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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第122話 人の縁って不思議な物ですね

 食事を楽しみながら、談笑を続ける。

 話の中心は子爵領以外の領地や王都の状況が中心となる。色々と話を聞けたのは良いが、やはり問題は根深い。


 一番の問題は、生存圏が決まっている為、人間の許容量が自ずと決まって来る事だ。

 民は、子供に老後の面倒を見て貰う為、子供を作る。そうして、人余りが加速して行く。労働力の要求が人口増に対して追いついていない。

 王都は特にそれが顕著で、統治を司る神の薫陶を以ってしても一部のスラム街化は免れないようだ。

 その受け皿として、冒険者ギルドの10等級が有るが、それでも人が余っている。

 救いか救いで無いかは見方次第だが、平均寿命が短い為、高齢化しないので財政的にはぎりぎり余裕が有る。福祉で削られる部分が無いからだ。


 新男爵領のシステムはそう言う人余りを解消させるものだが、誰もが尻込みする。大きな責任と重圧に耐えられる人間は少ない。

 また、優秀な人間は別の仕事で成功している。成功者が好き好んで辛い仕事を選ぶ訳が無い。


 そんな話の中で、王都には劇場も何件か有ると聞く。そこで最近演劇で人気が出ているのが、指揮個体戦の話らしい。

 正直、口の中の物を吹き出しそうになった。個人名は他の英雄に変えているらしいが、分かる人は分かるだろう。怖い。

 そして、日本の地元の事を考えて、歌劇団も良いなと思った。余裕が出てきたら、考えてみよう。集客にもなるだろう。

 某アイドルグループの手法も組み込めば、大きな話になるかなとも考える。まぁ、音声記録媒体が無いから難しいか。


 食事が終わり、少し休憩がてら、リバーシの練習相手をする。裏を見ると、シリアルが000002だった。ロスティーもう量産始めたのか。

 盤はニスの様な物でコーティングされている。駒も抜いた側面を丁寧に処理し、ニス加工がされている。やはり本職が本気で作った物は出来が違う。


「父上が試作だと喜んで早馬で送って来てくれたよ。あの人も本当にこう言う事には手が早い」


 呆れたように笑いながら、ノーウェが明かす。

 量産は開始され、徐々に公爵派に流れているらしい。譲渡は推奨されており、その際には誰に譲渡したか教えてもらい、再度提供すると言う流れらしい。

 もう少し、行き渡ったら、シリアルの桁を変えて、市販も開始する予定との事だ。

 王都ではかなりの人気となり、貴族間では持っているかいないかでステータスが分かれるレベルの話だ。

 利権を渡したは良いが、思った以上に活用されていて、流石上級貴族と思ってしまった。


 何局か対戦したが、やはり頭が良いのか際どい局面も見られた。定石は幾つか知っているが、自分でそこまで辿り着いている事に驚いた。


「お強くなりましたね」


「まだ勝てないから、努力が必要だね。ただ、上がいると分かっていると面白い物だよ」


 正直、ここまで頭が良い人間がいるのなら、他のテーブルゲームの普及も可能かもしれない。

 取り敢えず、温泉の娯楽室をカジノルームっぽくしてそこでも色々置いてみるか。


 そんな感じで、休憩は終わり、執務室に戻る。


「じゃあ、今計画の方針の部分は大体理解した。王国の投資分が十分返って来る事も高い確率で予測される。後は本格的にどう進めて行くかだね」


「方針の部分で納得頂いたので、後は現地調査からですね。まだ、領地になる場所も見た事が有りませんので。一度見て、最終の修正案を出しましょう」


「町そのものの建設に関しては、大きな問題は無いね。下見も我々が行っているし、君の案を実施出来るだけの根拠も提示出来る。ただ、歓楽街の部分に関しては現在何も情報が無い」


