第136話 悪事は結果もそうですが、後始末の方も厄介です
村に戻り、入り口で止まるかと思えば、そのままギルド前近くの道まで進めてくれた。レイは荷物を降ろした後はこのまま村を突き抜けて屋敷に戻るようだ。
これだけ大きな馬車が方向転換出来る道幅で設計されていない為、それはしょうがない。屋敷は元々庭に囲まれている為、そのまま馬車を方向転換出来るだけの場所が確保されている。
荷物を降ろしレイに手を振ると、目礼を返して来てそのまま道を進み始めた。
鑑定に関しては皆に任せて、私はハーティスと接触する。昨日の件も有る。流石に確認はしないと無責任だ。
受付嬢に事情を簡単に説明し、ハーティスとの話し合い場を設けてもらう。
程無くして、一番良い会議室に誘導される。案内の受付嬢のノックの後、扉が開かれるとハーティスが待っていた。その顔は大分憔悴している。まぁ、大変だろうな。
「お疲れ様です、男爵様。本日はお時間頂きましてありがとございます」
目礼の後、ハーティスが切り出す。用意してもらったお茶を楽しみ、それから本格的な状況確認を始める。
内容としては、組織運用を考えた場合最悪と言っても良い。ギルド長だが、まず上位に上げる報告を恣意的に改変しているか、握りつぶしているかがほとんどだった。
ダイアウルフのその後に関しても、上位からの問い合わせはのらりくらりと躱し、周辺の子飼いの冒険者を集めて狩りを独占しようとしている節さえ見えた。
オークの件に関しても、同様だ。これで良く組織が回っているなと思ったが、ハーティスがフォローし、上位との連携も一部肩代わりして何とかしていた。
今回の件ってギルド長だけじゃ無く、ハーティスが有能過ぎた点にも有る気がしていたが、聞いている限り、その認識はあながち間違いでも無いなと感じた。
「ダイアウルフに関しては、大幅に対応方針を変更します」
今までは、ダイアウルフの狩りにメリットを見出せない為に、冒険者が離散している状況が有る。このままでは、森自体の状況が大きく変わる可能性が高い。
まずは、冒険者を呼び戻す必要が有る。
「そこで、王都のオークションに関して、ギルドが共催し臨時で行ってもらえるか予算も含め検討を具申しました」
要は、オークションで高値が付けば、それを実績として等級の高いパーティーの誘致も容易になる。そのパーティー達の力で数を減らし影響を最低限にしようと言うのが狙いだ。
「また、それで集まったパーティーでのオークに対する威力偵察、及び殲滅も視野に入れています」
オークに関しても実際は現場から多くの報告が寄せられていた。50軒近くの粗末なテント状の建築物。1家族が4匹と考えても、200近くのオークがいるのだろう。
それが増えてばらけると、もう対処のしようがない。少なくとも冬は大きく動けないだろうが、春以降は動く可能性が高い。
冒険者の誘致と言う消極策では間に合わない可能性も高い。その点を聞いてみる。
「子爵様との連携を進め、ダイアウルフへの対応を検討しています。その場合ギルドはフォローに徹して、獲物の確保は子爵様に任せます。その利権を元にオーク殲滅も考えてもらいます」
ダイアウルフの価値が高い事をノーウェは理解している。度々騎士団を出す代わりに利権を求める打診は有ったようだ。それをギルド長が握りつぶしていた。
違和感は感じていた。自分のドル箱が荒れているのに、あのノーウェが手を出さない訳が無い。正直、聞いた瞬間ギルド長の別方面の肝の太さにくらっとした。
また、その他の贈収賄、書類の改竄や隠蔽も徐々に見つかっている。贈収賄に関しては巧みに贈答として見える様に隠蔽されているが、前後の状況を見て判断するしかない。
書類の改竄及び隠蔽は、読み取り機に残っているマスターデータと照合しながらの確認だ。正直一朝一夕に終わらない。痕跡を発見出来ない案件も出るだろう。
また周辺ギルドとの関係の修復、ずぶずぶな関係から正常な関係に戻すと言う難易度の高い仕事も残っている。これは、はっきりと目に見えない分、余計に厄介だ。
