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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第一章 異世界に来たみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第7話 アドレナリンが噴出していたと思いきや、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった

 異世界2日目。

 きちんと起きられるかなと思ったが、アラームも無く7時きっかりに目が覚めた。

 焚き火に薪をくべていた分、寝過ごすかと思っていたが、習慣とは恐ろしいものだなと。

 いや、年を取ると早起きになると聞いたのでそっち方面かなと若干戦々恐々としてきた。

 まぁ、寝不足もせず、20時くらいから寝てたので当然の結果か。

 取り敢えず、眠気覚ましに顔を洗いに行く。

 そういえば荷物の端っこに気づかず、ホテルの歯ブラシが一本眠っており神に感謝する。

 

「朝ご飯は山芋かな」


 昨日苦労して掘り出した山芋を20cm程切り、熾火に置いた石の上でコロコロ転がす。

 髭が焦げて無くなり、皮全体が水分を失い仄かに焦げてきた辺りで火から下す。

 後は焼けた石で囲み、余熱で芯まで熱を通す。


「おぉ。甘くてほくほく。ねっとりしている上に歯応えも気持ち良い」


 美味しい朝ご飯が済むと、現実に帰ってくる。

 あぁ、会社どうなっているのかな。行方不明か失踪扱いか。日本に戻った後に復帰は可能なのかな。


「まぁ、考えてもしょうがないか。なるようにしかならないし。取り敢えず生き延びるのが先決だ」


 落ち始めた気分を上げつつ、昨晩から続く騒乱に気を向けてみる。


「一晩暴れてたのに元気だな……」


 地獄の底からかの様に荒い息遣いが響き渡る。

 罠にかかった足はずたずたになっており、周囲は惨事となっている。


「まぁ、一昨日仕掛けた罠だから今日にでも確認にくるかな。それまでは時間潰しでもしていよう」


 食料に関しては山芋も有るし、昨日の段階で池の周りに食べられる山菜類が生えているのは確認している。

 流石にカッター1本でこのままいるのもどうかと思ったので今日は武器作りに充てよう。


「材料無しで武器作りは無理だし、無難に石器でも作るか」


 黒曜石なんてその辺りに転がっている訳も無く、通常の石で石器を作る事にする。

 川石から手頃な形の大き目の石を拾ってきて、木の柄に結び付け、石斧にする。


「これでも10kg近く有るし、ハンマー替わりにもなるかな?」


 後は尖った石を探し出し石で叩き刃先を鋭利に割り出し、木の柄に結び付け石槍にする。


「全く、昔はこんなものでもマンモス狩ってたんだからいけるかな。その内マンガ肉焼いてやる」


 そうこうしている間にお昼も回ったので、昼ご飯の準備を始めようとしていると。

 イノシシが捕らえられている方角から、悲痛な鳴き声が聞こえて来るようになった。


「知的生命体さんの登場かな。様子を見に行くか」


 念の為、石斧と石槍を持って現地に向かう。

 案の定、イノシシの辺りに人影が見える。


「あれ?女じゃないのか、あれ」


 アッシュゴールドの髪に碧眼。チュニカっぽい上着にズボン。ビスチェっぽい革鎧に腰ベルト。

 ベルトの背後には鉈のような物を鞘に納め、数本のナイフを左胸のポケットに差し仕舞っている。

 地面には小型弓と矢筒を放り出し、片手斧でイノシシに立ち向かっている。


「女の子だよな、あれ。何で弓で……あぁ。小型弓だとあの皮は貫通出来ないか」


 遠目には15、6歳程度の女の子に見える。

 盛んに頭部、首元を狙って攻めて行っているが、力任せな突き上げと牙の前に押され気味になっている。


「おいおい、幾ら革鎧と言っても、あの牙だと貫通するぞ」


