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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第11話 お父さんと話しましたが、反対と言うか違う何かだった

 村に入り口は無く、耕された農地の間の道を進む。

 一部の農地は雑草が生えたままになっている。

 

「取り敢えず、秋口のはずだからそろそろ麦の種まきか。小麦かライ麦かな?」


「はい。障害を避ける為今年は小麦6割ライ麦を4割での予定と聞きました」


「あの柵を張った荒れた農地は休耕地なのかな?」


「はい。現在ヤギが放牧されています」


「ブタは放牧しないのかな?」


「ブタですか?単価が高い為この村での維持は無理です。冬には潰してしまう為繁殖も難しいです。それに、先程訪れていた南の森にイノシシが繁殖していますので、重要度は低いです。ヤギも食肉より乳が主目的です」


 と言う事は、三圃式農業か。中世っぽい文化だなと思っていたが、ますますその可能性が上がってきた。

 でもリザティアが着ているチュニカも古代ローマ辺りには有ったはずだし、生地を見ている限り木綿も有りそうか。


「木綿とかも栽培しているのかな?」


「隣村の方が規模が大きい為、そちらでは栽培しています」


 やっぱり栽培しているのか。ヨーロッパでの綿花の栽培は中世末期だったかなと思うが。

 文明状況がよく分からない。

 取り敢えず綿実油が手に入るなら手に入れたい気もするが。

 農地を抜けると、ざっと40軒程度の家屋が見える。150から200人くらいの村か。結構規模が大きいな。


「家屋の周りは全て農地となっています。今晩は私の家に泊まって下さい」


 やっぱりそうなるか。宿っぽいのは有るけどお金が無いししょうがない。

 宿屋や鍛冶屋、教会、雑貨屋っぽいものなどが村の中央に集まっている。

 中心に有る一際立派で大きな家屋は村長の家か。


「申し訳無い。ここで使えるお金が無いのでお世話になります」

 

「いいえ、お気になさらず。命の恩人ですし、本日の猟の殊勲者です。父も喜ぶでしょう」

 

 にこやかに呟いてくる。

  

 町の中心地から大分離れ、村の端辺りに一軒だけ離れた家屋が見えてくる。

 隣には、納屋の様な建物が有る。

 

