第138話 猫を適当にあしらっていると偶に本気で噛まれて驚きます
家に着いてノックをすると、警戒したアストがドアの隙間から顔を覗かせてきた。こちらを見た瞬間ほっとしていたが。
「どうした?野営じゃ無かったのか?」
扉を抜けると、先導しているアストから話しかけられた。
「目標が早めに処理出来ましたので、帰ってきました」
「食事は……その様子ならいらないな。火は落としてある。お湯に関しては頼めるか?」
酒の匂いをさせているのですぐにばれた。お風呂は順番に入るか。
「はい。遅くにすみませんでした。おやすみなさい」
「気にするな。おやすみ」
そう言うと、アストが主寝室に戻って行った。
「リズ、洗ってあげようか?」
そう聞くと、うんうん頷く。まだ、酔っているのか?
そう思いながら、キッチンの樽にお湯を生む。もう、樽一杯分適温のお湯を生んでも全然問題無い。水魔術育ち過ぎ。
「用意出来たよ」
そう言うと、真っ裸のリズがかけ湯を始める。
「リズ、恥じらいは?」
「捨てたよ?」
「拾いなさい」
そんな事を言いながら、お湯で優しく頭皮と髪を洗い始める。十分に水分を含んだところで細かく泡立てた石鹸で優しく汚れを落とす。
汗と、藪、それに埃でくすんだ髪が綺麗に輝く。洗い流し、酢リンスを全体に馴染ませる。そのまま団子にして上げる。
体も端切れにたっぷり目に石鹸を付け、優しく泡立てる。もこもこ状態にした後、全身をくまなく優しく洗って行く。
「ん。気持ち良い」
目を細め、猫みたいな表情でこちらのされるがままになっている。
全身を洗い終わったところで、髪を解き、かけ湯をする。頭からゆっくりと流して行き、お湯を足す。
「じゃあ、後は温もっておいで。寝ないようにね」
「分かったよ。大丈夫」
ひらひらと手を振る。あんまり信用出来ないな。後で遅いようなら様子を見に来るか。
そう思いながら、納屋に向かう。石鹸3号も順調に鹸化が進んでいる。この調子なら、問題無いか……。
出発は3日後以降の予定なので、最終日に香油を投入してみるか。そう思いながら攪拌作業をしていると、リズがほかほか状態で納屋に来た。
「湯冷めするよ」
「大丈夫。いっぱい温もったよ。上がったから、ヒロもどうぞ」
「分かったよ」
そう答えて、石鹸3号の攪拌に区切りをつけて、キッチンに向かう。樽にお湯を張り、頭と体を洗う。樽に浸かりぼけーと本日の出来事を思い返していた。
いやしかし、この世界に来てから毎日怒涛だな。思い返すと少し切なくなってきたので、この休みをどう過ごすか考える。リズはアストの手伝いをすると言っていた。
馬車を使えば町まで行けるが、戻って来たばかりで用事が無い。うーむ、娯楽の無い世界の休養って難しいな。どこかで試したかった日本帰還を試してみるか……。
そう思いながら、茹りそうなので、樽から出る。下着を着て樽を洗浄し、立て掛けて乾燥させる。
上着を着て、部屋に行くと何処かいつもと雰囲気の違うリズがベッドに転がっていた。
「どうかした?」
「どうもしないよ」
ふむ。よく分からんが、まぁ良いか。特に支障は無い筈だ。ただ、何と言うか肉食系女子!と言う雰囲気を感じる。お酒飲んだからか?
何だか執拗にスキンシップを求めて来るので猫をあしらっている気分だ。
色んな所をくすぐったりして、ぐったりさせてグロッキーになったところで布団に押し込む。
風魔術?並行で実行出来る様にはなっている。1.50を超えた辺りから視界外でも視線が通る場所ならイメージがはっきりしていればシミュレーター上で起動出来るようになった。
窓の隙間から外は大嵐状態だ。上空に向けているので影響は無いけど。練習は隙間時間で欠かさず。社会人の基本。
そのまま肩で息をしているリズの横に潜り込み、眠りにつく。今日はお酒が入っているからすぐに眠れそうだ。そう考えながら獣脂蝋燭を消し、目を瞑った。
夜が明ける前、唐突に目が覚めた。朝と言うかまだ真夜中か。何故目が覚めたか分からず、考え込んだ。トイレでも無い。
ふとリズの方を覗き込むと、口を開けて眠っている口元から微かに嗅ぎ慣れた臭い……。意識すると、部屋に充満するリズの香り。
状況を把握し、やられたぁと思った。これ、仕込みは絶対フィアだ……。あの馬鹿は何を教え込んだんだ。もうどうして良いか分からず、取り敢えず寝直す事にした。
怒るのは明日の朝だ。
朝日を感じて目を覚ます。リズはまだ寝ている。まぁ完全休養だから良いけど。
取り敢えず、額に軽いチョップを連続して当てる。
「うぁぁ。ヒロ、何、痛いよ?」
「痛くはしていない」
やっと目覚めたリズに正座をさせる。
「昨日、何をしましたか?」
そう聞くと、そっぽを向く。
「昨日、何をしましたか?」
諦めずに問いかける。やっぱり、そっぽを向いたままだ。
「昨日、何をしましたか?」
頬を両手で固定して、こちらを向かせる。
「フィアがー」
「人の所為にしない」
ぶーと言う顔で言い訳を始める。
「男の人って、戦いに出ると昂るって聞いたから。そう言う場合は処理しないと駄目ってフィアが言ってたよ」
頭痛がしてきた。あのお馬鹿は……。自分はロットと出来るから良いが。
「で、色々弄っていたら、気持ち良くなってくれているんだって思って。そしたら私、興奮してきて、そのまま自分で……」
あー。うん。女性の性欲は10歳辺りから上がり続ける。制御しようが無い。
保健体育が中学生からなのにも訳が有る。早い子は12歳辺り、遅い子でも14歳辺りで閾値を迎える。その年代の子が自分で処理も出来ずにいたのだ。
これは、全面的に私が悪い。この歳になれば特に意識しなくても性欲の制御は出来る。脳構造上出来ない子に無理をさせていた。自分で慰める事も出来ないのは確かに辛い。
「状況は分かりました。どうする、そう言う事をする時は別々の部屋で寝る?」
「今回と同じので良い。と言うか同じのが良い!」
右手で額を押さえる。やばい……。変な癖が付いたらどうしよう。アスト達に申し訳無い。
「えと、手伝うくらいならするけど?」
「やだ。これで良い。これが良い」
はぁぁ。ため息が出る。意識が無いとは言え、気付いてしまえば罪悪感でいっぱいだ。一方的にされていると気づくのは、恥ずかしい。
「違うのは駄目?」
「こーれーがーいーいー」
ここは折れないと駄目か。人間の欲求、本能だ。制御して制御出来るものでは無い。自分で慰める行為くらい気にしてもしょうがない。最後までしていないだけましと思おう。
「分かった。もう好きにして良いよ」
そう言うと満面の笑みを浮かべる。あぁ、女の子って自分を慰める時のシチュエーションは毎回固定した状況が好きだったな。刷り込みみたいなものか?
朝からどっと疲れながら、食事に向かう。リズは艶々だ。対照的な二人を見て、ティーシアが遠征の疲れ?と聞いて来たので、はいと答えておいた。