第124話 偶には甘々成分も補充したいです
失意の内に歩いていたら、宿屋に着いていた。部屋をノックするとリズの返事が聞こえた。扉を開けてもらい中に入る。
「あれ?髪の毛切ったの?」
「少し伸びてたから、短くしたよ」
「初めて会った頃とそっくり。何だか嬉しい」
頬を染めながらもじもじと近寄って来る。
「リズも大分伸びてきたね」
リズの髪を一房摘み、すっと持ち上げる。悪戯心がむくむくと持ち上がり、両端の髪をまとめて、持ち上げてみる。
おぉ、金髪のツーサイドアップも可愛い。何か悪い心が芽生えそうだ。手を離しよしよしと頭を撫でる。
「んー。あんまり髪で遊ばない」
ちょっと怒られた。
「でも、髪の毛切ったからかな?少し痩せちゃった?」
「顔は痩せた感じはする。お腹は痩せないけど……」
先程の真実に再度打ちのめされる。摂取カロリーを減らすべきか……。でも美味しいご飯はモチベーションの維持には不可欠だ。
そんな事を考えていると、リズが両手の人差し指でお腹をぷにぷにと突き出す。
「偉い感じがするから良いと思うよ?貫禄が有るし」
それは褒め言葉なのか?と思いながら、これ以上腹回りが太くなるようであれば、食生活を改めようと思った。
「それで、チャットの矯正はどうだったの?」
「んー。直ったり、直らなかったり?まだ時間がかかりそう」
「そうか。中々自覚が有っても習慣だから難しいね」
後で確認してみるか。
「何か買いたい物は見つかった?」
「前回服も買ったし、あまり無いかな。蝋燭を使うランタンは1つ有っても良いかなって意見は出たよ」
確かに、夜間焚火の範囲の外に出る場合は欲しいか。トイレの際に暗くて怖い。幽霊とかでは無く、物理的に怖い。
「そっかぁ、便利だし買っちゃおうか。トイレの時とかいるよね」
「無いと不便かな?明日雑貨屋で補充品もそろえるから、買っちゃおうか」
乗り気になったのか、少し表情が明るくなった。やっぱりこの子可愛いな。
不意打ち気味に軽いキスをして、夕ご飯をどうするか聞いてみる。
「喫茶店でお茶を飲みながら矯正していたから、まだお腹に何か残っている感じかな」
「そっか。他のメンバーもそんな感じなのかな?」
「んー。分かんないかな」
「じゃあ、ちょっと話をしないといけない事もあるから、各部屋を回ってもう少ししたら食事にする旨伝えて来てくれるかな?」
「分かった。また後でね」
そう言うと軽いキスを交わし、そのままドアから出て行った。
私は窓を開け、風魔術で色々な風を再現しながら、戻るのを待った。
しばらく待っていると、リズが戻って来る。食事の時間になったらフィアが各部屋を回るそうだ。
それまでの間と、リズと色々な話をする。婚約者なのに中々構ってあげられないのが何時も切ない。
「男爵領が始まったら、結婚しようか」
ふと、ぽろりと口から零れた。
「え?」
リズが思いもよらない事を聞いたような顔をする。
「リズも男爵夫人になるんだから、きちんと結婚した方が良いと思う」
「んー。そんな理由?」
ちょっと怒った雰囲気が持ち上がって来た。
「いや。本当は常に結婚したいし、どこかでロマンチックなプロポーズもしたい。でも現実として期限は3か月後かなとは思う」
正直女の子へのプロポーズは一生ネタだ。きちんとしないと一生言われる。
「むー。ちゃんと、やり直してくれる?婚約の時、凄く嬉しかった。あんなのが良い」
「ごめん、ごめん。今のは決意表明に近いかな。結婚するよって。改めてきちんとプロポーズはするよ」
「んー。なら許す」
ご機嫌の斜めは少しは真っ直ぐになったようだ。
そんな話をしていると、ノックの音が聞こえる。フィアが外からご飯ーって叫んでいる。
他に言うべき単語も有るだろうとは思う。
リズと2人で食堂に向かう。皆はもう集まっていた。まずは全員で注文をする。
落ち着いたところで今日の話を始める。
