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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第117話 中々高級品を換金するのは難しいです

 周りの騒がしさに、目が覚めた。

 やはりかと思いながら、状況を確認する。

 血の臭いに惹かれたのか、狼が接近しているようだ。


「私が出るよ」


 『警戒』で周囲を確認しながら、一匹一匹を倒して行く。痩せ衰えて、目だけが異常に輝いている。それでも、動きが緩慢なのが印象的だ。

 あぁ、生存圏から弾き出されると、こうなるなぁと同情にも哀れみにも似た何かの感情を持つが、それは狩る側としては失礼な思いだ。糧として大切に狩らせてもらう。


 一旦襲撃が終わり、狼を一か所にまとめて、また毛布に潜り込む。温かだった毛布は冷え切っており、また体温で温め直す。

 微睡ながら、ゆっくりと眠りにつく頃に、再度騒がしくなる。

 溜息を吐きながら、毛布から出る。今度の群れは先程より、多いようだ。陣地から一気に離れ、ホバーで陣地を大きく周回しながら討ち漏らしの無いように狩って行く。

 一匹一匹は左程でも無いが何匹も一か所に集めるのはきつい。

 また、毛布に潜り込む。流石に前回の経験で寝ないと活動出来ないのは分かっているので、無理矢理でも眠りにつく。

 やっと、微睡んだと思った時に、3度目の襲撃だ。流石にだんだん苛々してきた。

 皆を制止して、先程と同じ流れで掃討する。得物をまとめて積み上げた時、時計を見ると朝の4時だった。もう流石に襲撃は無いだろう。


 後番のロットに朝食を頼み、出来上がるまでは寝かして欲しい旨を告げる。

 毛布に潜り込み、寒さも何も感じないまま、泥のように眠り込む。


 深い眠りの中で、どこか温かい良い匂いを感じて徐々に覚醒する。

 朧な視界で周りを見渡すと、もう太陽も昇り、食事の用意は整っていた。


「ごめんね、食事の用意を手伝えなくて」


 そう言うと、全員が首を横に振る。ふと狩った狼の小山を見ると前回よりも高く積まれていた。

 あぁ、こんなに狩ったのか。最後の方は朦朧として作業になっていた。


 ティアナとドルが、驚愕の面持ちでこちらを見ているが、私は化け物でも何でも無い。

 兎に角過剰帰還が返ってこないように効率化していったが、時間差が有れば一人でもこれだけ対処出来るんだなと他人事のように感心した。


 食事の後は、先日のように動けない事は無かった。細切れでも睡眠を取ったのは正しかった。


 申し訳無いなと思いつつも、リズとティアナに狼の解体をお願いした。内臓と肉を埋める穴を掘るのはドルだ。


 その姿を見ながら、ある程度状況が進むまでテントの中で休ませてもらう事にした。


 前後不覚で眠っていると、揺すられる感覚を覚えた。ただ、起きる程の強さでは無いので、そのまま巻き込み、眠り続ける。

 徐々に抵抗が強まり、ぽかぽかと叩かれる。


「あれ?リズ?」


 寝ぼけ眼の前に、真っ赤な顔で、リズがぽかぽか殴っていた。


「やっと、起きた。巻き込まれて大変だったのよ」


 気付くと、リズを巻き込み滅茶苦茶になった毛布の山が出来ていた。


「狼は何匹になった?」


「丁度、70匹。前回より多いのに、一人で対処するなんて、無茶はしないで」


 悲しそうに呟く。


「前回よりは寝てたし、大丈夫、大丈夫」


 起き上がってみると、思ったより体が軽い。少しは睡眠時間が取れたお蔭だろう。

 しかし、10近くの群れが襲って来たか……。いよいよ飢えて見境が無くなってきているな。


 準備が完了したので、荷物の配分を始める。

 大物の熊はドルが一式担いでくれる。サンプル用のダイアウルフと狼の毛皮は私の荷台に乗せた。

 後はそれぞれが肉を持ち、リズは毛皮に包み、大きな肉の塊を背負った。


 ロットとティアで、兎に角前方の敵に注意を払ってもらい、戦闘は避けた。

 

 それでも、村に着いたのは昼遅く、もう夕方に入る頃だった。

 いつも通り、鑑定は皆に任せて、受付嬢に今回の報告をしたい旨を伝えると、直接ハーティスと話して欲しいと言われたので、執務室に誘導される。


「いつもお世話になっております」


 部屋に入った途端、ハーティスが深々と頭を下げる。

 それを制止して、ソファーに座らせる。


「こんにちは。今回はダイアウルフが狩れましたので、その辺りで報告をしようかと思いました」


「はい。承っております。是非お伺いしたく思います」


 それからは、ダイアウルフの出現時の状況、倒し方、捌いた際の不明な器官、サンプル用の美品に関して報告をしていった。


「ここからは内密の話となります」


 まず、驚いたのがダイアウルフを狩って来たパーティーは我々が初めての事だと言う。

 8等級がこの森に見切りを付けたのも、ゴブリンの価格が下がったのも有る。

 それ以上に高額報酬に釣られて、中途半端な規模のパーティーがダイアウルフを狩ろうと深追いして返り討ちになったケースが多いらしい。

 その為、8等級では討伐は不可能と、諦めて去って行ったらしい。

 確かに、ダイアウルフを狩るなら、司令塔が呼び声を上げる個体を瞬時に識別し処理しなければきつい。返り討ちになったパーティーではそれは難しいだろう。


「正直、今回の成果ですが、驚いております。それに、あの器官は研究所が血眼になって研究しておりますが……。貴方のパーティーにはエリュチャットさんがいらっしゃいましたね」


