矢印を向こうの世界に合わせる。再度ぐらっとした感覚を感じ、アスト宅の部屋に戻る。簡単過ぎてやはり気持ち悪い。何時か慣れるのか、これ。


 手には先程のトランプとチェスを持っていた。持った感触はそのままだが、服が変わるのはやはり違和感が有る。


 トランプに関しては、見た瞬間驚いた。ケースもカードもプラスチック製だったものが木の箱に変わっている。

 蓋を開けると、薄い木札にトランプの柄が描かれている。裏も表もニスで塗られている。裏は黒一色だ。イカサマしやすそうだな。

 ただ、やはり分厚い。強度を保つ意味なのか、紙製の花札みたいな厚みだ。

 慣れない為、不器用に広げて行くと、絵札が見覚えの無い絵に変わっている。なんだ、これ?誰なんだろう。

 ジャックは若い男に、クィーンは老若混ざった女に、キングは年老いた男になっていた。

 ティーシアに聞いてみようかな。

 ちなみにジョーカーがそのままだった。まぁ、道化師と言う職業が無くても異質な服装だから、特別なカードとは分かるかな。


 チェスに関しては、盤が中折れの物を選んでいたが蝶番がかなり簡素な物に変わっていた。材質も金メッキだったが、ただの鉄製っぽくなっている。

 開けて中を確認してみるが先程見ていた駒とデザインはほぼ同じなのだが、木の質が変わっていた。作りもどこか甘くなっている。

 説明の冊子も、こちらで良く見る粗悪な紙に変わっている。中の文字はインクの手書きに変わっている。

 翻訳を外すと、こちらの文字で書かれている。プロモーションとかどう表現されているのか気になる。


 しかし、持って帰る際に、この世界に合わせると言っていたが、物凄いレベルで変化すると感心した。


 取り敢えず絵札を12枚持って、リビングに向かう。ティーシアが隅で縫物をしていた。


「今お時間良いですか?」


「あら、何かしら?」


 絵札を差し出し、この人物を知っているか聞いてみる。


「まぁ、何これ。綺麗な絵ね。どなたの作品かしら。あぁ、描かれているのは」


 要は、この大陸で有名な英雄らしい。

 伝説になるほどの人達で、今でも名前や容姿、持ち物、装備が語り継がれている。

 色々な物語にも登場するので、誰か特定出来るらしい。

 子供の文字を覚える為の教材などでも登場する程の有名人との事だ。


 うん。知らなかった。疑問を浮かべていたのに気づいたのか、ティーシアが羊皮紙でまとめられた冊子を持って来てくれる。

 ティーシアの小さな時に教会で貰った教科書らしい。リズもこれを使って勉強したとの事だ。

 数枚めくり、指さした場所に書かれているのが、このカードの英雄だと言われた。

 エデュペテストさん。金髪で緑の目の若者、メイスに茶色の服、マントは緑。あぁ、このスペードのジャックのカードか。確かに特徴はそうだ。


 変化にしてもまた、細かい所を変えて来る。ちょっともやもやした。まぁ、王様がいる世界でキングの絵札は使えないか。

 チェスに関しては、軍事演習とでも言っておけば良いか。


 納得がいったところでティーシアに礼を言い、部屋に戻る。

 まぁ、この出来なら、この世界の技術でも量産出来るかな。絵に関してはノーウェに頼るしかないけど。


 取り敢えず、リズが帰って来たらフィア達とトランプで遊んでみるか。

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