第120話 男性と女性の服の感覚ってずれてますよね?
朝を迎え、皆起き出してくる。馬車の2人も目が覚めたようだ。
昨日の鳥を掘り出し、朝食のスープの具材に使ってもらう。
その後も問題無く、予定より早めの夕方に町に着いた。別れ際に商人がお金を包んでこようとしたが、それは断る。お互い様の話だからだ。
「また、商売の話でも有った際には、ご協力願えますか?」
「それは是非に。私、この町に店を構えておりますフェンドリクスと申します。今後ともご贔屓に」
商人との縁なんて中々結べない。ご飯だけで良好な関係が生まれたのを内心喜ぶ。
取り敢えず宿だと何の躊躇も無く、太陽と大地亭に向かう。部屋割は、私とリズがダブル、フィアとロットがダブル、チャットとティアナがツイン、ドルがシングルとなった。
ツインよりダブルの一部屋の方が安い。ドルに関しては部屋でメンバーの武器防具の整備等が有るのでシングルを希望した。
何気無くフィアとロットが一緒なのだが、この世界の人間、そう言う方面は隠さないらしい。開けっ広げ過ぎて、ちょっと落ち着かない。
私達も一緒だから文句言うなと言う話だが。でも、手は出してない。誰も信じないと思うが。
宿が決まった所で、テントに関しては同じ形のを予備含めて二張り買って来てもらう。
今回みたいなのは御免だし、壊れた時の予備が無いのはきつい。パーティー資金も潤沢なので、大丈夫だ。
後は便利グッズを探して貰い、明日か明後日にでも皆で相談して買おうと言う話になった。
皆が買い物に出かけた後、子爵館に向かう。到着と訪問の先触れとして挨拶として赴く。
門衛に用向きを伝え、暫し待った後、何時もの執事が出て来てくれる。
「アキヒロ様、本日ご到着との事。お迎えも出さず失礼致しました」
「事前の連絡も怠っておりましたので、そこはお気になさらず。子爵様のご予定を確認したいのですが」
「カビアより近日の来訪は告げられておりました。明日は朝より時間を用意出来るとの事です。ご朝食の後にでもお越し頂ければ幸いです」
「分かりました。では、明日はよろしくお願いします」
執事と挨拶を交わし、そのまま子爵館から離れる。あっさりと終わったので、時間が空いた。さて、何をするか?
服だな。服。流石に2着だけでは草臥れてきた。完全な冬物を中心に探しに行こう。
一旦宿に戻りお勧めの店を聞いてみる。すると中古でも品揃えが良く値段も良心的な店が有るとの事。地図を書いてもらい、早速向かう。
少し歩くと、そこそこの規模のお店が有った。ちょっとしたスーパーくらいの大きさだ。扉から入ると、脇に階段が有る。2階が男性物と一部の装備らしい。
階段を上り、周囲を見回すが、かなり驚いた。村の人の服装を見ていると中世ヨーロッパと言う感じの服装なのだが、実際には結構種類が豊富だ。
町を歩いていても、結構色々な服を着ている人がいてどっちが当たり前なのかと思っていたが、村の方が服に金をかけないが正解だったらしい。
取り敢えず、厚手で藪を突破する時も破れない丈夫な物を探して行く。ファッション?流行りも分からないのに気にしてられない。
日本に居た時も大型量販店の無地でモノトーン系の服ばかり買っていた。残りはゲームか漫画か貯金だ。
と言う訳で、色合わせを気にするのも面倒なので、ここぞとばかりに黒系統を探して行く。白もグレーも血が付いたら目立つのだ。それに黒だと意外と森の中で目立たない。
金属ボタンも開発されており、丈夫な藍色のジーンズみたいな厚手のパンツを選んでみる。生地は木綿っぽい。ファスナーは無いので、前はボタンで止める。
同じ様なのが色違いも含めて何着か有ったので、まとめて選んで行く。試着室も有ったので、一着一着穿けるか確認して行く。メタボの所為で腹回りに合わせると、足が裃みたいになる。くそが。この世界の人間、足長すぎ。
もうこの歳なので、足が伸びる事は無い。適切な長さに折り、調整をお願いする事にした。遠征の事も考えて、かなりの量をまとめ買いする。まぁ、腹回りに合わせると数が中々無いのだが。
上は、そう悩まず、大きさが合う物を選んで行く。正直エキセントリックな色合いも有ったが、誰が着るのか疑問だった。
デート用?リズと一緒に改めて仕立てれば良い。女性の好みは女性にしか分からない。向こうの好みに合わせた服を黙って着た方が無難だ。
