第137話 初めての飲み会はバイト先でしたが酒は飲んでいません
そんな時間を過ごしていると、ドル達が戻って来た。ロッサの荷物もそんなに大量では無い。ロッサが頻りに恐縮していた。
ドルが行く程の事でも無かったなと思ったがドルが嬉しそうなので、まぁ良いかと思う事にした。
皆で連れ立って、青空亭に向かう。ロッサが新しい宿への期待を語っている。
皆から今の宿の内容は聞いていたが、改めて今の宿の駄目さ加減が分かった。やっぱり、値段相応って有るんだな。
青空亭には、装備を外したフィアとロットが待っていた。この二人、この宿で同棲生活中だ。
家が有るのにとは思うが、婚約したら普通は独立するか。ただ、料理が出るのでフィアの自炊能力が向上しない。休みの昼は頑張って欲しい。
宿側が気を利かせてテーブルを合わせて、広い席にしてくれていた。
明日以降の話を打ち合わせたが、元々遠征から戻ったら完全休養の予定だった。1日増やす事で話はまとまった。
ロッサも今回の収入で一息ついている。昇格試験等でも疲れている部分は有る。3日の休みは助かるようだ。
ただ3日目に関しては子爵側との接触が有るかもしれないので、宿か連絡が着きやすい場所での待機をお願いした。
と言う訳で、本日はアルコールも解禁した。ロッサは未成年だが、特にアルコールの年齢制限は無い。
ただ若い子が飲むと悪影響が出ると言うのは体感的に分かっているので積極的には勧めない。
ロッサもそこまで好きでは無いので最初の一杯程度だ。
次々と温かな料理が湯気を上げながら出て来る。用意は完了した。皆、ワクワクしている。
「では、元々リズと2人で始めたパーティーですが、今ではこんな大きな集団となりました。今後とも皆様仲良く活動が出来る事を望みます。乾杯!」
乾杯の唱和と共に、皆がぐいっとカップを開けていく。ロッサはちょっと苦手なようなので、氷を入れて冷やして薄まるようにした。
まずはフィアが食べ物に挑みだす。元気いっぱいにさらに盛り付け、ばくばくと食べて行く。
「おっちゃん。今日は豪勢だけど、大丈夫?」
フィアが叫ぶ。
「あぁ、鹿の枝肉貰ったからな。そっちも後で出すさ」
そう。今日のお昼の枝肉を青空亭に卸した。代金は後でこっそりとロッサに渡して驚かそうと皆で画策した。サプライズも分かる仲間達だ。
「美味しいです」
ロットも満足そうだ。
チャットとティアナは一緒に優雅にワインを開けている。女同士仲が良い。
ドルもロッサの世話を焼いてくれている。何と言うか、背の高さ的にお似合いだ。微笑ましい気持ちで見守る。
リズは隣で、肉と格闘中だ。酒も開けて行く。何が彼女を突き動かすのか。肉食系恐るべし。
そんな感じでテーブルの周りをぐるぐるしながら、皆で食事とお酒を楽しむ。ここ最近はずっと忙しいのと緊張の連続できつかったが、少し癒されそうだ。
料理も進み、お酒も回って来た。周りのお客さんも増えて来て雑然とし始めている。
流しの楽師なのか、歌も流れている。
この世界に来ての久々の飲み会だ。皆もいつもの緊張状態から解放されて、楽しそうだ。
いつか、皆席を立って、広いスペースで踊り出していた。楽師の音楽に合わせ、くるくる回りながら手拍子に合わせてステップを踏む。
私も分からないながらも、巻き込まれてリズと一緒にくるくる回った。ステップ?足を踏みつけないので必死だった。
フォークダンスのイメージに近いのか?それぞれが歌を口ずさみ、宿のボルテージが上がって行く。
そんな中、皆流石に疲れたのか、席に着き始める。丁度良いかな。
「えっと。皆に話したい事が有るんだけど」
そう言うと、皆の視線がこちらを向く。
「始めは、リズとフィア、そして婚約者のロット。まぁ、家族でやっているパーティーだった」
カップを口に含む。
「指揮個体を倒したからか、皆が徐々に集まって来た。でも、皆優秀なんだよね」
皆から、笑い声が上がる。照れ臭そうに微笑んでいる。
「そんな優秀な皆と、私は未来が見たい。何時までも続く幸せな未来をだ」
そう言うとロッサが、少しだけ瞳を潤ませる。そうロッサが目指す、その先だ。
「だから、他のパーティーとは違う形で、このパーティーを運用して行く」
その言葉には、皆首を傾げる。
「何て言ったら分かりやすいかな。ギルドの運営のようにきちんと約束事を決めて、パーティーを運用しようって話かな?でもガチガチに縛るつもりはないよ」
言葉の始めには、少し嫌な顔が有ったが、後半でほっとした顔になった。