聞いて行く度に、一人の権限を持つ人間の暴走が、組織を如何に破壊するかまざまざと見せつけられているようで、恐怖を感じた。他山の石だ。運営をしている以上他人事では無い。
大きな方針が決まり、これから動くと言う段階だ。ここまでで異論は無い。正直一晩で良くここまで確認し、考えたと驚きもした。
「時間との戦いになるのは、理解していると思う。私も力になれる事は力になる。まずは原状回復を最優先しよう。森の状況を元に近い状況に戻そう。お願い出来るかな?」
これ以上森のバランスが崩れると、この村がどうなるか全く見えなくなる。まずは村が正常に存続していた時に近い状況まで森を戻さないと、人を呼び込む事も出来ない。
「分かりました。方針が固まりましたので、後は動きます。まずは子爵様との接触が前提ですね」
昨日の早い段階でノーウェの事は分かっていたようで、朝には早馬で状況説明も合わせて書類を送ったようだ。
その他細々とした事を確認し、話し合いは終わった。豚?どうでも良い。きちんと拘束されていれば問題無い。
ハーティスの挨拶を後に鑑定の結果を確認しに行く。
フィアがロッサを抱きかかえて、振り回していた。ロッサはあわあわしている。危ない。
鑑定の結果を聞いてみる。
まず、超大物の熊に関してだが、フィアが切った部分は有るが補修は可能との事。美品扱いとなった。大きさも申し分無い。高騰が続く皮と肉、合わせて100万ワールちょっとが付いた。冬に向けてと言っても高騰し過ぎだ、何か有りそうな気がする。
もう一匹に関しては、皮は最高級だ。傷も無い。ドルの殊勲だ。肉と合わせて、ほぼ100万ワール近くなった。美品と最高級品の価格差が大きすぎる。でも普通は刃物しか選択は無い。ドルすげぇ。
スライムの核は前に及ばない。それでも10万近くになった。
全て合わせて200万と端数だ。1日単位の儲けとしては初だろう。予想はしていたが驚きはした。
達成数2はロッサに渡した。一番低いので自動的にロッサだ。
パーティー資金と頭割りで、22万ずつを渡して行く。端数はパーティー資金に入れた。
パーティ資金だが、斥候職の釣り用の一式や、ドルの装備を含む皆の修繕費に当てている。勿論食料や消耗品、備品もだ。
なので、個々人には儲けに経費が乗らなくなっている。厳密には経費が平準化されているが、偏在するより良い。特にドルの盾は現状の命綱だ。
「え?え?え?こんなに……こんなに貰えるんですか?」
ロッサが驚きで少し涙目になっている。口元のあわあわが止まらない。
そりゃそうだ。ソロではかなり上位の能力を持っている彼女でも、狼5匹を一晩で狩るのがやっとだ。それも大分無理をしてだ。
その利益が、高騰している皮の値段を合わせても6万ちょっとだ。ここから経費を引くし、毎日こんな狩りは出来ない。1日で22万は破格を通り越している。
ロッサの手持ちも一気に倍近くなった。冒険者の蓄えなんて、こんなものだ。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
ロッサが嬉しさに涙目になっているのを周りが祝福でもみくちゃにしている。そんな姿を見て、あぁ良いパーティーだなと思った。
儲けが見込めそうなので、ロッサが宿を移るらしい。あそこは女性一人の宿泊は怖い。その方が良いと思う。
私達も野営の予定なので、食事はいらない旨をティーシアに伝えている。
偶には皆でご飯でも食べようと言う事になった。
ドルが荷物運びを買って出て、ロッサと先に宿に向かう。流石重機。荷物運びの鬼だな。頼られるのが嬉しいのか、にこやかにロッサと宿に向かっている。
そんな後姿を見送っていると、ティアナに突かれた。何かと思うと、良い機会だから今日の話を皆にはっきりしろとの事だ。
まぁ若干セクハラめいた質問だったのは分かるが、パーティー経営者としての思いも有る。一回きちんと話をしよう。
ロットとフィアが先に青空亭に用意を頼みに行ってくれた。
皆で談笑しながら、ドル達の帰りを待つ。がやがやと賑やかにギルド前で待っていると、あぁ大所帯になっちゃったなと呆れ半分、頑張らなきゃと言う思い半分になった。