ベルトも開発されていた。まぁ、パンツにベルトループが付いているので有るとは思っていた。これも日本のベルトと構造はほぼ変わらなかった。太さが合う物を3本程荷物に入れておく。
寒くなるのでコートは無いかと探してみたが見つからない。袖の無い厚手の丈の長いサーコートが有った。腕と肩はマントが有るから良いか。それも何着か選ぶ。色?黒か茶で良い。洗濯する度に返り血を気にするのはしんどい。
装備品の所にガンベルトみたいな物が売っていた。どうも、投げナイフを腰にぶら下げる為か、革のループが付いている。これもサーコートの固定と新兵器用に買っておくかと2本ほど選ぶ。
物の状態が良い為、値段は結構するが、正直お金を使っていないので、ここぞと買い込む。パンツの丈の調整はすぐにやってくれるそうだが、数が数なので、それなりに時間がかかるとの事。
お茶でも飲めそうな時間を言われたので、この辺りのお勧めの店を聞く。ブロックを挟んだ所に有るとの事なので、支払いを済ませて引換票を受け取り、店に向かう。
店はすぐに見つかり、甘いものとお茶を頼む。お茶はそこそこの値段だが、甘い物の値段が高い。出てきたのは堅焼きのクッキーもどきだった。香草を混ぜているのか独特の風味で甘さは控えめだった。
ぼけーっと所定の時間までお茶を飲みながら、明日のノーウェとの話の内容を予測して行く。取り敢えず、上総掘りをカードに譲歩を引き出したい物が1つ有る。
その辺りをどう攻めようかなと思案していると、何時の間にか時間が経っていた。
店に戻り、引換票を渡すと、小山の様な大きな布で包まれた塊が紐で括られていた。あぁ、調子に乗って買い過ぎたか?でも機会が無いし仕方無いか……。
もう時間も遅いので、荷物を背負い、宿に向かう。富山の薬売りより大きな荷物だ。重さは無いが嵩張る事この上無い。
宿に戻り、部屋を叩くとリズの返事が聞こえた。扉を開けてもらうと、驚いた顔でこっちを見ていた。
「何それ?」
「服とか」
「多いね?」
「買う機会が無いし」
そんな実の無い話をしながら、荷物を降ろす。リズも女性なのか、荷物の中身に興味深々だ。正直開けると、元に戻せるか心配なのだが、リズは開けたいっぽい。
まぁ、ノーウェに会う時に着て行くかと諦め、包んでいた大きな布を解放する。
リズは目を輝かせながら、服の品定めを始める。男物でも良いのか?そう思いながらも口には出さず色々調べている姿を眺めておく。
「色の系統、狭くないかな?」
「返り血浴びるのが前提だから」
どうも、色合いに不満が有るようだ。取り敢えず明日用と言う事で、黒の上着に、黒のパンツ、茶枠の生成りのサーコートを羽織ってガンベルトで留めてみる。
「うーん……。地味?」
何気無く酷い。私も中二臭いなとは思っていた。
柄物や文字柄も有ったのだが、それにどんな意味が有るのかが分からないので怖くて選ばなかった。文字柄も意訳なのか意味の通る形で読めたのだが、意味不明だった。
柄も何かの意匠や紋章をモチーフにしたものが大半だったが、紋章とか誰の何の紋章か分からず、怖くて選べ無い。
マントの時ですら、店員に確認した。デザインですって言われたが。
「リズとのデート用の服はリズと一緒に仕立てよう」
そう言うと、機嫌が直った。
着替え直すのも面倒なので、そのまま食堂に向かう。簡易ファッションショーの間に皆は注文まで済ませていたようだ。
私達も、注文して席に着く。
「リーダー、服買ったの?うーん……地味じゃん?」
フィアにも言われた。何これ、いじめ?
「いや、狩りの時に着るから。地味じゃ無いと」
「えー。あまりに実用的過ぎるじゃん。遊び心が無さ過ぎ」
「狩りに遊び心はいらないよ」
ここでも実の無い会話が繰り広げられる。
そうこう言う内に、皆の食事が配膳される。先に食べ始めてもらう。暫し後に私達のも来た。やはりこの宿値段の割にご飯も美味しい。また選んで良かった。
皆が先に部屋に戻り、私達も戻る。部屋にはお湯が入った桶が湯気を上げながら置かれていた。
それぞれ背中向きになって体を清める。後は窓を少しだけ開けて、水魔術を使いながら、リズと談笑をする。
話題はやはり服の件だった。もうこれ以上責めないで……。趣味より実益を取っただけなのに……。
過剰帰還の感覚が出た辺りで窓を閉める。丁度リズが眠そうになったので、そのままベッドに潜り込む。
さて、明日が本番だ。色々考えてはいるが、まぁ、なるようにしかならないか。そんな事を思いながら目を瞑る。窓を風が鳴らす。そろそろ冬も近づいて来た。