「これから皆、人生と言う道を進んで行く。その中で恋をする、愛を育む、その結晶が生まれる。人生はハプニングの連続だ。ねぇ、ロット?」
そう言うと、フィアとロットが顔を赤らめる。このリア充め。
「でもね、それは自然の営みだ。大いにやれば良い。だって、それが人生だもの」
その言葉を、皆が喝采で向かえる。
「だが、しかし」
声の口調を少し変える。皆に若干の緊張が走る。
「お仕事はお仕事なんだよ。体を壊す事も有るだろう。急な用事も有るさ。でも、そんな時に迷惑がかかるのは仲間も同じだよ。計画していた事が出来なくなるからね」
うんうんと皆頷く。良かった、ここで否定されると面倒くさい。
「だから、恋をしても、愛を育んでも、体を壊しても、まぁパーティーを出て行くのも自由さ」
出て行くと言うと、ブーイングが上がった。あぁ嬉しいな。
「でもね、やっぱりきちんと相談して欲しい。相談する事を恐れないで。皆がどんな気持ちで生きているのか、知らない方が私は怖いよ。皆が幸せになる為に頑張っているんだから」
その言葉に対しては皆様々な反応だった。頷く人間、怪訝な顔をする人間。まぁ、言いたい事も言いたくない事も有るだろう。
「辛いなら、辛いって言って欲しい。誰かに恋したなら、恋を謳歌するなら、その為の準備も必要だ。愛を育むのも一緒。結婚するなら大いに祝わせて欲しい。子供を産むなら皆で助け合おう」
酒を口に含む。
「皆、このパーティーがこのパーティーらしさを保ったままで、幸せな未来を皆で協力して掴み取る為に、協力して欲しいな」
皆それぞれが考え込む。自分の未来だ。真剣に考えなきゃならない。
「要は、どんな事でも相談すれば考慮してくれるって事だな?」
ドルが呟く様に聞いて来る。
「あぁ。まずは何を求めるのか。聞かないと分からない。黙ってやられても助けようが無いからね」
そう言うと、ドルは頷く。
「恋愛いうてもやっぱり恥ずかしい部分は有ります。その辺りもですか?」
チャットが恥ずかしそうに聞いて来る。
「詳しい内容が聞きたい訳じゃないよ。恋をしたから、応援してって一言で良い。そうしたら、あぁそうなんだって考えるから。恋愛は自由さ。大いにすれば良い」
チャットも安心したのか、頷く。皆の顔にも理解の色が広がって行く。
「んー。恥ずかしいけど、皆の事を仲間だと思っている。それ以上に、この先を、幸せな未来を生きる為の家族だと思っている。家長としては家を守らないといけないからね」
肩を竦めながらお道化て言うと、皆が笑い出した。
「おー。お父さん、頑張れー」
フィアが茶々を入れて来る。
「おぅ。お父さんは頑張るよー」
笑いながら茶々を返す。そうして全員から拍手が巻き起こる。
「では、皆は今日から家族と言う事で。一番下の娘、ロッサさん」
「は、はい!!」
そう声をかけるとびっくりした顔でロッサが立ち上がる。
そのロッサに綺麗な端切れで包んだ、枝肉の代金を握らせる。
「頑張り屋さんの娘さん。でもね、無理は駄目だよ。娘さんが無理をして傷付けば、皆が悲しむ。無理をしない為に如何すれば良いかを考えよう」
「あの……これって……?」
「皆からのプレゼント」
そう言うと皆が立ち上がって唱和する。
「お昼美味しかった。ありがとう」
その後は、味を思い出したのか、鹿肉の味の話で盛り上がって行った。
ロッサはびっくりした顔のまま立ち竦んでいたが、徐々に顔が崩れて行く。
頭を撫でながら、聞いてみる。
「ロッサさんの正当な報酬だよ。ちょっと頑張り過ぎた分はきちんと返ってこないと。今日は一日助かった。ご苦労様でした」
そう言うと、ロッサが泣きながらしがみ付いてくる。嗚咽をあげながら、顔を擦りつける。私は背中をポンポンと叩く。
リズ?この程度では怒らない。怒らない。怒らない……筈。
そんな形で、初めての食事会は盛況のままに終了した。飲み過ぎた人間は部屋のベッドに放り込んだりしたが。支払いはパーティー資金から出しておいた。宿の主人からは、またご贔屓にと言う言葉だった。
帰り道、リズと一緒に歩いていると腕をぎゅっと取られた。
「どうした?」
「いや。リーダーなんだなって」
にっこり笑いながら、そう答える。
「暫定リーダーだった筈なんだけどな」
「暫定が取れそうも無いって言ってたよ?その通りになったね」
そう言いながら、二人で笑い合う。もう冬空に近い星空は、澄んだ空気の中でキラキラと輝く。そんなほの明るい中ゆっくりと家路につく。