第10話 若返りも神も有るんだよ……有るんだよ……
ふと疑問に思った。
「『識者』先生。ある程度の会話が成立するのは先生のお蔭ですが、単位や固有名詞はどうなっているのでしょうか?」
<解。単位に関しては10進法がこの世界においても一般的な為、直接変換を行っています。>
<距離や長さ、重さに関しては元になった基準が違う為若干の意訳が含まれます。>
<例えば10mのロープは厳密には8.98オムスのロープと言う表現になります。その為9オムスのロープと意訳し伝えています。>
<また固有名詞に関しては比較的近しい対象を表現していますが、先程の『ニホンゴ』等は表現が不可能な為、そのままの音で伝えています。>
思ったよりもファジーで便利な回答が返ってきた。まぁ、精密な建造物でも構築しない限りそこまで拘る必要は無いか。
<告。『認識』での確認を行えば分かりますが、並行変換を行っている為彰浩のスキル『フーア大陸共通語』は徐々に成長中です。>
同時翻訳のみならずネイティブな言語スキルも付くとは便利な。あぁ、この大陸ってフーアって名前なのか。
「アキヒロ様?」
ふとブツブツと呟いていた私に気づいたようで、リザティアから声がかかる。
「えーと。特に偉い訳でも無いので様付けは勘弁して貰えるかな。呼び捨てで良い。くすぐったいよ」
女の子に様付けで呼ばれて喜ぶ性癖は無い。断じて無い。
真っ赤な顔を伏し目がちにしながら、リザティアが答える。
「あの、村の決まりとして男性を呼び捨てにする場合は妻のみとなります。出来れば今は、アキヒロさんでもよろしいですか?呼び捨てにするのが嫌だとかではありませんので」
気付かずにまた地雷を踏み抜いた模様だった。既成事実ってこうやって徐々に構築されていくのか。
「率直な話を聞きたいんだけど。正直私は35歳のおじさんだよ?それにこんなメタボ体形だ。そんなのを夫にしても良いのか?」
ネガティブ気質が首をもたげて来る。相手は成人したとは言え15歳の女の子だ。将来にはまだまだ余地がある。
すると少し拗ねた様な怒ったような顔で答える。
「歳に関しては、20代半ばと見えますし思っていました。それに歳は関係有りません。貴方の有り様が良いのです。それに体形に関しては、ふくよかさは富貴の象徴です。お姿で貴方を嫌いになる事は有りません」
所違えば美醜の感覚も変わるのか。平安時代の男性像もそんな感じだった気もするか。しかしやっぱり東洋人は若く見られるものか。
「寿命に関しては、若返りの手段も有ります。出来れば永く共に居られるよう努力しましょう」
ん?とんでもない事実を知った気がする。
「『識者』先生。若返りの手段って存在するんですか?」
彼女に気付かれないように小声で聞いてみる。
<解。はい、存在します。薬物や装置、神の奇跡は現存します。>
<また、一部魔法の術式として該当の機能を有する物が存在します。それらの存在は比較的容易に入手可能です。>
あー。また回答に爆弾が有った。神様いるんだ。異世界だしな。取り敢えず今は考えない。考えないったら考えない。
取り敢えず気を取り直し、村へ向かう事にする。
あの後荷物をまとめてみたのだが、110kgの獲物を処理しても80kgくらいまでしか圧縮出来ない。
情けない事に荷物の4分の3超は彼女が担いでいる。私が担いでいるのは枝肉20kg分。
よく考えよう、米袋2個を担いで1時間以上歩くのは辛い。
度々休憩を挟みつつ村に向かう。
2時間以上かけて村まで到着する。空は夕暮れに染まりかけている。
「ようこそ、トルカ村へ。歓迎します」
リザティアがにっこりと微笑んだ。