「ただいま。父さんいる?」


 流石に紹介も無く初見の家に入る訳にもいかず、扉の前で佇む。


「おかえり、リズ。罠の状況はどうだった」


 ブロンドが大分抜け白髪に近くなった髪色の初老の男性が扉へ進んでくる。

 目つきはきつめでがっしりとした筋肉質。身長は180cmを超えているだろう。

 腰を痛めたと聞いたが、若干庇う素振りは見えるがほぼ正常に歩んでくる。


「うん。大変だった。それで……紹介したい人がいるんだけど……」


 真っ赤な顔で俯きながらリザティアが言葉を続ける。


「えっと、命の恩人で……求婚してくれたアキヒロさんです」


 父親と私が視線を合わせた状態で絶句する。

 もう少し穏便な紹介も有るかと思うが、どうしてここまでド直球なのか。


「あー……。はい……。初めまして。アキヒロと申します」


 正直、何をどう言って良いかも分からず取り敢えず名乗る。


「そうか……。初めまして。アストと申す。詳しい話を聞きたい。中へ」


 父親の方も若干気まずそうな顔をしながら招き入れてくれる。

 廊下を抜けるとリビングと間にカウンターを挟んだ土間とかまどが見える。

 廊下の逆側には各部屋が続いているのだろう。

 取り敢えずリビングのテーブルに着くとリザティアが年齢を重ね若干落ち着いた感じの女性がお茶の用意をしてくれていた。


「初めまして。ティーシアと申します。何も用意出来ませんがまずはお茶だけでも」


 お茶はハーブティーだった。ただ何のハーブかは分からない。

 正直先程の爆弾発言の所為で味が分からないのも有るだろうが。


「さて、取り敢えず状況も分からん。まずは説明をしてくれないか、リズ」


 リザティアが罠の状況確認から、イノシシとの闘い、その後の私の自爆を説明していく。


「まずは娘の命を助けて頂き感謝する」


 アストが話し始める。


「罠を仕掛け、帰った後に腰を痛めたのは私の責任だ。だが命を助けられたと言って結婚とは尚早では無いのか?」


 リザティアに問いかける。

 私に向き直り、さらに言葉を重ねる。


「いや、貴方が気に入らないと言う訳では無い。その姿を見る限り、相応のお方なのだろう」


 深いため息をつきながら続ける。


「ご存じだろうが猟師は忌み職だ」


「忌み職?」


 聞いた事の無い単語が出てきた。


「ふむ。ワラニカ王国の方ではないのか?王国法によって定められた各村の税率は穀物を五公五民。ただこれは頭割りとなる。猟師は生業上穀物の生産が出来ない為、肉及び皮を村内で売り穀物を購入し税として支払う」


 徐々に顔色を暗くしながら尚続ける。


「狩猟可能な上限が有る限り、税の支払いの完済は難しい。鞣し等含めれば時間的にも尚狩猟可能な数は落ち込む。故に村の負担となりながらも食肉の供給と言う必要悪扱いになる。また、生き物の死を司る生業に忌避感を抱くものも多い。何より猟師自身の死亡率の高さから、神の祝福より外れたものと言う悪評も根強く残る」


 聞いている限り、猟師の問題と言うより税制が愚かとしか思えない。

 柔軟性が無さすぎるし、特定の職業が恣意的に圧迫されすぎている。


「他の職業へ鞍替えする事は難しいのですか?」


「我が家では代々猟師を生業としている。必要悪と言っただろう。人は肉を食わねば生きては行けんよ」


 ふと、頭を上げ掌で目元を覆う。


「現状の税制は先王の頃からだ。それまでは収入に応じての割合だった。税率もその際に上がったしな」


 恒常的に税率50%は大分きついだろうと。中世の小麦の収穫倍率は4から5倍程度だったはず。

 4倍で半分持って行かれたら来年度分を除けば食べる分しか残らない。非常時の対策も取れない。


「ふーむ……。はい。忌み職に関しては理解しました」


 現状がどうなっているのか分からないのに考えても無駄だと思い、取り敢えずこちらの事情を説明する。

 正直IT会社のSEでリーダーをやっていましたなんて説明のしようが無い。

 商会の管理職だった事。ある日唐突に光に包まれて、南の森?に飛ばされた事。

 罠を見つけたので待っていたらリザティアに会った事。危険だった為介入した事。


「と言う訳で、現状一文無しと言う訳です。結婚の話はさておき、大変恐縮ですが一晩の宿をお願い出来ますでしょうか」


 言い訳も出来ないので率直にお願いしてみた。


「商人だったか。いやこの服は……。羊毛、それもかなり上等なものだ。紡ぎ、織もこんなに精緻なものは見た事が無い」


「そうね。全く織り方も分からない。こんな布見た事が無いわ」


 ティーシアが溜息をつきながら呟く。


「お母さん、機織りなんです」


 あぁ、なるほど。本職の方でしたか。


「商人でもよほどの大店の方なのだろう。粗末な家だが好きなだけお泊りなさい」


 夕飯はライ麦の粥と根菜とイノシシ肉のスープだった。普通に胡椒が入っており驚いた。

 兄がいるが、現在別の村の依頼で狩りを行っており留守との事なのでその部屋を借りる事となった。

 お湯を借り、タオルで体を拭う。

 人心地付きベッドの中でこれからの事を考える。


「当面は生活費の確保か。35のおっさんが何が出来るか分からんが。はぁ、ハロワが懐かしい」


 嘆きながら、目を瞑る。


「取り敢えず、今だけはお休みなさい」

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