「はい。そこで相談なのですが」


 実は冒険者ギルドの達成数だが、基本は1つの依頼につき達成数は1だ。しかし、裏技が有る。危険度に合わせて、達成数を調整させる事が可能なのだ。

 例えば、「人跡未踏の地」に「貴族の調査団」を「護衛」する場合、7等級でもかなりの危険が予想される。その場合、達成料のプラスと達成数を調整して依頼を出すのだ。

 この場合、最低でも、メンバー全員にそれぞれ達成数が1日につき1ずつ付いて来る。かなり美味しい。

 今回の視察のメインは私だが、測量部隊やカビアも付いて来る。普通は傭兵ギルドに頼むレベルの話だが、敢えて私達に指名依頼として出して貰う。

 依頼料を少な目に出せば、ギルド側は達成数で釣るしか無くなる。まぁ、姑息な手だが、実際に貴族の子飼いになる冒険者はこの手をよく使う。箔付けの為だ。

 私達の戦力だと、8等級でも過剰な為、出来ればさっさと7等級に上がってしまいたい。その為に、使い古された手をお願いしたのだ。


「ふむ。良いよ。その件に関しては、こちらで動こう。調査団と諜報部隊を付けるから一緒に村に戻って、そのまま視察に行くと良いよ」


 ノーウェも絡繰りを知っているので、即座に了承をくれた。

 これで、歓楽街と海の状況は確認出来ると。


「次は食料等の物資周りだね」


 食料酒類に関しては、町の分は男爵セットの内訳に含まれるが、歓楽街の分は含まれない。これに関しては根回しの際に一緒に埋め込んでもらえる。

 建築資材に関しては、元々子爵領が薪炭や建築資材の供給元だ。ほとんど原価で流して、これも予算に埋め込んでくれる。

 建設に関しては、新たに入札を募るが、まぁ、執事の言う通りくいっぱぐれの無い案件だし、規模が大きい。建設ギルドでも大きい所が名乗りを上げて来るので心配は無い。


「人員の部分だが、どうする?」


「中核は、侍従ギルドの人間を入れます。そこから一般公募で信用出来る人間を王都から引っ張って行けば余剰人員の減少も可能でしょう」


 侍従ギルドは貴族用の執事、侍女を斡旋、派遣するギルドだ。マージンは取られるが守秘義務は守るし、貴族相手のノウハウの宝庫だ。

 ここからノウハウを吸い上げてマニュアル化して、他の人員を育て上げて行く予定だ。その為、最初の中核人材はギルドから取り込むつもりだ。

 基本はコンビニや飲食業のフランチャイズの応用になる。高付加価値のサービスを低廉に提供する事により感動体験を味わってもらう。


「うーん。うちも優秀な人材は大切だから、渡す事は出来ないしね。執事、侍女はギルドからの買い上げを含めて予算の範疇だよ。こっちで優秀なのを見繕うよ。他の人材に関しては出してもらった人員配備を見ながら、伝手に王都の人材を集めてもらう事にしよう」