 珍しくハーティスが感情を露わにして、驚いている。


「子爵様側も現状に憂慮して、騎士団を派遣して間引くと仰っておりますが、上の者が金蔓を手放すのを嫌がっていると言うのが今回の顛末です」


 心底嫌そうに、溜息を吐く。

 しかし、組織の内情、それも無能の足の引っ張り合いに興味は無い。


「今回はたまたまです。恒常的な狩りは難しいです。奴らの脅威は思っている以上です。出来れば早々にご決断を。このままでは森の様相ががらりと変わります」


 これ以上、バランスが崩れると、9等級、8等級にしわ寄せが来る。そうならない内に対処して欲しい。

 その後は、最近の冒険者の現状や、得物の持ち帰りの状況を確認して行く。やはり、死亡率が急激に上昇している。それに獲物もゴブリン辺りの小物ばかりだ。

 このままでは、もっと上の冒険者でなければ入れない森になってしまう。そうなると、儲けとしては美味しくないだろう。広く多くが一番儲かる。

 そんな話を終えて、鑑定の受付に戻る。

 いつもなら、フィアがお金マークの目をしているはずだが、何だか皆、困惑した表情を浮かべている。

 聞くと、今回の報酬が30万ちょっとと言う事だ。増えている事は増えているのだが、納得がいく金額では無い。

 受付とハーティスが話しており、そのまま2人と共に広い会議室に誘導された。


「今回は流石に内訳をきちんと説明致します」


 鑑定の職員が懇切丁寧に説明を始めた。

 まず、大物の熊に関してだが、フィアが攻めあぐねていた所為で、傷が無い。しかもあの大きさは年に数匹も出ない代物だ。皮も最高級品扱いで肉と合わせて100万ワールちょっとが付いた。

 もう一匹の熊も大きさは小振りだが、皮は最高級品、肉と合わせて60万ワールちょっとになった。

 狼の皮も高騰の煽りを受けて、1枚1万ちょっと、他の細々としたものと合わせて80万ワールちょっととなった。

 これで240万ちょっと。これをパーティー資金と合わせて頭割りで30万ちょっとと言う話で納得はいく。


「ダイアウルフはどうなったのでしょうか?」


 そう聞くと、どうもダイアウルフの買取はギルド始まって以来今回が初めてのようだ。2枚は最高級品。

 1枚は傷が付いているが場所が良かった為ジャケット等に使うには問題無い。もう1匹と核もどきは王都の研究機関が死ぬ程欲しがっている。


「正直、1枚目のダイアウルフの毛皮は王妃様に献上され、王都では垂涎の品となっております。どれだけの価値が付くのか想像も出来ません」


 鑑定役が疲れた様に呟く。


「希少品となりますので、少し時間がかかりますが王都にてオークションに出品し、結果を待たれた方が良いでしょう。その間の加工等は最終の報酬から引く形になります」


 ハーティスが提案して来る。正直30万有れば一息はつける。問題は無いかと思った。


「最後の丸々1匹に関しては、あまりにも損傷が無い為、王都の研究所が死に物狂いで買いに来ます。あの核もそうでしょう。確実に損はさせません。信じてお待ち頂けますか?」


 ハーティスが懇願して来る。この話が通り次第、水魔術士を大量に集めて氷漬けの状態をキープし、馬車で王都まで直行させる予定らしい。

 皆に聞いてみたが、満場一致で賛成だった。


「では、その方針で。どの程度で結果は出ますか?」


 王都のオークションは半月単位で定期的に行われている。各貴族それも閣僚級は王都に集まっているしオークション専門の執事を置いている貴族も多い。

 長くても、半月強で結果は出るし、出た段階でギルド間の連絡により、金額の情報は流れて来る。


「分かりました。ここはギルドを信用致します。くれぐれもよろしくお願い致します」


 くどいようだが、信用の文字は強調させてもらった。ハーティスも、鑑定役も深々と頭を下げて来る。

 後は細かい打ち合わせや免責事項等を調整し、私達に損の無い形に収めた。


「では、よろしくお願い致します」


 ハーティスと握手を交わし、その場を後にする。


 皆でエントランスに座って、今回の件を小声で話し込む。


「えらい大仰な話になりましたねぇ……」


 チャットが呆然としている。


「今回の30万でも望外なのに、まだおまけがついて来るなんて信じられないわ」


 ティアナもドルもただただ呆れている。


 いつもの3人は大分慣れてきたのか、嬉しそうだがそこまで動じてはいない。


「まぁ、これで一息つけそうだね。一旦町で必要な物を買い揃えたいと思うけど、村に残る人間は?」


 そう聞くと誰も手を上げない。


「では、早速明日朝一で出発しようかな。各自移動に際しての補充の買い出しをお願いしても良いかな?」


 皆が力強く頷く。ではお任せしてしまおう。ティアナとドル達は青空亭に移動するらしい。あそこなら荷車も厩舎の隅に置いてもらえる。


「では、解散しよう。皆、よろしく頼むね」


 そう言うと、皆がそれぞれ相談しながら、ギルドから出て行く。良い感じでまとまってきたなとほっとした。


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