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鏡の伊勢、剣の甥  作者: 讃嘆若人
第二部 陰陽干犯篇
31/61

10.剣のヤマトタケル-2

「大王様、大和建(やまとたける)です。ただいま、戻らせていただきました。」

 大王の執務室で大和建は跪いて自分の父である大帯彦(おおたらしひこ)にこの三十年間、当時の倍数年暦では60年間のことを報告した。

 親子とはいえ周囲には政権の高官もいる公式な謁見だ。

 大帯彦は大和建の報告を静かに聞いていた。そして、大和建の報告が終わると口を開いた。

「そうか、ご苦労だった。」

「ありがとうございます。」

「60年ぶりの故郷はどうかね?」

「はい、先ほど先に母上にも会わせていただきましたが、記憶に残っている姿よりも老いているのを見るのは悲しかったです。しかし、何よりも父上に母上とこうしてお会いできることは、とても嬉しい限りです。」

「そうか、故郷に戻ってこれてよかったか?」

「はい、とても。」

 そういう大和建を見て大帯彦は暫く黙り込んだが、やがて口を開いた。

「そうか、では故郷に戻ってきたばかりの時で本当に申し訳ないのだが、実はお前にお願いがある。」

「何でしょうか?」

 大和建が問いかけると大帯彦は秘書官の五十狭茅宿禰(いさちのすくね)に目配せをした。すると彼は(ひいらぎ)の木で作られた10mは軽く超えると思われる長さの矛を持ってきて大帯彦に手渡した。

 大帯彦はそれを受け取ると大和建に授けて言った。

「余が聞くに、東の国には野蛮で凶暴な毛人(けぬびと)と言う種族の者が住む国があるという。彼らは度々、余の祖父である御真木入彦(みまきいりひこ)大王が平定した東方諸国へ侵入して略奪をすることで生活している。彼らの村には村長などというものは存在しない。村同士の境界も無くてお互いに盗みあいをしているようなありさまだ。また、山には悪い神様が住んでおり、野には人の心を惑わす鬼が住んでいる。彼らは道々に自分の祠を作らせており、自分たちを祀らずに道を通ろうとしたものには危害を加えるので多くの人々が苦しんでいる。こんな有様では大和と毛人が親善を結ぼうにも不可能だ。

 ところで今、余がお前の姿を見るに、その人となりは身長はとても高くて、容姿も整っている。力も極めて強いことは衆目の一致するところであり、まるで雷がふるかのような勇猛さを持っている。向かうところに敵はなく、攻めるところには必ず勝つのが、お前だ。」

 宮中の儀礼的な言葉にしてもあまりにも過剰な褒め方に、その場にいた人たちは目を見張った。他ならぬ大和建が父親の予想外に言葉に驚いている。

「私はお前がタダものではないことを知っている。今は私の子供の肉体を持って産まれてきているが、お前は本来は天界に暮らす神なのだ。これはまさに天界の諸神が、余があまり賢明でなくよく国を治めることが出来ていないことを哀しみ、この世界の『八』方を『まと』めて一つの家族にしようという『ヤマト』の国の建国の理念を達成させるために、大和の国と我が大王の家とが絶えないようにしてくださったのだろう!そう、この大和の国はお前の国であり、この大王の位はお前の位なのだ。」

 動揺が広がった。大王の太子は若帯彦(わかたらしひこ)と決まっているはずだが、これだとあたかも大和建こそが後継者にふさわしいと言わんばかりである。

「この国は今は私が仮に預かっているに過ぎない。そのことをよく考えて、毛人の平定に力を注いでほしい。帰ってきたばかりで労をかけて申し訳ない。」

 それを聞いた大和建も戸惑いながら矛を手にして頭を下げ、言った。

「――承知しました。必ずや、毛人を平定して見ませます。その前に、私は天界の神様の導きによって川上建と出雲建を倒すことが出来ました。従って、今回の件は伊勢の倭姫様にお会いして天照大御神様に祈ってから東方へ旅立ちたいのですが、よろしいでしょうか?」

「良いだろう。期待しているぞ。」

「ありがとうございます。」

 そう言うと大和建は再び頭を深く下げて退室した。

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