「後は絵画や彫刻、工芸に優秀な人材はいますか?物凄い人材じゃ無く、一般レベルで凄いのでも良いのですが」


「そのレベルなら、王都の芸術ギルドの徒弟を探せばいるよ。何に使うのかな?」


「リバーシ以外にもテーブルゲームが有れば面白くないですか?」


 その瞬間、ノーウェがテーブルから乗り上げて来る。どんだけ好きなんだ。


「何!?まだアイデアが有るのかい?」


「まだまだアイデアは有ります。ただ、実際に作る作業が必要になりますので、その辺りをどうするかですね」


 そのままずるずると座り込み、思案顔に変わる。


「うーん、そんな所に君を使うのは勿体無いね。案を出してくれれば、開発はこちらで請け負うよ。特許も君名義で出しておく。こっちは実費分回収出来れば良いさ」


「そこはもう少し欲を出して下さい。まぁ儲けはさておき、実物をお渡しして改良して頂く流れで行きましょう」


「後は、商工業団体の取りまとめだね」


 町の運営には有象無象の商売、工業に携わる人間が各ギルドの思惑で動き回る。そんなものに関わっていては幾ら時間が有っても足りない。

 通常は商工会を立ち上げて利害関係の調整等のあらゆる業務を代理で行ってもらう。こちらは方針を出し、報告を受け、修正案を指示するだけで済む。

 ただ、この役目、メリットも有るが、能力が有る人間じゃないと回らない。そんな人材、すぐには見つからない。


「商人に伝手は有りませんので、難しいですね」


「と、思ったから、有力な人材を呼んでおいた」


 ノーウェが執事に指示を出す。


 少し経つと扉がノックされ、見知った顔が部屋に入って来る。


「フェンドリクス商会の商会長のフェンドリクス氏だよ。この町の商工会でも重鎮。若いけど堅実で良い商売をする。本当にやり手。かなり惜しいけど、どうかな?」


 ノーウェがフェンドリクスを紹介してくれる。


「初めまして、男爵様。フェンドリクスと申します。本日はお時間を頂きましてありがとうございます」


 扉の前から目礼状態で、今も深々と頭を下げているから、こちらに気づいていない。


「先日ぶりです。アキヒロです。貴重な材料を分けてもらって、ありがとうございました」


 そう言った瞬間、フェンドリクスがばっと頭を上げて、狼狽する。


「え!あ?あー。すみません。先日はとんだご無礼を。男爵様とは知らず失礼な真似を致しました。申し訳ございません」


「いえいえ。叙爵されたとは言え、まだ今はしがない冒険者ですから。お気になさらず。でも不思議な縁ですね」


「はい。本当に驚きました。ノーウェ様よりは、大きな儲け話が有ると伺っておりましたが、まさか貴方様と商売の話をする事になろうとは思いもしませんでした」


 話に置いて行かれているノーウェが怪訝な顔をしていたが、簡単な説明をしたらすぐに納得した。


「なんだ、君達知り合いか。なら話は早いね。ざっと説明するから、フェンが納得するか判断は任せるよ」


「分かりました。男爵様も今後はフェンとお呼び下さい。親しい物はそう呼びます」


 深々と頭を下げたフェンが、席に座る。

 後は新男爵領の町の設計と概要説明、歓楽街の主要設備と設計と概要説明、海からの塩生産の予定を書面も交えて説明して行く。


 すると柔和だった顔の中で目の奥だけが一気に険しくなる。あぁ、この人商売人だ。日本でも偶にいた。今、頭の中で利害が渦巻いているんだろうな。


「失礼ですが商売のご経験は?」


 フェンが物静かに問うてくる。


「あいにくと。ただ、人の欲に塗れる場所で生活はしていました」


 肩を竦めて、答える。


「これは商売人の目で立てられた計画ですね。流れに淀みが無い。一貫した金の流れが見えます。こんなに綺麗な商業計画を見たのは初めてです」


 やや呆然とした面持ちで、呟く。


「原資を必要としない人の働きで富を生み、その富で農業を支援していく。その流れが循環、拡大して行く計画ですね。良く練られている」


 溜息を吐きながら、感嘆の言葉を吐く。


「為政者の方は、まずは農業を主軸に計画を立てます。そこが倒れた場合の支えが有りません。しかしこの計画は逆です。商業を主軸にして農業を支える。どちらが倒れてもまた立ち直れる」


 顔を上げ、こちらの目をじっと見つめる。


「私に異存は有りません。息子も今度結婚するとなりましたし立派に一人前です。出来れば、一生をこの商工人の町で暮らし、骨を埋めたく考えます」


 サービス業と言う概念はこの世界に明確には存在しない。でも一流の商人だとそう言う概念が有るって、見抜くものなんだなと唯々感心した。


「折角の縁です。フェンが良ければ支えてもらえますか?」


「喜んでお供します」


 ノーウェの方を向くと、頷いている。問題無しと言う事か。


「他の必須な商工業の関係者はどうしましょうか?」


 フェンに聞いてみる。


「息子の教育は終っておりますし、商圏に関しての引継ぎも完了しております。今の商いは私の勝手でございました。この後は即座に西に走り、各商工業系に話をつけてまいります」


「娼館経営やマッサージ等、特殊業務も有りますが大丈夫ですか?」


「その辺りの伝手はご心配無く。一流の者を集めて参ります」


「あまりコストをかけすぎるのは後が辛いのですが」


「ご心配なさらず。そこは私も商売人の端くれです。有能で育て甲斐の有る人材とその道のプロ、それぞれの業種で見極めて参ります」


 ノーウェを見てみるが、頷き返された。その辺りもやってくれる人材なのか。凄いな商売人って。コミュ障の私には無理だ。


「じゃあ、人材の問題は経営者も働き手も問題無いと言う事で良いかな?」


 ノーウェが問う。私とフェンが頷く。


「うんうん。寄子の計画が上手くいきそうで親としては一安心だ。と言う事で、アキヒロ君。君に一つプレゼントを贈ろう」


 そう言うと、ノーウェが悪戯っ子の様に微笑んだ。

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