「と言う訳で、男爵領の町の部分は大体合意が完了したよ。温泉設備及び周辺の歓楽街に関してと海に関しては、調査の後だね」
皆が頷く。
「その上で、子爵様より馬車が贈呈されました。これで乗車時間を気にせず帰れるよ」
そう言うと皆が驚愕の顔になる。どうも話を聞くと、冒険者の馬車持ちは一種のステータスで8等級で持てるのはかなり稼ぎの良い所だけらしい。
「どれくらいの大きさなの?やっぱでかいの?超楽しみ」
「荷物1トン乗せて、14人が同時に乗れる」
そう言った瞬間、皆が若干引いた。
「それは、冒険者でも7等級以上の馬車ですやん」
チャットが絞り出すように呟く。何か変な方向に矯正されている気がする。
「男爵セットのおまけだから。後、子爵様の新作の試作品らしいから。ついでに、御者も増えました」
「あぁ、うちも馬車を貰ったって言っていたわ。でも維持に汲々になって結局1台分は処分したわね」
ティアナが嫌な事を思い出したかのように顔を顰める。
「狩りの行き帰りは楽になるかな。後は調査をさっさと終わらせて、冬本番までに、狩れるだけ狩りに行こう」
皆が頷く。
「明日は早めに買い物と補充を終わらせて村に戻ろう」
そんな話をしている内に、食事がやって来た。
食事を楽しみながら、今後のパーティー運営を議論して行く。取り敢えずは調査が終わり次第、ダイアウルフを狙いつつ熊を主体に狩ると言う事で落ち着いた。
この人数であれば、戦術レベルで考える限りは負ける要素が無いのも事実なのだ。そこはもう、自信を持っても良い頃だ。
食事を楽しみ、各自部屋に戻る。フィアがロットと雰囲気を出しているのを見て、羨ましいと思ってしまうのは何かが溜まっているからかな。こっちに来てから出していない。
私はレイの部屋をノックし、スケジュールを伝える。レイが把握している限り、調査団と諜報部隊の編成が終わるのが3日程度の事だ。
村に戻って1泊森に出ると言うと、明日の買い物の時間にノーウェにその旨を伝えてくれるらしい。その後は馬車乗り場で待機するとの事だ。
元軍人のキビキビとした反応と合理的な判断には好感が持てる。面倒をかけるけどよろしくと伝え、部屋に戻る。
「馬車かぁ。実物見るのが楽しみ」
リズが夢見る乙女の顔をしている。
「白馬の王子様が乗る様な、綺麗なやつじゃないよ」
夢を壊すようだが、現実は現実だ。
「でも、個人として馬車を持てるようになれると思わなかった。ヒロが頑張ったお蔭だね、ありがとう」
瞳を潤ませ、そっと抱き着いて来る。腰の奥で疼くものを感じる。
「あれあれ?固くなってる……。どうして?」
ニヤニヤと目を細め、小悪魔な表情に変わった。本当にこの歳の女の子は色々な表情を持っているな。
「リズが魅力的過ぎたからだよ」
首筋を後ろから強引に抱きしめ、唇を荒々しく奪う。そのまま蹂躙し、リズの足が砕けた拍子に、ベッドに倒れ込む。
「我慢出来なくなった?」
尚も、小悪魔な表情で挑発してくる。瞳は潤み、頬は上気している。
「それでも、大切にするって決めたから我慢する」
力の限り抱きしめ、その柔らかな体の隅々までを感じる。リズの荒い息遣いを感じる度に、腰の奥がぞわぞわする。
「意思の固い所もヒロらしいけど……私は、いつでも良いよ」
こんな時の女って何でも受け入れようとして、ずるいなと抗えない欲望と葛藤を抑え込み、なんとか我慢する。
「リズ、世界で一番大切だ。リズ以外いらないし、リズだけを愛する」
「ん……。ありがと……。嬉しい」
軽いキスをした後は抱きしめ合ったまま、ベッドに潜り込む。お互いの温もりを感じれるだけ感じながら、あらゆる場所にキスの雨を降らす。
代償行為と分かっていても我慢は出来ない。飽きるまでもみくちゃにしていくが、解放されるまで飢えは収まらないんだろうなと思いながら、意思で押し殺す。
「さぁ、そろそろ寝ようか」
激しい抱擁にぼーっとした顔をしたリズがこくんと頷く。
そのまま、蝋燭を風魔術で消して、無理矢理眠りについた。