 緊張と恐怖の為か顔は真っ青になって、動きも硬くなっている。


「流石に女の子が目の前で傷つくのを見過ごす訳にはいかないよな」


 幾らメタボで、体力に自信が無いとは言え自分より二回り近く小さな女の子が戦っているのを見ているだけと言うのは無理だった。


「『隠身』の効果がちょっとでも発揮してくれれば良いのだが……。神様お願いします」


 緊張の為、手汗でべちょべちょにしながら武器二振りを頼みの綱に草むらを隠れながら、現場に近づく。

 現場まで後5m程に迫った時に、女の子の斧が牙に絡め取られ放り上げられる。


「あ!?」


 絶望と困惑の表情のまま、しばし停止する女の子。

 イノシシはそのまま牙を叩き込まんと前足を踏ん張り、顔を下げる。


「足元の注意が足らんよ!」


 5mを助走とし、石斧を力の限りイノシシの右前脚の関節部に叩き込む。

 石の砕ける感触と共に、イノシシの関節の砕ける感触が手に伝わる。

 女の子は呆然としたままの表情でこちらを見続ける。


「一旦距離を取れ!倒れ込んでも構わん、下がれ!」


 女の子に叫びつつ、石槍を思い切り引き被る。

 イノシシは前足一本が砕け、頭を地面にこすりながらも、こちらの様子を窺い、隙を見ては牙を突き立てようとする。


「メタボの体重舐めんな!」


 イノシシの見上げるような体勢から、右目を狙い、思い切り下側から突き上げるように石槍を突き込む。

 軟らかい眼球を貫き、硬い頭骸骨を貫通する感触を感じる。

 そのまま石槍を引き抜き、一歩後退し再度引き被る。

 次は残った左目に付き込み抉るように槍を回転させる。頭蓋骨の手前で穂先の砕ける感触がし、柄の部分が頭蓋骨に阻まれる。

 イノシシは断末魔の叫びを上げながらその砲声を弱弱しい物に変えていく。


「やった……」


 ただのメタボなおっさんがイノシシを石器だけで倒した快挙にエンドルフィンが、その後想像された恐怖に対して遅れてアドレナリンが噴出する。


 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『勇猛』0.20。該当スキルを譲渡されました。>

 

 『獲得』さんが冷静な声で今、得た物を報告してくる。

 そんな事より、今成した快挙に酔いしれたい。と思っていたが、背後に女の子がいる事に、急に気づき冷静になった。


「えっと……。大丈夫だった?」


 今まで手に取った武器を放り投げ、女の子の前で両手を上げる。

 こちらには壊れた武器しかなく、相手にはまだこちらを制圧出来るだけの武器が有る。

 すると彼女は呆然としたまま、真っ赤な顔をこちらに向けてくる。

 

「言葉は分かる?」


 今更ながら日本語が通じると思っていたのが浅はかだった。

 現状は、意味不明な言葉を喋る蛮族が古い世代の武器で襲い掛かってきた構図でしかない。


「はい。分かります」


「あれ?日本語喋れるの?」


「ニホンゴですか?ニホンゴとは何ですか?」


「え?」


「え?」


 <『識者』より告。コミュニケーションを取れる為、彰浩の発音及び認識を相互補完しています。>


 『識者』先生凄い。恰好良い。


「取り敢えず、無事で良かった。一時はどうなる事かと」


「はい。ありがとうございます。助かりました、旦那様」


 ん?聞き捨てならない単語が聞こえた。


「旦那様?」


「はい。戦士が全ての武装を投げ出し、両手を無防備に上げる。私の村に伝わる最敬礼で有り、男女間で行われる場合は求婚の意味です。私は、命を救って頂いた恩もあります。それを受け入れます」


「え?」


 ちょっと待て。女の子を助けたと思いきや20歳は年下の女の子に求婚しているメタボのおっさんとか。

 マジ有りえないだろ、それ。


「是非、村までお越し下さい。歓迎致します」


 退路、断たれてる?

 あれ?おかしくない?

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